新たな希望を求め、降り立った広大な土地グラン=パルス。
どこまでも続く大草原を、獰猛なモンスターが駆け抜ける。
そこは、弱肉強食の大自然。
ずっと広がるその光景に、あたしは思わず目を奪われた。
「うわー…!なんか思いっきり歌ったりしても誰にも迷惑掛んなそう!」
大自然を目の前に第一印象。
すると、ライトに顔をしかめられた。
「…なんで歌うなんて発想が出てくるんだ」
「え?」
「え、じゃない。私がおかしな事を言っているような顔をされても困るんだが」
「なんか、大自然の中って歌いたくなったりしない?」
「…悪いが、私は共感出来ない」
「ええっ!わりとポピュラーな意見だと思ってたんだけど…!」
ひろーい大地を目の前に歌ってみたい。
そんなちょっとした願望は、どうもライトには共感してもらえなかった。
あれ。
自然を前に大声で歌ってみたいって…なんかそういう感じって無いもんかな?
「ははは!私は分んなくもねーけどな」
「ファング」
するとファングに頭を小突かれた。
背の高い彼女を見上げると、彼女はけらけら笑ってた。
「けど、ま…歌なんか歌った日には、うようよっとあの辺にいるモンスターどもが近寄ってくるぜ?」
「え!?あー…、それは困る…いや、それはそれで特訓になるかも?」
「お。えらく強気じゃねえか」
「うーん。強気って言うか、もうちょっとスマートに戦えたらって願望はあるから。ライトとかファング見てるとさ」
「へえ、嬉しいこと言ってくれるじゃねーの」
アークでルシの力はパワーアップしたみたいだし。
どうせならそれを少しでも活かせるようになりたい。
そんなことを言ってみると、ライトに溜め息つかれた。
「…歌を口笛のように使う気かお前は。その時は自業自得だ。私は手伝いも助けてもしないからな。ひとりで頑張ってくれ」
「え!?いや、そこはぜひ助けて頂きたいと」
「ファングに言ってみたらどうだ?」
「あー、私も面倒事はパスだわ」
「あれ、あたし、見殺しにされる!?」
お姉さま二人にいじめられ、それを見た他の皆にも笑われた。
こうして始まったグラン=パルスでの日々。
目まぐるしいくらい、やることは沢山あった。
まず、食料の取り方やモンスターの特徴なんかを覚えること。
コクーンとは違うそれは、全員でヴァニラとファングに教わった。
他にも、まだまだ色々。
個人的にやっていたこともある。
「少しずつ、周りの見方はわかってきたみたいだな」
「そうかな?まあ…場数だけは踏んだよね」
「あとは…そうだな、戦闘が始まった時に体が強張る気持ちはわかるが、少し肩の力を抜け。強張っていると、返って動きが鈍くなるぞ」
「そっか。わかった、気にしてみる!」
やっぱり守られてるだけじゃダメだし、強くなりたい気持ちは本当だ。
だからライトにお願いして、弱点とかの課題を教えてもらったりしていた。
なんだかんだ言いつつも、ライトも結構小まめに付き合ってくれた。
こうして一日一日を繰り返し、ルシの手掛かりを探していく。
「それっ、と!」
「あ!それおっきいよ」
『キュイー!』
そしてそれは今日も同じだ。
今、あたしはホープと雛チョコボと一緒に、食材集めをしていた。
ちなみにライトとスノウとサッズは付近の探索。
ヴァニラとファングはベースキャンプの見張りをしてくれている。
つまり、あたしたちの担当が食糧集めという事だった。
今集めているのは、木の上になった実。
ホープが体当たりで木を揺らして落としては、あたしと雛チョコボがそれをひとつの場所に集めていく。
「ふう…それにしても、本当に大自然ですよね」
「そうだね。コクーンはあんまり自然とか無かったもんね」
ある程度落とせたところでホープはぐいっと額を拭い、あたしはそれを見て笑った。
コクーン自体もそうだけど、ホープの住んでたパルムポルムなんてどっちかというと都会だろう。
ホープにとって、こんなアウトドアな感じは結構新鮮なのかもしれない。
「パルムポルムとかも栄えてたしね。ホープ、結構こういうキャンプみたいなの経験少ない?」
「うーん、そうですねえ…。まあ、僕自身がもともと外で遊ぶより家の中でゲームしたり、そういう事の方が好きだからって言うのもあるかも知れないですね」
「え?そうなの?あたしもどっちかっていうとインドアだよ。ゲームとか大好き!たまには外で遊ぶのも好きだけどね」
「え、本当ですか?やっぱり中で遊ぶのもいいですよね!」
「うん。好き好き!」
ホープいわく、仲のいい友達が外で遊ぶ方が好きで、雨の日くらいしか中で遊ぶ事が無かったのが少し残念だったのだとか。
…そういえばあたし、この世界に来る直前、FF13早くやりたくて真っ直ぐ帰って来たとか言ってる時点でインドアだよなって自分でも思う。
こういう風にキャンプみたいなことするのも、別に嫌いじゃないけど。
だから少し、共通点って言うか、やっぱホープとは結構合うのかなっていうのは少し嬉しかった。
「でもまあ確かに、コクーンに自然が少ないのは否めないですよね。僕達は通ってないけど、あってもサンレス水郷くらい…。あそこも自然保護区ですから、そう聞くと比べ物になりませんよね」
「保護って聞いちゃうとね。ヴァニラとサッズが通って来たんだっけ?」
「らしいですね。そこを抜けるとノーチラスですから」
「ああ、遊園地だっけ?いいなー、あたしも行ってみたかったよ」
「まあ、そこで聖府に捕まっちゃったわけですが」
「うっ…それは嫌だけど…。あ、そう言えば雛チョコボは行ったんだよね?」
『ピィー!』
小さな雛に尋ねてみると差し出した手に飛んできてくれて、大きく羽を広げて凄さを伝えようとしてくれた。
今更だけど、この子って人語をちゃんと理解してるんだよね。
それであたしたちの事、見守ってくれてるって言うか…。
そう言う点も、やっぱり可愛いなあと思う。
うん、本当可愛い。
チョコボってだけで既にあたしの中でポイント高いのに、この可愛さは反則ものだと思うんだ、本当。
あたしは可愛さにやられて、うりうり〜と指で突いては、しばらく雛チョコボと遊んでた。
「はぁ…」
でもそんな時、ホープが空を見上げて小さく息をついたのが聞こえた。
溜め息…。
少し疲れたんだろうか?
気になって、雛チョコボと一緒に自然とホープに目を向ける。
まあ…ずーっとキャンプしてるんだし、疲れない方が変かもしれない。
だからあたしは彼に気遣いの声を掛けようとした。
「ホープ、疲れ…」
「…うッ…!」
だけどその瞬間、ホープがいきなり顔を歪め、左手首を押さえた。
「ホープ!?」
左手首が光ってる。
それを見てハッとした。
ホープの左手首は…ルシの烙印のあるところ…!
気付いた瞬間、あたしは急いでホープに駆け寄った。
「ホープッ!って、ちょ、うわあっ…!?」
『キュイー!!』
駆け寄った瞬間、ホープの体がぐらっと揺れた。
あとはそのままだ。
ホープ、ふっと意識を失い、支えられなくなった足から大きく崩れ落ちていく。
「あぶないっ…!」
あたしは咄嗟にその体に手を伸ばし、グッとホープを抱え込んだ。
そしてそのまま膝をつき、横にするように仰向けに抱え直してホープの肩を揺らした。
「ホープ!ホープ!?」
「………。」
何度呼びかけても返事はない。
目を閉じて、ぐったりしたまま。
青白くて…顔色が悪い。
それを見ていると、さっと血の気が引いて、どんどん焦りが迫ってくるのを感じた。
「ど、どうしよう…っ」
まずい…。
焦って頭が回らない。
だけど、必死で考える。
ルシの烙印…もしかして、進んだの…?
だとしたら、早く皆に知らせないと!
でも此処に…気絶したホープを一人で残していく?
そんなことして、もしモンスターに襲われたら…。
『キュイー!』
「!」
その時、耳に入った小さな鳴き声。
気付いてハッと顔を上げると、黄色い羽がはばたいていた。
雛チョコボ。
小さなその存在は、必死に何かを伝えようとしてくれていた。
「もしかして、知らせに行ってくれるの?」
『キュイ!!』
尋ねてみると、任せろと言わんばかりに一鳴きした。
そしてすぐに元来た道を飛んで行ってくれた。
…助、かった…。
飛んで行く後ろ姿を見て、心底そう思った。
あの子がいてくれて良かった。
本当…凄く小さいけど…頼もしい限りだ。
だけど…。
「ホープ…」
残されたあたしは足を崩し、ホープの頭を膝の上に乗せた。
まあ…俗に言う、膝枕…。
あたしじゃ何の有難みもなさそうだけど。
いやでも、この方が…まあ少しはホープも楽かな…と。
…枕無いと、首痛くなるしね。うん
そんな事を思いながら、あたしは彼の柔らかい髪を救い、さらっと撫でて額に触れた。
「逞しくなったけど…頑張ってるんだよね」
…パルムポルムの一件から、ホープは本当に逞しくなった。
大人の皆さえ、一目置いてしまうくらい…強くなったと思う。
だって本当に、こっちが気付かされるような事を凄く沢山言ってくれるから。
真実は誰にもわからないから、自分で確かめたい。
そう言った彼の言葉は、ずっと耳に残ってる。
本当にその通りだと思った。
世の中の真実なんて、見分けるのは無理だ。
だから自分で見て、聞いて、確かめる。
「…それで、信じてくれたんだよね」
そしてホープは…あたしの事を信じてくれた。
自分で見て、聞いて、話した…あたしを。
そうやって…信じてくれた。
それがどんなに嬉しかったか…。
どれだけ支えになったのか、ホープは知っているのかな。
「…ホープ…」
手を伸ばして、そっと…彼の左手首を握る。
バンダナを巻き、隠しているそれを、ちょっと巻くって確かめてみた。
烙印…、やっぱり皆より進んでる。
ファングが言うには、矢印が増えて目玉が完全に開いたらシ骸になるらしい。
そして、ショックを受けたりすると…進行が一気に早くなる。
…グラン=パルスに来て、しばらく経った。
でも、手掛かりと言う手掛かりは見つからない…。
自分たち以外、人の姿もなくて…。
それはきっと…かなりのストレスになっているはずだ。
じゃあ…もし、このまま…ホープがシ骸になってしまったら……。
「なに、考えてんだ…あたし…」
パシッと…自分の頬を叩いた。
シ骸になるとか、そんな縁起でも無い。
…考えるもんじゃない。考えるな。
あたしたちは絶対にルシから解放されるんだ。
シ骸になんか絶対ならないんだ。
絶対に…どこかに希望はある。
…だけど、ゾクッとした。
「…ホープが…シ骸に…なっちゃったら…」
呟いて、後悔する。
あたし…馬鹿?
なんでわざわざ、口に出してしまったのだろう。
言葉にして、余計に強くなる。
ぎゅっと、彼の手を握る。
頭の中が埋め尽くされる。
怖い、嫌だ、そんな言葉で一杯になる。
「ホープ…」
強く、強く、握りしめる。
嫌だ…。
…嫌だ…嫌だ…嫌だ…。
「ナマエ!ホープ!」
「っスノウ…、皆…!」
頭の中が埋め尽くされそうになった時、呼ばれた。それはスノウの声。
皆が雛チョコボに連れられ助けに来てくれた。
「ルシの烙印、進んだのか?」
「たぶん…。あたしたちのより、少し…進んでる気がする」
ライトに尋ねられ、おずっと頷く。
ひとまず、ホープはスノウがを背負ってくれ、あたしたちはベースキャンプへと戻ることにした。
そしてその後はずっと…皆でホープの目覚めを待った。
To be continued
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