ホープ(13-2)

「えーっと、確かこの辺…」





きょろきょろと辺りを見渡しながら歩く。
その一面にあるのは物凄い数の本たち。

私は今、今度提出するパラドクスのレポートを完成させるために必要な資料を探しに書庫へと来ていた。

で、その問題の資料といえば。





「…あった」





順々に棚を見ていって、やっと見つけたそれ。
でもそこで私はある問題に直面した。

その資料は見上げた先だ。
そう、見上げてるのだ。

…と、届くかなあ…アレ。

そう思いながらとりあえず背伸びして手を伸ばしてみる。
だけど、やっぱり惜しい。あと少しの所でどうもちょっと届かない。





「ふ、んっ…!!」





ぷるぷると、必死こいてつま先立ちして指先までぐっと伸ばす。
あともう少し!ほんの、あとちょっと!!!

大人しく台を探しにいけよと私の中で何かが言う。

でもなんか台どこにあるかわかんないじゃん!
その一方でこっちはもう少しで触れそうなとこにあるじゃんよ!!!

正直謎理論かもしれない。
でもそんなこんなで私はぷるぷる頑張ってた。

すると、その時だった。





「これですか?」

「あっ」





突然、ひょいっと軽く私が手を伸ばしていた本に誰かの手が伸びてきた。
私の苦労なんてなんのその。その手はいとも簡単にその本を引き抜いてしまう。

伸ばされた手は隣のすぐ傍。
私がぱっとそちらを見上げると、今本を取ったそいつもこちらを見ていた。





「はい、どうぞ」

「…ホープ」

「はい。…どうかしました?」





取った本を差し出す彼はよーく見知った顔だった。

私が名前を口にすれば、彼は不思議そうに首を傾げる。
恐らく折角とった本を私がなかなか受け取らないから不思議に思ってるのだろう。





「この間行ってた調査のレポートですよね?僕にも話来たんですけど別件でごたついてて。でも貴女が一緒だったら行けばよかったかな」

「……。」

「あのー…。もしかして、本違いました?」





ホープは困惑した様子だった。

10年前、私は彼と一緒に旅をしていた。
ルシになって、コクーンの運命をも大きく揺るがすことになった大冒険だ。

その時、最年少であった彼の背は小さくて、私の方が全然高かった。

なのに今はどうだろう。
成長が遅かったのか彼の背はあれからグングン伸びて、今じゃすっかり抜かされてる。

いや別にそんなの今更な話なんだけど。
だって私と彼は今同じアカデミーに所属していて何かと顔を合わす機会は多いから。

ただ、なんだ…。
なんか今はこう、なんっかモヤッとした。





「チッ」

「え、何で舌打ち…」

「ちくしょうすくすく育ちやがってって思っただけよ」

「いや流石にもう成長止まってますけど」

「ていうかなんだ今の!届かない本とってくれるとか格好良いかよ!なんだお前!!」

「…なんで僕キレられてるんでしょう…」

「知らん!取ってくれてありがとう!!」

「どういたしまして」





とりあえず本は受け取った。
ホープ的には理不尽な事この上ないだろう。

いや私も何故キレてるのかわからんけど。

でも本当に背伸びたよなあ…と。
そう思って改めて見上げれば、ホープはこちらを見てなんだか嬉しそうに笑ってた。





「なに笑ってんの?」

「いや、格好いいって言って貰えたの嬉しいなって」





そう言って笑う彼はご機嫌そうである。
私が格好いいと言ったくらいで喜ぶとは物好きな子だ。

でも正直こっちもあれだった。
本取ってくれるとか、ビックリと同時にドキッとした。

格好良いと言ったのは、私の本音に違いなかった。





「うん、まあ…格好良かったしねえ」

「へへへ…」





もう一度言えば、彼は少し頬を赤くして照れたように笑った。


END



実は結構お気に入りのお話。


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