「あの子、だいぶ落ち着いてきたみたい」
「ほんと?」
ティファの言葉を聞き、あたしは目を輝かせた。
クラウドが連れて来た星痕症候群の男の子。
連れて来た直後は酷く苦しんでいて、ゆっくり寝かせてあげるくらいしか出来る事が無かった。
でも、看病の甲斐あってか今はたいぶ落ち着いてきたみたい。
それを聞いたあたしはすぐさま男の子の部屋へと向かった。
「…なに、してるんですか」
向かったあたしは扉を少し開けて中の様子を伺った。
その姿はなかなかの不振者だったように思う。
いや扉まで来たはいいけどそこでちょっとね。
寝てたらどうしようかなとか、いや起きてたとして何話せばいいかなあとかここに来て色々我に返ってだな…。
勢いで行動すんなと何度思えば学習するのか。
おまけにその様子を男の子に気づかれて怪訝そうな顔をされてしまう始末。
これはもうアイタタタ〜だ。
まあ気づかれたならもう突き進むしかないでしょう。
そういう開き直りが早いのは長所である。
では、いざ!
そう覚悟を決めたあたしはバーンと扉を開け、男の子に挨拶した。
「よっ!元気かい、少年!」
「え…ま、まあ…」
「そうかそうか、そりゃ何より!あっはっはっは!」
部屋に入ったのはまあいい。
でもちょっと待って色々おかしい、うん自分でもわかってる!
これじゃまるでゴールドソーサーの園長みたいな口調じゃないかよう!!!
駄目だ…やっぱ落ち着こう。
色々仕切り直し。
あたしは彼のいるベッドの傍にある椅子に座り、ふうっと深呼吸した。
「ええと、ごめんね。はじめて話すからそれなりに緊張しちゃって。もう具合は大丈夫かな?」
「あ…えっと、はい」
「そっか。良かった!」
見た感じ、もう結構回復したように思う。
星痕自体が治ったわけでは無いけど、体力的にはかなり改善したみたいだ。
これならもう少しお話しても大丈夫かな。
そう思ったあたしはとりあえず自分の名前を憶えて貰うことにした。
「あたしはナマエって言うの」
「ナマエ…さん」
「あー、呼び捨てでもいいよ。さんとかあんまり呼ばれた事無いからくすぐったいし。君の名前も聞いていいかな」
「…デンゼル」
か細い声で教えてくれた名前。
彼の名前はデンゼル。
教えてくれたその名前に、あたしはニコッと微笑んだ。
「そっか。よろしくね、デンゼル!」
互いの名前を知って、でもデンゼルはやっぱりまだちょっと緊張してるみたいだった。
まあね、まだここがどういうところかもちゃんとは理解してないだろうし。
だからまあ緊張を解くとか、歓迎する意味も込めて、あたしは彼ともう少し話をしてみることにした。
まあ中心となったのはあたしの話ではあるけれど。
剣の扱いがそこそこ得意だとか、それを教える仕事とたまにモンスターの討伐も請け負ってる事。
それから、簡単な生い立ちの話とか。
「んでね、ミッドガルに住んでたんだけどさ」
「え…プレートの上?」
「うん。子供の頃だけどね」
その中でデンゼルが少し食いついた話があった。
それはあたしがミッドガルのプレートの上に住んでた時の話だった。
「何番街?」
「ん?七番街だよ」
「ほんと?!」
「お、おう!?」
特に七番街に住んでたって話をした時の反応が大きかった。
大きすぎてデンゼル自身も「あ…」なんて我に返る程に。
「七番街がどうかした?」
「…俺も、七番街に住んでたんだ」
「え!」
デンゼルも七番街に住んでいた。
それを聞いてあたしも驚くと同時に胸の中にぱっと何かが広がったような感覚を覚えた。多分親近感みたいなものだろう。
だけど、すぐに気が付く。
七番街に住んでたっていう意味…。
それはつまり…。
「…プレート、落ちちゃったけど」
「……。」
2年前、メテオの災害よりもう少し前に七番街は崩壊した。
プレートを支える柱が爆破されて、跡形も無く消え去ってしまった。
その記憶は、痛ましく残ってる。
だってあたしはその時それを阻止しようと走った。
でも結果虚しく、ワイヤーでその場を脱出しながら崩壊する音を聞く事しか出来なかった。
デンゼルは、あの日の被害者だった。
「…ね、デンゼル。デンゼルが住んでた時はさ、駅の近くにケーキ屋さん、あった?」
「え、作ってる様子が見えるとこ?」
「お!そうそう!あたしあそこ大好きでさあ」
「あ、うん。わかる、俺も好きだった」
「おお!わかる!?ね!おいしいよねあそこ!」
辛い思い出。でも決してそれだけでは無い。
そして共通の話題があるってのはやっぱり親近感がわくもので、そこからはわりと結構話が弾んだ。
あたし自身も結構楽しかったし、だからデンゼルもそこそこ楽しんでくれてたんじゃないかと思う。
「ナマエ、今までずっとあの子と話してたの…?」
「あー…あはは、病み上がりに無理させちゃったかな〜」
部屋を出てティファのいるお店の方に戻るとティファにそう声を掛けられて苦笑いした。
病み上がりに何してくれとんじゃ、ちったぁ気ぃ使えや感はね、うん…重々承知なんです。
話に熱中しすぎて、時計の針のあまりの進み具合を見たときにあたしはあんぐり口を開けた。
いやお前、何時間話してんねん…みたいな。
「いやそうじゃなくて…流石ねって思って」
「え、流石?」
「打ち解けるの早いなあって」
「あ、ああ…共通の話題あったからね。悪い子じゃなさそうだし」
「そっか」
打ち解けるのが早い。
それは確かに、今回に関してはそうなのだろうと思う。
あたし自身そう思うし、この後クラウドにも同じことを言われた。
「ナマエ、もうデンゼルと打ち解けたのか?」
「んー?うん、まあ…あははは」
「なんだその笑い」
「うーん…あたしちょっと反省してるの」
「反省?」
「反省」
なんだそれ、とクラウドは疑問符を浮かべてる。
それを見てあたしはまた小さく笑った。
「あんた、初対面の相手とも結構話すよな」
「そっかなあ。それなりには緊張するけど」
「俺の時も、…というか俺の時は叫ばれたな。マイヒーローって」
「ちっちっち〜。クラウド、そりゃ初対面の話じゃないぜ」
「…本当の初対面の時もすらすら喋ってたぞ」
「あははっ!ん〜…まあ、クラウドとセブンスヘブンで会った時は興奮してたからね〜」
「大袈裟なだけだろ?」
「あ、ヒドイ」
「でも、その後も色々話しただろ?今思うと、知り合って間もない状況であそこまで人と話したことなかったと思って」
「あー、でもあたしも無いよ。あの時はすっごい喋ってた記憶あるけど、でもあの日はやっぱ特別。テンション上がってたのが大きいもん」
なんだか懐かしい話だ。
クラウドとセブンスヘブンで会った時のこと、今思えばホント頭のネジぶっとんでるよね。マイヒーローって叫ぶってなんだ。
でもあの時のあたしはそれくらいの衝撃受けたってこと。本当、雷に打たれたみたいに。
まあ、確かにデンゼルと打ち解けられた感はある。
それがデンゼルの緊張を解くことに繋がったのであればそれは純粋に良かったと思った。
END
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