守りたいもの


「道が消えた…」

「うっそ…!?ここで行き止まり?」





ホープとあたしは目の前の景色を見て唖然とした。

レインズさんの最期を目の当たりにしたあたしたちは、それを乗り越え更に奥へ進んだ。

だけど、進んだ先は切り立った崖だった。
つまり…まさかの行き止まりにぶち当たってしまいました。





「崖の下は、どうなってんだ?」

「伝説の通りなら、迷宮だね」

「ルシの力を鍛える訓練場さ。グラン=パルスの兵器と魔物がうようよだ」





サッズが聞くと、ヴァニラとファングは詳しいことを教えてくれた。

それを聞いて、あたしは下を覗きこもうとしていた足を止めた。
いや…だって兵器や魔物がうようよとか絶対御免こうむるよね。

…だけど、そうなってくると道だけじゃくて、色んなことに行き詰ることになる。

進めばコクーンを壊す化け物。
留まればシ骸。

…何だろう、この極端な二択。
とんでもないな。

完全に詰んでるとしか思えない。





「ちくしょー!出口はどこだ!」





置かれた状況に頭を抱えたサッズは、ぐわっと行き場のない感情を吐き出すように叫んだ。





「出口なんて、はなから無いんだろ」





それにあっけらかんと答えたのはスノウだった。

その声に、自然と皆の視線がスノウに集まる。

だって、なんだか久々に聞いたトーンのような気がした。
その証拠にスノウの顔を見て、あ、と思った。

スノウは俯いていなかった。

アークに来てから、ずっと伏せがちだったスノウの顔。
それがちゃんと前を向いていた。





「上等だ。俺は決めたぜ。シ骸になっちまうとしても、その瞬間までセラに胸張れる道を選ぶ」





スノウはセラの涙のクリスタルを取り出してギュッと握りしめた。

セラに胸張れる道…。
その言葉にも、いつもの真っ直ぐな明るさが感じられた。





「俺、セラの涙は別れの涙だって認めたくなかった。だから必死でセラを捜してた。馬鹿だよな、セラはいつだって此処に居たんだ。此処で、俺の事を見守ってくれていた」





スノウは握りしめたセラの涙を胸に押し当てる。

セラは、いつもここにいた。
傍にいて、見守ってくれていた。

そんなスノウの声に、全員が聞き入っていた。





「今ならわかる。涙の意味は、使命に負けるなだ。俺らを導いているのは、ファルシじゃねえ。セラや、レインズ…それに…。本当の使命が何だっていい。俺の願いは、最後までコクーンを守り抜く。これしかねえ」





スノウはニッと笑った。
それは本当に、いつものあのスノウの笑みだった。





「私も、守るよ」

「スノウ、おかえり」





セラの涙を握り締めた拳に、笑って手を重ねたヴァニラとホープ。
更にその上に、サッズの頭から飛び出したヒナチョコボも飛び乗った。

そこにはなんとなく、なごやかな空気が生まれていたように思う。
思わずふっと微笑んでしまうような、そんな感じ。

あ、なんかいいな、この雰囲気。

自然とそう思えた。
でも、その時…気づく。

目の端で、黒髪がスッと…目を伏せたように流れ落ちたのが見えた。
少し気になったあたしは、彼女にゆっくり振り向いた。





「ファング…?」





少し不穏な予感がした。
だから彼女にそっと声を掛けた。

ファングの視線は、ちらっとこちらに向いた。





「ナマエ…」

「…うん?」

「私には、コクーンを守る理由がねえ…」

「え…?」





とても小さな声だった。
他の皆には聞こえたかわからない、それくらいの声。

コクーンを守る理由が、ない…。

ファングはあたしが何か言葉を返す前に、皆に向かって冷たく言い放った。





「認めねーよ」





その声を聞いた皆も、ハッとファングに目を向ける。





「お前らが意志を貫くってなら、私もだ!」





ファングは強くそう言い切り、皆に向かって槍を向けた。
いきなり武器を向けられ、皆は目を見開き驚愕する。

一方であたしはファングのこの行動と、さっきの言葉の意味を考えていた。





「コクーンなんて滅んでも良い。ルシを憎んでる連中が、何人死のうが関係ねえ。仲間がシ骸になるよりマシだ」





グラン=パルスとコクーンは、敵同士で争っていた。
コクーンで育っていないファングは、コクーンへの愛着みたいなものがない。

それに加え、ファングの烙印は焼け焦げてるから進行する事が無い。

だからファングが怖いのは…コクーンが滅びる事よりも、ヴァニラとここにいる仲間が…自分の傍に居る人が、シ骸になってしまう事。

素直に考えれば、パルスのルシはコクーンの敵。
コクーンを守ると言う事は、使命に背くという意味にもなるかもしれないから…。





「お前らが出来ねーっつうなら、私だけでやる。先へ進んで、力をつけて、コクーンをぶっ壊してやる!」

「…っ」





ファングの言葉の意味に気がついた時、あたしはズキンと胸が痛んだのを感じた。

そういえば…前、ファングにちょっとだけ聞かれた。
コクーンに、思い入れはあるか…って。

それを聞かれた時、ファングはすぐに何でも無いって首を振ったから…あたしも深く考えなかった。

そうか…。何でそんなことを聞いてきたのか。
なんであたしに聞いてきたのか。

そういう、こと…か。





「シ骸になったらおしまいなんだよ!私が…助けたいのは―――!」





そう言った瞬間、ファングは烙印を押さえて膝をついた。
直後、足元に魔方陣が浮かび上がる。

これ、いつか見た…。
ヴァイルピークスで、ライトの召喚獣オーディンが現れた時と同じ…。

それなら、また召喚獣…!?

そう思った瞬間、ファングの絶叫に合わせて魔方陣から大きな何かが飛び出してきた。





「何しに出てきた!壊れたルシなのに…私を哀れもうってのか!?」





背中の翼…竜のように見える。
自然と思い浮かんだのは…バハムート。





「助けてくれるってんじゃねえの?」





バハムートを見てスノウはそう言う。
それを聞いたファングはグッと歯を食いしばった。





「ああ、そうさ。召喚獣はルシを救いに現れる。迷えるルシを、殺して楽にしてやろうってな!」

「迷ってるから、出てきたわけか!」





ファングの言葉にスノウは拳を握りしめる。
スノウはシヴァを従えているし、何か心当たりがあったのかもしれない。

皆はファングを守るようにバハムートに身構える。

それを見て、あたしもハッと走り出した。

…なに、ぼんやりしてるんだろう。
今はそんな場合じゃないのに。

だから気持ちを入れ変えるように、キッとバハムートを見た。





「私は、救いに縋る気は無い。ファルシの思惑に乗る気もない。使命と最後まで戦いたい。だからファング…助けてくれないか?」





ライトはそうファングに手を差し伸べた。
その声は、仲間をシ骸にさせたくないと言う想いと、一緒に戦ってくれというふたつの意味が込められていた。

ファングは少し俯きながらも、差し伸べられた手に自分も手を伸ばす。





「今更聞くな!」





そして立ち上がると、先程仲間に向けた槍を構え、バハムートに立ち向かった。

バハムートか…。
本当、竜王様…って感じだ。とっても格好良い。
ファンにはたまらないところだよね。

でも、だから流石。
一撃一撃が凄い威力だった。

だけどファングは戦った。
迷いながら、必死に考えて。

ファングがそうして力を見せつけると、バハムートはそれに応えて見せた。
姿を変え、ファングを背に乗せ自由に飛びまわる。

完全に従えると、バハムートは姿を消した。

そして、召喚獣が消えたと同時にその場には変化が訪れていた。





「新しい道が!」





ヴァニラが指さした先。
そこには、今までなかった光の道が現れていた。

続いている先は崖の下じゃない。
ちゃんと、また別の先に進める道だった。





「召喚獣の救いかな?」

「俺らが意思を貫いたから、って事にしねえか?この先も、意思を持ってりゃ何とかなるって思えるだろ?」





ヴァニラとスノウのそんなやり取りに、サッズとライトも笑みを零していた。

意思で現れた新しい光の道…。
そう信じた道をスノウの「行こう」という言葉に続き、皆、歩いて行く。





「………。」





あたしも、ゆっくり足を動かした。

でも、そう…ちょっとゆっくりだったから、皆の背中が目に映った。
その背中を見ながら、少し、考えた。

…あたしだって、ファルシの良いように使われるのなんて御免だ。
シ骸にだってなりたくないし、あがけるものならあがきたい。

それに…コクーンが崩壊して沢山の人が死んでしまう事を、良い事だとは…思わない。





「ナマエさーん!」

「何してる、早く来い」

「……あっ」





その時、考えにふけって完全に足を止めてしまっている事に気がついた。
ホープとライトの呼ぶ声で、ハッと我に返る。

顔を上げると、ヴァニラとスノウも「おーい!」と大きく手を振ってくれていた。

うーん…いかん、いかん…。
なんか最近、ボーっとしてる事多いな、あたし…。

ボーっとすんな。
なんもないとこで転ぶぞ!

頭を振って、一度心機一転を図ってみる。





「うん!今行く!」





そうだよ。ファルシの言いなりなんて癪だし、コクーンの破壊だって良い事とは思ってない。
それが全てだ、それだけの話だ。

そう頭で唱えて笑いながら、あたしは慌てて皆に追いつくように駆けだした。



To be continued

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