抜き足、差し足、忍び足



「ただいま!お母さん」





あたたかい花に囲まれた一軒家。
エアリスはその家の扉を空けると笑顔でそう言った。

エアリスの声に振り向いた一人の女性。
この人がエアリスのお母さんなのか。エアリスのお母さんは出迎えてくれた。





「このふたりはボディーガードなの。クラウドとナマエよ」

「はじめまして!」





エアリスの紹介に合わせて、あたしは挨拶をした。
クラウドも軽く会釈していた。

ボディーガード。
その言葉にエアリスのお母さんは驚いた顔をしてエアリスを心配した。
まあ、そりゃそーだろうな。





「ボディーガードって…お前、また狙われたのかい!?体は!?怪我は無いのかい!?」

「大丈夫。今日はクラウドとナマエがいてくれたし」

「そうかい…。ありがとうね、クラウドさん、ナマエさん」





エアリスの無事を確認すると、エアリスのお母さんはホッと息をつく。
そして頭を下げ、お礼の言葉をくれた。

話が一段落したところで、エアリスはあたしたちに今後のことを聞いてきた。





「ねえ、これからどうするの?」

「んー、おうち帰る…かなあ。クラウドも七番街に戻る?ていうか何で落ちてきたのさ」

「ちょっとトラブルがあってな…。けどその言葉、アンタにもそのまま返すぞ。何で伍番街にいるんだ」

「暇だったから散歩してたの」

「散歩でここまで来たって言うのか…」

「言いますけど何か!」





なんか唖然とした顔された。
いいじゃんね、別に!伍番街まで散歩したってさ!ふん!

そう開き直る。
でもクラウドもどのみち七番街に戻らなきゃならないのは同じみたいで。





「…けど、そうだな。ティファの店に行きたい」

「セブンスヘブン?じゃあやっぱ七番街だね」

「来たんなら道、わかるか?」

「うん。来た道戻ればいいんでしょ?」

「案内頼めるか?」

「だいじょーぶ!まあ…遠回りしてないって自信はないけど」

「…。」

「ねえ、ティファって…女の人?」





あたしとクラウドの目的地は同じ七番街。
そうクラウドと話していると、エアリスが会話に入ってきた。彼女の興味を引いたのはティファの名前らしい。

クラウドはエアリスの問いに頷いた。





「ああ」

「彼女?」

「ええ!?そうなの!?」

「そんなんじゃない。…というかナマエ、アンタわかってるだろう」

「え?知らないよー。幼馴染みってのしか聞いてないもん」

「ふーん。じゃあ…やっぱりナマエかしら?」

「なにが?」

「ううん、何でもないわ」





エアリスはにっこり笑いながら首を振り、あたしの頭を撫でた。

…あたしが何だい、エアリスお姉さま。
しかし、その疑問が解決されることは無く。





「まあいいわ。七番街なら、私が案内してあげる」





エアリスは微笑みながらそう言った。
それには思わず目をぱちくりさせてしまった。

するとそんなあたしと多分同じ事を考えていたらしいクラウドが言葉を代弁するかのようにエアリスに言った。





「冗談じゃない。また危ない目にったらどうするんだ?」

「慣れてるわ」

「そ、そういう問題なのかなあ…?」

「だって、ナマエの案内、なんとなく不安だもの」

「う。グサリ…」





あっけらかんと言うエアリスにこっちはタジタジだ。思わず胸を抑えた。

はっきり言うなあ…エアリスう…。
いや、辿り着ける自信はあるよ!遠回りじゃないって自信がないだけだよ…。

まあ、それに本題は送ってきた意味は何だったんだって話になるでしょ?
いや、エアリスと居られるのは大歓迎ですけども。

でもどっちにしろ、エアリスは自分の意見を譲る気は無いみたいだった。





「お母さん! 私、七番街までクラウドとナマエを送っていくから」

「やれやれ。言い出したら聞かないからね」





エアリスのお母さんを見てもエアリスが意見を曲げそうに無いのは明白。





「でも、明日にしたらどうだい? 今日はもう遅くなってきたし」

「うん、わかった、お母さん」





エアリスのお母さんの厚意で、今日のところはエアリスの家に泊めて貰える事になった。
エアリスはベットの準備をするために二階にへと上がっていった。

その直後、それを見計らった様にエアリスのお母さんはクラウドに目を向けた。





「あんた…その目の輝きはソルジャーなんだろ?」





そして、クラウドのあの綺麗な瞳をじっと見つめたまま、そう尋ねてきた。

あ、エアリスのお母さんも知ってるんだ。
なんか…やっぱ、あたし世間知らずとかじゃないんだよね…?
再び不安が浮上してくる。

…でも、そんな事考えてるような雰囲気でも無さそうだ。

クラウドは頷いた。





「ああ。しかし、昔の話だ…」

「…言いにくいんだけど、今夜のうちに出て行ってくれないかい?エアリスには内緒でさ。ソルジャーなんて…エアリスがまた悲しい思いをすることになる…」





エアリスのお母さんは目を伏せ、どこか悲しそうに呟いた。

うーん…。これは何かふっかーい事情がありそうなカンジだわ。
気になるけど、問いただすような野暮なことはしなくってよ!

あたしはクラウドに目を向けた。





「あたしはいいよ。クラウド、あたしの案内で良い?」

「着けるなら、頼むよ」

「よしきた!」

「…すまないね」





エアリスのお母さんは本当に申し訳無さそうにしてた。





「気にしないでください。案内頼んでエアリスがまた危険な目に遭うの、あたしたちも嫌ですから。ね、クラウド」

「ああ」





だからあたしはそう笑って、クラウドに同意を求めた。
クラウドも頷いてくれた。

こうしてあたしたちはエアリスが二階から戻ってくる前に、エアリスにバレない様に家を抜け出す計画を立てて置く事にした。

簡潔に言うと、取り合えず二階には上がり休ませて貰うフリをし、こっそりと抜け出す作戦ってことね。





「ふう…っ、あ、クラウド。おまたせー」

「…ああ、じゃあ…行くか」





バレない様に、抜き足差し足で廊下を歩いて外で待ち合わせる。

まだ真っ暗、ていうかバリバリのミッドナイトですぜ!
…と、まあ、そんな時間。先抜け出し外で待っていてくれたクラウドに駆け寄り、あたしたちはエアリスの家を後にすることにした。





「えーと、確か六番街を抜けるんだよね。うん、あっち」

「本当に大丈夫か?」

「大丈夫だよ!最悪看板見れば着ける!」

「結構大雑把な性格してるんだな」

「よく言われる!いいでしょ別に!」





ふん!と開き直る。大雑把?雑?上等じゃい!

ともかく、戦闘についてはクラウドは頼りになるし、そんな風に他愛の無い話をしながら先に歩いていた。





「そういえば、さっきも聞いたけど何で教会に降ってきたの?トラブルって?」

「ああ…、魔晄炉にプレジデント神羅が現れたんだ」

「プレジデント!?社長!?」

「ああ」





ちょっと予想外すぎた回答に目玉が飛び出そうなくらい驚いてしまった。
だって、あの神羅の社長だよ、社長。





「んで?」

「試作か何かの戦闘マシーンを用意してきて、何とか破壊したんだが…その爆発で足元が崩れて、そのまま落下した」

「うっわあ…予想外に超デンジャラス…。ティファやバレットは?」

「魔晄炉も爆破寸前だったからな…、逃がしたよ」

「そっか。それなら安心」

「何事も無ければ店に戻ってるだろうな」

「そだね。でもクラウドも本当無事で良かったよねえ…」

「…そうだな」





本当、他愛の無い話。
でも特に会話が途切れることも無かったから、結構あたし的には楽しかったかもしれない。

しかし、そんな会話の途中…ひとつの聞き覚えのある声が会話に入ってきた。





「楽しそうね」

「「!?」」





前方から聞こえたその声。

腕を組んで立っていたその人物に、あたしとクラウドはかなり驚いた。
あたしなんて、思わず指差しちゃった。





「え、エアリス!?」

「お早い出発、ね」

「ど、どして!?いつの間に!?エスパー!?あっ!まさか神羅はエスパーを狙って…!」

「…ナマエ」





ひとりでギャーギャー混乱してると、クラウドにむんず、と肩の掴まれて「ちょっと黙ってくれるか」みたいな顔をされた。

う…、なんか地味に傷つくよ、それ。
あたしがそうショックを受けている間にクラウドはエアリスに言葉を返していた。





「危険だとわかっているのにアンタに頼る訳にはいかないさ」

「言いたいことはそれだけ?平気よ、案内してあげる。いきましょ」





それだけ言うと、エアリスはさっさと先に歩いていった。

あたしはそっとクラウドの顔を見た。





「もう諦めたほうがいーかもよ?」

「…そうかもな」





クラウドは降参だとでも言った様にやれやれ、と首を振った。

ま、あたしはエアリスといられるの嬉しいからいーや!みたいな感じで。





「エアリスー!待ってー!」





お気楽にエアリスの事を追いかけた。




To be continued



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