英雄の影


「ナマエ、起きろ。ナマエ」





ゆらゆらと揺らされる。
名前を呼ぶのはとっても素敵な耳に嬉しい声。

あたしはゆっくりと目を開ける。
するとそこには金色と青色が映った。





「おーうクラウド…ご機嫌うるわ…しくないかな?多分」

「…よくわかってるじゃないか」





目が覚めてそこにいたクラウド。

いやああれだね、目覚めて早々眼福だね!
そんな幸せと共に、クラウドが目の前にいる現実に慣れてきたなあなんて思うこの頃。

でもあれだ、ちょっとした仮眠みたいなものだったから頭は割と冴えている。

だからこそ、今クラウドがあたしを起こした理由をすぐに察して体を起こした。
クラウドもクラウドで説明は不要らしい事を察したようだった。

眠りにつく前、次に目が覚めた時は…なんて考えてた。
多分今部屋を出れば、あたしが考えていたその光景が広がっているのだろう。

その証拠に、閉じ込められていた独房の扉は完全に開いていた。





「ドア、開いてるね。兵隊さん、倒れてた?」

「…ああ。やっぱり知ってるのか」

「んー、まあね」

「…ティファ、起きろ」





クラウドはティファの肩も揺らし、彼女も起こした。
ティファは目を擦りながらゆっくり体を起こす。





「おはよ、ティファ」

「ナマエ…どうしたの?」

「様子がおかしい。外を見てみろ」





ティファも起こしたところであたしたちは3人で廊下に出た。
すると出てすぐの所にひとりの兵士の死体と壁に広がる血の跡を見た。





「きっとここの鍵を持っているはずだ…。ほら、ティファはエアリスを。俺はバレットたちを助ける」





クラウドは死体の懐を探り、鍵を取り出してその一つをティファへと渡した。
受けっとたティファはエアリスの部屋へ行き、クラウドもバレットたちの部屋へと駆けて行った。

残されたあたしはと言えば、その場で血の付いた壁や兵士の死体の様子を見ていた。

…いやまあ、見たいものでは無いけど。

でも知っていた分ちょっと気持ち的には余裕があったかな。

いや、この世界に来てちょっと経ったし、もしかしたら少し血なまぐさいものに慣れてきたのあるのかもしれない。
それってどうなのかって感じもするけどね。

一先ず全員を救出し無事を確認して、この異変の原因を調べてみることになった。





「ジェノバ・サンプル…。察するに上の階に向かったようだ。奥のサンプル用エレベーターを使ってな」





状況を先に調べていたレッドXIIIが言った。

先程、レッドXIIIが捕まっていたサンプル室も不気味な血の跡があった。
それともうひとつ、皆の目を引いたのは首なしのジェノバのサンプルが消えていた事だった。
保管されていた装置は破壊され原形をとどめておらず、ごっそりと中身が消えている。

誰が盗んだのか。血の跡はエレベーターに続いていた。
ならば犯人は上の階にいるのだろうか。

今の時点で、皆の推理はそんな感じだろう。





「ここ、サンプルがあった場所よね…?私は見てないけど、首が無いっていう…?」

「うん。そうだね」

「一体誰が持ち出したのかしら…」

「……。」





話しながら、疑問を抱くティファの横顔をあたしは見つめた。

まあ…普通は盗まれたって思うよな。
あれが勝手に動くとか、普通思わないよねえ…。

ともかく、ここでこうしていても仕方ないと血の跡を追いあたしたちは上の階へと進んだ。
そうして辿りついたのは、先ほど腕を縛られたまま連れてこられた社長室。

そこで見た光景に、クラウドたちは目を見開いていた。





「死んでる……神羅カンパニーのボスが死んだ…」





バレットが目の前の事実を確かめるように呟く。

座ったまま、突っ伏した一人の男。
そこにあったのは背中に長い刀を突き刺され殺されたプレジデント神羅の亡骸だった。

凶器がある分、また生々しい…。

ティファが恐る恐る近づきその刀を見る。





「この刀は?!」

「セフィロスのものだ!!」





クラウドが声を張り上げた。

セフィロスの事になると、クラウドの目の色が変わる。
画面越しじゃない、その場にいるとそれが凄くよくわかる気がする。

そして、セフィロスの名を聞けばティファの心も軋むのだろう。





「……セフィロスは生きているのね?」

「……そうみたいだな。この刀を使えるのは セフィロスしかいないはずだ」





ティファの問いにクラウドは頷いた。

正宗。
セフィロスの扱う長い刀。

でも今回、実際のこれを扱ったのはセフィロス自身じゃない。





「誰がやったっていいじゃねえか!これで神羅も終わりだ!」





バレットが言う。

難しい話は抜きにしたい。
そしてアバランチにとってはプレジデント神羅の死は朗報ではある。

バレットの声からはそんな様子が伺えた。





「セフィロスか…」





皆の様子をそうぼんやりと見ながら、あたしは思わずその名前をぽつりと呟いた。
するとその声にクラウドが反応した。





「…セフィロスの事は知ってるのか?」

「うん。知ってるよ〜。クラウドのこと知ってるんだもん。君にとって語るに不可欠な存在でしょ」

「………。」





ふわっと、どことなくそんな感じで答える。
でもクラウドもそれで納得したようだ。





「うひょ!」





するとその時、部屋の隅からそんな特徴的な声がした。

必然的に皆の視線は声のした方へと集まる。あたしも同じ。
そしてそこから太っちょな男の人がその場から逃げるようにドタドタと走り出した。

それを見たクラウドとバレットはいち早く走りだし、男の腕を拘束して捕まえた。
すげー素早い。なんつーかとってもナイスって感じ?




「おお、ナイスコンビ―ネーション」





そんな風に言ったらクラウドには「馬鹿」って言われたけど。
ふんだ。あたしにとってはご褒美だ。





「こここここころさないでくれ!」





あたしがそんなことを思っている一方で、怯えた情けない声でそう懇願するそのふとっちょ。

彼の名はパルマー。神羅の宇宙開発部門統括だ。
さっき会議室で見たけど、実際にこう間近で見るとこの人もなかなか強烈なものがあるよな〜と思う。

あんた、これで統括なんかい…みたいなね。
いやでも思うでしょ!案外優秀なのかねえ?

まあ今はそんなことどうでもいいんだけど。





「何があったんだ?」

「セ、セフィロスが来た」

「見たのか?セフィロスを見たのか?」

「ああ、見た!この目で見た!」

「本当に見たんだな?」

「うひょっ!こんな時にウソなんか言わない!それに声も聞いたんだ、うひょっ!えっと『約束の地は渡さない』ってブツブツ言ってた」





クラウドはパルマーに質問を重ねた。

セフィロスを見た。
その答えを聞いたクラウドの目はまた色を変えた気がする。

実際にはジェノバが擬態したセフィロス…なわけだけど。
今の皆がそんな事知る由も無い。





「それじゃあ、なに?約束の地っていうのは本当にあってセフィロスは約束の地を神羅から守るためにこんなことを?」

「いいやつじゃねえのか?」





ティファが簡単に予想で話を纏め、バレットがそれに単純な意見を言う。
だけど、それを聞いたクラウドの反応は大きな否定だった。





「約束の地を守る?いいやつ?ちがう!!そんな単純な話じゃない!俺は知ってるんだ! セフィロスの目的はちがう!」





そう、確かにそんな単純な話じゃない。
セフィロスが動くのも、そんな正義感のようなものではない。

すると話が熱くなったところに隙をついたパルマーはクラウドとバレットの手を逃れてそのまま外のテラスに繋がる扉へと逃げたした。

そして、それとほぼ同時に聞こえてきたプロペラの激しく回る音。

あたしは窓ガラスの向こうに見える空を見た。





「ヘリ…?」

「だね」





あたしの腕に触れ、尋ねてきたエアリスに頷く。

そう。このプロペラの音はヘリの音だ。
するとそれを聞いたバレットがハッとしたように舌打ちした。





「ルーファウス!しまった!アイツがいたか!」

「誰なの?」

「副社長ルーファウス。プレジデントの息子だ」





ルーファウス。
血も涙も無いと噂される、神羅の副社長。





「お坊ちゃん登場かあ」

「相変わらず声が軽いな」

「そう?厄介なのはわかってるよ?まあ、お顔拝見出来るのは楽しみかもね〜」

「…楽しくてたまるか」





クラウドにそう言われ、あたしはへらっと笑った。

いやいや展開的に能天気でいていい場面じゃないのはわかってますとも。
でもルーファウスはね、会えるのちょっと楽しみってのはあるじゃないのさ。

けど、神羅ビルのそろそろ最終章。
物語もここから一気に回り始めるところ。

あたしはそんな事を思いながらヘリの音を聞いていた。



To be continued

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