「いいのか?旅、続ける事にして?」
「うん。もう、ちゃんと決めた。あたしも一緒に旅するよ。あたしももう一度、ライトに会いたい。それに今、何が起こってるのか確かめたいから」
「そうか。うん、歓迎するよ。仲間が増えるのは嬉しいもんな」
「うんうん!じゃあ改めてよろしくだね、ナマエ!」
「クポ!」
「うん!よろしくおねがいします!」
ホープと別れ、AF10年から新たなゲートから次の時代へ旅立つ。
未来のホープと話して自分がどうしたいかに答えを出したあたしは、時を越える旅に身を投じる事を決めた。
ヒストリアクロスの中その決意を話せば、セラ、ノエル、モグも、みんな笑顔を返してくれた。
決めた理由は色々だ。
もう一度ライトに会いたい。
ヴァニラ、ファング…皆にも。
そして、セラとあたししか持っていない記憶の、その真実を知りたい。
全部叶えば、きっとホープと…一緒に笑える。
そんな思いを胸に、ヒストリアクロスを抜ける。
そして辿りついた…新たな時代は。
「…ヲルバ、郷…?」
あたしは、戸惑いがちに呟いた。
ヲルバ郷。
以前のルシの旅で訪れた、ヴァニラとファングの大切な故郷。
なんとなく残る面影から、その土地であるような感覚を抱く。
だけど、なんでそんなに曖昧なのか。
その理由は、地に足を下ろしたとき…そこに広がる光景に目を疑ったからだ。
「世界が壊れてる?」
「全てが滅んで、世界が消えた後の未来か…それとも世界が生まれる前の過去か」
セラとノエルも動揺を見せた。
あたし達の目の前に広がるもの…。
それは、まさにぐちゃぐちゃの世界。
一目見て、歪んでいるの一言がぴったりの光景。
「時空の歪みがとんでもないクポ。過去と未来が絡み合ってるみたいクポ」
モグがふわりと飛んで、遠くを見つめる。
「空間そのものがパラドクスだね」
「パラドクスの原因を探そう」
「ふー…いきなり、骨が折れそうなミッションだねえ」
3つ目の時代にして、とんでもないパラドクスに遭遇。
でも、やるしかなければやるだけだから。
「よし、やりますか!」
ぱん、と手を叩く。
心機一転。
覚悟を入れ替えたあたしは、今はやる気十分だ。
こうしてあたしたちは、パラドクスを解消すべく、崩れたヲルバを歩き出した。
「ねえ、ノエル。なんかあった?」
「え?」
ひとつひとつ、歪んだ時空を謎を解いて…正しい時に導いていく。
その途中、あたしはノエルに声を掛けた。
すると、その言葉に反応を示したのは、ノエルだけでなくセラもだった。
「私も思ってた。何か、気になってるんだね?」
先ほど、AF10年の時代から…ノエルはどこか様子がおかしい。
それは多分気のせいではなく、あたしとセラ、ふたりに突っ込まれれば、ノエルも誤魔化す事はできない。
彼はあたしたちの視線から少し逃げるように目を背けると、どこか気まずそうに頷いた。
「正解。俺個人の問題」
その言葉に、あたしとセラは顔を合わせた。
これは、どうしようか…という目での相談だ。
多分、あたしもセラも心当たりはあった。
ホープから話を聞いたとき、明らかにノエルが反応した単語があったから。
でも、それを突っ込んでいいのか否か。
もしかしたら、話したくない話題なのかもしれない。
別に無理に話させようっていう事でもないし。
だからあたしたちは、ほどほどにだけ指摘してみることにした。
「それって、ホープたちの言ってた時詠みの巫女のこと?」
「図星。…よくわかったな」
ノエルは頷いた。
それを見て、あたしもセラもやっぱり…とは思った。
でも、まあ今はこれくらいでいいだろう。
「ふーん、そっかそっか」
「うん、じゃあ、それ以上は聞かないね」
「ごめん、隠すつもりは無い。ユールのことが気になってたんだ」
突っ込むのをやめたあたしたちを前に、ノエルは首を横に振り話してくれた。
時詠みの巫女、ユール。
未来を視る…時詠みの一族のリーダー。
「俺のいた時代に、同じ名前の女の子がいたから」
ノエルの未来。
遠い遠い未来にいた、女の子。
その子も、時詠みの巫女…なのだろうか?
いや、それ以前に時詠みの巫女って一体なんなのか。
「不思議だよね。色んな時代が視えるなんて」
セラが呟いた。
時詠みの巫女…。
色んな時代を視て、予言の書にその記録を残した。
ホープが見せてくれたコクーン落下のあの瞬間も…時詠みの巫女は知っていたんだろうか。
「そういや、ライトニングが言ってたな。ヴァルハラからはすべてが視えるって」
ノエルが思い出したように言った。
ヴァルハラ…。
あたしがこの世界に迷い込んだとき、初めて立っていた場所。
女神の住まう神殿があり、今はライトがいるという。
「わからないことばっかだね…っ、と」
いくら話しても、謎は深まるばかり。
あたしは時の歪みの交叉する迷宮の中、その歪みをひとつ正しながら答えた。
すると、辺りがゆっくりと煌いていく。
そして…交じり合っていた時が、正しく流れ始めた。
歪みは正され、あたしの以前見た景色に近い姿が現れ始めたのだ。
「あ」
その時、思わずぽろっと声が零れた。
理由は、歪みの晴れていく世界の中に人のシルエットを見つけたからだ。
こんなところに人がいるなんて…。
あたしはそう思ってその姿によく目を凝らした。
「ナマエ?」
「どうかしたのか?」
「クポー?」
皆も、じっと目を凝らすあたし気が付きその視線を追う。
そこにいたのは、女の人だった。
細身のスタイルの良い…すらっとした女の人。
だけど…。
「…チョコボ…?」
頭に浮かんだ、その単語。
その女の人は…チョコボだった。
いや、何言ってんだって話なんだけど。
でもなんか…チョコボだった。
彼女の腕は羽に包まれ、足にはあの…鳥の爪がついている。
…こ、コスプレ…?
漠然と思い浮かぶそんな言葉。
そんな彼女はくるっとこちらに振り向いた。
するとぱちっと、視線がぶつかり…。
「あら!」
「へ…」
目が合うなり、ぱあっと顔を明るくさせた彼女。
そしてバサッと両手の羽を広げ…。
「ちょんちょこー!きゃー!会いたかったわー!ナマエちゃーん!!」
「へっ?!…え!?うわああああああ!!?」
高い大きな声を上げ、どばさあっ!…と、物凄い勢いで駆け寄ってくる。
驚いたあたしは急な展開に上手い反応が出来ず、そのままガバッと抱きつかれた。
ナニゴトだああ!!!?
ノエルとセラはその様をただ…呆然と見ていた。
「ナマエちゃーん!久しぶりねー!」
「へ、はっ…えっ!?」
「ちょっこりーん!あ!ごめんなさいねー!感動の再会につい嬉しくなっちゃって!」
「へ…ええ…ああ、そ、そうですか…?」
猛烈ハグの末、少し落ち着いたそのチョコボさん。
てへっみたいな感じで軽く謝罪を口にする。
そんな彼女にあたしは心臓をバクバクさせながらよく理解のないまま頷いた。
「ナマエ、知り合いなの?」
「え、あ…やー…どうなんでしょう…」
「おいおい、今そうですかって言ったよな?」
「や…ごめん、ちょっとノリって言うか…あんま深く考えずに頷いちゃった」
セラやノエルはあたしの知り合いなのかと思ったらしい。
まあ、今さっきのあの状況を考えればそれは自然な推理なのかもしれないけど。
でも正直あたしはこの世界に知り合いが多いとはとても言えない。
だから抱きつかれてしまうような仲の人なら…まず忘れる事は無いと思うんだけど。
しかもちょっと…いやかなりこの人奇抜でいらっしゃるし…。
そう困惑するあたしに、彼女はクスっと笑った。
「ふふっ、まあ無理もないわね!でも私、とーってもよくナマエちゃんのこと知ってるんだから!それに、そっちのセラちゃんのこともね」
「えっ?わ、私も?」
セラのことも知っている。
そう言われ、セラも自分の胸に手を当て驚いた表情を浮かべた。
その様子に、チョコボの彼女はニッコリ笑った。
「まあセラちゃんはともかく、ナマエちゃんなんて、絶対知ってるはずよ〜?今、気付けなくてもね。もしもナマエちゃんに忘れられてたら、ショックでぶっ倒れちゃうんだから!」
「ええ…!?えー…うーん…?」
あたしは彼女を絶対知っている。
ぶっ倒れるって…まあ知り合いに忘れられてたらショックなのは間違いないよな…。
思い出せるならあたしだって思い出したい。
でも、彼女の放った言葉の中に少し気になったものがあった。
…今、気付けなくても…。
つまり、あたしが彼女を思い出せないのには…何か理由があるんだろうか?
ただ…なんとなく、彼女からは嫌な感じと言うか…。
不安に当たる要素が何一つ感じられないのは事実だった。
「ごめんなさい。あたし、貴女の事、よくわからない。でも…そこにはもしかして何か理由があったりするの?」
「んー。そうね!知らないって言われたら悲しいけど、気付けないのは仕方ないことだと思うわ!」
「うーん…難しいなあ…。でも貴女からは敵意って言うか…危険をまったく感じない気はするんだけど」
「あらあらっ!ふふ!なら、今はそれで十分よ!でもいつかは気が付いてね!私、ナマエちゃんのこと大好きなんだから!」
「へ?あ、ありがとう、なんか照れるけど」
まっすぐに、大好きと言って貰えるて悪い気などしない。
ちょっと照れてあたしは軽く頬を掻いた。
すると彼女はまた、ニッコリと明るい笑みを見せてくれた。
「ふっふっふー!だって私、これでもナマエちゃんとホープくんの恋路、一番応援してた自信があるんだから!」
「…は!?」
「自分の存在に悩んでいたナマエちゃん…そんなナマエちゃんをホープくんが小さな体でぎゅうっとしたあの時…もうこっち的にはヨッシャー!ってガッツポーズものだったってのよ!」
「ちょちょちょちょちょー!!?」
なんか突然爆弾発言された。
あの時ってどの時だ!?
ていうかホープ?!この人、ホープの事も知ってるわけ!?
いやそれよりやっぱあの時って…!
あの時ってあれ!?
あたしが初めてディアボロスにあった時のこと…!?
セラとノエルはまたも呆然。
ていうかマジで皆の前で何言うんだこの人!
いやいやなんであの時のこと知ってるのこの人!
あまりに突然の暴露話に頭が沸騰しかけた。
だいたい、あの時のことは皆にも話してないはずだ。
余計な心配を掛けたくないからって、ホープと雛チョコボにしか零してないんだから。
「……え…?」
だけど、そこまで言って…気が付いた。
雛…チョコボ…?
それは、あの3年前の旅で…一緒に旅した小さなチョコボだ。
サッズの頭を巣にしてて…小さな体を精一杯羽ばたかせ、あたしたちを元気付けてくれたチョコボ…。
あたしはその子に…愚痴を聞いてもらったことさえあった。
「…貴女は…」
目の前にいるのは人だ。
ちゃんと、言葉だって話してる。
だからそんなの、普通に考えてありえるわけなんかない。
だけど…なんとなく頭に過ぎった。
この人は…もしかしたら…。
そう予感しかけたとき、彼女はまた…明るい笑顔をあたしに見せた。
「うふふ!まあ、これ、ハイ!私からナマエちゃんへのスペシャルサービス!黙ってもっていきやがれ!」
「え…あ、」
その笑顔のまま、彼女はあたしにポーションを手渡してくれた。
スペシャルサービス…。
まあ、旅にポーションは必需品だから貰えるなら有り難い限りだけど。
「私に出来ることなら出来る限りお手伝いしちゃうんだから!だから、頑張ってちょうだいね!ナマエちゃん!」
彼女は笑う。
応援の言葉と共に、あたしの手を握って。
…彼女のことは、やっぱりよくわからない。
物凄いテンション高いし。
いや嫌いじゃないけど、このテンション。
「…あ、ありがとう。えっと…」
「チョコリーナよ!ちょっこりーん!」
「…チョコリーナ」
教えてくれた名前。
チョコリーナ、か…。
…あたしの頭に浮かんだ予感は、あまりにぶっ飛んだ想像だと思う。
だけど…やっぱり彼女は敵には見えない。
勘と言えばそれまでだけど。
「さあさあ!よってらっしゃい!見てらっしゃい!チョコリーナのショップ、今日も元気にちょんちょこりーん!」
ばさっと広げられたふたつの羽。
時を駆ける旅の中…。
懐かしさを感じる仲間の故郷にて。
あたしは、意外な味方に出会ったのでした。
To be continued
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