イグニス

「もうすぐ、もうすぐ本当に終わるのね…」





暗い世界。崩れた王都の街並みの中、私は思わずそう呟いた。





「ああ。そうだ。終わらせる」





すると、後ろから返答があった。

小休止の、ちょっとした独り言だったけど。
私は振り返る。そこにいたのは、サングラスを掛けた彼だった。





「イグニス…」

「不安か?」

「ううん…そんなことないよ」

「…フッ、だろうな。揺らぎなどない、強い声色をしている」

「そんなのわかるの?」

「ああ」





イグニスは軽く笑った。

視覚を失った彼は、音というものに非常に敏感だ。
音だけでそんなにわかるのかと、驚くほど情報を拾ってみせる。

でも、今のはきっと正解。

だって、もうなにがあっても前を見ていくと決めているから。





「うん。揺るがないよ。私は…私の王様を信じてる」

「ああ…そうだな」





胸に手を当てて、己の主を想う。
そしてその想いは、彼も同じだろう。





「…良い声だな」

「うん?」

「したたかで、凛とした、美しい声だ」

「私…?」

「ふっ…ああ」





イグニスはまた笑った。
そして頷いた。





「その声を聞いていると、心強く思う」

「…そう?」

「ああ」

「…そっか」





私はそっと、彼に近づいた。
そしてゆっくりと手を伸ばして、その胸に頭を預ける。

すると、その位置を覚えている手が私の髪に触れた。



END


終盤のイグニスは多分声音に敏感なんじゃないかな〜という妄想。


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