独房の中で


「あーあ、とーじこーめらーれちゃったー」





狭い独房。
中には簡易的なベットが一つだけ。

ベットに腰掛けそう口にすれば、ふたつの声が返ってくる。





「…独房に入れられた奴のテンションじゃないな」

「ふふ、でも緊張が解けてちょうどいいかもね」





向かいに腰をおろし壁に背を預けるクラウドと、あたしの隣で同じように腰を下ろしているティファ。声を返してくれたのはこのふたりだ。

タークスに捕まって、それから。
あたしは今、このふたりと同じ独房に閉じ込められていました。





「まったく…見事に罠に嵌まったな」

「ドンマイ!」

「……。」





溜息をつくクラウドにぐっと指を立てたら物凄く微妙な顔をされた。
励ましてるのに失礼しちゃうぜ!

まあ、皆にしてみればこれからどうなるかってのは重要な問題だろうけどね。
初めからこうなることを知ってたあたしはアレだけど。

そう。タークスに捕まって独房に放り込まれるのはストーリー通りの展開だ。

横並びに3部つ用されている独房。
クラウドとティファと同じところ。あたしがいるのは、あのゲーム上で言う真ん中に位置する部屋だった。





「逃げられるかな?」

「うーん。ふふ、ね、クラウド。どう?」

「………。」





逃げられるか尋ねてきたティファ。
それを聞いたあたしはくすっと笑いながらクラウドに視線を向ける。





「…俺に任せておけ」





クラウドはこちらにチラリと視線を向けてそう返してくれた。
まあまあ。何とも男前なものである。





「だってさ、ティファ」

「ふふ、頼もしいね」





クラウドの答えにあたしとティファはくすくすと笑い合った。

まあ、笑える余裕があるのは良い事だ。
この部屋の空気はわりと明るい方だろう。

となれば、気になるのは他の皆がどうしているのか。





「他の皆は、どうしてるかな」





クラウドはこつん…と頭を壁に預け、天井を見上げるように呟いた。
それを聞いたあたしは彼に問い返す。





「気になる?」

「…気にはなるさ」

「うん。まあそりゃそうだね」





バレット、レッドXIII。それにエアリス。
特にエアリスは社長室でプレジデントと話した時には既に離ればなれにされてしまっていた。

実際は皆、物凄く近くにいるわけだけど。

そんな時、クラウドが寄り掛かる壁の向こうから小さく女の声が聞こえてきた。





「クラウド、ナマエ、そこにいるの?」





その声にクラウドとティファは目を見開いた。

そしてふたりはあたしを見てくる。
あたしはそうだねという意味を込めて頷いた。

クラウドはバッと背後の壁に振り向き声を返した。





「エアリス!?無事か?」





聞こえてきたのはエアリスの声だった。

クラウドが声を返したことでエアリスもあたしたちが隣にいる確信を持ったようだ。
壁の向こうから聞こえるその声は明るく嬉しそうなものに変わった。





「うん、だいじょぶ。きっと、クラウドが来てくれるって思ってた。ナマエも、信じてって言ってくれたしね?」

「あはは、信じてくれてありがと、エアリス」

「ボディーガード、依頼しただろ?」

「ふふふ、うん!」





エアリスがくすりと笑いながら頷く様子がなんとなく想像出来た気がする。

でも、この会話を聞いててちょっとだけ違和感があった。
本当ならここって「報酬はデート1回だったよね?」ってエアリス聞いてこなかったけ。
そうだよ、それでティファが成る程って納得するんだもん。

ちょっとしたズレ。
もしかして、あたしがいるからか?

まあだからって大した問題でもないとは思うけど。
こういうこともあるだろって感じ。

とりあえず、ティファもいることをエアリスには伝えておくかとは思う。





「エアリス〜。こっちはティファもいるんだよ。3人で窮屈さ〜」

「そうなの?ティファ?ティファも、助けに来てくれてありがとう」

「ううん、いいの。私の方こそ、マリンの事ありがとうエアリス」





エアリスとティファも言葉を交わす。
こちらの無事をエアリスに伝え、こちらサイドもエアリスの無事を確認することが出来た。

多分、皆はその事実に結構安心したんじゃないかなって思う。
クラウドとティファの顔にはちょっとした安堵が浮かんでるように見えたから。

そうして空気が落ち着いたところで話はエアリスに関することへと移った。





「あのね、エアリス。質問があるんだけど」

「な〜に?」

「約束の地って本当にあるの?」





そう尋ねたのはティファだ。

その質問にエアリスはどう答えようか悩んだだろう。
でもそれは答えたくないからじゃなくて、どう伝えるべきかを。

ぽつぽつと、エアリスは自分の知る情報をあたしたちに教えてくれた。





「……わからない。私、知ってるのは…『セトラの民、星より生まれ、星と語り、星を開く』えっと…それから…『セトラの民、約束の地へ帰る。至上の幸福、星が与えし定めの地』」

「…どういう意味?」

「言葉以上の意味、知らないの」





エアリスは申し訳なさそうにそう答えた。

クラウドやティファは首を傾げてる。
まあエアリスにわからないものがこの二人にわかるはずもなく、それは当然の事なんだけど。





「ナマエは?静かだね。何か知ってるから?」

「あはは!まあねえ…うーん、でもそんなに言うつもりも無いし中途半端なこと言ってもしょうがないなら黙ってたって感じ?」





そして、エアリスはあたしに話を振ってきた。
別に答えを求めているわけじゃないけど。

自然と、クラウドとティファの視線もこちらに向く。
あたしは小さく笑った。





「いや、でも実際はさあたしもこの世界の全部が全部知ってるってわけじゃないからねえ」

「じゃあ約束の地については知らないってことか?」

「んーそれはどうだろう。本当に知らないこともあるし、知ってて黙ってることもあるし」

「思わせぶりなことだけ言うこともあるしな」

「てっへ」

「引っ掻き回してるだけだな」

「あはは!そうかも〜」

「…あんたな」





へらりと笑えばクラウドは頭を抱えた。
ティファは笑ってる。エアリスもくすくす笑ってる声が聞こえた。

まあその辺のさじ加減は適当だよね。
面白そうならそれでいいし、でも態度に出して展開を悟らせちゃいけないところだってあるだろうし。

古代種とか約束の地って言うのはこれからどんどん重要になっていくワードだけど、それを今の時点のクラウド達に言うのはなんとなく抵抗ある気がする。

まあね、実際はゲームでも約束の地って的確には語られてなかったと思うけど。
だから今回に関してはあたしもちゃんと答えられないが本来は正解。それも言わないけど。

古代種たちが求めて旅する場所、か。





「ん〜…!まあ、しばらくは大丈夫だよ。ここまで結構バタバタしてたし、ちょっと休も!」





あたしはうんと体を伸ばすと、そう言ってバタリとベッドに転がった。

いやでも本当、ここに至るまで慌ただしかったよね。
恐らく皆の身体にも疲れは溜まっているはずだ。

異を唱える声も無く、それもそうだという空気になった気がする。





「そうだな…。ひとまず、少し休むか」





身体を横たわらせたら一気にうつうとした。

クラウドのそんな声も聞こえたら、何だかさらに眠気の波が大きくなって目を閉じる。
すぐ傍でトサッと何かが横になる音が聞こえて、多分ティファもあたしの隣に横になったのだとわかった。

次に起きた時…展開は大きく動き出すはずだ。
ゲームの記憶を辿って、それを思い出す。

…血…、たくさんの…。
地獄みたいな光景がこのビルを包む。

でも、閉じ込められてるから何もできないし…。
そういうとこ冷静だよなあ…なんて、うとうとしながら自己分析してる。

…でも、本当…結構疲れた。
その瞬間、多分あたしは意識を手放した。



To be continued

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