仲間の存在


「おおー…」





目に映るハイテクな景色。
思わずきょろきょろと見渡して、落ち着きが無いことには自覚がある。

ホープの家でPSICOMから助けてくれたのは、スノウやファングがお世話になったと言う騎兵隊という組織だった。
騎兵隊は政府の組織であるものの、コクーンの改革を志しているのだという。

あたしたちは今、その騎兵隊の飛空艇リンドブルムにて保護されていた。


ていうか飛空艇って…!


ごめんなさい。正直あたしそこにすこぶるテンションが上がった。
かつ、この隊を指揮する人物の名はシド・レインズと言うのだとか。





「ナマエさん、なんかニヤけてませんか…?」

「ごめん、ホープ。今は気にしてくれないと助かる」

「は、はあ…」





ホープの指摘されようとも、ちょっと抑えられる自信が無い。

飛空艇にシド。
コレを聞いたらテンション上げるなって言う方が無理な話だとあたしは主張したいです。

それに、この他にも、歴代シリーズオンパレードなんだもん。

多分共感してもらえないとは思いつつ、あたしは我慢出来ずにホープに話を振ってみた。





「ねえ、だってさホープ。飛空艇だよ?」

「まあ、確かに凄いですよね。好きなんですか?こういう乗り物」

「うん。結構好きだと思う。前に飛行機乗った時はさ、あんまり生きた心地しなかったしね」

「ああ、前はヴァイルピークスに落下しましたもんね」

「そうそう、あれマジで怖かったよね…。ライトの操縦とか…本当死ぬかと思ったし…」

「あ、ナマエさん、後ろ」

「え?」





追われてたのもあったけどなかなか雑だったよねー、なんて。
そんな言葉を零した瞬間、突然ホープが後ろを指差す。

振り向くとそこにはまさかのライトお姉さん。





「ほう。それは悪かったな」

「ライト…!?いつからそこいた!?」





ちょっぴり怖い微笑みで詰め寄ってくるライトに、あたしは顔を青くする。
ホープはその様子を見て、楽しそうに笑ってた。





「ちょっとホープ!もっと早く教えて!」

「あははっ!そんなこと言われても」





ホープの笑い声や笑顔。
出会った頃とは比べられない、明るいもの。

…パルムポルムの一件で、皆、少しつきものが落ちた様な感覚だったんだと思う。

ホープはお父さんという、自分を思ってくれる人を見つけた事。
ライトもルシじゃなくなった時、セラに会いたいって…。

それぞれ、小さな希望も見え始めたみたいだった。

でも今はとりあえず…!





「こ、これで許してください!」





あたしは頭を下げながらバッとライトの前にとある袋を突きだした。
目の前にいきなり物を差し出され、ライトは目を丸くした。





「なんだ、これは…飴…?」

「糖分は頭に良いんですよ、お姉さん…なーんて」

「そんなもの持ってたのか」

「あはは、うん。数少ないあたしの荷物。何味がいい?ホープも食べる?」

「あ、はい、食べたいです。いただきます」





へへ、と笑いながら袋からひとつずつ取り出しライトとホープに手渡した。
後でスノウとファングにも渡しに行こう。

ライトは飴のパッケージを見て「確かに見たことないデザインだな…」なんて感心していた。

…こういう風にしてると本当、皆と仲良くなれてきてるのかなって思える。

ああ、そう言えば…。
飴を渡すのは2度目で、コロンと飴を転がすホープにあたしは尋ねた。





「そうだ。ねえ、ホープ。お父さんこと聞いてみた?」

「あ、はい。父さん、無事だそうです。騎兵隊の別働隊が助けてくれて、今は安全なところに」

「そうか。脅されたと言う理由づけはしたが、ルシと関わったことは事実だからな」

「うん。騎兵隊が助けてくれたなら、ひとまず安心だよね」






ホープのお父さん。聖府に身柄を確保された…とかだったら不安が残るけど、騎兵隊が保護してくれたなら、それは今一番の安心だ。

騎兵隊と言う心強い味方が出来たことからも、あたしたちに吹く風は向かい風から追い風に変わり始めたんじゃないかって、そんな気持ちだった。

それでもルシはルシ。
問題は、まだまだ山積みなのは変わらないんだけどね。





《ご覧ください。こちらが、聖府艦戦艦パラメキアです!ノーチラスで逮捕されたパルスのルシは現在、この艦に身柄を拘束されています。ルシは首都エデンへと護送された後、正式な処分が下される模様です》





モニターから流れる報道を全員で眺める。

パルスのルシが拘束されている。
今ここに居ないルシと言えば、それはサッズとヴァニラだ。

つまりふたりは逃げ切れず、ノーチラスというところで捕まってしまったらしい。
…ノーチラスって、飛空艇…じゃないよね、多分。





「ノーチラスは遊園地ですよ、ナマエさん」

「へ?」

「ノーチラスって何だろうって顔してましたから。いらない説明でした?」





振り向くと、ホープがにニコッと笑っていた。

なんと。そんなに顔に出てただろうか。

でも、正直有難い説明だ。ていうかドンピシャ。
それに、やっぱりホープの笑顔がとても自然で、あたしも自然と頬が緩んだ。





「ううん。今聞こうと思ってた。そっか、遊園地かあ。楽しそうだけど…でも、夢の国から一気に地獄に突き落とされちゃった感じ?」

「ですね…」





ヴァニラとサッズと別れたのはヴァイルピークスだ。
あれから、二人にも色々あったんだろうか。

あたしたちの方にもPSICOMは多くいたけど、ふたりの方はどうだったんだろう。

なんにせよ、捕まってしまったとなれば放っておくわけにもいかない。





「聖府代表は凶悪なルシに正義の裁きを下す。クライマックスがルシの公開処刑だ。パルスを憎む人々は喝采し、ファルシによる支配は磐石となる」

「ファルシの思惑通りか」





レインズさんの言葉に、ライトが面白くなさそうに言う。





「だが、我々のチャンスでもある」





レインズさんの狙いは、サッズ、ヴァニラ救出と共に聖府代表をとらえれば、ファルシの言いなりである聖府の実態を公衆の面前で暴くと同時に、あたしたちの真のルシの姿を見せれば打倒政府に賛同をもらえるかもしれない…という事らしい。






《ルシを護送する戦艦パラメキアの陣頭指揮には、ダイスリー聖府代表自らが当たっており、パルスのルシ問題への強い意欲を示しています》





モニターを見ながら思い出す。
ダイスリーって、確かあの豪勢な服装のおじいさんだよな。

どこからどう見ても権力持ってそうって風貌の人。





「餌だな。露骨に誘ってやがる」

「何を?」





敵の考えを読みとったらしいファングにスノウが尋ねる。
それに答えたのはライトだった。





「仲間は此処だ。助けに来い」





それは、仕組まれたもの。
籠の中におびき寄せるために撒かれた餌。

その答えを聞いたスノウは、上等だというように笑った。





「俺らを待ち構えててるってわけか。おもしれえ、のるぞ!」

「OK、乗せてってやるよ。準備が出来たら出発だ。俺のところに来な」





そして、リグディさんも笑った。

リグディさんは騎兵隊の一人。
多分、レインズさんにも一目置かれてるような、そんな存在だと思う。

ダラダラとしている理由もない。
だからあたしたちは、すぐにリグディさんを追った。

リグディさんは、ひとつの軍用機をあたしたちに見せてくれた。





「こいつでPSICOMの所属になりすます。お前らをパラメキアへ配達だ」

「俺たちゃ荷物かよ」

「腐りきった聖府へ贈るプレゼントさ。PSICOMなんか蹴散らしちまいな」





なんだか言い回しが格好いい人だ。
洒落が聞いてると言うか、なんというか。

そんな様子に、ライトは軽く溜め息をついた。





「他人事だな。相手が何人いると思ってる」

「何百だろうと関係ねえよ!ヴァニラが待ってんだ!」





ファングは険しい顔でヴァニラの身を案じた。
ずっと思ってたけど、ファングってヴァニラの事を相当大切に思ってるみたい。

今の台詞からも、十分それが伺えた。





「大事なんだね、ヴァニラの事」

「たりめえさ。あたしにとって、ヴァニラはかけがえない存在だ」





聞いてみると、さらりと言い切られた。

なんだかこっちが照れそうだ。
でも、言いきれるくらい、本当に大事な存在がいるって…いいな、って思う。

そんな様子を見ていたホープは小さく笑い、ファングにそっと声を掛けた。





「大丈夫ですよ。ヴァニラさん、僕より全然逞しいから」

「あ、確かにそうかも」





それを聞いて、あたしも思わず頷いた。
うん、確かに言えてる。

ヴァニラ、可愛い顔して行動力ありまくりだったもんね。
ボーダムの異跡とか、ひとりでグングン進んでってたし。

すると、その様子を見たライトはホープに尋ねた。





「怖くないのか?」





その言葉は、言葉こそホープに向けられていたけど、視線からあたしにも向けられているのはわかった。

だからあたしはふっと笑った。
そして、ホープにその視線を向けた。

多分…ホープが今から答える言葉と、そう意味は変わらないと思ったから。

ホープと目が合う。
彼もまた、あたしを見て笑ってくれた。





「怖いです。でも、ひとりじゃないから。ナマエさんも、ライトさんも、スノウもいるし…ファングさんも。同じファルシに呪われて、酷い目にあってる仲間です」





本当に、ホープは変わったと思う。
ホープの今の言葉で、その場の空気が少し和んだ。

仲間。

今まで、それぞれが思うままに行動してたし、ルシという共通点だけを持った間柄っていう空気があったと思う。

だからなんとなく、今の言葉で仲間なんだっていう認識が凄く生まれた様な気がした。

なにより、自分がそこに入っていると言う事実が、なんだか嬉しかった。





「ナマエ…お前は、大丈夫か?お前にとって、聖府と戦うと言うのは…」





ライトは一応、あたしにもきちんと声を掛けてくれた。

あたしにとって、聖府と戦うと言う事は…。

勿論、あたしもルシになってしまった以上、聖府には目をつけられている。

だけど、あたしの一番の前提は元の世界に帰りたいと言うこと。
もともとエデンに行きたいと言った理由も情報が多くあるだろうからという事からだ。

そう考えると、わざわざ聖府と戦う必要もないんじゃないかって、そういう心配をしてくれているのだろう。
戦う事だって、もともと疎遠の存在だから。

でも結構、あたしの中では答えはすっきりしていた。





「うん。確かにホープと同じで怖いとは思うよ。でも、ヴァニラもサッズも仲間だし、ふたりもあたしの事助けてくれたから…あたしも助けたい。そのための力が、少しでも自分にあるのなら」

「…ナマエ」

「それに、ほら。いざとなったらライトとホープが守ってくれるらしいからね?」

「「!」」





ちゃんと自分の気持ちを伝えたついでに、少し悪戯するようにそんなことを言ってみる。

ライトとホープは目を丸くする。
でもすぐにその悪戯に乗ってくれた。





「言ってくれるな」

「あははっ、頑張ります」

「ふふ!うん!お願いします!」





いや勿論、あたしも出来る限り力になりたいとは思ってるけど。
だけどふたりの笑みには、確かに柔らかい空気を感じた。





「さぁ、青春ごっこはおしまいだ!乗った乗った」





リグディさんの言葉に背を押され、あたしたちは軍用艇に足を運ぶ。
するとその時、後ろでスノウとホープの他愛ないやり取りが聞こえた。





「なんで俺だけ呼び捨てなんだよっ」

「ふっ…あはははっ」





突っ込みを入れるスノウに、それを笑って誤魔化すホープ。

ああ、本当によかった…。

なんだか色々な意味で、胸の中があたたかい。
今から敵の真っ只中に行こうとしてるって言うのに。

確かにあたしは、嬉しいって思ってた。



To be continued

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