巨大プリンのパラドクス。
サンレス水郷のパラドクスはひとつだけではない。
まだ他にもゲートがあって、そのパラドクスを解くことが必要事項みたいだ。
だから再び、新たなゲートを探し、新たな時代へと旅立つ。
今回辿りついたこの場所は、見渡す限りの大平原だった。
「…アルカキルティ、大平原…?」
あたしはぼそっと呟いた。
見渡す限りの平原。
そうとくれば、自然と頭に浮かぶもの。
それはあの旅の時…歩き回ったグラン=パルスの広い広い大地。
だけど今は、天候に恵まれていないのか、砂が大きく舞いどことなく茶色い景色だ。
「こっち!」
その時、ノエルがあたしとセラの手を強く引いた。
突然引っ張られて何事だろうと思いきや、その直後、背後で何かが走っているような音が聞こえてきた。
「西からまわれ!」
「あいよ!」
駆け抜けていったのは数匹のチョコボだった。
人が乗っていて、連携を取って動いているように見える。
「あれを狙ってるんだ」
ノエルが指差した先にいたのは、モンスターだった。
確かにチョコボたちはそのモンスターを囲むように追いかけてるみたい。
「狩りってこと?」
「凄いね」
あたしとセラはそのチームワークみたいなものに思わず感心した。
だって、こう…なんていうか、凄くスムーズに手際よく動いてるって感じがするから。
だけど、ノエルだけはその様子に少し首を傾げてた。
「やけに焦ってるな。獲物を逃がしたら、後がないって感じだ」
「そっか、ハンターだからわかるんだ!」
「へえ、そういうのってわかるものなんだね」
別に疑ってたわけじゃないけど、ノエルもハンターなんだなと改めて思った。
そうこうしてる間に狩りを終えたハンターさんたちは、獲物を担いで集落のような場所に入っていく。
となれば、それなりの人はいそうだ。話を聞くことも出来るかもしれない。
ひとまず、あたしたちはその集落を目指して足を進めていくことにした。
「よそ者が道に迷ったか。地図をやるからどこへでも行きな。狩りなら、よそでやんなよ」
集落の人たちは、そう悪い人たちではなそうだった。
でも歓迎もされてない…っていう言い方が正しいのかわからないけど、ノエルの言う通り切羽詰まった状況であるのは確かそうだった。
獲物をとられてはたまらない。
そんなニュアンスは感じとれた。
「上手くいってないらしいな。獲物が減ったか?」
「ああ、あの嵐が起きてからだ。それまでは獲物で溢れかえってたのに。嵐を調べに行った仲間も帰ってこないんだ」
話を教えてくれたのはティボさんという男性だ。
原因不明の突然の嵐。
どうやら、この集落はそれに悩まされているらしい。
そして、その話からあたしたちは目星をつける。
多分、それがパラドクスに関わっていそうだ…と。
だからあたしたちはその嵐について調べることにした。
ティボさんをはじめ、村の人たちもそう悪い人じゃなかったし、話を聞いてしまったからには何とかしてあげられたらいいな、とも思うわけで。
色んな理由が、その嵐をどうにかすることに繋がっていた。
「アルカキルティ大平原かあ…」
集落を出て、再び踏み出した広い大地。
かさ…と風に揺れる草の音がする。
時代が違えど、その音はどことなく懐かしいような気がする。
「ナマエ、ここも来たことあるのか?」
すん…と噛みしめていた感覚に、ノエルが声を掛けてくれた。
今思えば、ルシの時に色んな場所を歩いてきたんだなと思う。
あたしは風になびいた髪を耳に掛けながら頷いた。
「うん、あるよ。もう、いーっぱい歩きまわったよ、アルカキルティ大平原!そういえば前はもっと魔物いっぱいいたかも。あたしたちもヴァニラとファングにどれが美味しいとか聞きながら狩りとかしてたもん」
「へえ。そうなのか」
「クポー。ナマエもハンタークポ?」
「あ、そういえばスノウも言ってたかも。雑に仕留めたらファングに怒られたって」
「あはは!そうそう!食料なんだからちゃんと食える状態で仕留めろってね。勝手に挽肉にすんな!とか言われてたよ〜」
脳裏に蘇る、思い出話。
懐かしいって気持ちが溢れる。
自然と頬が緩んで、すらすらと話してた。
「悪いことばっかじゃなかったんだな。ルシだった時」
すると、それを聞いていたノエルがどこか微笑ましそうにそう言ってくる。
頬が緩んだ感覚はあったし、多分顔に思いっきり出てたんだろう。
ノエルに言われて、あたしもすぐに認めて頷いた。
「うん。そうだね」
ルシだった時、大変なことはいっぱいあった。
なにせ世界中が敵とか、まず何事って話だし。
追いかけまわされて、命の危機がいっぱいあって。
戦って、野宿して、くたくたになって。
…心が折れたらシ骸になるっていう、そういう恐怖が少しずつ足元から近付いて来ていて。
あたしは異世界人だから、状況が読み込めてない部分も多くあったけど…本当、途方に暮れそうになるくらい大変だった。
でも、決してそれだけじゃなかった。
皆の事を知った。
裏も表も、全部ひっくるめて色んな事知って…その上で仲間になれた。
《僕はナマエさんの事を信じたい。僕が信じたいを思ったから。だから貴女を信じます》
《僕が、自分からナマエさんの傍を離れることはありません。ナマエさんが望んでくれるなら》
《僕も、放しません。だからナマエさんも…放さないでくれませんか?》
《こんなに一杯…誰かを一心に思うの、初めてなんです…》
《約束しましたよね!僕は、貴女の手を放しません。絶対…放さない!》
巡る。君がくれた、大切な言葉たち。
あたしは出会った。
自分が何より、一番に安心できる存在。
必死に前を向く、小さな背中。
何より愛しく眩しい…希望の光。
「うん、悪いことばかりじゃなかった。あの旅があったから、そう思えることもいっぱいあるよ」
そう、だからあたしは…今、時を超えている。
また皆に会いたい。
一緒に笑いたい。
きっと、皆の為なら…なんだってしたいと思う。
こんなふうに思えるのは、ちょっと自分の中でも誇りって言うか…結構嬉しいことだったりする。
「よし!じゃあ、はりきっていくか!」
「うん!頑張ろう!」
「クポー!」
そして今は、ノエルとセラとモーグリ。
この旅もきっと…掛けがえのない思い出に、いつかなるんだろう。
「うん!」
あたしも頷いた。
誰かと一緒に、ひとつのゴールに向かって歩く。
大変だったねって、それをちゃんといつか笑うことが出来るように。
「おーい!嵐の原因がわかったぞ!平原にプリンばかり狙う魔物がいるんだ!」
その時、ティボさんの大きな声がした。
声のした方を見上げれば、彼は集落の高台からあたしたちに向かって叫んでいた。
…嵐の原因。
プリンばかり狙う魔物。
「…なんか、解決のにおいがする」
勘がそう冴えてない奴でもピンと来るんじゃない?
それほどまでに、聞き覚えのある単語が転がる。
あたしたちは一度集落に戻り、ティボさんの話を詳しく聞くことにした。
「いっぺんに何十匹も大口を開けて丸呑みだとよ。その時突風が起きるって話だ」
ティボさんに聞いた嵐の起きる理由。
それは、この平原に現れた一体の巨大な魔物に答えがあるという。
あたしたちは集落の高台から平原を眺め、一度その話を整理した。
「何十匹も飲み込むなんて…ノエル、ナマエ、これってもしかして」
「ここでもプリンか。サンレスの巨大プリンと無関係とは思えないな」
「どう考えても無関係じゃないでしょ。だってプリンだし、しかも何十匹もだし」
サンレス水郷の木の幹をプリンが大行進してたのを思い出す。
この世の終わりかって思ってしまうくらい、大量に溢れかえってたプリン。
例えば、ここで呑まれたプリンが時を超えてサンレスに行ったなら。
あの巨大プリンは、小さなプリンが合体して合体して大きくなったもの。
となれば、その元を断っちまえばどうよ!?っていう単純な話だ。
もしかしたら、サンレスのプリンも弱体化するかも、とかね。
「調べてみる価値あり、かな?」
セラがそう言ってニコッと笑う。
目星は決まった。
簡単な推理だけど、きっとこれで正解のはず。
高台から、じっと見据えた魔物の姿。
あたしたちは奴に目標を定めた。パラドクス解消へと足を踏み出した。
「パラドクスの原因はこれ?」
ドラゴンを倒すと、そこに現れたのはオーパーツだった。
セラは手を伸ばして、それをまじまじと眺める。
あたしも横から覗き込んでその輝きを見つめた。
「戻ろう。スノウが無茶しないうちに」
そして、ノエルはそう言った。
気にかかっているのか、急いだ方がいいというニュアンスを含んでるみたい。
それを聞いたセラは、少し嬉しそうな顔をした。
「心配してくれるんだ?」
「早くスノウのところに帰りたいだろ?」
「ふふ、頑丈なのが一番の自慢の人だから、離れていても元気なことだけは信じられる」
スノウの話をするセラは、やっぱりそれだけでどこか嬉しそうだった。
そういえば、ライトもスノウに対して無駄に頑丈だとかよく言っていたっけ。
でもそれはあたしも否定しない。スノウが頑丈なのは、一緒に旅してただけあって嫌ってくらいわかってるし。
だから、あたしもそれを聞いて「ふふっ」と笑った。
…でも、ノエルは違った。
「俺なら、無理だな。大切な人と離れるなんて…考えられなかった」
彼は俯く。
それは少し…寂しそうな声だ。
「傍にいたっていついなくなるかわからない。そんな世界だったから」
ノエルの時代。
ノエルだけを残し、人類が消えた…悲しい未来。
実際に見たわけじゃないから、それがどういう世界なのか…正直ピンとこないのが本音だ。
だけど…ノエルは酷く悲しそうだった。
「ノエル…」
「……。」
「いいんだ。運命は変えられるって、信じてここにいるから」
セラとあたしが少し心配そうにしてることに気が付いた彼は、顔を上げてみせてくれた。
その目は意志が強そうだった。
だけど、やっぱりどこか悲しそう。
すると、彼はその瞳をあたしに向けてきた。
「…ナマエは?大丈夫か?」
「え?」
「いや…ホープ、離れて旅して…辛くないか?」
「…ああ」
そして彼は…あたしを気遣う。
ホープ…。残してきてしまった、彼の事。
傍にいたくないか?と聞かれれば…そりゃ、一緒にいたい。
でも、あたしは軽く笑った。
「うーん、そうだねえ。ホープはスノウみたく無駄に頑丈〜ってわけじゃないしねえ」
「あー!ふふ、ナマエってば酷いなあ」
「へへへ!」
ちょっと、おふざけ交じり。
だって、どうせなら笑っていた方が得じゃない。
そう思いながら、空を見る。
空は…ずっと、変わらずにそこにあるもの。
過去も未来も、同じくそこにある。
だから、見上げたそれは…時代が違えど、同じものを見てる。
「大丈夫。目的がたがう事は無いって、知ってるから」
今はちょっと寂しい。
でも、終わった先には…きっと、皆が笑ってる未来がある。
ホープはそれを望んでる。
あたしも望んでる。
ホープが願うことは…きっと、あたしも願うことが出来ると思う。
彼の願いや想いは、自分も納得出来るものであると…信じているから。
互いに頑張ろう、と笑いあった。
だから、頑張れる。
「さ、じゃあスノウのとこに戻ろっか!」
あたしは笑顔のまま、パンと手を叩く。
スノウの事だから、なーんか無茶してそうな気もするし。
仲間を待たせるのもよろしくはないよね。
こうしてあたしたちは、スノウの待つサンレス水郷へ。
再び時を超えるのだった。
To be continued
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