「マザー、検診、これで終わりか?」 「ええ。もう終わりよ。お疲れ様、エース」 魔法局、奥の部屋。 COMMにマザーからの連絡を受けた僕は、定期健診を受けにマザーに会いに来た。 なんだか不思議な気分だった。 いつもならマザーと話せるのが嬉しくて、定期健診は嫌いじゃない。 勿論今だって、マザーの顔を見て話す事が出来るのは嬉しい。 でも、僕は少しそわそわしていた。 「どうかしたの、エース?」 「あ、ああ…」 そのそわそわは、どうやらマザーに見抜かれていたらしい。 いや…もしかしたら僕がわかりやすかったのかな。 今日は、あれから三日後の日…。 つまり、ナマエが任務から帰って来る日だった。 僕は三日間、ずっとナマエの事を考えていた。 だって、僕が覚えていると言う事は、ナマエが生きている何よりの証だから。 何度も何度も思い出して、ナマエの無事を祈ってた。 そして、ちゃんと今日まで思い出す事が出来た。 「今日、ナマエが任務から帰ってくるんだ」 「…ナマエ?」 マザーに聞き返された。 僕は小さく笑って頷いた。 「ああ、マザーには話して無かったな。8組の女の子なんだ。一緒にいると、不思議とホッとする。互いにチョコボが好きって共通点もあって、話も合うんだ。それに…好きだって、言われた」 「…好き?」 「僕、そんなこと言われたの初めてだったから…少し戸惑った。どういう感情なのかも、よくわからないし。でも…嬉しいと思ったから、ちゃんと答えを見つけて、返したいって思ってるんだ」 なんだか、つらつらと喋ってしまった。 自然と口が動いた。 なんというか、ナマエの事を話しているのは、楽しいと思ったから。 でも、思い返ると少し気恥ずかしい。 僕がそんなことを思っていると、マザーは息をついた。 「…エース。貴方が他の候補生を気にかける必要なんてないのよ?」 「え?」 僕自身、マザーにどんな反応を期待していたのかわからない。 でも…それにしても、返された反応は意外なものだった。 「マザー…?」 「余計な事を考える必要無いの。その子どんな言葉を言ったのかは知らないけど、貴方がわざわざ向き合う事は無いわ」 「え…、でも…」 「貴方にはすべき事がある。それだけを考えればいいのよ」 「………。」 マザーの言葉は絶対だった。 マザーが言うのなら、僕はいつでもそれを信じた。 僕たちにすべき事があるのはわかるし、その為に僕らは魔導院に来た。 …でも、それならば。 ナマエと過ごした日々も、今まで感じた僕の気持ちも…全部、余計な事…だったのか? 「必要のない気持ちに振りまわされることは無いのよ」 「マザー…僕は、」 「そんなもの、貴方を弱くするだけ。本当に必要な事が疎かになる。かまけても、何の得も無いわ」 「………。」 胸を押さえる。 確かに僕は…ここ最近、ずっとナマエのことを考えていた。思っていた。 早く会いたいって、話したいって。 会えなかった分、話したい事が沢山あった。 でも…そういうの、全部…いらない、のか…? なんだか…痛い。 胸の奥が、ズキズキした。 To be continued prev next top |