ラムザ

禍々しい。
辺り全てに、そんな空気が漂っている気がする。

オーボンヌ修道院の地下書庫で戦っていた私たちは、敵が唱えたデジョンという魔法によりどこかの異空間…いや、異世界へ飛ばされた。

でもきっと…ここには私たちが探しているあの子もいる。
ラムザの妹…アルマがきっとここに。

その名を思うと、早く助けなきゃと強く想う。





「ねえ、ラムザ。早く進もう」





最愛の妹の危機に、ずっとラムザは気が気じゃない。
だから私はそう声を掛ける。





「…ごめん」

「え?」





だけれど、返ってきたのは予想などしていなかった謝罪の言葉。

声の主は間違いなくラムザだ。
顔を見てみれば、彼は眉を下げ、申し訳なさそうに私を見ている。

私は首を傾げた。





「なに、いきなり?」

「…こんなことに、巻き込んでしまったから」





尋ねれば彼はそう答えた。
相変わらずその顔は申し訳なさそうで、今度は辛そうに目を伏せた。

私はまた首を傾げた。





「巻き込んでって?」

「…こんな場所に、君まで連れて来てしまった…」

「え?」

「…入口、壊されてしまった。元の世界に帰れるかどうか…」

「それは、」

「あの日からずっと一緒にいてくれて、すごく感謝してる。その優しさに、僕はずっと甘えて…」

「……。」






目を伏せたまま、彼はまたごめんと言った。

なるほど。言っている意味は分かった。

本当に凄く気にしてるみたい。
感謝とか甘えてとか、赤裸々な言葉も伺えたから。

あの日…ティータが死んでしまった日から、私はラムザと一緒にいる。

確かに、突然こんな世界にワープさせられた時はビックリした。
今の時点では、帰る手段もあるのかわからない。

彼の言う通り、此処に来たときに通った入り口となった魔方陣は壊されてしまったから。

だけど、確かな事がひとつ。





「私、別に巻き込まれたわけじゃない」

「え…」

「私がここにいるのは、自分で選んだから。アルマを助けたいって私も思ってるから。戦ってきたのも、ラムザについてきたのも、自分がそうしたいと思ったから。だから君がそんな顔して謝る理由なんて何もないの」

「いてっ…」





ぴんっと軽くおでこをはねる。
小さな痛みに彼はおでこを押さえた。

私はそんな彼に笑った。





「帰る方法は後でいいよ。今はアルマ、でしょ?気になって気になって仕方ないくせに。ね、お兄ちゃん」

「……うん」

「ふふ、気にしてくれてありがとう。嬉しいよ、私のこと考えてくれて。私、ラムザのそういう優しいところ、大好きよ」

「な…」





笑って、そしてその素直な胸の内を伝えてみる。
すると突然だったからかラムザは言葉に詰まらせてちょっと顔を赤くした。





「いきなり何言うんだ…」

「だって本音だもの。でもね、だから平気。もしも帰れなくても、私はラムザがいるならそれでいい」

「え…」





ラムザは目を丸くした。

そう。それは紛れもない私の本音。
あっけらかんとして見えるのかな。でもそれは君がいるから。

確かに戻れなかったらって考えて、怖くないって言ったら嘘になる。

でもラムザのいない元の世界なら、それは意味が無いから。





「…ありがとう。君を守るよ、必ず」





そして彼はそう言ってくれた。
応えくれた彼のその瞳は、とても強い色をしていた。



END


異世界にブッ飛ばされてあんなんなったら結構絶望的ですよね。


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