眠りに落ちる口づけ
「クラウド!クラウドー!!」





場所に辿り着いたあたしは彼の名前を大きな声で叫んでた。

ティファと別れてやってきたのは、いつもクラウドと待ち合わせていた場所。

でも、返事はない。
当たり前だ。今は約束の時じゃないのだから。

…うう、やっぱ無謀だったかなあ…。
なんか項垂れて来た。

でも、そんな時…奇跡が起こった。





「…何してるんだ。約束、今じゃないだろ」

「!」





背中で聞こえた。
それは、待ち望んでいた声。

あたしはバッと勢いよく振り返った。
そしてそこにあった待ち焦がれていた姿に少し笑みが出て、そのまま彼に言い返した。





「クラウドこそ、何してんの?」

「……そうだな」





指摘すると、クラウドは言い返してくることなく頷いた。
どうやらクラウド自身もあたしのこと言えなかったみたいだ。





「…驚いた。会えるなんて思ってなかった…」

「うん。あたしも思わなかった。でも…クラウドに会えるとしたらここしかないから。ちょっと賭けてみた」

「…俺は…なんとなく、ちょっと、見ておきたくて」

「何を?」

「ここを」

「ここ?」





ここを見ておきたかった?

きょろっと見渡す。
綺麗な景色があるわけじゃない。

ていうか、ここ、何の変哲もない場所なんだけど…。





「クラウド、ごめん。わかんない」

「そうかもな」





クラウドはわけを教えてくれること無く小さく笑った。

まあ、いいけど。

ていうか会えたなら会えたで、あたしはクラウドに聞くことがあるじゃない!
だってあたしはクラウドに会う望みを賭けてここに来たんだから。





「あのさ、クラウド、ちょっと聞きたいんだけど…」

「なんだ?」

「…あの、ティファに会った?」

「!」





そう聞いたらクラウドの表情に変化があった。
まあ、ティファが嘘なんか言うわけ無いから、これは聞くまでもなかったんだけど…。





「セフィロスと戦ったの?」

「…聞いたのか」

「うん。聞いた。ヒーローみたく助けてくれたってさ」

「…ティファに会ったなら、ティファと行動しろ。ひとりになるな」

「すぐ戻るよ。でも、ちょっとクラウドと話したいことがあって…」





カオスの戦士同士…。
裏切り者となったクラウドは、これからどうするのだろう。





「あのさ、クラウド。ティファにも話さない?それで、皆で考えられないかな?これからどうしたらいいのか、とか」

「……。」

「あはは…あたしひとりじゃ全然思い浮かばなくて。こういう時、本当自分の頭の回転の悪さに参っちゃうよね!うーん…カオスを倒したら元の世界に帰れるって思ってたけど、それでクラウドがいないんじゃ意味無いし…。どうしたもんかなあ…」

「……ナマエ」

「え、うわっ…」





無意識に、明るく喋ろうと口が動いた。
でも、それは驚きで途切れた。

腕を引かれて、ぎゅっとクラウドに抱きすくめられたから。

…て、えええええええ…!?





「く、クラウド…!?なに、どうしたの!?」





ばくばくどきどき。
ちょ、あたしの心臓!そんなに働かなくていいから…!!

速さを増していく鼓動を抑える様に、クラウドに問いかける。

その言葉に返ってきたのは、苦しそうな声だった。





「ナマエ…、戦いは…終わらないんだ」

「え…?」

「この世界は…巡ってる…」

「巡…ってる…?」





抱きしめられて耳元から聞こえた言葉を、意味がわからなくて繰り返す。

この世界は、巡ってる…。
なんだろ、それ…どういう、意味…?

だけどそれを聞く前に、クラウドはあたしの肩に手を置いて少し間を開けた。
すくめられて見えなかった瞳がぶつかると、クラウドは言葉を紡いだ。





「それに…他の奴らも動いてる…。あまり悠長にしてる時間もない」

「…それは…、」

「けど…大丈夫…、何も心配しなくていい」

「え…?」

「ナマエは…お前たちは、俺が守る。なんとかする」

「ちょ、ちょっと待って。クラウド?」





なんとかするって…。
クラウドには何か作戦があるの?

だったら何する気なんだろう?

それ、あたしに手伝えないのかな。





「クラウド、何するの?何かするならあたしも手伝うよ?」

「いいんだ。なあ、ナマエ。ティファは今どこにいる?」

「え…聖域の近くだけど…」

「なら、平気かな…。…じゃあナマエは、ただじっとしててくれ…。この近くに解放されたひずみがある。そこに隠れていろ」

「な…、なんで?嫌に決まってるじゃん!じっとしてるなんて」

「……………。」





食い下がるあたしをクラウドはじっと見つめていた。
そして小さな息をひとつ吐きだす。





「…やっぱり、何を言っても引いてはくれなさそう、か」

「当然」

「…そうだな…。ナマエなら、そう言うと思った…」

「わかってるなら話しは早いじゃんか。ね、教えてよ」

「……だからこそ、だ」

「…?」

「いいんだ…。俺が、なんとかするから」

「………クラウド…?」





その時のクラウドの顔は、凄く凄く優しかった。
一瞬、言葉を失いそうになるほどに。





「ナマエ…」





言葉を失ったあたしの頬に、クラウドの手が伝う。





「ここに来たのは、失敗だったか…。いや…来て良かったのかな…」

「…え…?」





青い瞳に捉えられる。
済んだ空色が、どこまでも優しいものに染まってる。





「…好きだ…ナマエ…、どうしようもないくらい…あんたが好きだ…」

「……な、…に…?」





囁いてくれた嬉しい言葉。

いつか、元の世界で同じ言葉を伝えてくれたことがあった。
優しくて、あたたかい、そしてどこか嬉しい声で。

でも今は…同じ言葉なのに、違った。
穏やかで、でもどこか切ない。

ゆったり、頬を包みこむクラウドの掌。
クラウドが少し距離を縮めて、こつん…と額がぶつかった。





「…会えて、良かった」

「…っ、」





すると、もっと。
もっと距離が縮まった。

あたしは反射的にぎゅっと目を閉じた。





「大好きだ、ナマエ」





直後、唇にあたたかい感触。

本当に触れるだけの、優しいもの。
数秒の刻むとゆっくり離れた。

瞼をひらけば、青い目が映る。

…なんで、そんな寂しそうな顔してるの?

そう思った刹那に唱えられた呪文。
それを聞いた途端、あたしは酷い眠気に襲われた。





「言ったら、あんたはきっと言う事を聞いてくれない…。だから、眠っていてくれ…頼む」

「…クラ…ウ、ド…」

「さよならだ…ナマエ」





まどろむ中で聞いた、最後の言葉。

普通…、こういう時って目覚めるものなんじゃないのかな…。
それなのに、あたしってば真逆…。

がくん、と膝が折れる。
あたしはそのまま、クラウドの胸に倒れ込むように、眠りについた。



To be continued

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -