大切な我が儘
静かな白。
安らかな優しい雰囲気。

ぱしゃり、歩けば水音が響く。

この場所は、秩序の神の住まう聖域。





「あ、」





ぱしゃ、ぱしゃ…、足元から波が立つ。
音を響かせ辿りつけば、綺麗な黒髪の女性が振り返った。

彼女はこちらを見るなり、目を細め、微笑みを浮かべた。





「ナマエ、おかえりなさい」





優しい笑みに迎えられ、あたしは駆け出した。





「ただいまー、ティファ!」





彼女の元へ。仲間の元へ。
秩序の神、主であるコスモスの元へ。





「どうだった?怪我とかない?」

「大丈夫、大丈夫!そんなに柔じゃないよー」




気遣ってくれる彼女はティファ。
駆け寄ると、すぐに調子を聞いてきてくれた。

よかった、と微笑むティファは本当に美人で優しい。

あー、やっぱりティファは優しいなー。
女の憧れる女って言うか、本当に良いお姉さんだと思う。

そんなティファの微笑みに、あたしも自然と微笑んだ。





「勇ましいよなー、ナマエは」

「でも、女の子なんだから無理しちゃ駄目だぜ?ナマエ」

「あ。バッツ、ジタン」





そこに入ってきた二つの声。
楽しそうに笑い混じりにバッツと、ゆらゆらと尻尾を揺らしながらキザなことを言ってのけるジタン。

明るくてなかなかテンションがあって、とっても話しやすいふたり。





「私、ナマエの戦い方凄く好き。ライトとはまた違った感じなんだけど、軽やかで格好いいよね」

「一見大人しそうな顔してんのになあ。人は見掛けによらねえってのはこういうこったな」





すると、また二つ。
亜麻色の髪を揺らしながらくすり、と笑う女の子と、胸に大きなタトゥーと刻んだ大柄な男。

ユウナとジェクトだ。

かなり対照的なふたり。
初めてふたりが喋ってるのを見た時は、何事!?って思ったけど、ユウナはジェクトのことをかなり頼りにしてるらしい。





「ふふふー。お誉めに預かり光栄でーす」





皆の言葉に、気楽に笑った。

この世界は調和と混沌、二柱の神の闘争が絶えない世界。

あたしは調和の神、コスモスに仕える戦士としてこの世界に召喚された。
ここにいる皆も全員、同じ様に。つまりあたしたちは仲間だった。

もともとは別々の世界で暮らしていた。
だけどこの異世界にいきなり召喚されて、最初の頃は状況も掴めなくてギスギスしてる部分もあった。
でも、今じゃこうやって結構良い雰囲気でやっていけてる。

いつかは元の世界に帰りたい。
だから、サヨナラの時も信じているけれど。

でも確かにあたしは今、皆を仲間だと呼べる。
結構居心地も良くて、あたしは純粋に皆のことが大好きだった。





「ねえ、ナマエとティファは同じ世界の出身なんだよね?」





軽い雑談のなか、そう聞いてきたユウナ。
その問いに、あたしは隣にいたティファと顔を合わせて互いに笑って頷いた。





「うん、そーだよー」

「確か、ユウナもジェクトと同じ世界から来たのよね?」





ティファが聞き返すと、ユウナは「うん」と頷いた。

この世界では、元の世界の記憶には…いくつかの霧が掛かってしまう。
個人差はあるし、時が経つにつれて少しずつ思い出してくるけど、全部の記憶は…まずない。
皆それそれ靄が掛かってる部分が少なからず持っていると思う。

そんな中で、あたしやティファ、ユウナは少し特別だった。
それは元の世界の記憶を共有することが出来る人物がいる、ということ。

ユウナの言う通り、あたしとティファは同じ世界出身だった。





「私、ナマエ以外の記憶がほとんど無いのよ。だから、ナマエがいてくれて安心しちゃた」

「あ、一緒一緒!最初はよくわかんなかったけど、ティファのこと思い出した時のあの感動ったら無かったよー」

「うん。わかる。今は皆とこうやって話せるけど、最初は不安だらけだったから。私もジェクトさんがいて安心したんだ」





あたしとティファ。ユウナとジェクト。
あと、セシルとカインも同じ世界から来た仲間だって、前にカインに聞いた気がする。

もしかしたら記憶が無いだけで、他にもいるのかもしれないけど。

知る限りは、そのくらい。
言うの出れば、あとはカオス側に知ってる顔がある人もいるみたいだけど…。

…混沌の神に仕えるカオスの戦士は、あたしたちにとっては戦うべき敵。

あたしたちは、この戦いに勝てば元の世界に帰れるかもしれないっていう希望を抱いて戦ってる。





「ねえ、ナマエ?私、本当にナマエがいてくれてよかったと思ってるの」

「……ティファ?」





自分では気がつかなかったけど、あたしの右膝にはかすり傷が出来ていた。

その傷を見つけてくれたティファは「手当てをするから」とあたしを小さな岩に座らせ、回復のマテリアをつけたグローブをかざした。

ふたりになったその時、ティファはぽつりとそう溢した。





「私、元の世界の記憶…まだほとんど無いの。ナマエのことだけ。ナマエが唯一。だから、ナマエがいると心強いんだ」

「……………。」






それはティファの本音だって、声と表情でわかった。
だからあたしもティファに本音で答えた。





「うん。あたしもティファといると心強いよ」





あたしも、元の世界のことはほとんど覚えて無い。

それは不安だし、すごく怖い。
だから近くにティファがいてくれるのは、本当に心強かった。

だってティファは、あたしにとって最高の友達で、同時にお姉ちゃんみたいな存在だから。





「ねえ、ナマエは他に何か思い出したことある?」





でもそう聞かれた時、あたしはツキン…と少し胸が痛むのを感じた。





「ううん、残念ながら無いよー」

「そっか。同じだね」





残念そうに首を振る。
だけど、同じだと微笑むティファを見て、胸の痛みが強くなった。

……あたしは、ティファに隠している事がある。

ううん、ティファだけじゃない。
ここにいるコスモスの戦士の皆に、秘密にしてることが。

それは自分の我が儘で、でも同時に…ティファの為でもある。





「モヤモヤするよねー。記憶がないってさ」





作った笑顔。
平然を装って、言葉を紡ぐ。





「そうだよね。早く色々思い出せたらいいんだけど」





交わす会話。
顔に出て無いか、ひやひやした。

だって、知ったらティファだって…きっと…苦しくなる。





「あ…」

「ティファ、どうしたの?」





その時、ティファは空を見上げた。
同じように見上げて見たら、そこには雲が広がってた。





「少し、天気怪しくなって来たみたいだね。雨、降らなきゃいいけど」

「あー…うん。そー、だね…」





曇り。
それを見て過った。

金色と、綺麗な青。

それは…あたしの大切な秘密だった。



To be continued

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