すべてぶちまけたなら
「あれ、ティファ…?」

「あ、ナマエ!よかった、誰とも会わなくてちょっと不安だったの」





ふらりと聖域の外を歩いていた時のこと、あたしは偶然ティファと鉢合わせた。

ティファの言うとおり、なんだかコスモスの戦士になかなか会わない気がするような…。

だから再会を喜んでくれたその時のティファは微笑んでいた。
でも、なんとなく…本当になんとなくだけど、どこか浮かない顔をしてるようにも見えるのは…気のせいかな?





「なんかあったの?」

「……わかるの?」

「んー…、なんとなくだけど」





そう言ったらティファは苦笑いした。
「ナマエ、すごいね」なんて言いながら。

ティファとあたしは岩場に腰掛けた。
首をひねると、ティファは遠くを見ながら呟いた。





「ねえ、ナマエ…。クラウドって人、知ってる?」

「え…?」





空気が、一瞬だけ止まった気がした。

クラウド。
ティファの口からその名前を聞いて、心臓が痛くなるくらい強く波打った。

ぶわ、って体中から汗が噴き出て来たみたいな感覚だった。





「だれ?それ」





声が震えそうだった。

なんで…。
ティファ、思い出したの…?

でも、そんなこと聞けない。
もし思い出していなかったら、ティファを苦しめることになる。

だから、こういうの得意じゃないけど確かめるために知らないふりをした。





「やっぱり、知らない?」

「うん。どちらさん?」

「…カオスの戦士、なんだ」

「カオスの戦士!?」





ああ、なんかわざとらしくないかなあ…。

驚く振りとか、棒読みになってそうで怖くて仕方ない。
だって演技力なんか皆無だし…。

本当は、全部全部、知ってるから。





「なんでカオスの戦士…?その人がどうしたの?」

「…知らないか。じゃあ、やっぱり私の思い過ごしなのかな」

「どういうこと?」

「私ね、さっき銀色の長い髪のカオスの戦士に襲われたの」

「はい!?」





銀色の長い髪のカオスの戦士。

それで思い当たるのは、ひとりだけだ。

…セフィロス…!?
ティファがセフィロスに襲われた!?





「だ、大丈夫だったの!?あ、ここに帰って来たって事は大丈夫なんだろうけど…って違う!怪我とかは!?」

「大丈夫よ。だから落ち着いて、ナマエ」

「あ、お、おおう…」

「ふふ、心配してくれるのは嬉しいけどね」





つい取り乱したらティファに宥められた。
でも、あのセフィロスに襲われたなんて聞いたら驚くなっていう方が無理だと思うですが…。

セフィロスは…元の世界で、あたしたちの敵だった。
とんでもなく強い、破格の英雄。

…実際のところ、それくらいしかあたしにもわかんないけど…。
クラウドと話をして、なんとなく…ちょっとだけ思い出しただけだから。

そう靄の掛かった記憶を手繰り寄せていると、ティファは苦笑いを浮かべた。





「まあ…正直ね、まずいかも…って思ったんだ。凄く強かった。喉に刀を突き付けられて…」

「は…!?喉元!?」

「でもそんなピンチの時、そのクラウドっていうカオスの戦士がね、ヒーローみたいに助けてくれたの」

「!」





クラウドが、ティファを助けた…。
セフィロスの攻撃から…。





「えーっと、つまり…カオスの戦士が、カオスの戦士と戦ったてこと?」

「うん。そう。気まぐれなんだって」

「気まぐれ…」





おかしいよね、ってティファは笑った。

でもあたしはわかってた。
それが、気まぐれなんかじゃないことを。

クラウドは故意にセフィロスと戦った。
ティファを…守るために。

裏切り者に…なったんだ。





「彼の、そのクラウドって名前を聞いた時…私なんだか変な感じがしたの。なんとなく、知ってる気がして。向こうは私の事、知らないって…そう言われちゃったんだけどね」

「記憶の中に、あるの?」

「…わからない。だからナマエのことも聞いたんだ。でもやっぱり知らないって」

「……ふーん」

「考え過ぎ、なのかな…?」





少し寂しそうなティファを見たら、言ってしまいたくなった。

…もしかしたら、全部言ってしまったほうがティファの為なんじゃないだろうか。

だってティファは、不安なんだと思うから。
元の世界の記憶、ちょっとでも取り戻したいんだろうから。

ティファ…本当は全部知ってるよ。
クラウドのことも、なんで敵なのに助けてくれたのかも。

全部、ぜーんぶ知ってる。

でもクラウドは言わなかった。
あたしのことも、知らないふりを貫き通した。

だって、ぶちまけてしまったら…もう取り返しがつかない。





「…不思議な、人だね…」





そう言いながら、思い浮かべた金色と青い目。

…ごめん…ティファ…。





「ティファ…あたし、ちょっと辺り見てくる」

「え?」





あたしはひとり立ちあがった。
ティファはそんなあたしを見て優しく言ってくれた。





「なら、私も行くよ。ひとりよりふたりで行動してほうが安全だって言われたの」

「…クラウドって人に?」

「うん」





クラウド…。
思い浮かべた姿に、ぐっと胸を掴まれたみたいだった。

あたしはそっとティファの肩を押して、また座らせた。





「だいじょーぶ!ティファ疲れてるでしょ!戦ったんだよね?ちょっとモーグリ探してくるだけだからさ!」

「そう?」

「うん!」





そう笑って、あたしは走り出した。

大丈夫、本当にすぐ戻る。

ここからなら…そう距離は無い、よね。
会える保証なんて、どこにもないけれど。

でも、走った。



To be continued

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