魔導院に来て、まだ数える程しか経っていない。 施設の使い方も、やっと少し覚えてきたところ。 頭に入れなきゃいけない事が沢山で、何だかめまぐるしい。 そんな僕の息抜きは、チョコボを眺める事だった。 軍用チョコボを育てる施設、チョコボ牧場。 皆はリフレに行くのだろうか? だけど僕の息抜きと言えば、こっちの方がしっくりきた。 「今日はいい天気だな」 何気なく話しかければ、クエッと一鳴きしてくれた。 理解してるのかな? それはよくわからないけど、何だか自然と笑みがこぼれる。 そんな、他愛ない…ある日のことだった。 「あたし、ナマエって言います!貴方のことを好きになりました!」 いきなり手を握られ、そんな事を言われてしまった。 正直僕は固まった。 というか、何が起きたのかよくわからなかった。 とりあえず、状況を整理してみる。 目の前にいる女の子。制服から見ても、候補生だ。マントは…黄色。 その子が僕の手を握って…、僕に好きと言った。 「……ナマエ……?」 「はい!!」 良くわからないまま、彼女の名乗った名前を聞き返す。 すると彼女はぱあっと顔を明るくさせた。 「あの、良かったら名前、教えてくれませんか?」 「え、あ、ああ…エース、だけど」 「エース!格好いい名前だね」 格好いい…のか? いや、そう言われて悪い気はしないけれど…。 ただ、彼女があまりにニコニコしているものだから。 「そんなことない」とか言っても、絶対否定されそうだと思った。 「えーっとじゃあクラスは…、…赤マント?」 「あ、僕は…」 クラスと聞かれ、僕は自分のマントに思わず触れた。 赤色のマント…。それを見たナマエは目を見開いた。 「赤のマントって…エース、もしかして0組!?」 「ああ…」 赤マントなんて目立つから、最初に気付いてもおかしくないのに。 それでも本気で今気がついたらしいナマエは本気でビックリしている。 なんか、今更な子だな…。 でも、遅れて気がついたそれに、彼女は何を思うのだろう? 僕が反応を見ていると、ナマエはキラキラと目を輝かせ始めた。 「うっそ…こんなとこで0組に会えるとは思わなかった…。でも嬉しい!」 「嬉しい?」 「うん。だって、首都解放作戦の時、魔法が使えなくなって…正直、自分の非力さを思い知ったの。でもそんな状況を打破してくれて。凄すぎると思ったのと同時にとっても感謝したから」 「そういうもの、なのか…」 確かに魔導院内でも目立っているのは凄く感じる。 この赤マントを身につける限り、魔導院の中では目立つんだろうなって。 「ねえ、エース。まだあたしの名前、覚えてくれてる?」 「え?ああ…ナマエだろ?」 「うん!」 僕が名前を言うと、心から嬉しそうに綻ぶナマエ。 「さっきも言ったけど、あたしエースの事、好きになっちゃいました」 「ああ、…うん…あの、好きって…なんだ?」 「そのままだよ。恋しちゃいましたって意味です」 「恋…」 なんとなく、身近にはない単語だと思った。 正直僕は恋なんて気持ち、よくわからない。 好きって言われても…何を返したらいいのかさえ。 変に誤魔化しても仕方がない。 だから僕は、素直をそれを伝えた。 「悪いけど、僕は恋とかよくわからない。だから、何も返せないよ」 それを聞いたナマエは何を思ったのだろう。 彼女は僕の話にきちんと耳を傾けていた。 その上で、うん、と頷いた。 「そっか。じゃあ、お友達になってくれませんか?」 「…友達?」 「うん。駄目、かな?」 「え、いや…そんなことは無いけど…」 「じゃあお願いします!それとね、エースにアタックすることは許して欲しいの」 「あ、アッタク…?」 「うん、アッタク!」 ニコニコと話してるナマエ。 僕はなんだか押され気味だったと思う。 「エースに好きになってもらえるよう、頑張るから。それでもし、エースがそれに応えてくれる気になったら、返事してください」 「応えるって…僕は恋がよくわからないって…」 「だから、わかったらでいいの。好きか、それとも好きになれそうにないか…。強引でごめんね?でも、お願いします」 「………。」 まだ出会ったばかり。 まだまだ全然、君の事も、恋の事も…何もわからないまま。 だけど、伝わったのは一生懸命な気持ち。 「…わかった」 まだまだ本当に、何もわからないけれど…。 まっすぐで、一生懸命で。 だからいつか、ちゃんと理解して。 答えを出せる日が来るといいななんて…。 僕は微かに、そんなことを考えた。 To be continued prev next top |