秘密の約束
あれは、いつだったかな。
この世界に来て、だんだん勝手が掴めて仲間にも馴染み始めた頃だったと思う。





「……ここ、どこだし…」





ちーん…。
なんて音が聞こえた気がする。

そう。あたしは俗に言う、迷子って奴に陥っていた。





「…………。」





見知らぬ世界でひとりきり。
きゃー!ナマエちゃん大ピンチ?

うーわ、全然笑えねー!!!!!





「わあああああああ!?皆どこー!誰でもいいから助けて誰かー!!!!」





なんか…アレだった。

もんの凄く焦った。
だから勢いに任せて思いっきり叫んだ。

いやー!!
こんなとこで飢え死にとかマジ御免だからな!ばっきゃろー!!

わーわーわーわー思いっきり喚い散らす。

でも、大事な事は忘れていない。
そんな叫びの中でもあたしの耳は聞き逃さなかった。





「……!」





ぴくっ、
その音に反応して叫ぶのを止めた。

とん…とん…と近づいてくる音。
それは間違いなく誰かの足音だった。

誰!?誰か助けに来てくれた!?
救世主様到来ですか!!

期待に胸ふくらませて、あたしはバッとその足音のする方に目を向けた。





「………あ、…」





影が見えてすぐ、その人物は見えた。

それは、男の人だった。
真っ先に目に付いたのは、金髪。

わあ…めっちゃツンツンしてるなあ…。

それが、あたしの抱いた第一印象。

そう、第一印象。
だからつまり、知らない人。

えっと…あの人誰だろう…。
そう凝視してると、その人はあたしを見るなり目を見開いた。

………ん?
なに、その顔…?

そう思ったのもつかの間。





「…っナマエ…!」

「えっ、うひょおおお!?」





凄い声でた。
いや、そりゃ出るわ!?あたしの反応正常だよきっと!?

それは一瞬の出来事だった。

男の人はあたしを見て目を見開くなり、急に駆け出して来た。
そしてそのまま手首を掴まれて引き寄せられて、つまりはそのまま抱きしめられた。

って、いやいやいやいや!!?
何事ですか!?





「ちょちょちょ!?ななな何をっ!?」

「っナマエ…!」

「はえ!?」

「…ナマエ…、ナマエ…!」

「……………あ、あの…?」





恥かしいし、混乱してた。

でも、その金髪の男の人は、あたしを抱きしめたまま何度も何度もあたしの事を呼んでいた。
まるで確かめるように、凄く切ない声で。

……なんで、あたしの名前…知ってるの?
そんな疑問もある。

でも、その切ない声が、妙に気になった。





「……っすまない」





しばらくすると、その人はハッと我に返ったように体を解放してくれた。
…とは言っても肩は掴まれたままだけど。

…綺麗な青い目だな…。

彼はそんな綺麗な瞳でじっと…変わらずあたしのことを捉えてた。





「あ、あの…貴方は…?」

「……え、」





そう聞くと、彼の瞳は一瞬揺れた。
それを見たら、何故か凄く胸が痛くなった。





「…俺のこと、わからない…のか」

「……え、っと…」





悲しそうで、寂しそうな顔。
この人にそんな顔をされたら、胸がずきずきと痛んだ。

…なんで?
あたし…この人のこと、知ってるの…?

でも確かにビックリはしたけど…抱きしめられた時、嫌な感じは…しなかった。





「……そうか。変な事して、本当にすまなかった」

「あ、あの…っ!」





肩からも手が放された。
そしたら急に、凄く寂しくなった。

知ってる…。
あたし、きっと、この人のこと知ってる…。





「…あの…、もう一回…抱きしめて貰っても…いいですか?」

「……え?」





は!!
気付いたら物凄いこと口走ってた。

何をぶっこいてるんだ!?あたしは!?

いや…でも、そうしたら、何か…思い出せそうな気がした。





「…嫌じゃ、ないのか?」

「え?!あ、えっと、まあ…。はあ…、何故か不思議と…」

「……………。」

「あ!へ、変な事口走ってスミマセン!不快だったら忘れて貰って全然構わ、…っ!」





また、抱きしめられた。
突然だったけど…でも凄く控え目で、優しい抱きしめ方。





「…嫌、か?」





それで、不安そうにそう聞いてくる。
…やっぱりあたし、この人のこと…知ってる気がする。





「…ううん…」





腕の中で、首を振った。
だって本当に、全然嫌じゃない…。

自然と、自分からも彼の背中に手を回していた。

…あったかい…。

うん…。知ってる。
あたしこの感覚、知ってるよ。

この人は…。
この人の名前は…。





「………ク…ラ……ウ…ド」





浮かんだ名前と呟いた。

…そう、クラウドだ。
この人の名前は…クラウドだ。





「……ナマエ…」

「………うん…?」

「…俺…あんたに、会いたかった」





抱きしめる力が少し強くなった。


そこからは、一気に思い出せた。

あたしとクラウドは同じ世界の人間だってこと。

あたしはクラウドが大好きだったこと。
クラウドも…好きだって、言ってくれたこと。

クラウドのこと、たくさん思い出した。










「……え、クラウドは…カオスの戦士なの…?」

「……ああ」





そして、互いの状況を話しあった。
だけど…現実は残酷だった。

この世界では、コスモスとカオス…二柱の神が闘争を繰り広げている。

あたしはコスモスの戦士。
でもクラウドは…カオスの戦士。

つまり…敵同士だ。





「嘘…あたしクラウドと戦えないよ。…ティファも、コスモスの戦士なのに…」

「…ああ、知ってる」

「…会ったの?」

「見かけただけだ。ティファは気付いてない。というより…俺のこと覚えてないんじゃないのか?」

「……うん」





その通り…ティファは何も覚えて無い。
あたしのこと…唯一って言ってた。

なんだか…茫然としてしまった。
だって、どうしたらいいか…全然わかんなくなったから。





「あたしさ、この戦いが終わったら元の世界に帰れると思ってた。ううん、あたしだけじゃない。コスモス側は皆、そうやって信じて戦ってる。なのに…」

「……ナマエ、この世界は…」

「ん?」

「………いや、悪い。何でも無い」

「え?」





クラウドは何か言いかけたのに、噤んでしまった。

…な、なんだ一体。
そこまで言われたらすごい気になるじゃんか…。





「クラウド、なに?」

「…本当に何でも無い」

「ええー?」

「……思い出させるような事して、悪かった」

「は…?」





しかも今度は意味のわからない謝罪がきた。
クラウドさん…、なんか今かなり意味不明な事になってるけど大丈夫か…?

あれ?それともあたしが馬鹿なだけなの?





「……思い出さなかったら、前を見たままでいられた。悩ませる事なんて…なかった」

「…………。」





それを聞いて、あたしは目を細めた。

クラウド、そんなこと考えてたんだ…。
…変なとこ気にするんだなあ…なんて、ちょっと思った。





「あたしは、思い出せてよかったよ」

「………。」

「だってこのままだったら、クラウドに武器向けてたかもしれないじゃん。そんなの絶対嫌だ。…確かにティファに言えるかって言われたら…まあ…難しいけど、でも、フォローできるしね!」

「…でもそれが道理だ。俺達は今、敵同士なんだ」

「…クラウド…」

「………。」

「……じゃあ今、あたしのこと…倒す?」

「!」





道理だからって、戦えないものは…戦えない。

どうすればいいか、全然わかんない。
でもクラウドを倒すって選択肢は、あたしの中には無いから。





「あたし、クラウドには刃向わない。…から、倒すの簡単だよ。きっと」

「………。」





笑って言った。
それを見たクラウドは、その端正な顔を歪めた。

そして手がゆっくりと伸ばして…、またあたしを抱きしめてくれた。





「…俺が出来ないから、ナマエまで悩ませたくなかった」





耳元からは、辛そうな声がした。

クラウドの指があたしの髪を梳くように後ろに差し込まれて、ぎゅっとクラウドの胸に押し付けられた。

でも、それは少しの間だけ。
すぐにまた肩に手を置かれて、距離を放された。





「…カオスの戦士と繋がってるなんて知れたら面倒だ。早く秩序の聖域に戻れ。この道を真っ直ぐ行けばつける」

「クラウド…、また、会ってくれる…?」

「………。」





道を教えてくれたクラウドに、そう聞いた。

クラウドは黙ったままだった。

だって、せっかくクラウドに会えたのに。
これっきりなんて嫌だよ。





「ねえ、クラウド」

「………。」

「OKくれなきゃ帰らない。ていうか梃子でも動かない」

「…我が儘だな」

「それ、今更じゃないかなあ?」





ねー?とわざとらしく首を傾けて笑った。

……けど、やっぱり駄目かなあ…。
あたしはともかく、クラウドがカオスの人達に目をつけられるのは考えものかもしれない。

じゃああと5秒。
もう少しだけ意地を張って見て、駄目そうだったら諦めよう。

1……2……3……4…、






「…明日、」

「……え?」





心が5を刻もうとした直前、クラウドは閉ざしていた口を開いた。
顔を見たら、その表情は…どこか、柔らかく微笑んでいるように見えた。





「明日の夜…、またここで」

「……いいの?」

「定期を決めるとまずい。不定期にしよう。それ以降の事は…また明日、な」

「………うん!」





それは、交わしたひとつの…秘密の約束だった。



To be continued

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