魔晄を浴びた瞳
「こらー!クラウドー!女の子を気遣えない男はモテないぞー!」
スラムの教会から抜け出し、積み重なった瓦礫を越えゆく途中…。
あたしは、ひとりでさっさか瓦礫を飛び越えて進んで行ってしまうクラウドの背中に向かってそう叫んだ。
「エアリス、だいじょぶ?」
「ちょっと、待って…。よ、…と。ハア…ハア……ナマエ、ありがと」
少し先を進んでいたあたしはエアリスを待つように振り返って、彼女に手を差しのべて瓦礫を越えるのを手伝ったりしてた。
瓦礫の上を歩くなんて、結構怖いもんだ。
なんかの拍子に崩れてズルッとズッコケてしまう可能性だってあるだろう。
ただ、あたしとエアリスには服装の差をいうのもあったかもしれない。
あたしはわりと動きやすい格好をしていた。スカートとか履いてたわけじゃないし。
エアリスも特別動きづらいというわけではないだろうけど、まあわりと丈のあるスカートだし…その辺は多少気遣ってあげてほしいよね、と。
戦うためのソルジャー服に身を包んでいる君とは違うんだよ、クラウドくん。
「クラウド…。ひとりで…先に…行っちゃうんだもん」
あたしたちが遅れている事に気が付き、足を止めて待っていてくれたクラウド。
やっと追いつくと、エアリスは少し息を浅くしながらクラウドに目を細めた。
「おかしいな…ソルジャーの素質があるんじゃなかったか?」
「もう!意地悪!」
クラウドの返しに、ぷくっと頬を膨らませ怒ったエアリス。
それを見たクラウドはふっと小さく吹き出し、声を出して笑った。
エアリスも、同じように「ふふっ」と笑ってた。
おお、笑った。
一方であたしは声を出して笑うクラウドを見てそんなことを思ってた。
「…なんだ?」
「ううん、別に?楽しそうだな〜って思っただけだよ〜」
あんまりじっと見すぎたかな。
あたしの視線に気が付いたクラウドが少し不思議そうに眉をひそめてた。
いやあ、確かクラウドが作中にこんな風にはっきり笑うのって此処だけなんだよな、ってのを思い出して。
これは…流石エアリス様っていうの?
出会って間もないクラウドを此処まで打ち溶かしたのは、純粋にふたりの相性が悪くないからだろうか。
まあ古代種とか関係なく、エアリスには不思議な魅力があるよなとはあたしも身を持って感じた気がする。
とりあえずクラウドには首を横に振って、にこっと笑って置いた。
「ねえ…クラウド。あなた、もしかして…ソルジャー?」
その時、エアリスがクラウドを見てふいにそう尋ねた。
クラウドは目を見開いて驚いた。
「………元ソルジャーだ。どうしてわかった?」
「…あなたの目。その不思議な輝き」
じっとクラウドの瞳を見つめそう答えたエアリス。
それを聞いたクラウドは自分の目元に触れ、ゆっくりと頷いた。
「そう、これは魔晄を浴びた者……ソルジャーの証。だが、どうして、あんたがそれを?」
「……ちょっと、ね」
「ちょっと…?」
「そ、ちょっと!さ、行きましょ!」
エアリスはそれだけ言うと、気合を入れ直すかのようにぴょんぴょんっとあたしたちより先に瓦礫を越えて先を進みだした。
クラウドは不思議そうな顔をしたままだった。
で、そこであたしは彼を目が合う。
「ナマエ…」
「理由、知ってるのかって?」
「……。」
頷きこそしなかったけど、クラウドが聞きたいのはそんなところだろう。
「まあ、そのうちわかるよ〜。あ、ちなみにあたしも知ってたよ。ソルジャーの目、みーんな青色なこと」
「…そうか」
クラウドはそれだけ呟いて小さく頷いた。
いやあ、クラウドもだいぶあたしに慣れてきたよね〜。
あたしとしてはこうサラッとしてくれるの楽だし、信じてくれたみたいで嬉しいからいいんだけどね!
そうしていると先を進んでたエアリスの「はやくー!」という声が聞こえてきた。
あらまー。すっかりさっきと立場が逆転しちゃってるね。
まあ、こんなとこで立ち止まってる意味もないし、あたしとクラウドもその声を拍子にして先を進み始めた。
「ただいま、お母さん」
エアリスのボディーガード。
今回、そのゴールとなるのはエアリスの家だ。
スラムの町を抜け、その奥にある少し一線を画したところにある一軒家。
優しい光が抜け、教会に咲いていた花に囲まれたその家にエアリスはあたしたちを招いてくれた。
いや正直、あたしはあのお花の外観を見た時点でコレきたで…!!ってテンション上がってたんだけど、流石にエアリスのお母さんに危ない奴だと思われるのはアレかと思って顔を気を引き締めておいた。
そう、エアリスの声を聞いたエアリスのお母さん…エルミナは、エアリスを出迎えに来てくれた。
「この人、クラウド。私のボディーガードよ。それと、その友人のナマエ。ふたりに色々助けてもらったの」
「ボディーガードって……お前、また狙われたのかい!?体は!?ケガはないのかい!?」
ボディーガードなんて単語を聞いたエアリスのお母さんは酷く慌てたみたいだった。
まあ、彼女はエアリスと神羅の事情をもちろん知ってるし、ボディーガードなんて聞いたらそりゃ焦るわなとは思う。
エアリスはそんな母の様子に小さく笑いながら、大丈夫だと頷いた。
「大丈夫。今日はクラウドとナマエもいてくれたし」
それを聞き、エアリスのお母さんはホッとしたよう。
そしてご丁寧にあたしたちに向き直り、頭を下げてお礼を言ってくれた。
「ありがとうね、クラウドさん、ナマエさん」
「いえいえ、あたしはほとんど何もしてませんよ。むしろエアリスにはこちらも助けてもらったくらいですから」
魔晄炉からドーンして、エアリスはあたしたちを介抱してくれたはずだ。
ていうかあたしは本当何にもしてないしね。道中戦ってくれたのだってほぼクラウドだし。
あたしが頭を下げるのと一緒に、クラウドも軽い会釈をしていた。
「ねぇ、これからどうするの?」
そして、エアリスに今後を尋ねられた。
この先…まだエアリスと一緒にいることにはなるんだけど、この時点ではとりあえず家に送り届けたということで話が一段落しているわけで。
クラウドは少し考えると、エアリスに七番街のことを聞いた。
「……七番街は遠いのか?ティファの店に行きたいんだ」
ティファ。
エアリスからしてみれば、初めて聞く誰かの名前。
彼女は目をぱちぱちとさせ、彼に聞き返した。
「ティファって……女の人?」
「ああ」
「彼女?」
彼女。その単語が、なんかドーンと存在感を持って聞こえた。
いやあ、ここ毎回思うんだけど、エアリスってこう本当ド直球だよな〜って。
で、ここでのあたしの興味は勿論クラウドの返答だ。
さあ!彼はどんな返事をエアリスにするのでしょう!
ちらっと見ると、クラウドは驚いたように首を横に振っていた。
「彼女?そんなんじゃない!」
そんなこと聞かれるなんてひとつも思ってなかったみたいだ。
クラウドは本当にビックリしたみたいに首を凄い勢いで振っていた。
なんか、もんのすごい純情そうな反応だわ…!
うん…御馳走様です。
エアリスもエアリスで、クラウドのその反応にはクスッと笑っていた。
「ふふふ。そ〜んなにムキにならなくてもいいと思うけど。でも、まあ、いいわ。七番街だったわね。ナマエも、行くんでしょ?」
「うん。クラウドが行くなら行くよ〜。クラウドがいるところにあたしアリだよ!」
「……なんだそれ」
「ふふふ!でも、じゃあ決まり。私が案内してあげる」
ニッコリ笑って、七番街への案内を申し出てくれたエアリス。
だけどまあ…クラウドはその厚意を受け取ることはしなかった。
「冗談じゃない。また危ない目にあったらどうするんだ?」
「慣れてるわ」
「慣れてる!?……まあ、そうだとしても女の力を借りるなんて」
「女!!女の力なんて!?そういう言い方されて黙ってる訳にはいかないわね。お母さん!私、七番街までクラウドとナマエを送っていくから!」
女の力。クラウドのその一言が、エアリスに火をつけてしまった。
危ない目に遭う、でもう少し押せばよかったのにねえ。
まあ何にせよ、もうお母さんに言いきってしまっているエアリスの様子からこりゃ絶対引かないぞ…ってね。
「はっはっはー。クラウド馬鹿だな〜」
「…うるさいな。そう言うなら、ナマエが説得してくれれば良かっただろ」
「おや、女の力に頼るんですか??」
「………悪かったよ」
「あはは!まあ、あたしはエアリスともっと一緒にいたいからどのみち説得を手伝う事はしなかったよ〜」
「……俺の絶対の味方じゃなかったのか」
「え?味方味方!超味方だよ〜!でも人間、自分の喜楽の欲には逆らえないっていうか〜」
「……最悪か」
「あっは!」
クラウドは溜息をついた。
いやあでもさ、ていうか、ここでエアリスを断ったところで結局だしなって感じだし。
奥の方で話をしていたエアリス親子も、エアリスは言い出したら聞かないねという方向でお母さんが折れたみたいだ。……表向きはね。
で、今日はもう遅いから明日にしなさいと。
エアリスは布団の用意をするために2階へと上がっていく。
その隙に、エアリスのお母さんは気まずそうにクラウドに向き直った。
「あんたのその目の輝きは……ソルジャーなんだろ?」
クラウドの瞳を見つめ、そう言ったエアリスのお母さん。
またそこに気づかれると思わなかったのか、クラウドは少し目を丸くした。
でも、エアリスが知っていたことを見ると、この人が知っているのは然程不思議な事ではないのかもしれない。
そう思ったであろうクラウドは、特に何故と言うわけでも無く頷いた。
「ああ。しかし、昔の話だ…」
「……言い難いんだけど…今夜のうちに出ていってくれないかい? エアリスには内緒でさ。ソルジャーなんて…またエアリスが悲しい思いをする事になる…」
申し訳なさそうに、そして少し悲しそうにエアリスのお母さんは目を伏せ俯いた。
…ザックス。
もう、二度とエアリスの元へ会いに来ることは無い彼…。
とまあ、あたしはこんな風に理由を知ってるけど、クラウドは勿論わかるはずがない。
でも今のこの悲しそうな様子を見れば、何故と聞く野暮なことをクラウドだってしない。
「…わかった。ナマエ、いいな?」
「勿論。あたしはクラウドについていくだけだよ〜」
まあ娘さん、恐ろしく鋭くタフですけどね…。
なんて野暮な台詞は、あたしも勿論吐かなかった。
To be continued
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