白衣の裏の黒い歪み


エアリス奪還の為、進み続ける神羅ビル。
高くて広くてなかなか大変だけど、それもそろそろ終盤だろうか。

あたしがそれをはっきりと認識したのは、今いるフロアに設けられたとある大きな扉を見つけた時だった。





「あ」





見上げて思わずぽつり。
その扉は見るだけでちょっとその部屋が特別なのだと言うのがわかる感じ。





「この部屋、何かしら」

「んー。多分、重役さんたちが使うお部屋だと思うよ〜」





あたしの声に反応し、一緒に扉を見て首を傾げたティファにそう答える。
ゲーム内でも何度か映る神羅の重役たちが話し合いをする部屋。

そう、ここは会議室だろう。

で、今は恐らくその会議の真っ最中のはずで。
あたしたちはその様子をこっそりと覗き見る事が出来たはずだ。





「ヒュ〜!そうそうたる顔ぶれだぜ」





通気口の穴、真下に広がる会議室の光景にバレットがにやりと笑った。

会議室の中を覗き見る方法。
それはトイレの個室から繋がる通気口に潜りこみ、天井から会議室を覗くと言う物だった。





「うん、本当、そうそうたる顔ぶれ〜」





あたしもバレットのその意見に同意して頷いた。

トイレから繋がる通気口。
いや、正直ね、正直ぶっちゃければそりゃちょっとアレですよ。
臭いとか気になりますよ、ええ。

でも今下に揃う面々の顔はなかなか興味をそそられる感じだ。

社長のプレジデントは魔晄炉でも見たけど、そのほかにもハイデッカー、スカーレット、パルマー、そしてリーブ。うん、神羅の幹部勢揃いだね。





「7番街の被害報告が出ました。すでに稼動していた工場部分と現在までの投資額を考えると 我が社の損害は100億ギルはくだらないかと…。また7番プレートの再建にかかる費用は…」

「再建はしない」

「は?」

「7番プレートはこのまま放っておく。そのかわりに ネオ・ミッドガル計画を再開する」

「……では、古代種が?」





7番街のことや、それに古代種とかクラウドたちにも外せない単語のオンパレードだ。
ちらりとクラウドを見やればじっと真剣な顔してて聞いてるもんね。





「約束の地はまもなく我々のものになるだろう。それから各地の魔晄料金を15%値上げしたまえ」

「値上げ値上げ!うひょひょひょひょ!ぜひ我が宇宙開発部にも予算を!」

「プレジデント。これ以上の魔晄料金の値上げは住民の不満をまねき…」





大方、このあたりの話の内容も把握してるあたしはちょっとこの中のひとりの言動に集中してみることにした。

それは都市開発部統括のリーブだ。

正直彼の姿を見れた事には結構テンション上がってたり。
ああ、リーブさんだ〜!なーんてね。

まあ、この人はのちのち…ね!

でっかいモーグリがぽよんぽよんとさあ。
メガホン持った王冠の黒猫さんが関西弁でさあ。

あのモーグリ抱き着いてみたいよなあ。
黒猫の方はむしろあたしが抱っこしてみたいね!

まだまだ先の話。
でも訪れるかもしれないそんな未来にちょっとフフフ…みたいな。

まあね。それにしたって7番街の再建とか、魔晄の料金とか…まあ都市開発部ってのもあるだろうけどリーブはまともなこと言ってるよな〜ってこの時点でも思うところあるよね。

と、そんなところに着目してるのはあたしだけでクラウドたちは勿論古代種の話を重点的に意識しているはずだ。





「おお、宝条くん。あの娘はどうかね」





その時、ひとりの男が会議室に新たに入ってきた。
それに気が付いたプレジデントが男に早速声を掛ける。

黒く長めの髪。
少しやつれた顔に眼鏡が光る…白衣の男。

…宝条博士。

その男の登場に、あたしもその視線を彼へと向けた。





「サンプルとしては母親におとる。母親イファルナとの比較中だが初期段階で相違が18%」

「その検査にはどれくらいかかる?」

「ざっと、120年。我々が生きてるあいだは無理だろう。もちろんあのサンプルもな。だから古代種を繁殖させようと思うのだ。しかも、長命で実験に耐えうる強さを持たせることができる」

「約束はどうなる?計画に支障はでないのか?」

「……そのつもりだ。母は強く……そして弱みを持つ」





プレジデントと宝条の話。

この時点のクラウドたちがこの話をどこまで理解出来ているのかはわからないけど、色々わかってる上で聞いていると本当胸糞悪い話してるよな〜とも思う。こんな話をまあよくもスラスラとね。

そして、この話を最後に会議は終わった。
各々、席を立って会議室を順に後にしていく。

そこまで見て、クラウドが皆の顔を見渡し尋ねた。





「今のはエアリスの話……だよな」

「わかんねえ」

「たぶん、ね」





バレットが首を傾げ、ティファは控え目に頷く。
古代種にまだそう理解の無い皆は確信を持ってはいえない。

だけど、古代種と言うからには無関係ではない予想くらいはつく。





「後をつけよう」





クラウドのその言葉にあたしたちはダクトを戻って通気口から顔を出した。

視界が明るくなって、空気もすっきりだ。
トイレに繋がる通気口って時点であれなのに、加えてやっぱ埃とかもあったしね。





「ふい〜っ…清々しい〜」

「おいナマエ、行くぞ」

「へいへい」





トイレから出たら、思わずすうっと深呼吸だ。
クラウドに呼ばれたからさっさっとついて行きますけど。

そうして再び会議室の扉の前に戻ってくればちょうどそこから出ていくのが見えたのはあの白衣の背中だった。





「宝条……ってやつか…」





物陰に隠れながら廊下を歩く宝条の様子を伺うクラウド。
また同じようにしていたバレットは宝条の名を改めて聞き、なにか思い出したことがあったようだった。





「思い出したぜ。あの宝条ってやつ。神羅の科学部門の責任者だ。クラウド、知らねえのか?」

「実際見るのは初めてだ。そうか…あいつが…」





クラウドも名前は聞いたことがあるそうな。
いや…クラウドの場合はもっとこう、とかこっち的には色々思うところがあるけど多くは胸の中にしまっておきますともさ!

でも、宝条博士かあ…。

そう思いながら、あたしもひょこっと影から頭を覗かせた。





「………。」





じいっと見やる白衣の背中。
いやさあ、これだけ見ると本当ただのひ弱な科学者って感じだけども。

だけど実際は、このお話の事実上の黒幕とも言えるのは…。

クラウドの記憶も、エアリスが神羅に追われる事も。
それに…セフィロスも。

色んなことの元を辿っていけば、みんなこの人に辿りつく。
どこまでも深い、深い深い歪み。

しかもそれって悪意とかどうのって言うよりあの人の完全な興味から来てる話なわけじゃない?
だからこそ余計に闇が深いと言うか…。

なんか色々想像したら、ぞくっと背筋に嫌な感じがした。





「ナマエ…?」

「ん?」





じー…と見てたら名前を呼ばれた。
声の主はクラウド。あたしは彼に振り返る。





「ん、なに。クラウド」

「いや、妙に静かだなって…」

「そーお?」





そんなに集中して宝条博士見てたかな。
まあ物語のキーキャラクターではあるけどさ。

目に映すならクラウドの方が圧倒的に保養だな!





「…なに薄ら笑いしてるんだ」

「ふふふー。いえいえ別に〜」





クラウド目に映したら思わずニヤけたらしい。
不気味がられたけど心はほっこりだからオッケー!

まあ、そんな感じでちょいちょいおふざけを混ぜつつも神羅ビル攻略ももう後半戦だ。
というか、おふざけを混ぜられるのは心に余裕があるってことだから悪い事じゃないよね。

宝条の後を追えば、次の階は確かサンプル室だ。
ということは、ということはだよ?





「おい…だからなんでニヤけてるんだよ」

「おおと…」





またクラウドに怪訝そうな顔をされた。
どうやらまた無意識ににやけてたらしい。やばいやばい。

いやだってさ、サンプル室ってことはそこにいるであろうあの赤い存在を思うだけでもうこう胸が躍ると言いますかね…!

それに、エアリスにももうすぐ逢えるはずだし。
とまあね、そこまで口は滑らせないけど。

すると、そんなやり取りを見ていたティファがくすっと笑った。





「ふふ、ナマエが笑ってるってことはナマエにとって何かいい事があるって事よね。そう考えるとちょっと気持ちが楽になる気がするわ。敵陣だからって張りつめすぎてもよくないよね」

「おお!そうそう、そうだよティファ〜!気を楽にしていっきましょ〜」

「…ティファ、騙されるな。こいつは悪戯に全力を尽くすとんでもない奴だ」

「あらま、人聞きの悪い」





クラウドのあたしへの評価がなかなか酷いぞ。
まあクラウドに関しては確かにあたしが面白そうだと思ったことにはここまで手を惜しんでないけどな!はは!

なんて言いつつ、まあ気を楽にしながらも本腰を入れなきゃならないところなのも確か。

あたしはそっとバングルに触れ、今はめられているマテリアを確かめる。
悪戯に全力たって、足手まといは御免だもんね。たかがしれてるにしたって役に立てる部分があるなら立ちたいもの。

エアリスも、信じてくれたんだし。





「じゃ、行こうよ」





宝条を追いかけようとクラウドに呼びかける。
するとクラウドも頷いてくれた。

さあ、エアリスまでもう少し。



To be continued

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