1000年前のあの日


『さーてライト。久々に暴れようぜ。聖宝がおまちかねだ』





準備を整え、ライトはファングと共にデッド・デューンの遺跡にやってきた。

道中、いくつかの戦闘があったけどライトとファングが揃えばそう怖い物なんて無い。

やっぱりこのお姉さんたち、格好いいよなあ。
モニター越しの心強いふたりの姿にあたしは感心と何となく嬉しさを覚えていた。





『ファング。ひとつ聞かせてくれ。死者の魂を招くと言う聖宝、手に入れて何に使う?』





遺跡の中に入る前に、ライトはファングに聖宝の使い道を尋ねた。

そう言えば、どうして聖宝が欲しいのかとか聞いてないね。
まあそれ以前に聖宝の用途もよくわかってないんだけど。





『聖宝を使うのは私じゃない。救世院にいるヴァニラだ。あいつには不思議な力があってさ。死んだ人間の声が聞こえるんだ。混沌を漂う死者たちの想いを感じとれるっつーか…ヴァニラの言葉を借りるなら死せる無数の魂の声なき声が響いてくる、とさ。そういうヴァニラの能力に救世院が目をつけた。ヴァニラが聖宝を使って呼びかければ、数えきれない死者の魂を呼び寄せられるんだとさ』





ファングはざっとそう説明してくれた。

聖宝を使うのはヴァニラ…。
やっぱりファングの行動理由はヴァニラにあるってことなのかな。

あたしたちはルクセリオで一度ヴァニラと再会している。
確かにヴァニラは何か不思議な力を身に着けていたようで、死者の嘆きが聞こえるって言ってた。だから聖女だ〜って言われてたり。





『死者の魂を集めて、救うつもりかな…救世院は』





救世院はヴァニラと聖宝の力で死者の魂を集めようとしている。
その考えにライトはそう口にした。でもそれは本心でそう言っているよりかは表向きは、っていう感じを含むようなニュアンスだったけど。

するとそんなライトの言葉にファングはフッと笑った。





『とぼけんなって。御存じなんだろ、解放者。救世院の依頼で聖宝を取りに来たくせによ』

『誤解するな。救世院とは関係ない。どうやら彼らが気に食わないようだな』

『そういう話はまた今度な。さーて行こうぜ。救世院の連中に聖宝を掻っ攫われたくねーからな』





救世院と解放者は繋がっている。
ファングはそう考えていたみたいだった。

ライトはすぐ否定したけど、でも確かに神の遣いとかいう肩書だと救世院と関わりありそうな感じはしちゃうけど。
実際のところは何の関係も無いのにね。

例えるなら一匹狼で突き進んでる感じだし。





『手始めに調べてほしい場所がある。いかにも怪しい扉なんだが、こじ開けようにもびくともしねーんだ。でも解放者ならなんか反応しそーだろ?』





ともかく、入り口で話していても始まらない。
折角遺跡まで来たのだから中を進んでみようと。

まずはファングの言う怪しい扉を目指してみることになった。

確かにさっきクルクスが砂嵐止めたみたいなのと同じ感じだったら解放者で何とかなるのかもしれない。





『13年前に目を覚ますまで私とヴァニラはずっとクリスタルの中で眠ってた。あんたらとつるんでたのは、もう何百年も前ってことになる。しかもあんたらに出逢う前も何百年も眠てたしな。軽く1000年以上は眠っちまった。気持ちは歳食ってねーけど、考えようによっては世界一の婆さんになっちまったと』





遺跡を進む途中は、そんな雑談なんかも交わしてた。

ルシの旅自体がもう1000年も前の事だ。
ホープがタイムカプセルで進んだ未来がそもそもAF400年だし、最終決戦はAF500年のアカデミアだった。そこから世界が混沌に呑まれて500年…。





「はー…そっか、ホープと初めて会ったのが1000年前なんだよね」

「そうだね。まあナマエはヒストリアクロスだし僕はタイムカプセルだし、実際は1000年過ごしたわけじゃないけど」

「まあねー。でもなんか凄いなあってさ」





確かに1000年を過ごしたわけでは無い。
だけど、こう考えてみれば色々思う。





《…ナマエさん…》

《あたしも放さないから、ホープも放さないで…くれる?》

《…はい》





わりとしっかり思い出せる。
出会った日、手を握ったあの日。

あの日が1000年前の出来事なのか。

まあ、だからどうってわけじゃないんだけどね。

ちらっと目を向ければ、そこにいるあの時の姿の君。
ただまあ、そこに浮かぶその表情とかはやっぱり大人びてるんだけど。





『おーい、ライト。この先の扉怪しいぜ。調べてくれ』





そうこうしているうちにライト達は着々と遺跡を進み、ファングの言っていた扉の前へと辿りついた。
確かに何となく仰々しいというか、ちょっと違う雰囲気の扉には見えた。





「目指す場所に辿りついたようです。この門の奥に物凄いエネルギー反応があります」





ホープが扉を解析すれば、その数値的にもただの扉では無い事が明確に表れていた。
そしてその力は扉の前にいるライトにも感じ取れるものらしい。





『ああ。扉の向こうから強い力が伝わってくる。…聖宝かな』

「…だと思います。ライトさんが力を感じたのは、聖宝が解放者に反応したからでしょう」

『私に反応しているなら迎えてくれてもいいはずだが、門が開きそうな気配はないな』

「ええ。高密度の封印が施されています。解析の結果、この門の封印を解く鍵は壁画にあるようです。この遺跡の奥には神話を描いた壁画が3点あります。それらの壁画を全て目にして神々の行いを知った者だけが…この巨大な門を、聖殿門を通って聖宝に近づけるんです」

「ていうかホープ、もうそんなとこまで情報調べたの…」





3点の壁画とかそんなのいつの間によ…。
初出の情報をすらすらペラペラと出していくその姿に思わずぽかん。
するとそんなあたしの言葉にホープは振り向いてへらっと笑った。

…本当、優秀な事で。





『3つの壁画か。だが、ただ絵を眺めて済むような甘い話では無いだろう?』

「はい。壁画の場所は分散しています。全部見るには、遺跡の3ヶ所にある画廊を回る必要があります」

『そんなところだろうと思ったよ』





とりあえず、まだ聖宝には手が届かないことが分かった。

引き続き遺跡を探索して、3つの壁画を見ること。
新たに切り替わった目標にライトはやれやれと首を軽く振った。

まあ多分、聖宝なんてそんな大層な聞こえのシロモノがそう簡単に手に入るとはライト自身も思ってはいなかっただろうけどね。





「ん?あれ…ちょっと待って。なんかその壁画を見るのも一筋縄じゃいかなそうなんだけど」





ホープが調べていた情報を読み進めていると、そこにちょっと気になるものを見つけた。
あたしはトントン、とホープの肩を叩いてその気が付いた情報を伝える。

するとホープも「あっ」と声を漏らした。





「ライト。壁画探すのちょっと待って」

「ええ。参ったな…壁画はそこにあるんですが、そのままだと拝観用の設備が作動しません。中枢パーツが抜かれてるんです」

「石版、だね。石版がその部品なんだって」

「それさえあれば壁画を見られるはずなんですが」





読み進めた情報を掻い摘んでライトに説明する。

3点の壁画は遺跡の中に確かにある。
けどそれを見るためには別個に石版というなの鍵がいると言う事。





『何か石版の情報は?遺跡のどこかにありそうか?』

『ちげーな。きっと遺跡の外だ。砂漠に祠が3つある。誰が名づけたか知らねーが石版の祠って呼ばれてる』





ライトがファングにも説明すれば、ファングには心当たりがあるようだった。





『なるほど。間違いなさそうだ。流石、砂漠を知り尽くしているな』

『おうよ。盗賊団だって遊んでたわけじゃねーのさ』





ファングのおかげで石版のありかについてはなかなか信憑性の高い情報を得られた。
けど問題は、遺跡の中じゃなくて砂漠にあるってことだ。





「え〜…でも折角入ったのにまた外に出て砂漠の探索?」

「そうなっちゃうね」

「うわー…意地の悪い遺跡」

「聖宝にはそれだけの価値があるってことだろうね」

「にしたって面倒な話だね…」





まああたしが実際に探しに行くわけじゃないけどさ。
でもこれからまた外に出て祠に向かうライトの苦労を考えるとね…というか。

当のライトはさっさと道を引き返して祠を探しに向かってたけど。

まあうだうだ言っててもしょうがないしね。
時間だって限られてるわけだし。





「ほら、ナマエ。僕らも情報の解析、続けよう」

「…ハーイ」





ホープに言われ、軽く頷く。

あたしたちに出来ることと言えば、色々と情報を探ってライトに伝えてあげること。
また石版だけじゃダメとか、そんな話になったらアレだしね。

でも本当、そこまで厳重であって救世院も欲しがる聖宝って一体…。

救世院…。
死者の魂をヴァニラに集めさせて、本当に救おうとしてるのかな…。

救世院ってやっぱりよくわから無い事がまだ多いから。
なんとなく、そんなことも引っかかっていた。



To be continued

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