開いたゲート。
ぶわっと空中に浮かんだ自分の体。
目に映ったのは、大切な仲間たち。
そして、その召喚獣。
あたしがしがみ付くディアボロスも、黒い翼を広げている。
その背中で感じる風は、何だかとても気持ちがいい。
そんなあたしたちを出迎えてくれたのは…人々の多く歓声に包まれた暁のエアバイクレースだった。
「うわあっ、すごっ!」
ライトアップされたサーキットをエアバイクが飛んで行く。
その光景を見て、思わず叫んだ。
本当、なかなかの圧巻だ。
…って、もしかしたらライトとホープに言われたファルシとか見るたびに感心しすぎって、こういうことなのだろうか。
今更ながらに気がついた。
本当、今更だ。
だけど、まあいいか。
だって本当に、凄いものは凄いもん。
自分の感情に正直なのは、そう悪い事じゃないよね。
今だってそうだ。そうやって、自分で決めた。
自分の目で見て、感じて、自分の意思でコクーンを守りに来た。
「ヒーロー参上!!!」
一番に降り立ったスノウが叫んだ。
そのテンションをイベントの一環か何かと思ったのか、観衆もわっと湧く。
だけどそれは一瞬だけ。カメラに腕の烙印が映ってしまったようで、ルシだとバレて歓声が一気にどよめきに変わった。
まあ…確かに、よりによってこんなイベントの最中に飛び出しちゃうとは予想外だった。
おかげでこっから先は大騒ぎ。
騒ぎを知った聖府軍がどしゃどしゃと駆けつけて来てレースは滅茶苦茶。大混乱。
だけど…なんかちょっと楽しい。
ひとつの目的が定まって、やる気十分だったからか、なんだか気持ちはわくわくしてた。
「ナマエさん!」
「はーい!」
ホープに呼ばれ、あたしはディアボロスから手を放した。
地面まであと少し。
皆より少し遅れて、ホープと一緒にスタン…とサーキットに降り立った。
真横をすり抜けていくエアバイク。
それを感じた瞬間、目の前に軍用兵器が現れた。
ルシを退治しに来たんだろう。
ホープはそれを見てニッと笑うと、平然と挨拶して見せた。
「ただいまっ!」
その瞬間、アレキサンダーが目の前に現れた兵器を叩きつぶした。
そんなホープとアレキサンダーには、本当に関心を覚えるばかりだ。
「本当、随分と逞しくなってのご帰還で」
「ふふっ、それほどでも」
そんなやりとりをすると、その傍にディアボロスも舞い降りてきた。
アレキサンダーとディアボロス。
何度見ても真逆な存在。
だけど二体は肩を並べ、迫りくる軍隊を向かいうつ。
「頼むよっ!」
ホープのその掛け声を背に、二体は次々と軍隊のエアバイクを止めていった。
一方で、他の皆も負けじと大騒ぎしてるみたいだ。
召喚獣大集合の光景は、あたしたちにとっても圧巻の一言に尽きる。
「じゃあホープ、そろそろ行こう」
「はい。夜明けはすぐそこですね」
あたしたちはディアボロスに乗り、サーキットを先に抜けた皆を追った。
ホープの言うとおり、空には日が昇り始めていた。
まさしく決戦の朝って感じ。
ディアボロスの羽の先に見える光に、あたしは目を細めた。
合流する頃には、もう完全に朝が来ていた。
そして、夜明けを合図に…エデンの中は一層騒がしくなった。
「騎兵隊が動き出したみたいです」
「それだけじゃねえ。パルスの魔物が街で暴れてるとよ」
混乱で落ちていた無線機をサッズが拾い上げると、そこから街の状況を幾分と把握する事が出来た。
騎兵隊がレインズさんを襲い、アークにいた魔物たちが街を徘徊している。
全部の総力が一斉にぶつかり合う。
まるで戦争のはじまりだ。
「僕らが帰ってきたせいで?予言通りですね、バルトアンデルスの」
ホープが少し顔を歪める。
あたしたちが戻ってきた瞬間は、不運にもレースの中。
完全に偶然だけど、ルシが街の大騒ぎの中に現れて人々を混乱させてしまった。
騒ぎのきっかけを作ってしまったのは否めない。
だけど、決してコクーンを貶めるために戻ってきたわけじゃない。
「大丈夫。何がどうしてこうなってるのか、あたしたちはちゃんと知ってる。その上でコクーンを守るために戻ってきたんだから」
前を向いて、あたしはそう言った。
なんだか、自分でもビックリするくらい前を向けてる気がする。
いつかの迷いなんか嘘みたい。
コクーンを守るって心の底から思えてた。
「そうだ。あいつの予言はここまでだ。こっからは俺たちがいる!」
スノウはあたしの肩を叩いて、力強く賛同してくれた。
だからあたしたちは一刻も早く事態を収めるために先に急ぐことにした。
ファルシたちがいるのは、コクーンの中枢であるエデンのそのまた中枢…議事堂なのだという。
でも、その場所がどこかと言うのが…あたしはイマイチよくわからない。
大方どの建物なのかということだけは教えて貰った…けど。
「…あれが、中枢議事堂?」
「ああ。そうだ」
教えて貰った中枢議事堂らしい建物を指差すと、ライトが頷いてくれた。
…首都エデン。
当然ながら、あたしは此処に来たのは初めてだ。
つまり地理は全然わからない。
だから、ただ教えてもらった中枢議事堂の場所をじーっと見つめてみる。
その顔は、多分しかめ面なんだろうな…と言う自覚はあった。
なぜなら…そこに辿りつく為には…というと。
「高っ!」
サッズが遥か下を見て顔を引きつらせた。
いや、サッズが…じゃなくて、あたしも引きつった。
でも多分それは当然の反応と言えよう。
ていうか当然の反応です!
あたしたちは今、ハイウェイの行き止まりに立っていた。
そこから中枢議事堂を目指すには、その遥か真下にあるハイウェイを伝っていくしかない。
問題はその真下までの距離、だった。
「空でも飛べなきゃ…」
ハイウェイの下を覗き込んだヴァニラも不安そうに顔を曇らせる。
そして隣で一緒に下を見下ろしていたライトを見上げた。
でもライトの表情に曇りは無い。
ライトはそのまま、ヴァニラに何かを小さなものをグイッと押しつけた。
「飛べ!」
「え!?」
驚くヴァニラなどなんのその。
ライトは短くそう言い残すと、タンッと軽く地面を蹴ってその場所から飛び降りた。
…うーわー…やったよ…お姉さん。
確かにそう思った。
だけど一方で…流石ライト!と感じてる自分もいる。
…いやあ、あたしも本当慣れたもんだ。
ちょっと自分に感心した。
「こなくそ!」
「お先!」
「ちょっと!?」
先陣を切ったライトに続いて、サッズとスノウも飛び降りる。
その姿にまたも目を見開くヴァニラ。
「って、ホープも!?」
そして、続いてはホープも。
彼も特に臆することなく、軽快に飛び降りてしまった。
ひくっ…と顔を引きつらせるヴァニラ。
残るは、あたしとヴァニラとファング。
あたしは皆が飛び降りた先を、身を乗り出して覗いた。
「え、まさか…ナマエも…?」
おもむろに身を乗り出したあたしを見て、ヴァニラは恐る恐るそう聞いてくる。
あたしはそんなヴァニラに、満面の笑みを浮かべた。
「そのまさか!」
そぉれ!ってな勢いで、あたしもその場からぴょんっと飛び降りた。
「うそお〜!!?」なんてヴァニラの絶叫が聞こえたけど、風を切る感覚が少し気持ちよくて、あたしは実際のところ結構余裕だったと思う。
いや、勿論多少は勇気が必要だったけど…。
でも、ライトがああ言ったら、大丈夫だって知っていた。
もう全身全霊、どこまでだって身を任せてやろうって。
ライトがヴァニラに手渡したのは、グラビティギアというアイテムだった。
それは重力を操るアイテムで、着地の前にそれを地上に投げつけることで重力を消し去り着地の衝撃を和らげてくれると、まあそんなところらしい。
「よ…っと!」
現に地面が近づくと、ぐわんっと何とも言えない感覚に体が浮かされ、魔法みたいに優しく着地する事が出来た。
なんだかんだで最終的にはヴァニラも飛んで、尻もちつきながらもなんとか上手いこと着地していた。
ただ、ぷくっと少し頬を膨らませてはいたけれど。
「強引過ぎ!」
「コクーン流だってよ」
文句を言うヴァニラの腕を引き立ち上がらせながらファングは笑う。
あたしはそれに振り向き、待っててくれたホープと顔を合わせ「いやいやいや」と首を振った。
「違う違う!ていうかあたしはコクーン出身じゃないよ〜!」
「ライトさん流です!」
出会った頃なら、きっと絶対ためらった。
ホープと二人で立ち尽くして、どうしようって茫然としてた。
でも、やるしかなければやるだけだってね。
本当、格好いいお姉さんです!
「ナマエ!」
「はい!ダルガ!!」
そんなライトに名前を呼ばれ、彼女の要求を理解するとあたしはすぐの魔法を放った。
先手必勝。前方にいる兵士たちに素早く魔法を掛け、その行動力を奪ってしまう。
出来る事なら余計な戦闘は避けて、ファルシを目指すに越したことはない。
「お前はそのまま、向かいくる兵士をダルガを打ち続けてくれ。それだけでだいぶ違うはずだ」
「わかった。任せて!」
「ホープ。お前は皆の回復に気を配って、同時に補助魔法をかけ続けてくれ」
「了解です、ライトさん!」
これは多分、ホープもなんだろうけど…。
あたしやホープは、ライトに声を掛けられると思う事があった。
なんとなくあたしやホープは最初の頃にライトと行動して守ってもらっていたからか、彼女に何かを任されると嬉しい気持ちを覚える気がする。
高嶺の…っていうのかな。
強くて、華麗で、凛として。
多分きっと、あたしは彼女の憧れみたいな気持ちを抱いてるんだろう。
「騎兵隊の狙いはファルシ=オーファン。エデンの近くにあるとすれば、聖府の中枢だ。いくぞ!」
オーファンが倒されたら、コクーンが滅ぶ。
だから何としても騎兵隊より先にオーファンのもとに着かなきゃならない。
兵隊も魔物もそこら中にうようよしてるけど、目的が決まってるなら突き進むだけ。
あたしは急いで中枢議事堂に足を急いだ。
To be continued
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