ウォールマーケット



「ここ、いろんな意味で怖いとこよ。特に女の子にはね。早くティファさん、見つけなくちゃ」





六番街スラムにある商店街ウォールマーケットを前に、エアリスはそう言った。

特に女の子には怖いところ。
その意味がわからない程、お馬鹿じゃない…っていうか子供じゃなくってよ。

だから、かなり気になった。





「ティファ、何でこんなとこ来たんだろ」

「わからない。とりあえず聞き込みでもするしかないか…」





感じた疑問をクラウドに投げかけた。

今、あたしたちは七番街に繋がるゲートを通らず、ゲートから反れた場所に位置するウォールマーケットを訪れていた。

その理由は、先程エアリスの案内で通った公園での出来事にある。

その公園ってのは七番街へのゲートと面していて。お、ついたついた!…なんて思ってたんだけど。

そんな時、ゲートが突然開いてチョコボ車が出てきたのだ。
しかも何故かそのチョコボ車にはティファが乗ってて。
しかもしかもしかも、ティファの格好は何ていうか…ものすごーく、めかし込んでると言うか…、際どいと言うか…うん、超セクシー!みたいな。
いや、ティファはスタイル抜群だから凄い似合ってたけど…。

まあ、とにかく様子が変だったわけだ。
だからこうしてティファを追いかけてウォールマーケットに足を踏みいれたわけです。





「ねえねえお姉ちゃん」

「え?」





すると、トントンと肩を叩かれた。
振り返ると、そこには見知らぬお兄さん。
お兄さんはニヤーっと笑った。





「いやあ、君カワイイねえ!どう俺と遊びに行かないー?」





ぞわわわわっ!
物凄い鳥肌がたった。





「いやあああああっ!クラウドー!!!」

「!?」





あたしは思わず叫んでクラウドの元に逃げた。
いきなり大声で呼ばれたもんだからクラウドはビックリした顔をしていた。

でも男の名前を叫んだのが良かったのだろう。見知らぬお兄さんは舌打ちをしながらどこかに歩いていった。

…ウォールマーケット…恐るべし。





「クラウド!ナマエ!情報、発見よ」





あたしがそんな事をしているうちに、エアリスはさっさかと情報収集をしてくれていたらしい。

エアリスって大人しい顔して行動派というか…なんか凄い。
小さい頃からスラム暮らしってのは伊達じゃないってことなのか…。
それに美人さんだから話しかけてくる男もいっぱいいるけど、あしらい方も上手い。





「エアリス。あたし、エアリスのこと姐さんって呼びたい」

「いやよ、そんなの!」





羨望の眼差しを向けたのに即却下された。

うむ、残念…。
まあ、そんなことはともかく、あたしたちはエアリスが聞いた情報っていうのを頼りに、マーケットの一番奥。なんとも怪しげなお屋敷の前まで来ていた。





「…本当にここにティファいるの?」

「たぶん、ね。ここのドンがお嫁さん探しをしているらしくて、その候補のひとりになってるみたい」

「なんでそんなことになってんのティファ…」

「ともかく、行ってみるぞ」





クラウドの言葉に頷いて、あたしたちは主ドン・コルネオのお屋敷に向かった。

でも、さすがドンというか、お屋敷の前には見張りの男が立っていた。





「ここはウォールマーケットの大物、ドン・コルネオ様のお屋敷だ。いいか、ドンは男には興味ないんだ。さっさとどっかへ…」





見張りの男はクラウドを見るなり、シッシッと追い返すような態度を見せる。
でも、ふとクラウドの後ろに目を向けるなりコロッとその態度を一変させた。





「ああっ、良く見たら綺麗な姉ちゃん達も一緒!ね、どう?うちのドンと楽しい一時を過ごしてみない?」





その言葉に、あたしたちは一旦その場から離れ背を向けて小さな声で相談を始めた。

綺麗な姉ちゃん達、エアリスだけじゃなくあたしも綺麗に入れてくれた事は光栄だ。だけども。





「絶対地獄の一時だと思う」

「…そういう問題じゃないだろ」

「わかってるよ!…でも、うーん…かなり嫌だけど、入れるならあたし見てきてもいいよ?」





クラウドが入れないんじゃ仕方ないし。
あたしがそう提案すると、エアリスもそれに便乗するように名乗り出てきた。






「私も。ティファさんに会ってクラウドのこと話してきてあげるわ」

「ええ!?エアリスはだめだよ!」

「どうして?ナマエこそ嫌なら無理しなくていいんだから」

「いや、それは…でもエアリスは絶対だめだって!」

「どっちも駄目に決まってるだろ!」





エアリスと言い合っていると、最後にそう止めたのはクラウドだった。





「ここは…その…わかるだろ?」





クラウドは頭を抱えながらそう言う。

その言葉にあたしとエアリスは顔を見合わせクラウドに尋ねた。





「そんなこと言ったって仕方ないじゃん」

「じゃあ、どうする?あなたも入る?」

「俺は男だからな。無理矢理入ったら騒ぎになってしまう。かといってナマエやエアリスだけ行かせるわけには…いや、しかし…まずティファの安全が…」





クラウドがそう難しい顔でぶつぶつと考え出した。

そんな時、エアリスは悪戯を思いついたような顔でクスッと小さく笑いながらあたしの肩を突付いてきた。
あたしが首を傾げると、エアリスはそっと耳元で囁いて教えてくれた。

…ほほーう。
それを聞いたらあたしも思わずニヤリとしてしまった。





「なにが可笑しいんだ?」





自分を見てニヤニヤしているあたしとエアリスに気がつくクラウド。
あたしたちはニンマリしたままクラウドに言い放った。





「クラウド、女の子に変装しなさい。それしかない、うん」

「超ナイスアイディアだね!」

「ええっ!?」





エアリスの提案に声を上げるクラウド。
あたしたちはそんなクラウドを無視して見張りの男に笑みを浮かべた。





「ちょっと待っててね。綺麗な友達連れてくるから」

「しばらくしたら戻ってきまっす!」

「ナマエ、エアリス…!いくらなんでも…」

「さ、早く早く」

「いくぞ、クラウド!」

「お、おいっ!」





あたしとエアリスは戸惑いっぱなしのクラウドの腕を掴んで商店街の方に戻っていった。
はっはっは!諦めたまえ、クラウド。


こうして決行されたクラウド女装大作戦。

カツラとドレスは絶対として。コロンとかティアラとか。





「あ!エアリス見て!これ、セクシーコロンだって!」

「わあ、本当!いい匂いだけど、自分でつけるのは気が引けちゃうね」

「…あんたらな」





エアリスと一緒にノリノリで集めていくアイテム。
もうなんか楽しくて仕方なかったね、うん。

だってさ、クラウドってわりと中性的な顔立ちしてるし、見てみたいじゃんよ!!!
正直、この時のあたしは好奇心の塊と言っても過言では無かったね。


でもさ…いくらなんでも、これは予想外だった。





「…く、クラウド」





無理矢理エアリスに試着室に押し込まれて、覚悟を決めたクラウドが出てきた姿に思わず口をあけてしまった。





「おしとやかに歩いてね、クラウドちゃん」

「…何がおしとやかにだ」

「クラウドちゃん、かわいいよ」





楽しそうに笑うエアリスに呆れたように頭を振るクラウド。

するとクラウド、ぽかーんとしているあたしの視線に気がついた。





「ナマエ、何だ」

「嘘でしょ、ありえない…」





そう。ありえない。

さっきの素敵なお兄さんはどこいった。
あ、ありえないって…。

あたしは思わずクラウドを指差して叫んでしまった。





「ありえない!あなた誰!?」

「はあ…?」

「クラウド超美人!なにそれ!?やばいよ!やば過ぎる!あたしちょっとカメラ買ってくる!」

「なっ!?行くな!」





この姿を残さねば!
とっさにそう思ったあたしは服屋を飛び出そうとした。
でもクラウドにガシッと肩を掴まれて止められてしまった。

くそ、残念だ…。
だって…本当、予想以上すぎるというか…。
普通にちょっと背の高いお姉さんなんだけど…。

あたし男の子だったら惚れるよ。
いや…もともとマイヒーローそっくりな時点でクラウドのお顔は超ストライクなわけだけど。

そんな様子を見ていたエアリスはくすくす笑っていた。





「ふふっ、でも、そのドレス、いいな。私にも似合うドレスないかな?あと、ナマエにも、ね!」

「へ?」





あたしを見てニッコリ笑うエアリス。

ほ…?あたしに、ドレス…?





「いやいや、エアリス。あたしはいいよ」

「あっ!これなんか可愛い!きっと、ナマエに似合うよ」

「あ、あのエアリス…?」

「私はこれがいいな。じゃあ着替えましょ、ナマエ」

「え、え…?」

「覗いちゃ駄目よ?」

「え、エアリス!?聞いてる!?クラウドー!!!」





クラウドに助けを求めるも、さっきの仕返しだとでも言うようにガン無視されて結果空しく…あたしもエアリスに試着室に押し込められてしまったのだった。



To be continued


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