私の気持ち


「そろそろ疲れたんじゃねえか?無理すんなよ」

「大丈夫。スノウと違って無理はしないよ」

「たくましくなりやがって」





道を進む途中、スノウとホープのそんなやり取りが聞こえた。
スノウがホープを小突き、ホープはそれに笑う。

本当に仲良くなったなと思った。
何度見ても、何度だってそう実感してしまう。

…まあ、パルムポルムでのあの一件を結構傍で見ていた身としては、そう感じるのも許して欲しいところだよね。

だってあの頃のホープってば、スノウの一言一句にいちいちイライライライラ。
挙句の果てにずっとナイフ握り締めてるし、こっち的には冷や汗ダラダラだったよ本当。

ああ、あの時のあたしに是非この光景を見せたいところだ。

まあ…でも、うん。
だけど…本当に、ホープは、良い方向に凄く強くなった。





「……。」





そんな姿をじっと見つめる。

そして、思う。

まだ…幼さの残る、小さな背中。
でも、不思議と安心する。

最近のホープの言葉は、一つ一つ、どれも大きく心に残っていく。
希望の名に恥じない、誰もが一目置いてしまうような…気づかされることをよく言ってくれる。

本当に…まっすぐに、頼もしくなった。

だから、前と比べて、確実にホープに対する見方は変わった気がする。

正直な話、前は頼りない感じがあったのは否めなかった。
…と言うか、やっぱり年下にはかわらなかったし、その分あたしもしっかりしなきゃなっていう考えは念頭にあった。

でも振り返って考えると、ここ最近は…あまりそういう事考えなくなっていた。

落ち着いて、胸に手を当てて考えると…その理由がなんとなくわかった。




多分…あたしはホープの事が、好きなんだろう。




もともとすごくいい子なのはわかってた。
真面目で、優しくて…。

わからない事があったら聞いてくれって言ってくれたり、足元を気遣ってくれたり。

ずっと、傍にいてくれて。
そして…信じてくれた。

真実はわからない。
だったら自分の目で、ちゃんと確かめて、何を信じるかを自分で決める。

そうして、あたしを信じたいと、信じると言ってくれた。
それは本当に嬉しかった。

だって、自分で見て、感じたあたしを…信じてくれたと言う事だから。
自分で決めたことなら後悔しない…って。

それを聞いたとき…こんなに嬉しい言葉は無いって思った。





「………。」





また、じっと、彼を見つめてみる。

さらっと揺れた銀髪。そこから覗く白い肌。
澄んだ緑色の大きな瞳。


うーん……ホープってば、可愛いな。


なんか心がほっこりした。

って、違うよね、それは。

いやでも可愛い顔立ちしてるのは本当だよね。
うん!ホープは可愛いよ!断言する!

…いやまあ…たぶん、ホープはそんなこと言われても嬉しくないんだろうけど。
男の子は可愛いって言われても嬉しくないって言うし。

って…何考えてんだ、あたし。
ちょっと変な方向に回りだした自分の思考を少し振り払った。

うーん…でも、もしかしたら。
だからこそ芯の強い顔されると、物凄く見入っちゃうのかな。

これってギャップ?
まあ、そんなとこも良いよね!ってことでひとつ。

いや…うん、でも本当、格好良くなったよ。







「なんだ、ありゃあ…」





あたしがそんな若干ズレた事を考えていると、びゅんっと目の前を勢いよく大きな何かが飛び去って行った。

それは結構な大きさで、スノウが身構えてその去っていく後ろ姿を目で追っている。





「グラン=パルスのファルシさ。故郷で何度か見たことあったな」

「ヲルバ郷の傍に、住処があるみたい」





その正体に心当たりのあるらしいファングとヴァニラ。

あれが、グラン=パルスのファルシ…。
ファルシって言うからには、やっぱりそれなりに興味が湧いた。

ファルシと言う事は、アレもコクーンのファルシみたいに何かグラン=パルスの利益になる事をやってたりするんだろうか。





「じゃあ、あいつが飛んで行った方角に向かえばヲルバ郷に着けるんですね。追いかけましょう!」





すると、ホープが飛び去るファルシを指さしそう言った。

それを見てまた思う。
ああ、本当…逞しくなったなあ。

弱気な顔してぎゅっとあたしの手を掴んでいた彼は本当にどこへやら。
今じゃむしろ、グングン引っ張られていく勢いだ。





「ナマエさん?」

「えっ」





その時、ホープがこっちに振り向いた。

直前に変なこと考えてたから驚いて、思わず心臓が跳ねた。
もしかしたら、視線に気づかれたのかもしれない。

…うーん、何かあたし…変態っぽくない…?
どんだけ見つめてるんだろう。

だから慌てて首を振ると、頷いて笑った。





「う、ううん!ヲルバ郷への手掛かり発見だね!」

「はい!」





そんなこんなで。
あたしたちはファルシの飛んで行った方角を目指して進んでいくことにした。

でもそうやって…歩きながら、隣にいる彼を見て、思う。

きっと、この先も…どんどんこの子は、眩しくなっていくんだろう。

それで…、なんか自惚れだったら凄く恥かしいんだけど。
いや、多分…そうでもなくて…。

でも、きっと…あたしの元の世界の事とか、ルシの事とか…色々あるから、うまくも言えない。

実際、あたし自身…元の世界の事は、ずっと気になってる。
だけど、この世界を…もうただのゲームだとも思っていない。

だからこんな、曖昧な感じが…正直助かってる。

多分、あたしにもホープにも…まだ、そういう勇気と決断力が足りていないんだろう。

ううん…悔しいけど、力も…きっと。

周りで想ってくれる人の事…。
整理をつけなきゃならない事…。
子供である事実…。

正直…今のあたしは、元の世界に帰りたい、この世界にいたい。
どちらが本当の気持ちかと言われると、上手く答えられる自信が無い。

元の世界は気になる。
でも、帰った時に、この世界に二度と触れる事が出来なくなると考えると…足が滞る。
皆と、ホープに…もう会えなくなってしまうと考えると。

だけど…それを心が選べたとしても、現実で掴める力が足りないのだろう。

元の世界に帰る方法がわかるわけでもない。
この世界に来たのが突然なら、突然消えないとも限らない。

それ以外にも、考えていけば…問題は溢れるほどあるはずだ。





「ヲルバ郷って、どんなところなんですかね?」

「コクーンの都市とはだいぶ違うんだろうけど、ヴァニラ達に聞いてみる?まあ、600年くらい経っちゃってるみたいだからそれも少し違ってるのかもしれないけど」

「600年か。なんか途方もない長さですよね」

「ねー。あたし100年でも長っ!て思うもん」





交わす他愛のない会話。
ホープと交わすそんな会話が、なんとなく落ち着いた。

だから実感する。
今…一番あたしが傍にいたいのは、間違いなくホープだ。

まだまだ小さいけど…、でも、あたしにとっては…この小さな背中が何よりも大きい存在だ。

今は、ルシである事…元の世界の事…。
抱える事が多すぎて、答えがなかなか見つからない…。

この先、どうしたらいいのかが、まだちゃんと見えない…。

今はやっぱりまず…ルシである事をなんとかするのが先決。
そうしないと、未来も何もないんだから。





「ナマエさん」

「ん?」





その時、ふとホープが足を止めた。
一緒に足を止め彼の顔を見ると、よくわからないけど、少しソワソワしてるように見える。

だからあたしは微笑みながら首を傾げた。





「どしたの?」

「あの…手、繋ぎませんか?」

「え?」





すると、おずっと手のひらを差し出された。

て…?

思わずきょとんとする。
それを見たホープは少し慌てたように言葉を繕った。





「あ、え、ええーと…!ほら、グラン=パルスって足場とか色々不安定じゃないですか!だから、その…」





凄い慌ててる。
目に見えて本当によくわかる。

だから自然と笑いそうになった。

多分、考えてる事は…同じ、なんだよね。

うん。
あたし、ホープのこと大好きだ。

それは素直な感情。それは絶対。
今、あたしはホープと一緒にいたい。

不安だから、じゃなくて。
心から、自分の感情で。





「うん。繋ごっか」

「え…!あ、は、はいっ」





ぎゅっと繋ぎ合った手。
お互いの感覚が伝わって、ちょっとこそばゆい。





「あははっ、なんか笑っちゃうね」

「へへっ…そうですね」





だから…今はまだ。

凄く近くに居て、大切に思ってる、思われてる…。
なんとなく、それがわかってて…。

こういう感じで…いいかなって思った。




To be continued

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