「エース!」 「ああ、ナマエ」 エントランスを歩いていると、目にとまった大好きな人。 あたしは彼を呼んで駆け寄って、自然と緩んだ頬に任せる様に微笑んだ。 「エース、何してるの?」 「ちょっとクリスタリウムに行ってたんだ。ナマエは?」 「あたしは軍令部に用があって」 「もう用は済んだのか?」 「うん。隊長にレポート出しただけだからね」 「そうか。じゃあ、リフレでも行かないか?少し小腹が空いてて。付き合ってくれると嬉しい」 「うん、あたしでよければ喜んで!」 多分物凄い顔が綻んだ。 だって、エースからのお誘いを断るわけなどないじゃないか。 嬉しくて嬉しくて、ついつい何度も頷いてしまった。 最近、こうしてエースから声を掛けてくれる機会も増えてきたように思う。 それと同時に、胸の中にあるこの感情も。 見つめれば見つめる程、話せば話す程。 少しずつ確実に。彼への感情は膨らみを増していく。 あたしは彼が本当に好きだなあと、日に日に実感していった。 「ナマエ、よくそんなに甘いものばかり食べられるな…」 「エースは甘いもの嫌い?」 「いや…そうじゃなくて、そんなに食べたら流石に胸焼けしそうだなって」 「そうかな?」 「そうだよ」 そんな話をしながら、はむ…とケーキをまた一口。 それを見て、エースは笑った。 …エースの笑う顔も、なんだか見られる機会が増えた気がする。 「女の子同士で来ると、案外みんなペロッといっちゃうけどな。皆、そんな話してない?」 「そうだな…ケイトとかシンクとか、そんな話してるかもしれない」 「でしょ?ふたり、甘いもの好きだって言ってたし。そういえば、キングも甘党なんだってね。ジャックが教えてくれたよ。なんか意外だよね」 「…ああ、まあ、あんな感じだからな」 「ね!ぱっと見ちょっと怖そうなのにね」 「……。」 「エース?」 「え、あ、いや、そうだ…それ食べ終わったら、チョコボの所に行かないか?」 「あ、うん!そうだね!」 何だか少し、一瞬だけエースの顔色が曇った気がした。 すぐにいつもの様子に戻ったから、気のせいかなって感じもするけど。 ところで、こんな風にエースと過ごした後は、必ずチョコボ牧場に立ち寄る。 これはすっかりお決まりコースで、どちらかが何を言わなくても、自然な流れ。 そういう決まりごとも、何だか無性に嬉しかった。 「あ、エース。あたしね、明後日から任務なんだ」 「任務?」 「うん」 チョコボ牧場に行く前に、お皿をカウンターに片付けながら告げた話。 明後日から三日間。 あたしはとある任務に同行する事が決まっていた。 「任務、あるのか。初耳だな。今動いてる作戦があったのか」 「うーん、まああまり大きな作戦じゃないんだけどね。0組は特殊だし、要となる作戦を任される事が多いだろうからじゃないかな?」 「そうなのか?そういえば、同じ任務になった事無いよな。知った顔の方が気が置けるし、ナマエとならやりやすそうだけどな」 「えっ、そう?えへへ、それは嬉しいなあ。でも任務かあ…、ちょっと憂鬱だよ」 「候補生なんだ、そればかりは仕方ないな」 「うん。わかってる。でも、しばらくエースに会えなくなっちゃうなーって」 えへへ、と苦笑い。 エースの表情は、目を丸くしてた…かな。 実は…ちょっと頑張ってみたつもりだったり。 まあ別に、さらっと流してくれちゃっても構わないけどね。 …いや、そうなると少し寂しくはあるけど。 調子づいて言ってる部分もあったから。 「…いつ、帰ってくるんだ?」 「え?」 エースが返してくれたのはそんな台詞。 ちょっと緊張を覚えてたから、あたしはハッとして慌てて予定を答えた。 「あ、えっと、三日後の予定だよ」 「三日後か…。じゃあ三日後、無事に帰ってきたら、任務完了を兼ねてそのお祝いでもしようか」 「え…!」 思わず目を瞬かせた。 だってそれは予想に無い言葉だったから。 任務完了と、無事のお祝い…。 「してくれるの?エースが?」 「……皆にしてもらいたいか?」 聞き返した問いかけに、エースの顔が少し寂しそうに見えたのは…あたしの都合の良い幻想、なんだろうか。 まあ確かに…皆にお祝いしてもらえるのも、それはそれできっと楽しいと思う。 でも…エースがしてくれると言うならば。 「わがまま言って良い?」 「なんだ…?」 「良いって言ってくれるなら、エースとふたりでしたい」 エースは笑ってくれた。 その顔が嬉しそうに見えたのは…もうあたし、やっぱ重症だろうか…。 だけど、頷いてくれたの本当の話。 「うん。じゃあ、ふたりでしよう」 「ほんと!?」 「だから、ちゃんと無事で帰ってこいよ」 「勿論です!」 戦場は憂鬱だ。血の臭いなんて、好きじゃない。 でも、今回は少しいつもより力が入った。 エースと過ごす時間は…今のあたしにとって、何よりも楽しい時間だと思えた。 To be continued prev next top |