バッツ

目の前に現れたマグカップ。
焦点が合えばゆらりと湯気が揺れる。





「飲めよ、あったまるぞ」





差し出してくれている手と、その腕を目で追えばその先にあった明るい笑顔。





「あ、ありがとう」





見張りの交代だと、そう言うついでに飲み物をくれたバッツに私はお礼を言った。





「目が覚めてさ、交代の時間には少しだけ早かったからそれ淹れたんだ」

「そうなの?これ、前の街で買ったやつだよね」

「おう。美味いよな、これ」

「うん。美味しい」

「それ飲んだら寝ろよ、見張りお疲れさん」





そう言ってバッツは自分のカップを紅茶を飲んだ。
私も口をつけてこくんと飲めばふわりと美味しさが広がった。

口を離し、両手に持ったカップに映る茶色の水面。

それを見ながら私はぽつりと呟いた。





「やっぱり、バッツはこういうのさらっとやるよね…」

「ん?」

「野宿とか、そういうのすると思うの。旅、なれてるなって」

「そりゃまあずっと旅してたからな」





そう言って彼はまた紅茶を飲む。

なんだろう。
何と言うか、旅をしている時の色々の楽しみ方と言うか…そういうものを彼は凄く知っている気がするのだ。

雨の後の草原の風は心地が良いだとか。
寝袋の中で見上げる星空は最高に綺麗だとか。

今もそう。
見張りで飲む飲み物がこんなに美味しいだとか。

レナ様の従者としてお城で育てられた私は旅なんて無縁のものだったから。





「そう考えると…」

「ん?なんだ?」

「ううん」





ひとりごと。私は首を横に振る。

旅をして、色々と価値観が広がった気がする。
それは紛れも無くバッツの影響で。

だから風の神殿に行く前に出逢ったのがバッツで…。
いや、風のクリスタルに選ばれたのが彼で…良かったな、なんて。





「バッツ、ありがと」

「ん?おう」





そう言ってまた紅茶を飲む。

紅茶に隠したお礼。
でもそれは紛れもない本心で、私はその幸運に感謝する。



END


やっぱ旅慣れというか、色々お手の物感あるイメージ。


prev

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -