ドン・コルネオの屋敷


「おおッ!!お友達もこれまたカワイコちゃん!ささ、中へ中へ!!3名様、お入り〜!!」





ウォールマーケット最奥にあるドン・コルネオの屋敷。
その前に並ぶ三人の女を前に、見張りの男は顔を緩ませその扉を開いた。

中へと足を踏み入れる女たち。

ガラっと閉じた扉の音を聞き、彼女らを迎えたのは受付人らしき男。





「お〜い、お姉ちゃん達。今ドンに知らせてくるからさ。ここで待っててくんな。ウロウロしないでくれよ」





そう言い残し、男はその場を後にしていく。
男が奥に消えると、他に見張りのような物の気配は感じられなくなる。

それを見計らい、彼女たちは顔を見合わせた。
というかあたしはクラウドを見て拳をぐっと握ったガッツポーズをした。





「やったなクラ子!カワイコちゃんだって!褒められたね!」

「クラ子ってなんだ。はあ…もう、どうにでもしてくれ…。バレなかったならそれでいい…」





クラ子、もとい女装したクラウドは諦めきったように息をついた。
見事敵を欺いてやったんだから、もっと喜んでいいのに。

FF7屈指の名イベント、クラウドの女装。
このイベントのクオリティは行動次第で色々と変わってきてしまう部分があるのだけれど、今回は集められるだけのアイテムを集め、化粧はあたしとエアリスの二人で施し、かなり良いクオリティまで持っていくことが叶った。

現に今、門番の男も受付の男も欠片もクラウドを男だと疑う仕草など見せなかった。

そんな様子を見ていたエアリスはクスクスと堪えぬきれなかったように笑っていた。





「ふふっ…じゃあ、今のうち。捜しましょ、ティファさん」





そして、今の男が戻ってこないうちに目的を果たそうと言う。
あたしとクラウドはそれに頷き、気を取り直して屋敷内の散策を始めることにした。

まあ、散策…といってもそう難しい事は無く、ティファは案外簡単に見つかった。
彼女がいたのは《おしおき》と書かれた一番奥の部屋。

薄暗い部屋。
長い下り階段の先で、ひとり佇む黒髪の女性。

その姿を見つけるなり、クラウドは改めて自分の姿を顧みてこれ以上誰かに今の姿を見られることに抵抗を感じたのかビクリと肩を揺らして顔を背けてしまった。

はっはっは、無駄な抵抗はよしたまえ。

あたしはそんなクラウドを余所に、軽い足取りでティファの元に駆けていく。
そしてひょこっと、彼女の顔を覗きこんでにっこりと笑顔を浮かべた。





「ティーファ!」

「え、ナマエ…!?」





突然背後から顔を覗きこまれたティファはあたしの顔を見て凄く驚いた顔をした。
まあ普通に驚いたのもあるんだろうけど、単純に何であたしがここにいるのかという驚きもあっただろう。

別れ方が、なかなかのインパクトだったしね。

現に目を丸くした彼女が真っ先に尋ねてきたのはそのことだった。





「ナマエ!!怪我は!?クラウドは!?大丈夫なの!?」

「あははっ!ティファ、落ち着け落ち着け!」

「ナマエ…」





ポンポン、とティファの肩を叩いて笑う。
笑顔とは偉大です。それを見たらティファも少し安心を覚えたのか、表情が少し柔らかくなったように見えた。

すると、それを見計らったようにエアリスが話に入ってきた。





「ティファ、さん?初めまして。私、エアリス。あなたの事、ナマエとクラウドから聞いてるわ」

「え…?」





一瞬、見知らぬ存在にきょとんとしたティファ。
だけどすぐに何か思い当たる節を見つけたのか、ハッとした表情を見せた。





「あっ、公園にいた人?ナマエと、クラウドと一緒に」

「そ、ナマエと、クラウドと一緒に」





ふたりの話が噛み合った。ふたりが話をしている間に、あたしは一度その輪の中を離れて未だひとり部屋の隅で背を向けている金髪の彼の元へと走り声を掛けた。





「ちょいちょい、そこの御嬢さん、いつまでそこで固まってるの?」

「………。」

「諦めも肝心。ほら、早めに諦めた方が賢明ですよ?」

「…またか」

「まただよ。ここまで来ちゃったからには覚悟決めるしかないでしょって。てことで、はい!ゴー!」

「あっ、お、おい…!?」





あたしは半ば強引にくるっとクラウドをティファの方に向かせ、その背中をドンと押してティファの前に放り出した。

思いっきり正面からティファに向き合ってしまったクラウド。
彼は固まり、あたしはエアリスの元に駆け寄ってまた笑ってた。

そしてティファは突然目の前に放り出されたその人物の顔をまじまじと見つめ始める。
クラウドにしてみればそんなに見ないでくれって感じだろう。

そしてティファは察する。
今、自分の目の前に放り出されたその存在が、一体全体誰であるのか。





「クラウド!?」





その瞬間、大きく目を見開き声を上げたティファ。

そんな驚いた声を聞いたあたしとエアリスは堪えられなくて遂には吹き出した。
いや、ごめんクラウド。でも許して。いやこれは吹くって。





「その格好はどうしたの!?ここで何してるの!?あ、それよりあれからどうしたの!? クラウドも身体は大丈夫!?」





ティファも混乱しているのか、物凄い質問攻めに遭ってるクラウド。
その勢いに若干圧倒されながらも、クラウドはティファを落ち着かせるようにたしなめ、ここまでの経緯を順に説明し始めた。





「そんなにいっぺんに質問するな。この格好は…ここに入るためには仕方なかった。身体は、さっきナマエも言った通り大丈夫だ。俺もナマエも何ともない。エアリスに助けてもらった」

「そうなの、エアリスさんが…」





そこまで聞き、ティファも安堵を覚えたらしい。
とりあえず無事を確認できた。それはティファにとっても大かったのだろう。

そして、ここから質問するのはクラウドの番となる。

クラウドはティファにここにいる理由を尋ねた。





「ティファ、説明してくれ。こんなところで何をしているんだ」

「え、ええ……」

「オホン!私、耳、塞いでるね」





説明を求められたティファが軽い口ごもりを見せた。
事をなんとなく察したエアリスは首を突っ込むことなく耳を塞いで背を向けた。





「あたしは聞いてても良い?」

「…どうせ知ってるとか言うんじゃないのか」

「あはは!」




アバランチでは無いあたしは一応そう聞いてみる。
まあクラウドもアバランチじゃないけど、雇われてるしね。
とか言いつつ、あたしも伍番魔晄炉の作戦は手伝っちゃったけど。

なんにせよ、知っているのだから耳を塞ぐ意味も無い。

ティファはあたしとクラウドに状況の説明をしてくれた。





「……とにかく、ふたりとも無事で良かったわ」

「ああ。で、何があったんだ?」

「伍番魔晄炉から戻ったら怪しい男がうろついていたのよ。その男をバレットが捕まえてキューッと締めて話を聞きだしたの」

「ここのドンの名前が出たわけか」





話を聞いていて、思う。
クラウドってこういう判断とか、わりと察しは良いよなって。

ティファは頷く。





「そう、ドン・コルネオ。バレットはコルネオなんて小悪党だから放っておけって言うんだけど……何だか気になって仕方がないのよ」

「わかったよ。コルネオ自身から話を聞こうって訳だな」





話がここで繋がる。
クラウドも、ティファがここで何をしようとしているのか、その目的は理解した。

しかし、本題はここからだ。
ではどうやってそのコルネオに接触するのか。

その時あたしはティファと目があった。
ちょっと困ったような、言葉に悩んでいる顔。

ナマエは、知ってるんだよね?って言われた気がする。

あたしはそれを見て小さく苦笑った。





「ま、その直接話を聞く方法ってので困っちゃってるんだよね、ティファは」

「…そうなのよ。コルネオは自分のお嫁さんを捜してるらしいの。毎日3人の女の子の中からひとりを選んで……あの……その。とにかく!そのひとりに私が選ばれなければ……今夜はアウトなのよ」





あたしの言葉に続け、少し言いにくそうに言葉を濁して言ったティファ。
まあそりゃ言いにくいわな、とは思う。

あたしもここをプレイする度にすんげー話してるよなって毎回思うもん。
超面白いからそれはそれでいいんだけど。

早い話、今夜のお相手的なアレだ。

そしてそこまで聞いたところで、耳を塞いでいた彼女がこちらにゆっくり振り向いた。





「あの……聞こえちゃったんだけど。3人の女の子が全員あなたの仲間だったら問題なし、じゃないかな?」





ぶっちゃけ、耳を塞いでいた意味などちーっともなかったエアリス。
もしかしたら、こっそり耳を塞ぐふりをしていただけかもね。

最も、クラウドもティファもこんな近距離で話しているのだから、聞かれてしまっても仕方ないくらいには思っていたかもしれないけど。

エアリスの言葉を聞いたティファは、戸惑ったような顔を見せた。





「それはそうだけど……」

「私、手伝ってもいいわよ」





エアリスは、にっこりティファに微笑んだ。
しかしそんなものをクラウドが許すはずもない。





「ダメだ、エアリス!あんたを巻き込む訳にはいかない」





エアリスに内緒で家を出てほしいと言われたにも関わらず、もうだいぶズブズブのところまで巻き込ませてしまった彼女。
クラウドからしてみれば、もうこれ以上エアリスを変なことに巻き込ませるわけにはいかないとい気持ちが強かったのだろう。

しかし、そんなことで簡単に退く我らがエアリスお姉さまではありません。





「あら?ティファさんなら危険な目に遭ってもいいの?ナマエは?巻き込んでいいの?」

「いや、ティファは…。ナマエ、は…」





もうこの辺でエアリスの方がクラウドよりウワテなのはっきりしてるよね。
クラウドって決して口じゃエアリスには勝てないもん。

で、そんなやり取りを見つつあたしは考えていた。

そう、コルネオの毎日の候補というのは3人の女の子だ。
だけどここにいるのは4人。イレギュラーなあたしの存在があるからだ。

なんだか、わかりやすく引っ掻いちゃったなって感じ?
いや別に今回に関してはあたしが何したって話でもないだけど。ただいるだけだし。

でもここまで来てしまったらもうどう足掻きようもない。

まあ、間違いなく言えるのはあたしは自分がその候補になりうるかもしれないという可能性を知っていたってことだ。
ていうかあたしの場合、変な話をすれば自分から巻き込まれにいってるしね。

つまり、あたしも候補にされることに異存はないって事だ。





「ティファ。あたしはいいよ、手伝うよ。そもそもこうなるのわかってたしね。当たりの駒として使ってくださいな」

「…ナマエ」





にこっとティファに笑いかける。
するとティファも少し笑ってくれた。




「クラウドも、最初に言ったでしょ。それなりには手伝うよ、あたし」

「……ああ」




クラウドにも笑っておく。
そしてエアリスもティファが遠慮しないよう言葉を掛けた。





「私、スラム育ちだから危険な事、慣れてるの。あなた、私、信じてくれる?」

「…ありがとう、エアリスさん」

「エアリス、でいいわよ」





ティファとエアリスも互い笑みを零した。

それを近距離で見ていたあたし。
ヒロイン同士の友情…最高ですね…!

こんな時でも絶好調である。
いや仲良しなティファとエアリスとかたまらんでしょ!

とっても心がホクホクした。

でも、あたしはそこに掛かるちょっとした可能性の存在も忘れていなかった。

まず、コルネオに選ばれる毎晩の女の子は3人だ。
今の流れだと、ティファ、あたし、エアリスということになる。

……クラウドどうすんだ!!
折角完璧な女装に仕上げたと言うのに!!!!

馬鹿でしょ、と自分でも思う。
でも行きつく思考はそんなもんだ。
うん、やっぱり絶好調です。

しかし、そんな一抹の不安はすぐに杞憂と化すこととなった。





「お〜い!!お姉ちゃん達、時間だよ。コルネオ様がお待ちかねだ!」





その時、階段の上から一人の男の声がした。
コルネオの部下だろう。

一抹のくだらない不安を払拭したのは、その部下が次に発した言葉だった。





「今夜は特別だ!4人の中からひとりを選ばれることになった!」





普段は3人であるはずの人数が4人となった。

恐らくその理由は此処にいる人数が4人だからだろう。
多分、3人でなきゃいけない理由なんてあのオッサンには無いんだろうし。

それを聞いた皆の顔色は変わった。

しかし、そんな様子を気にも留めていない部下の男。
彼はぶつぶつと文句を言いながら最後にあたしたちに念を押すように叫んだ。





「ウロウロするなって言ったのに……これだから、近頃のおネェちゃん達は……。早くしてくれよ!」





軽くご立腹である。
ま、ウロチョロしたのはこっちなんだけど。

でも言う事を聞く義理も別に無いね!ってね。

階段を昇り、再び部屋の外に出ていく男。
その背を見届けた後、あたしは振り返り、ティファとエアリスの顔を見た。





「4人、だってさ」

「ええ。増えたわね」

「大丈夫大丈夫。ここに4人、いる、でしょ?」





最後のエアリスの言葉にあわせ、注目したのは残る金髪の御嬢さん。
視線を受けたクラウドはひくりと顔をひきつらせた。





「聞くまでもないと思うけどあとのひとりはやっぱり……俺……なんだろうな?」





エアリス、ティファ、あたしは顔を合わせる。
そして少しの迷いも無く、クラウドに向かって頷いた。





「聞くまでも」

「無いわね」

「うん。全然ないね」





こうして揃った今夜の候補4人。
あたしたちは部下の指示に従い、ドン・コルネオの待つ部屋へと向かっていった。



To be continued

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