女神の贈り物


あたしは歩いてた。
いつもの帰り道を、少しいつもより胸躍らせて。

FF13が早くやりたくて。
ああ、早くライトニングやスノウ、ホープにヴァニラ、サッズにファングに会いたいなあ。

そんな事を考えて、早足で家に向かって歩いてた。





《…え…っ?》





でも、一度だけ。
一度だけ足を止めて振り返った。

振り向いても何もない。
何の変わりもない、ただの景色。

だけどあたしは振り返った。





《…気の…せい…?》





なんとなく、誰かに呼ばれた様な…そんな気がした。

声を聞いたわけじゃない。
でも、不思議とそんな気持ちになった。

きっと気のせいだと思った。
そんなことより早く帰ろう。早くゲームがやりたいんだ。

そう思って、再び足を動かそうとする。

だけどその瞬間、びゅんっと強い風が吹いた。
思わずよろめき足を戻すと、急に足場に感覚が無くなった。





《え!?…うわっ!?》





気付いた時には間に合わない。
あたしは何かに落ちていた。

何が何だかわけがわからない。
ただ、落ちてるという感覚に漠然とした恐怖だけを覚える。

混乱して、ぎゅっと目を閉じる。
すると、目を閉じていてもわかるくらいの眩しい光を感じた。

そこで、ハッと気づく。





《え…》





恐る恐る目を開くと、あたしは言葉を失った。

そこに広がっていたもの…。

それは…海だった。
暗い…黒々とした、広い海。

見上げた空もまた、曇りよりも暗い…そんな色をしていた。





《…な、なに…。…ここ、どこ…?》





呟きは、ただ…何も残すことなく消える。

ただ横たわるのは、静かな黒い景色だけ。
そしてあたしはそれを、テラスのような場所から見下ろしていた。





《………。》





多分、それからしばらくは…黙って、暗い海と空を眺めてた。
…いや、しばらくって表現も何だかおかしい気がする。

少しの間だけだった気もする。
でも、途方もなく長く眺めてたような気もする。

なんか、時間が狂ってしまった様な…。
あえて例えるなら、そんな感じ。

時間なんて止まることなく流れていくものだから、狂うとか正直自分でも意味不明な発想だと思う。
でも、本当に…今だけはそんな感覚を覚えていた。





《なんか…変…》





漠然と、わけのわからない恐怖。
そんな感情にじっとしていられなくなって、あたしはテラスを離れ、建物の中を歩いてみた。

怖かったけど、止まっていてもしょうがなかった。
色も、時も…人も、何もない。

しばらく歩いて、きょろきょろと見渡す。
すると、そこに…見えたものがあった。





《………ん…?》





その時、見つけたもの。
それは何か…玉座の様なものだった。

廃墟の玉座…。

廃墟でそんなもの見つけて…何で、そんなものが気になったのか。
それにはちゃんと理由があった。

それはそこに一筋…光が差し込んでいたから。





《誰…?》





不思議と、気配を感じる。
だからゆっくり近づいて、玉座を見上げた。

…何故だかわかった。

あたしは、此処にいる何かの意思を感じて…あの時振り向いた。

届かないけど、ゆっくり手を伸ばす。
するとその瞬間、光が体の周りに差し込んで…あたしはその意思を感じた。


その意思は…女神エトロと言った。


エトロは、ある人の子を憐れんだ。
その支えになるには、リンゼとパルス…どちらも知らない人の子が最適だった。

そして…もうひとつ。

エトロは未来に不安を抱いていた。
不安は確かなものではない。だけど、消えない。

だから、エトロは助けを求めた。
この世界の時を持たない、別次元の彼方に。

自分の力の一部と、あたしの心が満たされた時…その時願った望みをひとつ、叶えることを召喚の代価として。

意味は、よくわからなかった。
でも…確かに意思は感じた。

それだけ理解した瞬間、また…足場に感覚が無くなった。

次に目をあけると…。





《…花、火…》





ここからは、記憶がはっきりしてる。
あたしはボーダムで、あの花火を見ていた。











「ナマエさん…!ナマエさん…!」

「…ん…」

「あっ…!ナマエさんっ!」





声がする。呼ばれていた。
これは…ホープの声だ。

ゆっくり目を開く。

すると、ヲルバの夕陽に照らされたホープの顔が映る。
彼は心配そうに、あたしの顔を覗き込んでいた。





「…ホー、プ…?」

「ナマエさんっ…!」

「うわっ…!?」





上半身を起こしながら名前を呼ぶと、物凄い勢いで抱きつかれた。

若干寝ぼけまなこ。
でもそれで一気に目が覚めた。

へ…!?お、おお…!?
ホープくん!?

結構ガチでビックリした。
だけど、すぐに気がついた。

彼の手は、かたかたと震えていた。





「…良か、った…」

「ホープ…」





震えながら、安堵を口にしたホープ。
ここまでされれば、心配させてしまったのだとすぐに分かった。

だからポンポン…と、そっとホープの背を撫でた。

するとホープは突然我に返ったように、ガバッと体を放した。





「あっ、す、すみません…僕…!」

「ううん。心配させたんだよね…?ごめん、皆も…」





覗きこんでたのはホープだけじゃない。
ライトもスノウもサッズもヴァニラもファングも。

皆があたしの周りに集まってくれていた。





「大丈夫か?気分でも悪かったのか」

「ううん、そういうわけじゃないんだけど…うん、ごめん!もうへっちゃら!」





ライトに聞かれ、笑って見せる。
すると皆、どこか安心したように胸をなでおろしていた。





「あー!もう、本当心配しちゃったよー!!」

「本当だぜ、勘弁してくれ!俺ぁ、寿命が縮まっちまったぜ、まったく」

「そうだぜ、ナマエ。ただでさえ長旅でおっさんは足腰心配なんだからな」

「スノウ!一言余計なんだよ、こんにゃろう」





皆の声。
それを聞いて、自然と頬が緩む。

すると、額に誰かの手が触れた。





「うーん、熱は無さそうだな。見たところ、顔色も悪くなさそうだし」

「うん。だからもう大丈夫だって!」





手を当ててくれたのはファングだった。

大丈夫の意味を込めて、あたしは笑顔を作る。

でも…、皆ホント…心配してくれたんだな。

それは、結構嬉しかった。
…ちょっと不謹慎かな?

でも…これでわかったことがあった。

やっと少し、繋がった。
色々と…、思い出したことがある。

あたしは予言の記された冥碑を見上げた。





「ナマエさん…?」

「…うん」





じっと見つめていると、ホープに声を掛けられた。
ホープに視線を移し、頷く。

そして、皆の顔を見渡した。





「皆、ちょっと話があるんだけど」





一応、皆には話しおいた方がいいだろう。

そう思って、あたしはあの冥碑を指さした。
少し、息をのむ。

そして、皆の視線が冥碑を振り向いたところで…口を開いた。





「あの碑文の後半に書いてあった娘って…多分、あたしのこと…だと思う」





かなり直球的。
かつ、突拍子も無い。

ぶっちゃけ、何言ってんだ状態だろう。

当然、皆がどよめいた。





「…え、ど、どういうこと?」

「いやあ…まあ正直あたしも混乱してるんだけさ」





困惑気味に聞いてきたヴァニラに、あたしも困惑を返した。
いやだって、本当自分でも急展開でうろたえてるし。

って説明するあたしが困惑してちゃ駄目なのはわかるんだけど。

さて、じゃあ…どうしようかな…。
そう唸っていると、そんな状況を整理するようにライトがあたしの前に膝をついて尋ねてくれた。





「…確かに、召喚だなんだと書いてあったが。つまり、お前は女神によってこの世界に召喚されたって言いたいのか?」

「え、あ、そ、そう!多分…そういうことだと思う!」





なんてわかりやすい説明。
ちょっと感動。ライトありがとうだ。

コクコクと頷くあたしに、ライトはそっと問いかけた。





「…詳しく、説明できるか?」

「うん…。したいと思ってる。でもあたし自身わかって無い事まだ多くて…。だから整理しながらになるだろうし、正直話したところで何の意味も無いかもしれないけど」





冥碑を読んだ時点で、コクーンを救う方法やルシの手がかりは無かった。
多分、あたしの話はその補足のようなものだろう。

だからきっと、話したところで意味が見出せる可能性は少ない。

でも、ライトは首を横に振った。





「いや…ナマエ自身に差し支えないなら、話してくれ。私も、みんな興味があるはずだ。何か問題があるなら、力になってやれることもあるかもしれない」

「ライト…」





ライトがそう言うと、全員が頷いて耳を傾けてくれた。
依存は無いと、賛成するように。





「わかった。ありがとう」





だからあたしも応え、頷いた。

さて…じゃあやっぱり、順を追って話すのが一番か。
色々考えた結果、あたしは元の世界に居たところから話していくことにした。





「えーっと…まずは、あたしがこの世界に来ちゃった時の事からかな」

「確か、家に帰る道を歩いてたら風吹かれて、気付いた時にはボーダムで花火を見てたんですよね?」

「うん。だいたいはそれで合ってるんだけど…でもそれ、ちょっと抜けてるところがあったの」

「抜けてるところ…?」





前に話したことを覚えてくれていたホープ。

確かに昔はそう話した。
それで合ってると思ってた。

だけど、間違ってた。





「実際にはボーダムで花火を見る前…変な神殿に居たの。その神殿のあった場所は…あたしの世界ともこの世界とも、なんとなく違う世界にも感じた。黒い空、黒い海…それと、あんまり実感わかないかもしれないけど、時間の流れみたいなものが感じられない…変な世界だった」





今は、わりと鮮明に思い出せる。
廃墟の神殿…そこに存在した、ひとつの玉座。





「そこは…女神の住まう神殿だった」





ここから先は、結構あたしの憶測も入ってた。
でも多分大方外れていないとも思う。

あたしが存在を感じたその女神は、恐らく…黙示戦争の時にラグナロクを眠らせたという女神様。
つまり、碑文に書かれていた予言の女神様だ。

その女神様はコクーンだけでなく…コクーンで眠ったファングとヴァニラを憐れんだ。
だから彼女達の目覚めるときに、コクーンもグラン=パルスも、何の価値観も持たない味方を授けた。





「じゃあなんだ?あたしとヴァニラがコクーンで目覚めた時の為に、ナマエが女神に呼ばれたってことか?」

「そんな…ナマエまで、私たちのせいで…」

「あ!ちょ、待った待った!そういうの無し!」

「え…うむっ!」





目を伏せたヴァニラの頬を、あたしは両手でむぎゅっと挟んだ。
ヴァニラは少しビックリしたように目をぱちぱちさせている。

だって、本当にそう言う事じゃないから。





「そんな風に考えないで。少なくとも、あたしはこの世界に来られて良かったって思う事、沢山あるから」





あたしはそう言いながら、周りにいる皆を見渡した。

あたしは…この世界に来たからこそ手に入れたものもあるって気がついてる。

確かに大変なことは沢山あった。
だけど、それに勝るほど…会えてよかったって思う。





「…ちょっと照れくさいけど、まあこの際だから言っとくよ。ここに来なかったら、こうして…皆に会うことは無かったよね。それに、考え方によっては貴重な経験いっぱい出来たよ。そう考えれば、あたしはツイてるって思う。皆と会って、きっと…自分で言うのもなんだけど、結構変わったよ、あたし。ちょっとは強くなれた気がする」

「…ナマエ…」

「それに…女神があたしを呼んだの、それだけが理由じゃないみたいだから」





そう言ってヴァニラの頬を放しながら、あたしはもう一度冥碑を指さした。
碑文には…まだ続きがあったはずだ。





「女神は…未来に不安を抱いていた。それが何なのか、いつの未来なのか、不安は不安でしかないのか…あたしにはわからない。だけど…この世界の外に、助けを求める必要があった。って、何であたしなのかとか、何をして欲しいのかとかは、全然わかんないけど」





そう、まだ疑問はいくつも残ってる。
…いや、むしろ疑問のほうが多いか。

あたし自身は、やっとココに居る理由がわかって、少し地に足がついた感覚を得た気がしたけど。
でもそれは、あたし以外には何の関係も無い事だ。

ていうかはっきりしたのって、あたしが女神に呼ばれたって事…だけか。




「あー…あはは、ごめん…あんまり話した意味、無かったね。今後のヒントにも全然なって無いし。女神の力の一部〜とか言っても、何の事だかさっぱりだし。そもそも女神様もあたしなんか呼んで何を期待してるんだか」





おどけるように、少し苦笑った。

でもそれってかなり本音だ。

だってあたし、本当にそんな期待を掛けられるほど大した人間じゃないし。

そんなの自分が一番よくわかってる。
って…自分で言っててなんか虚しくなってきたな。





「そんなこと、ありませんよ」

「え?」





だけどその時、ぎゅっと手を握られた。
手を握り締められ目の前に映ったのは、にこっとした優しいホープの笑みだった。

ホープは笑みを浮かべたまま言う。





「ナマエさんが僕達に会って変わった事があるなら、ナマエさんがいたから変わったことだってあります」

「……あたしがいたから、変わったこと?」





首を傾げて聞き返す。
すると、そこに返事をしてくれたのはライトだった。





「…そうだな。私も…ファルシの無い生き方を具体的に想像出来るようになったのは…お前が居たからだと思う」

「ライト」

「…そもそも、別の世界とか聞いた時点では、信じる気なんかなかったな。とんだ馬鹿がいると思ったよ」

「馬鹿!?」





なんかさらっと衝撃発言された。

ていうか馬鹿…!?
ちょっとそれ酷くない!?

いや、頭ぶつけたと思われてもしょうがないだろうなとか思ってたけどさ!

そんな風にショックを受ける。
でも直後、わしゃっと頭を撫でられた。

…その時のライトの顔は、笑ってた。





「でも…お前が悪い奴じゃないのはすぐにわかったよ。お前は、ちゃんと誰かのことを考えていたよ、いつも。オーディンが初めて現れた時、咄嗟にホープを守った。無茶な事を…って呆れた半面、ちゃんと他人の事を考えられる奴だってわかった。まあ…その前から、私の負担になる事も気にしていたから、そういう点では好感を持ってたよ」

「え…そ、そう、なの…?」

「ああ。でも…まあ、少し能天気な奴だとは思ってたかな。いちいちファルシとか見るたびに口あけて感心して…間抜け面だなって思った」

「まぬっ…、馬鹿の次は間抜けとか…。まあ感心はしてたけどさ」

「ふふっ、なあ、ホープ。どう思った?」

「そうですねえ、確かに、うわーうわーってずっと言ってましたよね」

「…ホープくん。そこは否定しようよ」

「えへへ!」





ホープまでライトの側につかれてしまった。
なんかちょっとショックだなコレ。

むーっと膨れるあたしを見てライトはふっと笑った。
そしてあたしに手を差し伸べ、座り込んでた体をぐいっと引き起こしてくれる。

すると今度はヴァニラに後ろから抱きつかれた。





「ふふっ!ねえ、ナマエ!ビルジ湖でもこーやって抱きついたね!覚えてる?」

「うん、覚えてるよ。スノウと、すぐに異世界のこと信じてくれたよね」





抱きついてくれたヴァニラの腕に手を触れて、スノウにも目を向ける。
スノウはニッと、あの時みたいに笑ってくれた。





「だって、話を聞いてみなきゃはじまんねーだろ?」

「うん。それね、結構心強かったんだ。ヴァニラもこうやって抱きついてくれたから、ちょっと安心してた。だって不信感持たれてたら、抱きつかれたりしないかなって」

「だね!私は、親近感湧いて凄く嬉しかったから!うん!私も、ナマエがいてくれて良かった。この世界に来てくれて、会えてよかったって思う!」





ヴァニラはそう言って、またぎゅっと抱きしめる力を強めてくれた。

本当、実感するよ。
誰かが傍にいるって、本当に安心するって。

すると、ファングにガシッと頭を撫でられた。
そのすぐ傍では、雛チョコボを手のひらに乗せてサッズも笑ってくれていた。





「ああ、私もおもしれー価値観教えてもらったし。まあ、お前の世界では誰もがファルシのねえ生活を知ってるんだろうけど、その中でも、エトロが選んだのがナマエで良かったって思ってる」

「ファング…」

「ああ、コイツも言ってるぜ。お前さんで良かったってよ。勿論、俺もだ。女神さんもなかなか見る目あるじゃねえか!」

『ピイ!』

「サッズ…雛チョコボ…」





なんか、思った。
なんてあたしは幸せ者なんだろうって。

こんなにも、自分に会えてよかったと言ってくれる人たちがいる。
自分も心から会えてよかったと、大切だと思ってる。

あたしはコクーンを見上げた。
皆が守りたい、あの世界。

…正直、あたしは皆ほど…コクーンに対しての愛着は無い。
そういう意味では郷土愛はないし、ヴァニラのような後悔も抱いてない。

だから、気持ちの面では劣る部分もあるのだと思う。





「…ごめんね、みんな。あたしはこの世界の人間じゃないから、コクーンを守るって言っても、まだ正直ピンとこないところもあるよ」





でも、その代わりに…強く持っているものがあった。





「だけど、ピンと来なくても、皆が守りたい世界なら…守りたいって思う。あたしはただ、皆の力になりたいって思う」





今ならはっきりと言えた。
確かにコクーンに愛着とかは無いけど、でも、あの世界を守るために何かしたい。

この人たちのために、何かしたい。





「だから、あたしもコクーンを守る。ものすごーくちっぽけだけど…最後まで手伝わせてください」





皆の願いなら、叶える手伝いをしたいって。

皆は笑って、頷いてくれた。





「ありがとう、ナマエさん」

「ホープ」

「それに…ね?あの時言った通りだったでしょ?」

「え?」





そう言ったホープの言葉で思い出した場面は、グラン=パルスで弱音を吐いた時。

ホープは言ってくれた。
自分も、皆も、あたしの事を好いてくれていると。

そうだね。
少し気恥ずかしくなってきたけど、今なら本当によくわかる。





「あははっ、だったね」

「まあ、一番は僕…ですけどね?」

「…え」





えへへ、と少し照れたように笑いながらそう言ったホープに少し目が丸くなった。
するとそこにスノウが軽くホープを小突く。





「ん?何の話だ?」

「へへ、内緒だよ!ね、ナマエさん」

「…、あははっ!そうだね。うん、内緒!」





ふたりで笑った。
ああ、なんかちょっとくすぐったい。

でも、やっぱ嬉しいや…。

あたしがそんな気持ちを抱いていると、ホープはあたしの手を取ったままライトの顔を見上げた。





「ライトさん、コクーンで言ってましたよね。出来る出来ないの問題じゃない。やるんだ、って。今がその時なんだと思います。どんな小さな変化でも、たとえ、ひとりの心からでも良い。僕達で、何かを変える事が出来れば」





出来る出来ないの問題じゃない。
やるしかなければ、やるだけだ。

ヴァイルピークスで言っていた、ライトの言葉。

あたしもよく覚えてる。
結構、良い言葉だよね、これ。

現に、それを聞いたヴァニラは瞳をキラキラと輝かせた。





「コクーンの皆も動かせる?」





ヴァニラはそう言いながらあたしを抱きしめてた手を放すと、くるっとコクーンに背を向けた。
後ろで手を組んで、ゆっくりと足音を響かせる。

そうして教えてくれたのは、あの夜の事。
実は、此処にいる全員が眺めていた、あの花火の夜。





「コクーンにいた時ね…、花火に願ったの。コクーンを傷つけないで済むように…って。でも、それは間違いだった」





え?

一瞬、皆が不思議にどよめいた。

そりゃそうだ。
なんでそれが間違いなのかって。

そんなあたしたちの驚きを聞き、ヴァニラはくるっと振り向いた。
その顔は、笑顔で満ち溢れていた。





「願うだけじゃ駄目。祈るだけじゃ駄目。だから今度は、絶対にコクーンを守るって…誓うよ」





それは、旅の末…ヴァニラが見つけた最後の答えだった。
そして同時に、全員の答えでもある。





「忘れ物を、取り戻しに行くか」





ライトのその言葉に、全員が賛同し、同意の声を上げた。

こうしてあたしたちは、飛空艇に歩き出した。
目指すはコクーン。

あの時探していた答えを、ちゃんと示して見せるために。



To be continued

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