『あ、ライト』
『颯爽と凱旋だね、ライトニング』
いつかのように、またルミナに招かれたライトの心の中。
ルクセリオでノエルの魂を解放し、箱舟に帰還する途中の彼女を捕まえ再び作られた3人の時間。
現れたライトにあたしは目をやり、ルミナもまた高い玉座の上からニコリと微笑む。
『ナマエ…と、またお前か』
ライトはルミナを見るなり、隠すことなく眉をひそめる。
うわあ、嫌そうだなあ…なんて、あたしは小さく苦笑いした。
相変わらず、ホープには見えない聞こえないという状態のようだ。
箱舟にはこちらの状況は一切届いていない。あたしもまた、目を閉じている。
多分、心ここにあらず…なんて言葉がまさになんだろうなって感じだろう。
『それにしても派手にやったね。予想より大ごとになっちゃった』
玉座の上で足を揺らしながら、そう話を開いたのはルミナだった。
ルミナの言っているのは勿論ノエルの一件のはず。
あたしとライトは彼女を見上げた。
『予想だと?』
『って、どういうこと?』
ルミナはノエルの件について何か予想を立てていたのだろうか。
そしてそれが予想より上回った自体になったと。
ルミナは楽しそうに言った。
『問題!礼の予言の書のことをノエルに教えた張本人は?』
それを聞いたあたしとライトは顔を合わせた。
そして共に察した。
『お前だったのか』
『ノエルを見くびってたわ。まさか自分の意思で予言を打ち砕くなんてさ』
ライトの言葉にイエスともノーとも言わない。
でもそれはイエスの証だ。
ノエルを見くびっていたという彼女の言葉に、あたしは少し肩をすくめた。
『そうだね。それはノエルを見くびってたね。ノエルは超が付くほど真っ直ぐですから』
『どーしてナマエが威張ってんの?』
『べっつにー』
『ていうかなんかナマエちょっと表情軽くなってる?そんなにノエルが吹っ切れたこと嬉しい?』
『え?』
ルミナに指摘され、ふと少し自分の心情を顧みてみた。
確かに少し、心が軽くなったのは感じた気がする。
多分…あたしも数百年はこの世界を過ごして、色々考えることがあったと思う。
そして目覚めたら世界の時間はもう残り少なくて…ノエルもスノウも色々あって、気が滅入った。
でも、ノエルを見て明るくなった顔を見て、純粋に良かったって気持ちとあの頃の懐かしさとか…そういうのがちょっと一気に溢れ出た気がする。
変な言い方すると、若返った〜…みたいな?
いやでも、だからきっとルミナの言葉通り、もしかしたら表情は少し軽くなっているのかもしれない。
『折角用意した予言が打ち消されて残念だったな』
へらへらとするルミナの態度が気に食わなかったのか、ライトは少し嫌味っぽくルミナにそう言った。
しかしそんなものなんのその。
ルミナはむしろ全然とでも言うかのような顔をしていた。
『何言ってんの、逆よ逆!実現しなくてよかったわ。あの予言に映った世界は見た目が綺麗な紛い物だし。至高神ブーニベルゼ様にとって視えないものは存在しないものだから』
ブーニベルゼにとって、視えないものは存在しない。
ルミナのその言葉を聞いて考える。
神にとって視えないものとは。
『視えないものとは…例えば、心』
ライトが小さく呟いた。
するとルミナはどこか満足げに微かに笑う。
『なんだわかってるじゃない。せいぜい神様を手伝ってあげることね。とはいえ、あなたにもナマエにも、思うところがあるようだけど?』
こちらを見透かす様に言うルミナ。
あたしはなるべく表情を動かさないように気を付けた。
どうしてそうしたかと言えば、まだひとりで色々と考えたかったのかもしれない。
ブーニベルゼの事は、よくわからないけど…ただ、ライトやホープの心を欠落させたり、気になる事はあるから。
ライトがブーニベルゼをどう思っているのはわからない。
ただ、ライトも表情を表に出すことは無かった。
『お前に何がわかるんだ?』
ライトは毅然と言い返す。
『ふふふっ』
そんなライトにルミナはただクスクスと笑っていた。
そして、ここで今回はフェードアウト。
ルミナはそれ以上何をいう事も無くそこから消えてしまった。
『……。』
『……。』
残ったあたしとライトの間には、しばらく沈黙が流れた。
いや、多分ライトはあたしにもブーニベルゼをどう思ってるかなんて教えてくれるとは思えなかったから。
ただ、その沈黙を先に破ったのはライトの方だった。
『確かに、明るくなったのかもな』
『へ?』
突然そう言われ、あたしはきょとんとしてしまった。
するとライトはこちらに手を伸ばしてきて、優しく頬に触れられた。
『表情、ちょっと柔らかくなった』
『あ…』
さっきルミナに言われた事…。
ライトまで言うのだから、多分目に見えて結構わかるのかもしれない。
ああ、ナマエはわかりやすいと前に言われたことをちょっと思い出した。
『まあ、ノエルの件は確かにホッとしたけど。ありがとう、ライト。ノエルのこと救ってくれて』
そう言えばライトに何も言っていなかったことを思い出して、あたしはライトにそう告げた。
ライトはノエルとの戦闘は避けられないだろうけど、必ず魂は解放すると言ってくれた。そしてちゃんとそれを叶えてくれた。
するとライトは首を横に振った。
『いや、お前の声もノエルには大きかったはずだ。ナマエがありがとうと言った時、あいつ、凄く嬉しそうに笑っていた』
『なら、いいけど?』
ノエルに声が届いたなら。
それが少しでもノエルの為になったなら。
それなら良かったと素直に思えた。
『しかし、お前と再会した時は落ち着いたものだと思ったがな』
『おお?ふふ、あたしも長い時間を生きたからね、ちょっとは落ち着いたのさ』
『今は気のせいだったかと言う気がしているが』
『そんなに顔緩んでる!?』
『ふふっ…ああ、お前も変わってないな』
ライトはそう言って笑みを零していた。
その笑顔は、なんだかとても懐かしい。
そう、仲良くなれたと感じた時に見た笑顔と同じように見えた。
ああ、でも…やっぱり懐かしいというのは大きいのかもしれない。
心が解きほぐれていくような、そんな感じがする。
『そろそろ箱舟に戻るぞ。私も少し休みたい』
『うん。だね』
そして、あたしたちはこの場を出ることにした。
次に目を開いた時、現れたのはいつものように箱舟の景色。
戻ってきたライトは先ほどの出来事の事は一切口にしなかった。
あたしも、する気は無かった。
そして彼女はユグドラシルへと輝力を捧げる。
その時、樹は大きな実を実らせ、世界の寿命はまた少し伸びた。
世界が終わる13日。
第2日目のことだった。
To be continued
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