純白のチョコボ


世界に残された自然、ウィルダネス。
ライトはヴァルハラの天使と呼ばれるチョコボを探し、この緑の地を歩いていた。





「と言っても、手掛かり全然ないわけだけど」





んあ〜!っと、あたしは体を伸ばしてモニターに向かいそう言った。

ヴァルハラの天使に関しては一番の権威だというギサール博士には話を聞くことは出来だけど、実際に出会えるかどうかと言えばそれは確実な話とは言えなさそうだ。

そんなあたしの様子を見たホープは小さく苦笑い、そしてライトに意見を仰いだ。





「さて…ライトさん、どうします?」

『とりあえずはこの地の人間に話を聞いていくしかないな。あそこにチョコボ連れのハンターがいる。手始めにあいつに声を掛けてみるさ』





広大なウィルダネスの土地をただ歩き回っても仕方がない。
ライトはまずチョコボに乗ったハンターに話を聞くべく彼の元へと歩いて行った。

ライトが近づくと、ハンターの男はこちらに気が付いた。
そして意外や意外で向こうの方から丁寧に声を掛けてきてくれた。





『この先に行くのはやめとけ。ヤバイ魔物がわんさかいる。おまけに東の方じゃチョコボイーターまで暴れまわってる』





どうやら、ライトの身を案じて声を掛けてくれたようだ。
でも、今のその話の中にライトはひとつ気になる単語を見つけていた。





『チョコボを狙う怪物か。ならば近くにチョコボがいそうだな』





チョコボイーター。
その名の通り、チョコボを喰らうとんでもない魔物だ。

でも…そうか。
確かにチョコボを狙っている怪物なら、チョコボの傍にいるはず。





『ん?野生のチョコボでも探してんのか?まあ、いいだろ。見たとこあんた結構腕が立ちそうだ。でもヤバイ時は無理せず戻ってこい。街道まで逃げれば俺らの仲間もいるからな』





忠告と、気遣い。
聞けばこの人、狩猟団長さんだったらしく、声を掛けて貰えたのはなかなか有り難い事だったように思う。

まあとりあえず、獲物を得るには天敵を探すのも手って事で。
ライトはまずそのチョコボイーターを探すべく先へと進んで行った。

でも、チョコボがいれば駆け寄っていって撫でまわした衝動に駆られるタイプの人間であるあたしにとってはチョコボイーターなんて遭遇したくないのが本音だったりする。





「う〜…やっぱチョコボ食べるとかゾワッとするよね…」

「まあ、想像はしたくないね」

「絶対したくない!!!」





想像、とか言ったホープの言葉に身震いし、あたしはブンブンと首を横に振った。

想像…想像…いやだから想像するなっての!!
なんだか本当にぞわぞわした。

あたし的には100%チョコボの味方なわけだからチョコボたちにの為には退治してあげた方がいいんだろうなあって感じはするけど。

…いやまああと数日で世界終わっちゃうけど、ってなんだかその辺は考えるだけ不毛な気がするからやめておこう。

そんなこんなで話をしていれば、モニターに映るライトがどことなく難しい顔をしていることに気が付いた。





「ライト、どうしたの?」





あたしは声を掛けた。
するとライトは歩きながらこの地に見える女神の神殿を見上げた。





『いや…女神の神殿に眠る存在について考えていた』

「え?」

『…ナマエ、ホープ、どう考える?』





女神の神殿に眠るもの。
それをライトに問われ、あたしとホープは顔を合わせた。

ヴァルハラの天使はあの女神の神殿へと主を導いてくれると言う。
そしてギサール先生に聞いた話によれば、女神の神殿には大いなる混沌が眠るとか。





「大いなる混沌…それの正体が何かってこと?」

「あまり考えたくないですが…あの神殿で眠っているのは、世界の崩壊を導いた存在かもしれません」

「えっ…それって」

『不可視の混沌だな』





ライトの言葉が耳の奥の方まで響いた気がした。

不可視の混沌。
あたしたちの時を超える旅の終わりに、世界に溢れ出た恐ろしい力。





『一度だけ触れた事があるが、その瞬間に直感したよ。あれはこの世にあってはならない力。倒さなければならない存在だ』

「…ライト」





なんだか胸が締め付けられた。

ライトがその力に触れたのは、ルシだった時の…皆と一緒にコクーンを守るために戦ったあの旅が終わった直後だ。

皆、笑ってた。
でもその歴史が、あたしとセラの記憶の中だけに残って消え去ってしまった。

あの力がライトをヴァルハラに引きずり込んだから、世界からライトの存在が消されてしまった。





『もっとも、私には止められなかった。混沌の暴走も、世界の破滅も』

「…うん。あたしたちにも…出来なかった」

「それらはすべて神の眼には映らぬ闇…不可視の領域で起きた異変でした。次も同じことが起きないとは限りません」

「そんな…あんなのがまた出て来たら…」





もしもあの神殿に眠るのが不可視の混沌だったとしたら。
なんだかとんでもない話になってきてしまったような気がする。





『神の眼が届かないなら、人の眼で確かめるさ。視えるはずだ。私がまだ人間であればな』




ライトはそう言って先へ進む足を速めた。

神の眼には見えない、混沌。
それは人の眼になら映る…か。

それを聞いたら、またなんだか引っ掛かった。
ホープには、混沌が視えない節がある…。

…じゃあ何よ、ホープはもう人じゃな無くなってるとでも言いたいの?

……。
考えてみて、ぞくりと寒気がした。

いやいや…何、考えてるんだ。

…根拠が少ない…。そう…今はまだ…。

臆病者…。
でも、ホープに尋ねるにはあまりにも…恐ろしかった気がする。





『見つけたぞ、白いチョコボだ!』





それからしばらく。
進み続けていたライトが声を張り上げた。

モニターに映っていたのは獰猛な魔物チョコボイーター。
そしてその傍らにぐったりと横たわる白いチョコボがいた。





「本当真っ白…!でも…!」

「傷ついてます!急いで援護を!」





戦ったのだろうか。
そのチョコボはその場から動けない程に傷だらけだった。

白い羽根には赤い血が滲み、その姿はなんとも痛々しい。

ライトは走り出し、剣を握り締め一気にチョコボイーターへと向かっていった。

白いチョコボと戦っていたからか、チョコボイーターの方もいくらか手負いの状態ではあった。
その影響もあってか、退治するにはそう時間は食わなかったように思う。

どさりと崩れたチョコボイーターにライトは剣を背に戻し、急いで白いチョコボへと目を向けた。





『ずいぶん痛めつけられて…こんなになるまで何故逃げなかった』





ライトは白いチョコボの傷を見る様にしゃがんで様子を伺った。
本当、見れば見る程傷は痛そうでならない。

チョコボもライトを見つめていたけど、首を上げるのが精いっぱいで立ち上がる元気は残っては無さそうだ。





「なにかを守って戦ったんでしょうか?」

『もう大丈夫だ。助けるからな。…出血が酷い。このままでは…』





そうライトが手に迷っていると、チョコボはふっと意識を失って倒れ込んでしまった。
するとその直後、ちょうどいいところにさっき出会った狩猟団長さんがやってきてくれた。





『そいつは純白のチョコボ!怪我をしてるのか!?』

『獣医に知らせろ!すぐにだ!』

『わかった!待ってろ!』





団長さんはチョコボで急いでカンパスファームに向かってくれた。
そのおかげで程なく話を聞きつけたギサール先生と助手の人達が台車を持ちこの場に駆けつけてくれた。





『ちっ…聞いてたより酷いな。おい、こいつをカンパスファームへ運ぶぞ!』

『はい!』

『心配するな。わしの矜持にかけて死なせはせんわ!』






チョコボを運ぶ準備の際、ギサール先生はライトにそう声を掛けてくれた。
白いチョコボは台車に乗せられ、大急ぎでカンパスファームへと連れられて行く。

ライトはその様子をじっと見つめていた。





『なあ…ホープ、ナマエ。あれは本当にチョコボか?』





ギサール先生たちの姿が見えなくなった頃、その様子を黙って見ていたライトが口を開いた。
ただ、その質問の意味はよくわからなかったけれど。





「どうしたんです?新種のようですが、僕にはチョコボにしか見えませんけど」

「うーん…あたしも同じく」

『確かに姿はチョコボだが、初めて会った気がしない。縁の様なものを感じた』





あの真っ白なチョコボを見ていた時、確かにライトはなんだか妙に気にしてたというか…そんな印象は感じた。
それはあのチョコボに何か思うものがあったからだったらしい。





「チョコボとの縁…ですか?何か心当たりってありますか?」

『さあな。もう一度会って確かめてみる。カンパスファームへ向かおう』





ライトはそう言うと、再びカンパスファームへ向かうために来た道を戻っていった。

チョコボとの縁…。
一番身近なところで言えば、サッズの頭にいた雛チョコボだけど…。

それは多分…いや、絶対違うよねって思う。

もう一度会えば、その縁とやらははっきりするのだろうか。
なんにせよ、それはライトにしかわからなそうだから、あたしはその様子を見守ることにした。



To be continued

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