市長の暇つぶし


神羅ビルの非常階段。
エアリス救出の為になるべく目立たないこのルートを選んだアバランチ一行。

一見、慎重に確実な方法を選んだように見える。
しかし、その選択をしたことに強い後悔を抱いたのは…登り始めてどれくらいのところだっただろう。

いや、実際はこの階段を実際に目にした瞬間から嫌な予感はしていたのが正解だろう。





「や……やっと……つい……た……か……階段なんて……もう見るのもゴメンだ…」

「ハア……ハア……さすがにこれは……こたえたわ……ね……。……でも、これからが本番よね。元気出していかなきゃ……!」





下を振り返りたくない程上り詰めた階段。
やっと辿りついたそのゴールで息も絶え絶えになりながらそう零すバレットとティファ。

神羅のこの非常階段。あたしの記憶が正しければカードキーが必要になる59階まで続いていたはずだ。

つまりここは59階。
戦闘にそう不慣れではないふたりにしてみてもこの階段は流石に堪えたようである。





「ふう…」





そんな中、多少は息が上がっているもののひとり余裕を残した顔で軽く息を整えるのはクラウドだ。

くそう。
これがジェノバパワーか!魔晄パワーか!

そんなことを思ったけれど、それを口にする事は出来ない。
なぜならあたしは今、冗談抜きで死にかけているからだ。





「おい…ナマエ」





何の言葉も発しないあたしに不穏さでも覚えたのかクラウドがこちらに振り返る。

だけどやっぱりあたしは何も言葉を発しない。
もとい、口から出ているのは恐ろしいほど深く早い呼吸のみ。言葉と挟む隙も無い。

あたしは今、肩で呼吸を何度も繰り返しながら階段の上で崩れるように倒れ込んでいた。





「…っ…は、…げほっ…」

「おい…あんた、大丈夫か?」





クラウドにガチの心配をされた。

きゃあん!クラウドやっさしー!うっれしー!

とか騒ぎたいものの、肉体がそれを許しません。
あたしはこの長い長い階段を登りきった末、とんでもない息切れと疲労に襲われていた。

もう、まじ…なんだんだ。
あれよ、校庭10周とかよく聞くじゃない?

そんなの目じゃねえよ!!的な。





「…はあ…はあ…、ちょ、待って!はあ…まだ、無理…!」

「…わかった。わかったから喋るな。あんたの体力が回復するまで待つ。とりあえず息を戻せ」





とてもじゃないけど動けません。
そうブンブンと首を振れば、クラウドあため息をつきつつも頷いてくれた。

いやね、あたしだって流石に思いますよ。これは申し訳ないなと。
でも正直有り難い…!





「ナマエ、大丈夫?はー…私も、これは堪えたわ…」

「ティ、ティファ〜…」





自信の呼吸を戻しつつ、背中をさすりに来てくれたティファ。

貴女が女神か!
あたしはティファにすがりつくように抱き着いた。





「うううう…げっほ」

「よしよし…」

「げほげほっ…あたしはもう駄目だ…。骨は拾ってくれ」

「…縁起でも無い事言うのやめなさい」

「…あんた、もう案外元気だろ」





ちょっとふざけたらニブル組に突っ込まれた。
そんなところで息合わせなさんなよ幼馴染みさんたち…。

まあ、出来るだけ早く呼吸を整える努力はしよう。
あたしは目を閉じ、落ち着かせるように深く息をした。

しっかし…。
これ…もしかして正面突破の方が良かっただろうか?
向こう向こうでは怪我のリスクとかあるだろうけどさ…。

そんなことを頭の端で思いながら、あたしは呼吸を繰り返す。

くっそ…神羅め。
こんな非常階段作るとかマジで馬鹿じゃないのか…!

そしてぜーぜーしながら、心の中でそう神羅を呪ったのであった。





「くっそ…本当あの階段なんなんだよ!くそくらえだ…!」

「…まだ言ってるのか」





その後、とりあえずある程度体力が回復するまで待ってもらい、非常階段からビル内部へ探索本番がスタートした。

ビル内にも通常の階段があるわけだけど、あんなもの屁でも無かった。
普通の階段ってこうだよねと、しみじみ思って感動したねまったく。

やっぱり正面突破した方が良かったかな。そっちはそっちで階段にすれば良かったなんて思いそうだけど。

当たり前だけど、戦うって大変だ。
怪我だって付き物。勿論痛い。
ゲームでは普通に攻撃喰らうけど、実際はあんなの致命的。

それはここまででも嫌というほど思い知った。
あたしは魔法しか戦う手段がない後衛タイプだからそう狙われることは無いけどね。





「ああ、クラウド。この資料、場違いだね。この漢字、覚えて」

「神…か」





そして今現在、あたしたちは上の階へ行くカードキーを貰うために市長さんの暇つぶしに付き合っている。
あれだ、ゲームでもある各資料室でその部屋にはあるはずのない資料を探してそこからヒントを得て言葉を完成させるやつね。





「か〜っ…たく。こんな資料ばっかのところにいると頭痛くなってくるぜ!あの市長の野郎…面倒くせえ事言ってきやがって」





カードキーを貰うためとは言え、こんな面倒をやらされてバレットはご立腹だ。
まあ確かに気持ちはわからんでもない。

けど、ここを一発でクリアできれば確か属性のマテリアが貰えたはずだ。
そういう意味では結構気前良いと言うか、悪い話ではないと思うんだけどね。





「まあまあ、でも案外あの市長さんバレットと相性いいかもだよ。だから頑張りましょうや〜」

「あん?そりゃどういう意味だよ」

「ここまで揃った漢字。羅、低…んで今の神ね」





クラウドがメモしている紙を読み上げて、にっこり笑って見せる。
いやはや、ここまでくればもう答えはあれでしょうとね。

まあ神と羅が入ってる時点で皆にも神羅関連の言葉なのはわかってるはずなんだけど。

何度かプレイしていると、残りの『低』でその正体がわかる。
まああれですね、みたいなね。

神羅と言う会社に抱いている気持ちは、案外バレットと気が合ったりしてね。





「もう答えはわかってるって顔してるな」

「ふふふ。まあいっぱい悩みましょうぜ。そうしたら達成感も大きいよ〜」





メモを見せてくれたクラウドに言われ、またもにっこり笑う。

まあマテリアにこだわらなければ当てずっぽうでも良かったと思うけど。

ともかく、口出しはしませんと。正攻法で行きましょう。
そもそももう残りの部屋ひとつだしね。





「さ、次で最後の部屋だよ〜。さっさと行ってみよ〜」





言葉を見つけたならその部屋にもう用はない。
あたしは次に行こうとその部屋の扉を開き、先に進もうと皆を促した。





「神 羅 最 低!!なんとすばらしい響き!」





漢字を4つ集め、市長の元へ戻りその答えを告げると物凄いハイなテンションで市長はその正解を喜んでいた。

神羅への鬱憤溜まり過ぎてこの人なかなかテンション凄いことになってるよな。
画面を通してでなく実際に目の前にしてみるとその凄さがより伺える。





「なんでこんなコトするか?きまってるじゃないか。イヤガラセだよ。イヤガラセいいか、神羅はずっと私を苦しめてきたんだぞ。だから私はここで君たちを悩ませ今度はキミたちが上へ行って神羅のやつらを困らせる。どうだ、これでおあいこだろ。ヒ、ヒヒ、ヒヒヒ…」





世界一の大企業…その実態はだいぶブラック?
また神羅最低にとても楽しそうだから余計な事は言うまい。





「属性のマテリアか…」

「ね〜。よかったね、クラウド。面倒なの頑張った甲斐あって。気前良かったね、市長さん」

「…最後危ない笑い方してたけどな」




ゲームの通り、一発で正解したことで貰えた属性のマテリアを手の上で転がすクラウド。
これとカードキーを受け取る際、ヒヒヒ…言ってる市長にクラウドの顔が引きつっていたのはなかなかの見物だった。





「そのマテリアは結構優秀だよ〜。武器と防具どっちに装備するかで効果変わるしね」

「詳しいな」

「その辺の知識はまっかせてよ〜。マテリアの組み合わせに関しては結構手を貸す気あるよ〜?」





マテリアの組み合わせはそんなにお話に絡むことではないし、いかに戦闘を効率よく進められるかという話だけだ。

そのくらいなら口を出してもいいだろうと。
まあその辺もあたしの独断と偏見なわけだけど。

実際、アドバイスだけで決めるのはクラウドだしね。
ただこういう組み合わせもいいんじゃないかな〜という提案だし。





「…そうだな、マテリアに関してはあんたの意見を一度聞くようにするか」

「あら!ついにクラウドがちょっとデレた!?」

「…階段は向こうか」

「ガン無視!!」





あたしの言葉を無視し、すたすたと先を歩いていくクラウド。
ま、階段では本当えらい目に遭ったけど、エアリスに着実に近づけている手ごたえはあった。



To be continued

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