響き渡る大きな音。
夜空を彩るいくつもの光。
「…花、火…」
賑わう人ごみの中、あたしはその光を見つめていた。
「ねえねえ、何お願いした?」
「えー?あの伝説信じてるの?」
「いいじゃない。願いの叶う伝説の花火、ロマンチックでさ」
背中の方でそんな会話が聞こえた。
願いの叶う花火…。
そんな言い伝えがあるらしい…目の前のこれは。
それを知って、また改めた気持ちで花火を見上げた。
「………。」
色とりどり。
この光は、いつ見ても何度見ても綺麗だと思う。
願い、か…。
別に減るものでもないわけだし、折角だから何かお願いしてみようか。
ぼんやり見ながら考える願い事。
でも、こう…いざとなると思い浮かばない…。
なんだか…あたしっていつもそうだ。
初詣とか言っても、結局何も浮かばないというか…。
絵馬とか書きたいのに願いが全然思いつかないタイプ。
よ、よし…次の花火が上がったら言おう!
これじゃらちが明かないもん!
せーのっ…!
「し、幸せになりたいですっ…!」
ぱあっ、と開いた光に慌てて叫んだ願い事。
…ちーん。
どっかから、そんな音が聞こえた気がした。
う、…。
「………。」
なんだ、幸せになりたいですって…!!!
いや、なりたいけど…!
幸せになりたいけどさ…!
あまりに見事…。
ガクンと膝をついて項垂れたい衝動にかられた。
人ごみの手前しなかったけど…!
そもそも別に流れ星じゃないんだから焦る必要もなかったよね…。
……いや、ていうか…こんなことしてる場合じゃない。
そこまでして、やっと頭を現実に戻した。
そう、今までのは言わば…ちょっとした現実逃避だったりする。
「……ここ、どこですか…」
花火にかき消された、途方の呟き。
はじまりは…少し前に遡る。
◇◇◇◇
あたしは普通に歩いていた。
帰り道。
どちらかというとインドアなあたしは特に寄り道をすることもなく…家路をただただまっすぐと歩いていた。
でもその日は特別。
特別早く帰りたかった。
何故って、帰って早くやりたいことがあったから。
FF13。
まだプレイしていないゲーム。
それがやりたくてたまらなかった。
だから寄り道しないでまっすぐ帰ってた。
興味のない人には「何だそんなことか」なんて言われそうなこと。
特別ってどんだけだよ、ってか。
だけど、そんなのどうでもいい。
だってそんなもの楽しんだ者勝ちでしょ?
時間が無くて、まだ説明書しか読めてないような状態。
そんなの軽く生殺しだ。
早くライトニングとかスノウとかホープとかヴァニラとかサッズとかファングとか!…って全員言っちゃったけれど。
やっと出来た時間を少しでも無駄にしたくなくて、心なしか早歩き。
とにかく早くやりたい。帰りたい。
馬鹿の一つ覚えだけど、あの時あたしは本当、それだけしか考えてなかった。
「……えっ…?」
でも、一度だけ。
足を止めて振り返った。
「……?」
振り向いても何もない。
なんてことない、何の変哲もない景色が広がっているだけ。
でも、あたしは何故だか振り返った。
「…気の…せい…?」
何か聞こえた気がした。
いや…もっと曖昧。
何かを感じた気がした。
…何を?
そう聞かれても答えられない。
やっぱり気のせい…?
そう思って、早く帰ろうと思いなおす。
そして前をいたその瞬間…。
「……うわっ…!」
ぶわっ…と大きな風が吹いた。
思わず目を閉じてしまうほどの大きな風。
ゴミが入らない様に反射的に腕が顔を隠して、ぎゅっと目をつぶる。
そして次に開いた時…目の前の光景は…。
「…花、火…」
響き渡る大きな音。
夜空を彩るいくつもの光。
花火、だった。
To be continued
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