悲劇の記憶



「青い空!白い雲!おーそーとー!!!」





スーパーハイテンション。
やっほー!ってな勢いでわあっと叫ぶ。

すると後ろから聞こえてきたのはノリの悪い声ふたつ。





「ナマエ、そっちは南だ。カームは北東だぞ」

「元気のいいお嬢さんだな」

「ちょっ!クラウド!レッド!ふたりとも超ノリ悪いな!」

「…あんたが浮いてるだけだ」





浮いてる。
なんかクラウドのその言葉にはガツーン!と頭を殴られるくらいの衝撃を受けた。

ううう…いいじゃないか。
はしゃいだって、いいじゃないか…!

よよよ、とちょっと泣きたくなった。


…あれから、ミッドガルを出ることにしたあたしたち。
でも6人でゾロゾロと歩くのも難だと言う事で、クラウドの決めた2パーティーで北東にある街、カームを目指している。

ちなみに、あたしはクラウドとレッドXIIIと一緒に。
エアリス、ティファ、バレットとは別行動。

神羅ビルの時と同じメンバーね。





「あのねー、あたしミッドガルから出たこと全然無いんだよ?はしゃぐなって方が無理な話だと思わない?」





あたしのこの反応は正常よ!の主張をした。
だってなんかあんまりじゃないか!このふたりの反応は!





「あんたもだったのか?」





するとクラウドに聞き返された。
クラウドの言う「あんたも」は、エアリスの事を指しているのだろう。
彼女も「出るのは初めて」と言っていた。





「うん。だってあたし、ミッドガル育ちだもん」





ミッドガルの外。それは未知の世界だった。
とくに出る必要も無かったから、ね。

するとそれを聞いたクラウドは少し難しい顔をした。





「…良かったのか?あんたは、別に何か目的があるわけじゃないだろ?」

「んー、まあ、そうだけど。でもあたし、行くところないもん。七番街無くなっちゃったし…。それに外の世界、興味あるんだ。旅とかちょっと憧れてたし!」





笑って言えば、クラウドは「ならいいんだ」と頷いてくれた。

本当に興味はあった。すっごくすっごく。
だから今、正直、かなりウキウキわくわくしてる。

ていうか置いてかれても困るしね。
うーん、…実際はこっちのほうがかなり本音かもしれない。

まあ、なんでもいっか。
自由奔放にあたしは生きるんだい!





「んで、レッドの故郷は遠いの?」





そんなこんなでカームに向けて歩きだした。

その道中、あたしは視線を落としレッドXIIIに目を向けていた。
レッドXIIIはそんな質問に尾を揺らしながら答えてくれた。





「それなりには、な」

「そっか。じゃあ当分は一緒にいられるね」





レッドXIIIは故郷に帰るつもりらしく、それまでは一緒にいてくれるらしい。
個人的には嬉しい限りだ。

彼とは神羅ビルで目が合った時から何となく勝手に親しみやすさを感じているんだけど、気のせいかな。

いやー、かなり衝撃的に格好いい性格してたもんだからさ。
あたしとは超正反対っていうかね。

でも、ふわふわと撫でても嫌がる素振りもないし、案外間違いでも無いのかもしれない。





「クラウドはミッドガルの外って?」





レッドXIIIの次は、先頭を歩くクラウドに話を振ってみる。

クラウドは足を止めることなく、歩いたまま振り返った。





「俺はもともとミッドガルの出身じゃないからな」

「あ。そっか。ティファと幼馴染みなんだもんね。えーっと…なんて言ってたかなあ。前にティファに地名聞いた気もするんだけど…」





ティファの故郷…。
うーん、と思い出す。あまり詳しく聞いたわけじゃないからな…。

忘れちゃったかも…。
うーん、うーん、とひたすら悩むあたしを見て、クラウドは教えてくれた。





「…ニブルヘイムだ」





低く、呟くような声。

その一瞬。
クラウドの表情が、少し強ばったように見えた。








「カーム到着ー!」





そして歩くことしばらく。

皆との落ち合わせ場所であるカームの街に到着。
この街はミッドガルと同じで魔晄エネルギーを使っているとか何とか。

あたしにとってはミッドガルの外にある街って言うのはものすごーく新鮮で。
さっきから続くスーパーハイテンションにも更に磨きが掛っていたり…。





「よっしゃ!とりあえずアクセサリー屋でも行こうか!」

「…まずは宿屋だ」

「ええー…」





キラキラした目でショップの方を指さすも、クラウドに即却下されてしまった。

…そ、そんな殺生な…。





「もうバレット達もついてるはずだ」

「まあ…そーかもだけどさあ…」

「わかってるなら行くぞ」





カラーン…と響く、ベルの音。
クラウドは宿屋の扉を開け、中に入って行っていってしまった。

ううー…ショッピングー…っ!!!
名残惜しさで、ショップの方を見て項垂れる。

…んー…一人で行ったりしたら駄目かなー…。
我ながら感心する諦めの悪さだと思うけど仕方ない。





「皆に怒られるのではないか?」

「…だよねえ」




ショップの方をガン見しっぱなしだったあたしの傍に来て、そう言ったのはレッドXIII。

あたしはしゃがみ目線を合わせ、彼に提案をしてみた。





「ねえ、一緒に行かない?んで一緒に怒られようよ」

「…勝手に共犯にしようとしないでくれるか」

「…やっぱ駄目か」





まあ、予想通りの結果というか。
ていうか、ここでOKだされたら逆に「ええ!?」って感じなんだけども。

でも、やっぱりレッドXIIIって相手してくれるって言うか、ちゃんと話してくれるよね。
クールに見えてなかなか良いお喋りの相手を見つけてしまったかもしれない。





「仕方ない…、入るかー…」





流石に諦めて、立ち上がる。
そしてレッドXIIIと一緒に宿屋の中に入った。









「これで、みんな揃ったわね」





エアリスが皆の顔を確認した。

宿屋の中に入ると、クラウドの言う通り皆もう先にカームに到着していて部屋を取っておいてくれていた。

2階にある大きめのお部屋。
あたしは部屋に入ってすぐに、設置されているベッドにポフッ…と腰掛けた。





「さあて…聞かせてもらおうじゃねえか。セフィロス、星の危機。お前が知ってる事のすべてを」





バレットがクラウドの問いかけたのは、神羅ビルまでに残ったいくつかの疑問点。
古代種。約束の地。ジェノバ。そして…セフィロス。

クラウドはゆっくりと、語り始めた。





「…俺はセフィロスに憧れてソルジャーになったんだ。幾つかの作戦をセフィロスと一緒にこなすうちに、俺達は親しくなった」





セフィロスとかジェノバとか、あたしもかなり気になってる。
や、ここにいる全員が気になってるか。

だから今回は変に口を挟むことも無く、黙ってクラウドの話に耳を傾けることにした。





「親友ってやつか?」

「どうかな…年も離れていたしセフィロスは自分の事は殆ど話さなかった。戦友…かな。俺達は信頼しあっていた。あの時までは」

「あの時?」





エアリスが聞き返す。
するとクラウドは、ルーファウスと話した後の時の様な…何か思いつめたような表情を、また浮かべていた。





「戦争終結後のソルジャーの任務は神羅に反抗する人達を…憂鬱な仕事が多かったな。…あれは5年前。俺は16歳だった…」





クラウドが語りだした5年前。

それは…当時、クラウドがセフィロスと共に出向いた任務の話。
舞台は…クラウドとティファの故郷――――ニブルヘイム。

母親や幼馴染みとの再会。
そう言った類の柔らかいエピソードもあれば、セフィロスに関する重要な事実も隠されていた。





「セフィロスは俺に尋ねてきた。帰郷の感想を…。自分には故郷が無いからと。そして…自分の親の事…。母親の名前は…ジェノバ」

「ちょっと待った!な、あれじゃねえか?母親の名前…ジェノバ…覚えてるぞ!神羅ビルにいた首無しの化け物だな!」





クラウドの話を遮るほど興奮気味なバレットにあたしも頷いた。

ジェノバ。
それは神羅ビルのあのキモチワルーイ奴だ。

あれがセフィロスの母親…?

正直な感想…なんだそりゃ、だ。
いや、確かに女性っぽーい体はしてたけども…。





「ちょっとバレット。クラウドの話、ちゃんと聞かせて。質問は後よ」

「でもよお、ティファ…」

「さあクラウド、続けて」





ティファの促しにより、クラウドは話を続けていった。

翌朝、ティファをガイドに村の近くの山の中にある魔晄炉の調査に出向いたこと。

その魔晄炉で神羅がモンスターを生み出している事実を知ったこと。

そして…その調査から、セフィロスの様子が急変したこと。
セフィロスはニブルヘイムの中にあった古い神羅屋敷と呼ばれる建物の中で何日も狂ったように本を読み漁り……そして、ある時…。


ニブルヘイムを…焼き払ったこと。










「…えっと…つまり、ニブルヘイムの調査を切っ掛けに、セフィロスはおかしくなって、そのままニブルヘイムを焼く払った…。それがクラウドとセフィロスの因縁、と…こゆこと…?」





クラウドの話が終わって直ぐ、あたしはおず…と手を上げてクラウドに尋ねた。





「ああ…まあ、そうだな」

「ものすごーく、簡単に言ったね?」





エアリスに突っ込まれた。
……ああ、うん、なんか…本当、ざっくりでごめんよ…。

正直、クラウドの話は難しくて、ナマエちゃんの頭ではついていくのが精一杯だったのよ。
…ていうか、ちゃんと付いていけてたのか心配すぎる…。

ともかく、おかしくなったセフィロスがクラウドとティファの故郷を焼き払って…。

そんなセフィロスを追いかけて、クラウドは魔晄炉に向かった。仇を討つために。
そこでは同じようにセフィロスを追っていたティファが倒れていた。
ティファを斬りつけたセフィロスは安置されたジェノバに語りかけ…。
クラウドは、その背中に戦いを挑んだ。

…と、…うん。正直ちんぷんかんぷんね。何ってセフィロスの言動がさ。

…いや、というか…ちょっとビックリしたのかな。

だって…ちょっと壮絶で。
どうしたらいいか、なんて言ったらいいか、わからなくなったのかも…。





「対峙した後の事は…覚えてない。でも実力から言って、俺がセフィロスを倒せたとは思えないんだ」

「公式記録ではセフィロスは死んだ事になっていたわ。新聞で見たもの」

「新聞は神羅が出しているのよ。信用出来ない」





ティファが言う新聞の記事は、あたしも見た記憶がある。
だから漠然と、セフィロスは過去の存在…そんな風に思ってた。

でも確かに、エアリスの言うとおり新聞を出してるのが神羅って事を考えると…超怪しいし…。

そうあたしが無い脳味噌で頑張っていると、クラウドは手を強く握りしめていた。





「…俺は確かめたい。あの時、何があったのかを。セフィロスに戦いを挑んだ俺はまだ生きている。セフィロスは、何故俺を殺さなかったのか?」

「…私も生きてるわ」





クラウドもティファも、今、ちゃんとここにいる。

それを考え、エアリスは「うーん…」と首をひねらせた。





「何だか、いろいろ、変。ねえ、ジェノバは?神羅ビルにいたのはジェノバ、よね?」

「神羅がニブルヘイムからミッドガルへ運んだのは確実だな」





でも、その後…あたしたちが独房に入れられている間にジェノバは消えていた。
誰が持ち出したのか…。プレジデントを刺していた刀の存在を確かめると…セフィロスの仕業なのか。

………うーーーーーん。





「あー!!全っ然わかんない!」

「かーっ!訳がわかんねえ!俺は行くぜ!俺は行くぜ!俺は行くぜ!!考えるのはお前達に任せた!」





結果、ほぼ同時にあたしとバレットは完全に投げた。

もういい!暗い空気嫌!
クラウドもティファも生きてて、あたしはこうして出会うことができた!
それって、すっごくラッキーでしょ!世の中には人なんていっぱいいるんだから!
巡り合わせに感謝せよ!

んでもってセフィロスも神羅も色々やばい!
そんだけの話!って感じで自己完結。

…した時だった。





「……ん?…ティファ…?」





ふと気がついたティファの顔色。

良い思い出の話じゃなかったから、気分でも悪くなったのかなって最初は思った。

でも、勘だけど。
なんか…何かに戸惑っているようなそんな顔の様な気がして。

皆はバレットが「セフィロスも神羅も約束の地には行かせねえ。行かせちまったら取り返しのつかねえ事になる。オレにわかるのはそれだけだぜ!」と威勢よく纏めてたから、そっちに気を取られてたみたいだけど。

あたしはティファの顔を覗き込むように、声をかけた。





「どーかしたの?」

「え…?」

「なんか、あった?」





そう聞くと、ティファは笑みを浮かべる。





「なんにも無いよ?」





そして、そう言うだけだった。

……ふうむ。
…あたしの気のせいかな?

まあ…どちらにせよ。
そんな風に微笑まれて、これ以上問いただすのも変だし…。





「そっか」





だからあたしも、そう笑って返しておいた。



To be continued



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