バッツ

「ん〜っ、きもちい〜!」





全身に受ける風。
少し冷たいそれが心地よくて、私は思わず頬を綻ばせる。

ふわっと空を自由に羽ばたく飛竜。
私は今、その背に乗って風を楽しんでいた。
祖の感想と言えば、最高と言うのがまさにふさわしい。

だけど…ただ、気になる事が一つだけあった。





「っ」






傍で聞こえた息を飲む音。
それは何かを必死で耐えているかのような。

そしてこの爽快感の中、私は非常に窮屈な思いをしている。

だからそっと息をついた。





「バッツ、きつい」

「そんなこと言われてもなあ…!?」





文句を言ったら文句を返される。
しかも窮屈さがまさかの悪化した。

今、私は飛竜の背に乗っている。
バッツと一緒に。

でもそんな一緒に乗る彼は高所恐怖症だ。

そのせいでずっと、私をぐぐっと抱きしめている。





「普通にしてたら落ちないって…」

「絶対なんて無いだろ」

「いやそんなまっすぐ言われても…」

「大真面目なんだから当たり前だ」





ちょっと振り返ったら凄い真剣な顔で言われた。
そんなに怖いかい、お兄さん。

まあ抱き着かれてるのが嫌なわけじゃないから別にいいけどさ…窮屈だけど。

しかしあれだ、キュンの欠片もない。

いや、まあ…そう思うかどうかは私次第なのだろうか。
こんなこと考えてる時点でときめきもクソもないけれども。

ああでも、それくらい心を許してくれているというのは事実だろうからそれは悪くないのかも。




「何笑ってるんだ?」




思わずふっと笑みをこぼせばバッツはそれに気がついた。
私は軽く首を横に振る。





「いや、別に。ただ、まぁいっか〜って思っただけ」

「なにが?」

「頼られるの」

「は?」





きょとんとされたからわたしは小さく笑いながら己に触れるその腕にそっと手を添えた。
するとバッツのほうも「ああ…」となんとなく納得したようだった。





「うーん、まあ、そうだなあ…頼もしい限りだな」

「あはは」

「でもどんなに血の気が引いても流石に他の奴に抱きついたりとかはしないぞ?」

「ん?」





ヒュンッという風の音がした。
でも耳には届いた。





「そんなに節操なしじゃないぞ〜」

「………。」

「…でもとりあえず、ああ、早く降りたい…」





最後にバッツはそう言いながら私の方におでこをつけてうな垂れた。

広がる目の前の景色。
それを見て綺麗だと思いながら、胸に浮かぶ感情。

ああ、うん。
それは、素直に嬉しいと思った。


END


ハグって言うか、しがみつくな件。


prev next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -