「よーし、それじゃいくよ!」
再び訪れたのは、AF5年のビルジ遺跡。
あたしたちは新たな道を求めて、様々な時代を再び訪れていた。
どうやら、ひとつの時代にゲートがひとつは限らないようで、今あたしたちはビルジ遺跡から新たなゲートとオーパーツを探し出し、起動するかを試そうとしているところだった。
「それっ」
あたしは両手で、捧げるようにゲートにオーパーツを投げた。
その瞬間、ゲートから溢れる光の質が変わり、共鳴するかのようにオーパーツを引き寄せていく。
それを見たノエルは、ぐっと嬉しそうに拳を握りしめた。
「よし、起動成功!」
「クポ!」
「うん!やったね!」
あたしはモーグリの小さな手とハイタッチを交わし、新たな道の出現を喜んだ。
だけど、その中で…ひとりだけ、反応が違う彼女がいた。
「あ…っ…あ…」
「…セラ…?」
ゲートを前に、目を震わせ、小さく泣きそうな声を上げるセラ。
あたしたちはその異変に気が付き、彼女の顔を覗き込んだ。
「セラ…まさか、何か視えたのか?」
「…視えた?」
一緒にセラの顔を覗き込んだノエルは、セラに恐る恐る尋ねる。
視えた、って…なんだろう?
言葉の意味が分からないあたしは、首を傾げて呟く。
すると、そんなやり取りが耳に入ったらしくセラはハッとしたように我に返ってあたしたちを目に移した。
「ううん!ちょっとぼーっとしてた!」
セラはすぐに首を振った。
何でもないと、笑顔を見せた。
…そう言えば、前にもゲートを目の前にしたとき…セラに異変を見たことがあった気がする。
あの時も、めまいとか…そんなことを言っていた。
それって…本当に、何でもない事なんだろうか?
でも、あたしがそれを聞く前に、ノエルは深追いすることをやめてしまった。
「…そうか。じゃ、…行くぞ」
「うん」
「………。」
よく、わからない。
だけど…漠然とだけど、なんとなく…ふたりとも様子が変だと思った。
でもそれは同じ理由じゃなくて、それぞれが。
セラは…なにか具合が悪いんじゃないかとか、そういう様子が変。
一方でノエルは、何か戸惑ってるとか…あたしたちがまだ知らない、そういう予想を持っていそうな、そんな感じ。
でも、ノエルはまだ色々と未来のことで整理がついてない部分があるようだから…基本的には話してくれるまで待とうと、そういう姿勢をとっていた。
ノエルも、話せるときが来たら話してくれると、そう言ってくれたから。
だけど…ゲートから溢れる光を見ながら、思う。
なんでだろう…。
なんとなく、胸の奥がざわざわするような…嫌な予感みたいなものを感じた気がした。
「…よ、と」
そうしてくぐったゲートの先。
そこには、緑のにおいでぐっと溢れていた。
前の旅の時、別行動をしていたサッズとヴァニラが通った場所。
そういえばホープからも、昔学校での行事で自然見学会に行ったとか聞いたっけ。
確か8歳くらいだったかな。
写真とか見せてもらったけど、小さいホープ、可愛かったなあ…。
…とか、頭をおめでたくしてる場合ではない。
場所は、サンレス水郷。
そこはコクーンでは希少な自然環境保全地区なのだという。
…だけど、ファルシの力が消えてからは、何にも管理されることなく無秩序は生態系が築かれた危険地帯と化している。
「世界の終わりって、こんな感じかな」
木の幹を行進する、現実離れした数のプリンのモンスター。
それを見て淡々と呟くノエル。
「あれが世界を滅ぼすの?」
「不明。ただ、ここで世界が終わってたら、俺は未来に生まれてない。必ず解決する方法があるはずだ」
不安げに尋ねたセラに、ノエルは答えを返せない。
だけど、そこには確かに希望が残ってる。
つまりあのプリンの大群も、何かのパラドクスなら。
「もしパラドクスなら、解決したらあのプリンたちもきれいさっぱりてことね。よっし、探索してみますか!」
あたしは拳を突き上げるように、「おー」っと声を出して笑ってみせた。
ふたりもきっと、乗ってくれるだろう。
そう思ってた。
でも、その直後…セラに異変が起きた。
「うっ…!」
頭を抱え、どさっとその場に座り込んだセラ。
あたしとノエルは慌ててセラに駆け寄った。
「セラ!?」
「どうした!?」
セラの体は座り込んだまま、ぐらっと揺れる。
咄嗟にノエルが手を貸し支えると、セラはそのままぼそぼそと虚ろに何か呟き始めた。
「…柱はやがて、死の砂となり…繭は、大地に堕ちる…」
「セラ!?どうしたの、セラ!」
「おい、セラ!?」
あたしは呼びかけ、ノエルはセラの体を揺らす。
その声に反応したからかどうかは正直曖昧だ。
でも、直後…セラはぱっとその大きな双方の瞳をはっと開いた。
そして、悲痛に顔をゆがめ…。
「嫌!!!」
突然叫び出し、ノエルの手も何もかも振り払うかのように立ち上がって、ひとりサンレスの奥へと駆け出して行った。
「せ、セラ…!?」
「待てよ!どうした、セラ!」
モーグリは慌ててセラの背中を追いかけ飛んでいく。
あたしとノエルは、あまりに突然の出来事にセラの背中を見つめたまま混乱する。
「ノエル、大丈夫?」
「ああ、悪い。ありがと、ナマエ」
ひとまず、あたしは突き飛ばされたノエルに手を差し出しぐっと引いて立ち上がらせた。
でも、そこで気になった。
立ち上がったノエルは、何か難しく、考えるような顔をしてたから。
「まさか、視えたのか…?」
「視えた…?」
まただ。視えた。
彼はまた、セラを見てそう言った。
もしかしたら、ノエルの中にはセラの異変の心当たりがあるのかもしれない。
「…ノエル、視えたって…なに?セラはどうかしたの?ノエル、なんでそんな難しい顔してるの?」
「…ごめん。わからない…。また、記憶曖昧で…。でも、なんか…俺、凄く恐ろしいことを忘れてるような…そんな気持ちになって」
「…恐ろしいこと?」
ノエルの気持ちの整理や、落ち着くまでは待ちたい。
そう思ってる。それは変わらない。
だけど、セラに何かあるのなら…。
「ノエル…」
「…ごめん。でも今はとにかくセラを追おう。あいつ、なんか様子が変だった」
「…うん」
確かに、ノエルの言う通りセラの様子は確実に変だった。
あたしたちにわき目もくれず、取り乱すような。
…何か恐ろしいものでも見たみたい。
気になることは山ほどある。
でも、優先順位は決まってる。
だから、あたしとノエルは走って行ったセラの姿を追った。
そして、その先で…あたしたちはとんでもないものを目にすることになる。
「うわああああ!?!?なにあれー!!?」
セラを追い、あたしたちが目にしたもの。
それは、巨大で巨大で巨大な…って、本当、巨大いっこじゃ全然足りないくらいの大きさのどでかいプリン。
そして、その前に立ちはだかる…。
「って、スノウ!?!?!」
セラを庇うように立つ、大柄の男の人。
その顔は忘れもしない。
それは、あたしにとって、掛けがえのない仲間のひとり…。
「おう!?ナマエか!?」
「おうっていうかスノウ危ない!!」
あたしの声にぱっと顔を上げた彼。
でも、その瞬間彼に一直線に迫る巨大プリンの巨大な手。
あたしが悲鳴にも近い声を上げたその時、あたしの横をしゅっと飛び出していくノエルの姿があった。
「てやあッ!!!」
ノエルは素早く剣を振り、襲い掛かるプリンの手を見事に破壊した。
「あ、ありがとう!」
セラは我に返ったように状況を理解し、ノエルに礼を言う。
ノエルはその言葉を背中で受け、そして剣を構えてプリンを見据えた。
「悪い!助かる!」
「俺が足止めする!あんたは逃げろ!」
加勢しようとノエルに駆け寄ったスノウ。
だけどノエルはそれを制した。
それは怪我をしているであろう状況を読んでの言葉だろう。
でも、スノウがそこで引かないことをあたしは知っている。
現にその予想通り、スノウは制するノエルの手をぱっと振り払った。
「そうもいかねえや。セラが見てるんでな!」
いつものニッとしたスノウの笑顔。
その顔を見て、ノエルもスノウが引かないことを察しただろう。
それならば、引く引かないの言い合いなんてするだけ無駄だ。
あたしとセラも慌てて駆け寄り、4人肩を並べる。
「じゃあ守れよ!」
ノエルのその言葉を合図にするかのように、巨大プリンとの一戦の火蓋は切って落とされた。
「ナマエ!頼むぜ!」
「あ、う、うん!プロテス!ブレイブ!」
スノウの声に、あたしは反射的に彼に補助魔法を放っていた。
なんというか、体に染みついてる。
体が覚えてるみたいに、自然と動いてくれるのだ。
その人の戦闘スタイルに合わせ、それに有効な補助魔法を贈る。
例えばスノウなら、ディフェンサーと得意としたそこで生まれた隙を突くアタッカー。
「皆まとめて守ってやる!」
「無茶言うな!」
「頼っとけよ!」
無謀だと起こるノエルに、スノウは任せろと譲らない。
また、巨大プリンの再生した腕が落ちてくる。
スノウは両腕を広げ、ガッと背中にシールドを張る。
あたしが張ったプロテスも手伝い、その効果はテキメン。
スノウのシールドは、プリンの攻撃を一気に跳ね返した。
「見たかっ!」
スノウはしてやったりとプリンに指をつきつけた。
でも、まだまだプリンに倒れる気配はない。
「たたみ掛ける!来い!」
「了解!」
それならば、この隙に一気に攻め込んでしまえ。
駆け出したスノウの意図を掴んだノエルは、そのままスノウの策に乗った。
ノエルは駆け出し、飛び上がるとスノウの拳に足を置き、スノウはノエルを高く飛ばすように拳を突き上げた。
飛び上がったノエルはプリンのその大きい口へと炎を叩きこむ。
そして、その直後、スノウはその巨体へスマッシュアッパーを決めた。
それにより宙に飛ばされたプリンの体。
ノエルとスノウは、そのチャンスを逃さぬようあたしとセラに指示を出す。
「ナマエ!セラに援護を!セラ!」
「撃てッ!」
「了解!いくよ、セラ!」
「任せて!」
あたしは、彼女にブレイブを放った。
セラはその魔法による高まりを感じながら、ぎりっ…と弓矢を引く。
「お願い!」
しゅっと放たれたセラの矢。
それは一直線にプリンへと向かい、その体を強く貫く。
その衝撃でプリンは飛び散り、あの小さなプリンへと散って落ちていった。
だけど、それで終わることはない。
プリンたちはしぶとく、また一か所に集い、あの巨体へと再生をしようとしていた。
「今のうち!」
その再生までの時間を逃さぬよう、ノエルは振り向きあたしたちの顔を見渡す。
それを見たスノウは拳を構えなおし、やる気十分な顔でプリンを見据える。
「ああ!この隙に突っ込んで、」
「撤退!勝てる相手じゃない!あっちだ、走れ!」
ノエルは、いまだ立ち向かおうとしているスノウの言葉を遮り、逃げるよう促す。
確かにここは逃げた方が賢明かもしれない。
このままじゃ、倒しても倒してもプリンは再生を繰り返すだろう。
「ほら、スノウ!逃げるよ!」
「お、おい、セラ!?」
無茶をしそうなスノウの手はセラが引いた。
あたしは、戦陣を切るノエルのすぐ傍を走って逃げた。
すると、その時…ちょっと見えたのは。
明らかに苛立ちを覚えているような…ノエルの険しい顔だった。
To be continued
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