カウントダウンのはじまり



「私…どうしていいか、わからなかったの…」

「え…?」





ティファは、悲しげに呟いた。





「私の記憶と、クラウドの記憶…ちょっとずつ、ずれてた。クラウドの話してる事、少しずつ変だなと思ったの。知ってるはずの事知らなかったり、知らないはずの事知ってたり…」

「……食い違ってた?」

「…うん。…私は色々確かめたかった。でも、聞いたら…何か恐ろしい事になってしまいそうで…。…どうしたらいいかわからなかった。時間が必要だって思ったの。だから…、それなのに…」

「…ティファ…」





崩れる竜巻の迷宮から逃れるように飛び上がった飛空艇。

その中で、あたしはティファに聞いた。

震えてた理由。
クラウドを肯定できなかった…そのわけ。



ティファの辿った記憶…。
5年前…クラウドはニブルヘイムには帰ってこなかった。


ティファがずっと、たまにクラウドの事…不安そうに見てるの、気付いてた。
ああ、そう言うことだったんだ…って、納得した。

ティファの不安は、最悪の状況で…最悪の形として現実になってしまったんだ。










「……メテオ、ねえ…」





それから、7日が経った。

あたしは飛空艇ハイウインドから空を見上げてる。
その先にはぽっかりと赤く、禍々しく染まった隕石。

…メテオ…。

それは、セフィロスが黒マテリアを発動させた証拠だった。

また…それとほぼ同時に現れたものがあった。

ウェポン。
それは、セフィロスに危機を感じた星が目覚めさせたモンスター。

この二つのせいで世界は今、大混乱に陥っていた。

…うーん…。
なんか…なんか…なんか…。





「あーもうッ……こんにゃろーッ!!!!」





色々溜まって、叫んだ。
ていうか叫ばなきゃやってらんない。

ふう…ちょっとすっきり………でも無いけど…。
むしろ…なんか逆にやるせなさに変わった気もする…。

だって…メテオが降ってきたら…この星は壊れて無くなってしまう。

もう…時間は残り少ない。
最悪のカウントダウンの…はじまりだった。





「いきなり叫ぶんじゃねえよ…。ビックリすんだろうが」

「…え?」

「どうせ叫ぶなら、このハイウインドへの感動にしてくれや」





その時、背中のほうで声がした。
振り返ったら見えた、吹かした煙草の煙が風に流されていく。





「なーんだ…シドかあ」

「なんだとはご挨拶じゃねえか」





シドにべシッとおでこを叩かれた。
あたしは笑いながら軽くそこをさすった。

このハイウインドの艇長は、勿論シドだ。

どうしてあたしたちは飛空艇なんかに乗ってるのか。
その理由も、シドがいてくれたおかげだったりする。

最初、ルーファウス達が絶壁に来るために使用したのがこの飛空艇だった。脱出に使われたのも然り。

その脱出の際、ハイデッカーに扱き使われて鬱憤の溜まりまくっていたクルー達が伝説のパイロット・シドの存在に感動して協力をしてくれたらしい。

早い話乗っ取ったそうだ。

まあ…詳しい経緯はよく分かんないけど…要はあたしたちには大きな足が出来た。
この飛空艇ハイウインドという大きな翼が。

重要なのはそこだ。うん。こりゃいいもん手に入ったよ。





「結構感動してるよ。ずっと乗ってみたかったもん。気持ちいーよね。あたし、この場所好き」

「そうかあ?ま、気持ちはわかるけどよ…。あんなもんも浮かんでりゃ…見あげるたびに気が滅入って仕方ねえってんだ」

「…だよね」





また煙を吐いて、シドも空を見上げた。

飛空艇の中には、他の皆も乗ってる。

でも…足りない。
今まで一緒に歩いて来た仲間…全員じゃないんだ。

まず、ティファとバレット。
ふたりは反神羅組織アバランチの一員。
あの迷宮から逃げる混乱の中で、2人は神羅に捕まってしまった。

そして…もうひとり。





「……。」





空を流れて行く中、あたしは北に視線を向けた。

思い浮かべるのは…金髪と青い目。



…クラウド…。



はあ…と、つい大きな溜め息が出た。

ああああ…溜め息つくと幸せが逃げる!
…そんな風にも思ったけど、でもやっぱり状況が状況だったから。

彼は、消息不明。
…この表現がぴったり、かな。

…クラウドはセフィロスに黒マテリアを手渡して…そのまま、崩れていくあの場所に…。

…あれから、もう7日…。

そんなに経っちゃったんだな…。
そうやって、ぼうっとあの日のことを考える。

するとシドは頭をポリポリ掻いてた。





「まあそれよりよ…あの猫野郎の話によると準備整ったらしいぜ」

「へ?あ、本当?」

「俺様はそれを伝えにきてやったわけだ。有難く思えよ」

「ははっ、恩着せがましいなー!でもそっか、わかった。じゃあ、行きますか」





あたしは、携えたソードに手を伸ばして…ぎゅっと柄を握りしめた。

正直…よくわかんない。色々…わからないことばかり。
頭の中、ぐっちゃぐちゃだよ。

でも、そんな中でも…やらなきゃならないことってのはある。

ケット・シーの情報によれば、神羅側はこの混乱を招いた張本人としてティファとバレットを処刑するらしい。
…っとに、悪趣味なこと考えるよなあ…と思う。

とにかく、そんなことさせるわけにはいかない。

だから助けに行く。

つまりは、その準備が整ったって話だ。
それが今やらなきゃならないことなのは、間違いないからね。





「ほな、作戦を確認しますで?ナマエさんとユフィさんは、ジュノン港で待機しといてください。まず、ボクが忍び込んでおふたりの様子を確認しますから」

「はいよー…うぷっ」

「うん、了解」





ティファとバレットはジュノンの支社に捕まってる。
だから飛空艇が目指してるのはジュノン。

ふたりを奪還したら、さっさとこの飛空艇でおさらば!って、簡単にいえばそんな作戦だ。
使えるもんは有効に使うっきゃないもんね。

あたしの持ち場はユフィと一緒。
ユフィは作戦の概要だけ聞くと、ふらふらと隅っこにうずくまってた。

酔い持ちのユフィには飛空艇は苦痛以外の何ものでも無いらしい。
バギーの時同様、あたしにはその辛さはよくわかんないけど。

ま、あとで鎮静剤でも渡してやろう。
ていうかユフィには悪いけど…それよりも、だ。





「………。」





あたしは物言いたげに、デブモーグリの上で指揮をとる黒猫を見つめた。

だって…この人はいいんだろうか、って話でしょ。

その視線に気がついたらしく、黒猫はあたしを不思議そうに見てきた。





「ん?どないしました?ナマエさん」

「いや…いーのかなあって」

「何がです?」

「だって、ケット・シーは神羅の社員でしょ?立場とか…ない?」





こんなに協力してくれちゃって…。
ていうかもはや完全に逆スパイに見えてきたんだけど…。

そう言うとケット・シーはは照れたように、はにかんだ。





「ははっ、ナマエさん…その言い方、まるで僕のこと心配してるように聞こえますなあ…」

「えっ?うん、そりゃ心配してると…思う、けど」





古代種の神殿の一件もあるし。
どうもそこまで悪い人じゃない様な気がしてならない。

あたしたちが旅する中で、それを見てると…自分はこのままでいいのかと考える。
ゴールドソーサーで、彼はそう言っていたから…。





「…おおきに、ナマエさん」

「え…?」





お礼と一緒に、デブモーグリにトン…と優しく肩を叩かれた。

見上げると、黒猫は笑っていた。





「ボクは神羅の社員やけど…処刑には反対なんです」

「…そーなの?」

「ナマエさんは…悪趣味やと思いませんか?」

「…すごい思う」





こくこくと何度も頷いた。

すごい思う。超思う。
ていうかずっと思ってた。

あまりに何度も頷くあたしに、ケット・シーは「そう言いはると思いました」って噴き出してた。





「せやから、頑張りましょ。ティファさんとバレットさん、必ず助け出すんや!」

「…うん!」





こんな風に言ってくれる人が、完全に敵だなんて…あるんだろうか?
少なくともあたしは、そう思っちゃうわけで…。






「ありがと、ケット・シー!」





だからお礼を言った。
そしたらケット・シーは首を横に振った。





「お礼を言うのは…ボクの方です」

「え…?」

「ま、ナマエさんの存在は、ボクにとって有難いっちゅーっ話ですわ」

「…もっと意味がわかんないです」

「…説明は難しいんや。そやな…ナマエさんがいるから、ボクはスパイがやりにくうなってきたって感じやな」

「…んー…?」

「コレ、一番的確やで?」





ケット・シーはそう言って、また笑った。
それ見たらあたしも釣られて笑ってた。





「さ、そろそろ着く頃や」

「うん!」





……そろそろ、ジュノンが見えてくる頃。

さあ、頑張んないとね。
あたしは震えてるユフィの背中をバシッと叩いて、降りる準備に入った。














「お急ぎのところすみません!ちょっとインタビューを……なーんてね!どうよどうよ?」

「………。」





降りたったジュノン港。

軽く変装して、マイクを持ったユフィがあたしに向かって笑顔を振りまいてくる。
いや、正確にいえばあたしの持ってるカメラに向かって、か。





「ちょっとナマエ、なんか反応しなよ」

「ていうかなんでユフィがレポーターであたしがカメラマンなの」

「じゃんけんの結果でしょ?いーじゃん、裏方似合ってるよ」

「いや全然嬉しくないけど!?」





ケット・シーの指示通り、あたしはユフィとジュノン港で待機をしていた。
怪しまれない様にウェポンの情報のレポーターとカメラマンを装って…。

ああ、なんかユフィがノリノリなだけにさっきのチョキが恨めしいぞ…ちくしょう。
むう…と出してしまったチョキを見つめて微妙にふくれた。

するとユフィはそんなあたしを見ながら、少し真面目な顔をしてマイクを降ろした。





「まあさ、ティファたち助けたら…次はアイツ、探すんでしょ?」

「…えっ?」





打って変わって、真面目な話。

ティファとバレットを助けたら…。
アイツを探す、か…。





「そうだね…」





あたしはその声に小さく頷いた。

7日の間…目が覚めてブリッジに姿が無いのを見ると…無性に苦しくなった。
あれは夢じゃなかったと、朝が来る度に痛感させられた気がした。

そんなあたしを見て、ユフィは目を細めていた。





「…ナマエ、なんか元気なーい」

「…え?」

「そこはさ、あったりまえでしょ!とか言うんじゃないのー?」

「あ、あー…うん!あったりまえだよ!」

「いや遅いでしょ…」





何とも歯切れの悪い返答。

ユフィの目が更に細められる。
…うう、そんな目で見るな…!





「も、もちろん…探すでしょ。皆だって、そのつもりでしょ?」

「ナマエは特に、じゃないわけ?」

「…どーしてさ」





仕返し。
今度はこっちが目を細めた。

そりゃ…あの竜巻の迷宮に、探しに行きたい。
どうなったのか。どうしてるのか。

正直な話…気になって気になって、仕方ない。

けど…。





「…まあ、気になるけど…でも」





でも同時に…ちょっとだけ、怖いと思った。

だって、最悪の事態だって、浮かばないわけじゃない…。

あと…もうひとつ。
まったく逆の意味でもひとつ。





「なんとなく…会うのが怖いかな、と」

「は?」





ぽっつり、本音を溢したら今度は凄い怪訝そうな顔をされた。
…だからそーゆー顔…本当にやめて下さいユフィちゃん。

なんだよー文句あるかー、って意味込めてちょっとだけ睨み返した。

いやまあ、わかってるけど…。
探したいのに、会うのが怖いとか…矛盾しまくってますからって話だもんね。





「それって…あたしらがクラウドだと思ってたのはもしかしたら…ってこと?」

「うーん…。それもあるかもだけど。…ちょっと違うかなあ」

「え…?」





宝条が言っていた。

クラウドは…セフィロスコピー。宝条が創った、人形だって。

あたしも…クラウドが見えなくなった。
ティファの話も聞いたらますますわからなくなった。

でもあれから7日だ。
あたしは7日間…考えた。

そしたら、頭の中では最後にクラウドが言ってた言葉が残ってた。

クラウド…ずっと皆にごめんなさい、って繰り返してた。





「クラウドさ…謝ってたから」

「謝ってた…?」





自分が壊れかけてたのに…人のことばっかり。

でも、感情が無いと言いながら…申し訳ないとか…。
そういう言葉って出てくるものなのかな?

だからそれって…感情が無いなんて言うが嘘だって証拠じゃない…?
それは…クラウドが自分で思って言った言葉だよね?

それに…。
あたし、クラウドのこと見て…優しいなとか、そういう風に思ってた。
そう感じたのに、それも幻だったって?

そんなの、しっくりくるわけない。
…だからつまり、からっぽじゃないってことだと…思うんだけど…、違うかな?

上手く説明できない。
証明する事も出来ないけど。

でも…だからあたしの中では、なんだか少しだけ希望はある…気がしてた。

まあ完全に勘、だけどさ。
でも、思っちゃってるもんは、思っちゃってるから。





「ううん!ごめん、なんでもない!」





説明は出来ないから話を打ち切った。

だから…あたしが怖いと思ってるのは…きっと、そこじゃない…。

会うのが怖いって、何が怖いの?
そうやって聞かれても…どうやって答えていいのかわからない…。

しいて言うのなら…、後ろめたい…って言うのかな。

なんか…つん、と胸の奥が痛い。
あんまり…考えたくない…。





「………。」





でも…止まったらきっと、それこそウジウジしそう。

最悪の事態とかも…、考えたくない。
…生きてるって、思いたい…。

クラウドが居なくなったら…。

…そう思うだけでぞっとする。
…怖くて頭がおかしくなりそうだ…。

でもだからこそ…。
どうこう考えるより…どうせ考えるなら前向きの方にするって、7日間で決めた。
諦めるのは…クラウドがどうなったのか、自分で確かめてからにするって。

ていうか、そもそもウジウジしてる自分とか超気持ち悪いしね!



うん…だから…。
そうなるまでは…信じる、って。



無駄に弾んでる事が、あたしの取り柄だから。





「あ!ナマエ!あれそうじゃない!?ケット・シーとバレット!」

「え!あ、本当だ!」





その時ユフィに言われて、跳ねるデブモーグリと大柄な男が遠くに見えたのに気がついた。

ほら、気合入れ直せ…!

カモフラージュのためにつけてた伊達眼鏡を外して、隠してたソードを確認する。

…うん、大丈夫!
さあ…エアポートまでサポートしますか…!





「ユフィ、準備出来てるー?」

「あたしに抜かりはなーい!」





ふたりを待ちながら、片隅で考えた。

何かが…つん、と…胸の中で引っかかってる。
ぐちゃぐちゃしてて、嫌な感じ。


けどね…確実に言えるのは…。
もう…誰かがいなくなるのは、嫌だ。

お願い…もう、誰も…いなくならないで。

そうやって祈りながら、走り出した。



To be continued


prev next top



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -