ファルシの王


あたしたちの目的は、聖府代表ガレンス・ダイスリーを捕える事。

パルスのルシは全員揃った。
目指すはダイスリーがいるであろうブリッジ。

覚悟を決めて、いざ、乗り込こみます!





「会いたかったぜ、中佐!」





わりと温厚なサッズが珍しく睨み、指さした人物。
それは、眼鏡をかけた美人のお姉さん。

サッズは再会してから少しだけ話してくれた。

息子のドッジくんがコクーンの…リンゼのルシだって事。
既に使命を果たして、クリスタルになった事も。

眼鏡の美人さん…名前はナバート。
彼女とは、そこの辺りで何かと因縁があるのだという。

中佐と言ったし、彼女のすぐ傍にはあのダイスリーがいた。

他にも聖府の人間はいるけれど、恐らくこの場でダイスリーの次に地位を持っているのがこの人なのだろう。

ふむ、綺麗な薔薇には棘がある…て感じかな。





「閣下、急ぎ退避を。時間を稼ぎます」





あたしたちが駆け寄ると、ナバート中佐はこちらを見下すように笑って軍刀を抜いた。

ルシ7人相手に強気なお姉さんだなあ。
…ってそう主戦力でもないあたしが言うのも何だけど。

でも正直、そんじょそこらの人よりは強い…とは思うんだよね。

とにかく、あたしたちの目的は中佐じゃなくて閣下の方。
だからここで退避されちゃうわけにはいかないんです。

そうあたしたちが身構えると、くつくつと笑い声が聞こえてきた。





「退避するのは君の方だ。いや、退場だな。人間の出る幕は終わった」





そう吐いたのはダイスリー。
言葉を向けられたのは、ナバート中佐。

中佐は慌てて振り返った。





「閣下!?…っああ!?」





振り向いた瞬間、彼女の背中に魔法が直撃した。
ナバート中佐は悲鳴を上げて、崩れるように倒れこむ。

その様子を見たあたしたちは目を見張った。





「魔法だと!?」





サッズが声を上げた瞬間、ダイスリーは宙に浮きあがった。

味方である彼女を攻撃したことも勿論…。

ちょっと待った…!
この世界ってほいほい魔法使える世界じゃなかったよね…!?





「ね、ホープ!?魔法ってルシしか…!」

「ええ、そのはずです…!」





ホープに確認してみると、彼も酷くうろたえていた。

やっぱり、この世界はルシくらいしか魔法を使う事は出来ない。
だからこそコクーン市民はルシを恐れていた。

じゃあ…ダイスリーって…。

そう思い、浮き上った体を見つめているとダイスリーは再び杖の先から魔法を放った。
消し去っていくのは、この場に居た聖府のオペレーターたち。





「やめろッ!!てめえ!人間をなんだと思ってやがる!?」

「道具以外の何だと言うのだ?」





怒鳴ったスノウに平然と答え、地に着地するダイスリー。

その冷酷さにスノウは飛びかかろうとする。
だけど直前で、なにかバリアの様なものにはじき返されてしまった。

…やっぱり、何か不思議な力を持ってる。





「コクーンとは、ファルシが築いた工場だ。人間と言う道具を大量に生み出す為のな」

「ファルシの好きにはさせねえ!」

「人間だけで何が出来る?管理してやらねば死に突き進むしか能が無い、お前たちも見ただろう?ルシの恐怖に駆られた愚民どもを」





ダイスリーは呆れたような顔で話していく。

愚民…。
初めて報道番組で見た時の台詞とはえらい違いだ。





「ルシの恐怖を煽った貴様自身がルシだったとはな」





ライトがデュアルウェポンを構えながらダイスリーを睨む。

そう…、今この人は魔法を使った。
つまり…ルシ。

だけどその言葉に、ダイスリーは不敵に笑い出した。





「ルシだと?この私が?フフフフ…そうか、私はルシか。見くびられたものだ!」





その瞬間、ダイスリーは杖を掲げた。
そこに一匹の鳥が舞い、杖とダイスリーの体が光り出す。





「え…」





思わず声を漏らした。

目の前にいた老人は、みるみると光の中でその姿を変えていく。
大きく、大きく…人の身とは比べ物にならない程の異形のものに…。

人でも、ルシでも…ない…?





「私はファルシだ。我が名はバルトアンデルス。聖府を導き、コクーンに君臨するファルシの王」





ファルシ…バルトアンデルス…。
ファルシの、王様…?

現れた圧倒的な大きい存在。

よくわからないけど…ピリピリと直観的に思った。

コレ…とんでもない、って。





「闇を恐れる人間に光を与えたように、我々が民衆の望み通りパージを断行したと言うのに。大いなる導きを拒絶する、浅はかさを思い知れ」





あたしだけじゃない。皆も動揺していた。
だけど、ここで引くわけにもいかない。





「来るぞ!」





ライトの声が響く。
その瞬間、皆が動揺を断ち切り武器を構えた。





「ナマエさん…!」

「っホープ…」

「大丈夫、怖くない…!僕達は、ちゃんと立ち向かえる…!」

「…当然!」





まるで呪文かおまじない。
怖くないと、繰り返す。

でもそう…、ひとりじゃない。
皆がいれば、君がいれば、怖くない。





「ナマエ!ホープ!エンハンサーだ!」

「わかった!」

「はい!」





ライトから指示が飛ばされ、あたしとホープは互いに頷くと全員に補助魔法を掛ける準備に入った。

ファルシの王様に全員で立ち向かう。

一撃一撃が重い。
何もかも気が抜けない。

心の奥には不安が渦巻いている。

だけど、傍で一緒に戦っている皆の姿を瞳に映しながら、ひとつひとつ魔法を掛けて行った。

どれくらい戦っていたのかはよく覚えてない。

息が切れる、でも、何度も何度も根気よく立ち向かううちに、やっとバルトアンデルスの巨大な体は崩れ落ちた。
崩れた体は、クリスタルになって少しずつ散っていく。

それを見て、ようやく息が着けると思った。





「聖府の親玉がファルシとはな…」

「じゃあ、聖府を操っていたのはファルシ=エデンじゃなくて…」





散っていくクリスタルを見ながら呟いたスノウにホープが補足をつけようとする。
でもその瞬間、また声が聞こえてきた。





「言ったはずだ。私が王だと」



 

散ったはずのクリスタルが再び成形し、人型のダイスリーが現れた。

ま、まだ生きてるの…!?

思わず体が強張る。
ていうか、正直勘弁して欲しいんだけど…!






「そう簡単にファルシにゃ勝てねえってか」





嫌になる皆の言葉を代弁するようにサッズが嫌味を吐く。

でもそれにダイスリーが返したのは意外な言葉だった。





「勝てないのではない、勝とうとしていないのだ。お前たちはファルシに勝つ方法を既に知っている」





何を言っているのかわからない。

勝とうとしていない?
そんなことない。今のあたしたちじゃ何が足りないと言うのか。

ダイスリーはにやりと笑った。





「魔獣ラグナロク」





ラグナロク…。
その言葉に、ファング以外の全員が息をのんだ。

魔獣ラグナロク…あたしたちがルシにされた時に見た使命であろうヴィジョン。

ダイスリーはまた不敵に笑う。





「使命を忘れた哀れなルシに、教えてやろう。お前たちの使命は、魔獣ラグナロクとなり、ファルシ=オーファンを倒してコクーンを破壊する」

「オーファンだと?」

「ファルシ=エデンの力の源だよ。オーファンがエデンに力を与え、エデンは全ファルシを支えて人間どもを養ってきた」





訝しがるライトにダイスリーは語る。

ファルシ=エデンはコクーンの中核を担う存在…。
そのエデンに力を与えているオーファン…。

また新しい単語が出て、あたしは頭の中を少しずつ整理していた。
でもその時、身を刺す様な鋭い視線を感じた。





「…しかし、気になるのはそこの娘だ…」

「…は、い…!?」





鋭い視線はダイスリーのもの。

視線の先に映っているのは…あたし?

ビックリして声が裏返った。
というより、肩も跳ねた。





「娘…貴様は何だ?」

「何…と言われても…」





じっと、眼光に耐えて…考える。
やっぱり…他の誰でも無い、あたしを見ている?

何と言われても、そんな事知るか。
あたしはごく普通…じゃないのかもしれないけど、ファルシに何と言われるような覚えなんか無い…!





「あ…」





でもその瞬間、その視線を遮るように…ある背中が映った。

揺れた淡い薔薇色の髪。
ライトはデュアルウェポンを構え、ダイスリーを睨んでいた。

そして、もうひとつ。





「…ホープ」

「…大丈夫です」




すぐ近く。本当に傍。
ライトよりも目の前にある小さな背中。

彼は振り返ると、小さな声でそう言って頷いた。

その姿を見て思う。
また…庇ってくれた。

ダイスリーの視線の理由はよくわからない。
でも、大丈夫だって…そう声を掛けてくれる。

ダイスリーは害を加える気は無いのか、その様子に反応は見せなかった。
でも、変わらず視線はあたしを見据えている。

そして、まるで観察でもするかのように目を細めた。





「…人の器…、それは間違いない…か?しかし、何だ…?その内にある神に近い気配は…」

「…え…、神…?」





神、様…?
訳がわからなくて、言われた言葉をそのまま繰り返してしまう。

そんなあたしに代わるように、ライトが強く聞き返してくれた。





「神だと!?何の話だ!」

「…ルシに変わりは無いか。ならば、使命さえ果たすと言うなら…私に異存はない」

「何!?」





ひとり、納得するダイスリー。

神様って、何。
全然、わからない…。

でも、人の器とか…ルシに変わりは無いとか。
もしかしたら、コクーンでもグラン=パルスでも無い世界の人間だって…ばれてるの?

ファルシがあたしに興味を抱くと言うなら、思いつく予想はそれくらいしかない。





「ナマエさん…」

「ありがと…でも、何の事かは…」





ホープはまた心配するように振り返ってくれた。
大丈夫、という意味を込めて微笑みはしたけれど、やっぱり言葉の意味はよくわからない。

ダイスリーは疑問に答えはせず、その先を語る気はないようだから。





「オーファンを破壊すれば、秘められた強大な力の暴走により、コクーンは崩壊する」





あたしの存在に興味の薄れたダイスリーが語るのはコクーンの崩壊。

それを聞いたファングの烙印は光を放ち始めた。
ファングはそれを押さえ、考えるように呟く。





「ラグナロクになって…オーファンを壊せば…」





呟いたファングを見たダイスリーは笑いながら囁く。





「使命は果たされるだろう」





その言葉を聞いたファングは息を呑んだようにも見えた。

それは、あたしの気のせいだったのかもしれない。
だけど何故か、迷いが滲んでいるような…そんな印象を覚える。





「ふざけるな!与えられた使命など!」





ファングに囁くダイスリーをライトが斬りに掛る。

しかしダイスリーはそれをたやすく避けて見せた。
ライトは避けたダイスリーを睨む。





「セラはコクーンを守ると言ってクリスタルになった。だったら、俺たちの願いも同じだ。俺たちは俺たちの願いに従ってクリスタルになってみせる!」





セラの涙のクリスタルを握り締め、スノウ強く言いきる。
でもダイスリーはそれを高々と笑って払いのけた。





「その娘の真の使命を教えてやろう!」





セラの真の使命…。

確かに、セラの使命はよくわからない部分が多い。
でも、どうせなら明るい意味で考えて置こうと言うのをあたしは悪いとは思わない。

だけどダイスリーは、それを砕くように笑った。





「お前たちが集まり、娘がクリスタルになった。ならば使命はお前たちを集めることだ。娘はコクーンを破壊する道具を集めたにすぎん」





セラの使命は、あの場にあたしたちを集めることだった…?

だからあの瞬間、セラの体はクリスタルになった。

スノウは言葉を詰まらせた。
それにダイスリーは追い打ちを掛ける。





「考えもしなかったか?それとも…考えようとしなかっただけか?」




本当は、否定したかったんだと思う。
だけど出来なかった。

なぜなら、その話には筋が通っていた。

だけど、長く考える事は許されなかった。
その瞬間、突然に足元がグラッと大きく揺れたからだ。





「真実を拒むルシに、現実を見せてやろう!」





ダイスリーはそう叫ぶと、大きく手を広げ杖を掲げる。

すると先程からダイスリーの傍を飛び回っていた鳥が巨大化していき、一機の飛行機へと姿を変えた。





「逃げ延びて、現実を見るがいい」





最後に一言そう残し、ダイスリーは姿を消す。

まるでこの飛行機で逃げなさいとでも言っているかのようだ。
っていうか、乗れって事なんだろう。

しかも揺れは強くなる一方で、あたしたちにそれ以外の道は残されていない。





「行くぞ!」





癪だけど、本当に乗って逃げないと今いる場所が崩壊でもしそうだ。
そう判断したライトの言葉にあたしたちは頷き、ダイスリーの用意した飛行機に急いで駆けこんだ。

その時、あたしの頭にはいくつか気になる事があった。

ひとつは、ダイスリーがあたしを見て何か気になる口振りを見せた事。

そして…ファングのさっきのちょっとした表情と。
いつもの調子が嘘みたい、失意するように揺れた…スノウの瞳。



To be continuedued

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