シド・レインズの夢


しばしの休息を終え、異跡らしきこの場所を進む事にしたルシ一行。

異跡の中にはパルスの紋章があったり、それにルシの烙印が反応したり…。
パルスやルシにとって、なにか意味がある場所らしいという事は掴めてきた。





「やっぱり、ここはアークなんだ…」





そして、あたしたちとはまた別に、個人的に色々と掴めてきたらしいヴァニラ。

アーク…。また初めての単語だ。
ちらっとホープを見てみると、ホープも肩を竦めていた。

どうやらコクーンの住民は知らない知識のようで、ファングとヴァニラの二人が詳しく教えてくれた。






「この施設の名前さ」

「遥か昔、グラン=パルスを切り拓いたファルシ達は世界の外からの侵略を恐れた。外なる敵との戦いに備えて、ファルシはあらゆる兵器を生み出し、アークに納めて世界の各地に封印した」

「グラン=パルスじゃ有名な伝説さ。こんな話、皆信じてなかった。アークを探した奴はいたけど、誰も発見できなかったんだ。まさかコクーンの中にあるなんてよ」





ルシが伝説のようなものであったように、このアークという施設も伝説のようなものだったらしい。
伝説の通りなら、ここはグラン=パルスの武器庫のようなものだと言う。





「パルスの軍事基地だ?物騒なもん隠しやがって。聖府の連中め、何に使うつもりだ?」





サッズが眉間にしわを寄せ、聖府への嫌悪感を募らせる。
それを視たヴァニラは、まだ話には続きがあると言うように首を横に振った。





「それだけじゃない。もうひとつ…」

「アークには、別の役割もあるって話だ。…ルシの中に眠る力を叩き起こす」





ルシの中に眠る力…。
それを聞いて、思わず首筋の烙印に触れてみた。

ふむ。さっき変な紋章を踏んだ時、変な感じがあったけど、今は特に何ともない。

だけど、なんかその時から妙にふつふつと力が漲ってくるような気がする。
あえて言うなら…新の力に目覚めた!

…的な。





「ダイスリーの狙いは、私たちの力を強める事か」

「また一歩…化け物に近づいたってか」





ダイスリーの意図を察した様子のライトが腕を組み、サッズはやれやれというように肩を落とした。

でもそこに、力強い声がひとつ。





「戦う為の力を得たって考えましょう」





そう言ったのはホープだった。

あらら。本当にえらく前向きだ。
しかも、悪くないなっていう提案だから感心してコクコクと頷いてしまった。





「そうだよ!」

「うん!ホープに賛成!調子に乗って餌まいてると、噛みつかれた時痛いってわからせてやれってね!」

「あはは!ナマエも名案〜!」





ヴァニラとあたしはそんな事を言って笑いあった。
皆も後ろ向きに考えるより、前向きでいた方が良い事にに異存は無いだろう。

だいたい、ここまで来て後戻りなんか出来ない。

だからあたしたちは、更に奥にへと進んでいく事にした。






「レインズ…?」





そして、しばらく進み続けると…誰か、人影の様なものを道の先に見つけた。
近づく程そのシルエットが鮮明に見えてきて、スノウが目を細めて思い当った名前を呟く。

それは、あたしたちにとって見覚えのある人物の姿だった。

白い厚手のマントをなびかせ、こちらに歩いて来る男性。
スノウの言う通り、それは確かに騎兵隊を統括する、あのレインズさんだった。





「安心しろ。こいつは聖府の軍人だけど、俺たちの味方で…、っ」





面識の無かったサッズとヴァニラに説明しながらレインズさんに近づいていこうとするスノウ。

だけど、その行動をファングは乱暴に制した。
その瞳は、キッとレインズさんを睨みつけている。





「なんで此処にいる」





そのファングの言葉を聞き、確かに疑問を抱いた。

…言われてみれば、そうかもしれない。

頭の中で、この人は味方だって思っちゃってたから何とも思わなかったけど、言われてみれば…ダイスリーに連れて来られたようなこの場所にレインズさんがいるのは疑問がある。





「貴様、何者だ!」





その瞬間、ライトが駆けだしデュアルウェポンをレインズさんに振り降ろした。
レインズさんはそれを容易く避け、続くライトの攻撃も器用に受け止めていく。

そして一瞬の隙を突きライトを弾き飛ばすと、静かに呟いた。





「君らを導く…それが使命だった」





使命。
その言葉を聞いた瞬間、全員が察した。

レインズさんは、ルシだった…!?

誰もが驚きを隠せず、目を見開いてうろたえる。
だけどそんなあたしたちを待つことなく、レインズさんは語っていった。





「君らに出会う、ずっと前からね。パルスのルシに手を貸せと、聖府のファルシに命令された。この意味がわかるか?ファルシは常に君らを見守り、ひそかに手を貸していたんだ。君らを何度も救った奇跡も、その正体はファルシの援助。なぜならば…ダイスリー…いや、バルトアンデルスは君らがコクーンを破壊することを望んでいる」

「チッ…まんまと引っ掛かったってわけか」





ファングは舌打ちをした。

確かに…レインズさんの話には筋が通っていた。
騎兵隊の援助も、パラメキアでバルトアンデルスに会う事を想定して仕組まれていたなら…それでしっくり来る。

なんか、敵の思うつぼって感じで…嫌な感じだ。





「コクーンのファルシが、何でまた?」





サッズが尋ねる。

コクーンのファルシなら、なぜコクーンを壊す事を望むのか。

確かに、ファルシは食料や水から太陽まで、コクーンの生活の全てを支えてるって聞いた。

なのに壊したら本末転倒だ。
自分たちが支えてるもの、何で壊そうとしてるんだ。





「神を呼び戻すためだ。人間やファルシを造ったとされる、かの神だよ」





レインズさんは静かに答える。

人間やファルシを造った、かの神…。
神を言う単語を聞き、あたしはバルトアンデルスの言っていた言葉を思い出していた。

人の器…神の力…。





「神…」





その言葉を聞いて、あたしは繰り返すように呟き、自分の手のひらを見つめた。

…神様の力…?
あたしが持っている力を言えば、ルシの力くらいしか心当たりは無い。

だけど…もしかしたら、その神様っていうのがあたしがこの世界にいる事に関係してる…とか?

自分でもかなり大それたこと考えてると思う。
でも、一度気になってしまうと、その可能性も捨てきれない。

だからあたしは、レインズさんの語る神という存在の話を真剣に聞くことにした。





「遥か昔、神はファルシと人間を残し、この世界から立ち去ったと言う。人間とファルシは言わば、神に捨てられたみなしごの兄弟だ。見捨てられた人間は、やがて、神の定めた秩序すら忘れ、仲間同士で殺し合える稀有な存在となった。この荒んだ世界を再建するため、今一度神を迎える。それがファルシの真の目的だ」





人間とファルシを造った神…。
つまり、この世界の創造主…と言う事かな。

…やっぱり、そんな大きな存在が自分に関わってるとは思い辛い。
考えるだけ、無駄なことかな…?

でも、話を聞いた事で、ちゃんとわかったものもある。





「神を呼び覚ます為に、神に相応しい供犠がいる」

「それでコクーンの破壊を?」




ライトが核心を突くと、レインズさんはそれを否定しなかった。





「コクーン数千万人を皆殺しにして、命を捧げる」





コクーンを破壊し、その命を神の供犠に…。

酷く勝手な言い分。
サッズが小さく「ふざけんな…」と呟いたのが聞こえた。





「どうして僕達に頼る?ファルシなら、その気になればコクーンを壊せそうなのに」





ホープが最もな意見を聞く。

そう、それも違和感があった。
わざわざパルスのルシを使うなんて回りくどい事をしなくても、壊すなら勝手に壊してしまう事も出来るだろうに。

だけどレインズさんは首を振った。





「コクーンを創造し、維持するために存在するファルシだからだ。コクーンを傷つけることは、その使命に反する」

「つまり、コクーンのファルシはコクーンを破壊出来ない?それで、僕達を…」





維持するために存在しているから、その逆は出来ない。
だから、パルスのルシを利用してコクーンを壊そうとしている。

その為の奇跡、援助…か。





「私たちにしかコクーンを壊せないなら、壊さなきゃいい」





その時、ヴァニラが決意するようにそう口にした。

でも、それを聞いたレインズさんは意外な反応を見せる。
どうやら彼は、こちらがそういう考えに達すると読んでいたようだった。





「君らなら、そう言うと思っていた」





レインズさんがそう言った瞬間、怒りが爆発したように、スノウが拳をぎりっと握った。





「騙してたのかよ…。コクーンを人間の手で再建するって夢はどうした!全部嘘だったのかよ!?」

「…夢の残骸さ…。私が人間だった頃の。人による聖府を願い、聖府内で夢を叶える力を手にしたところで、ルシにされた。力を与えられるだけ与えられ、道具にされた哀れな傀儡だよ。消えたのはファルシでは無く…私だった」





レインズさんの手の甲が光った。

浮かびあがったのは、あたしたちとは違う模様…。
多分、コクーンのルシの紋章だろう。

レインズさんが人によるコクーンを願っていたのは嘘じゃなかった。
でも、それはルシにされた事で叶わない夢になった。





「ルシなど、使命という名の糸に裁かれる操り人形に過ぎない。もう二度と、夢を見ることなどないと思っていたのだがね…」

「どういう意味だ?」





夢は叶わない夢になった。でも、二度と夢を見ることなどないと思っていたなんて…まるで今はまた夢を見ているかのようにも聞こえる。

サッズが皆の意見を代弁するかのよう尋ねると、レインズさんは瞳に力を込めた。





「私が此処に来たのは、命令を受けてでは無い。君らを見て、思い出したんだ。懸命に掴もうとしていた未来を。私も…使命に挑んでみよう」





その瞬間、カッとレインズさんの紋章が強い光を放った。

思わず目がくらむ。
直後、レインズさんが指を鳴らした。

するとその一瞬の隙で、魔法壁があたしたちを逃がさぬように回りを囲んでしまった。





「ここで君らを倒せば、ファルシの計画を止められる。残された全ての力を持って、君らを討つ!!」





そう言い切ったレインズさんの体は、半分シ骸となっていた。

それはきっと…使命に抗った証…。

それだけで、この人が本気が窺えた。

本気なんだ。
本気で、あたしたちを倒そうとしてる。

目指してるものは同じなのに…でももう、きっと遅い…。

確かにあたしたちがいなくなれば、コクーンの崩壊は防げるのかもしれない。
だけど、だからって「はい、そうですか」って頷くなんて出来ない。





「ナマエッ!」

「っわかった…!」





茫然としていたあたしにライトの声が飛んでくる。

それはもう、やるしかないと言う事。
あたしはパッとライトに手を伸ばし、いつものように魔法を掛けた。

使命に抗い、本気でぶつかってきたレインズさんは相当手ごわい。
いくつも強力な魔法を放ち、容赦なく力を振り降ろしてくる。

辛い戦いだったから、余計に長く感じたのかもしれない。





「うらあッ!」

「ぐう…っ!」





続いた攻防の末、スノウが氷の力を込めた一拳。
それを喰らったレインズさんは、ぐらっと膝をついた。





「皮肉なものだ…。私が求めたのは、一瞬の輝きだったのにな…。結果は、どうあってもいい。君らはせめて、貫いてくれ…信じていた道を…」





それが、彼の最後の言葉だった。

その瞬間、キイン…!と、とてつもない光が彼の体から放たれる。
目を覆い隠してしまうほど、眩しい光。

それが徐々に収まった頃、レインズさんを見ると…。





「クリスタルに…」





目の前にある輝きを見て、あたしは小さく呟いた。

それは、一度セラの時に見たものと同じ輝き。
レインズさんの体はクリスタルへとその姿を変えていた。





「使命を果たしたのか?」





サッズが恐る恐る近づき、クリスタルを見つめる。
でもその言葉にスノウは首を振った。





「そうじゃねえ。レインズはレインズなりに、本気でコクーンを救おうとしたんだ。だったらっ…、ッ!」





スノウは感情が追いつかないようで、それだけ言葉を残すと早足でその場を去って行ってしまう。
それから程なく、クリスタルとなったレインズさんの体は光の粒となり、宙へキラキラと散らばっていった。





「綺麗…、だけど…」





そっと光に手を伸ばしてみる。

ルシ。使命。ファルシ。神。
今更だけど…なんだか酷く、理不尽だ。

だいだい神様って…。
本当にそんなものいるのかって話じゃないのか。

…神様……なんて。





「………。」

「ナマエさん…?」

「え、あ…っ」





ホープに声を掛けられ、ハッとした。
その時、自分があまりにぼうっと考え込んでいた事に気がついた。





「戦い、疲れました?どこか怪我とか…ケアルしますよ?」

「ううん、ごめんごめん、何でも無いよ!」





気遣ってくれるホープに慌てて笑顔を返した。
だって本当に怪我とかしてなし。全然本当に何ともない。

ただ…、なんとなく気になったのは、神様の存在。

神…。人間やルシを思いのままに統べるファルシが手を伸ばす存在…。
バルトアンデルスは、何であたしを見てそんなことを言ったのだろう。

うーん…神…、神…。
神様…、神様…。

ぐるぐるぐるぐる、頭の中で繰り返してみる。





「……め、がみ……」





すると突然、頭に浮かんだ言葉があった。





「え?」

「…ぇ…!?」





自然と呟いていた。
そう、あまりにも自然に。

ホープの声と自分の呟きにハッとして、慌てて唇を押さえた。

その瞬間、頭の中がぐらっと揺れる感覚がした。




「…っ、」





青…緑…?
そんな色の光がちらつく。

そして…波の音が聞こえる。





「あ、あの…ナマエさん、本当に大丈夫ですか?無理とか、してませんよね?」

「えっ、あ…ほ、本当に大丈夫です!」

「……本当、ですか?」

「うん!あ、あはは…!大丈夫大丈夫、ノープロブレムだよ!…まあ、でも、色々あったから、やっぱ精神的にはちょっと疲れたのはあるけど、ね」

「…まあ…確かに、レインズさんの事は、色々考えさせられましたよね」

「…だね」





心配してくれるホープに、あたしはまた大丈夫と笑ってみせた。

怪しさは、正直満点くさいけど…。
でも、ホープが折れてくれたから良しとしよう。

でも、本当に大丈夫だった。
別に気分が悪いとか、そういう事は無い。

ただ…なんか、記憶が…揺れた…ような。

それに……女神…?
って、あたし何言ってんだろう…。





「……。」





自分でもよく、わからない。
どうして女神なんて呟いてしまったのか。

だけど…呟いたその女神の存在は、なんだかとても近くに感じた様な気がした。



To be continuedued

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