カミングアウト


「…ん……」




目が覚めた。
視界が、ぼんやりしてる…。

特に意識することなく体を起こして、目を擦った。
そこでだんだんハッキリしてきた視界。

その視界に真っ先に映ったのは…、景色の光を反射する、綺麗な銀色だった。





「あれ…ホープ…?」





まだ少しぼやけた頭に浮かんだ、目の前にいる彼の名前。
それを呟くと銀色の髪がピクリと動き、ゆっくり顔を上げた。

淡い緑色をした瞳と目が合う。でも、それは一瞬。

ホープは、視線を少し下にずらした。
たぶん…、あたしの首辺り。





「…ナマエさん…首…」

「え、な、なに…?」





見ていたのはやっぱり首だったみたいだ。
だけどそれだけならともかく、ホープはあたしの首を見たまま表情を歪めた。

え…、なに。首…?首がなに…!?

いきなりそんな顔をされて、頭が冴えてくる。
なんだか妙に焦りを覚えて、あたしはポーチに手を突っ込んでコンパクトを取り出し首筋を映した。





「なに、これ…」





髪を耳に掛けて、そこにあったもの。

首筋から鎖骨あたりにかけて…。
そこには…黒いタトゥーの様なものが出来ていた。

そっと指先で触れて、なぞってみる。

でも、消えない。





「…ねえ、これ…、…えっ…?」

「……っ…」





これ、なに?
そうホープに聞こうとしたら、言いかけた所で腕を掴まれた。

俯いてて、表情はよく見えない。
でもまた、手が震えているのが伝わってきた。





「あ…みんな…」





その時、周りにも目が向いて、他の皆も倒れている事に気がついた。

ああ…そうだ。ちょっとずつ思い出してきた。
あたしたち、ファルシっていうのに襲われて、それで気を失ったんだ…。

でもそこはさっきの異跡っていうところじゃなかった。

一面が真っ白で、キラキラしてる。
最初は雪かなって思ったけど、全然寒くないところを見ると雪じゃないらしい。





「ルシの…」

「え…?」





色々思い出していると、ホープの細い声が耳に届いた。

その時…見えた。

ホープはあたしの腕を掴んでいる自分の手首を押さえていた。
その隙間に、あたしの首とまったく同じタトゥーみたいなものがあった。





「ルシの…烙印ですよ…」

「ルシの、烙印…?」





ルシと聞いて真っ先に浮かんだのはセラだった。

その、烙印…?
ルシの烙印があたしの首にある…。ホープの手首にも。

目の前のホープは完全に気力を無くしてしまったような顔をしてる。

…えっと…。
正直なところ、頭の中がこんがらがっていた。

ルシの印が体にあるって…。

あたしとホープの間に流れていた非常に深刻な空気。
だけど直後、そんな空気をぶち壊すかのように、ドでかい叫びが乱入してきた。





「セラッ!!?」

「!?」





思わず、びくっと肩が跳ねた。

叫んだのはスノウだった。
スノウは叫んだと同時に勢いで体を起こした。

そして、その叫びに気がついたのか、他の皆もだんだん目を覚まし出す。

…スノウ、すごいよスノウ…。
彼の声が皆を目覚めさせた。…て、言い方はちょっと変だろうか。

でもとりあえず全員無事だったみたいで、あたしは安心を覚えていた。
ホープは膝を抱えて、顔をうずめてしまったけど…。

起き上った皆も、辺りを見て困惑してるみたいだった。





「なんだよ…これ」

「ビルジ湖…だよなあ?」





起きあがったスノウやサッズが辺りを見渡した。
ライトニングやヴァニラも立ち上がって、各自で様子を伺っていた。

どうやら、ここはビルジっていう湖らしい。
あたしたちは異跡からここに落ちて…湖は結晶化。

それ以外のことは、皆にもわからないみたいだった。





「生きてる…、どうして?」





ヴァニラが掌を見つめて呟く。
するとそれに真っ先に言葉を返したのはスノウだった。





「セラだ!あんなに上から落ちたのに、助かるなんて奇跡だろ!セラが助けてくれたんだ!」

「ふざけるな!」





でもそこに怒鳴り声。

何かもう、お決まりみたい…。
スノウがセラの名前を口にすると、ライトニングは途端に機嫌が悪くなる。

今回も然り。





「いいか、セラはお前のせいで…!」

「!、義姉さん!」

「…っ!」





でもスノウは、そんなライトニングの怒りを聞かずに走り出した。
彼女に背後へ、素早く。

ライトニングの背後にシ骸が現れたからだ。
それにいち早く気づいた彼は腕をクロスして攻撃を受け止めた。

そして反撃の拳を繰り出そうとした時に、事は起こった。





「うらあ!……っ?!」





スノウの拳を受けたシ骸は勢いよく吹っ飛ばされた。

スノウの拳は確かに威力がある。
でもそれだけじゃない。今は、明らかに何かの別の力が働いていた。

彼自身も驚いたのか、己の拳を見つめてる。
それもそのはずだった。

…光って、る…!?

彼の手首には、あたしの首筋やホープの手首と同じ刻印があった。
その刻印は、青く光り輝きを放っていた。





「なんだよ、今の…」





唖然とする様に呟くスノウ。
それを聞いたホープは。弾けるようにバッと立ち上がった。





「魔法だよ!」





そして、俯いていた顔を上げて怒鳴った。
自暴自棄にでもなったように、吐き捨てる様に。





「ルシの力だ!ファルシに呪われたんだ!ルシにされたんだよ!」





それを聞いて、あたしは首筋に触れた。
ファルシの呪い…ルシにされた…。

そして、一体だけか思ったシ骸はどんどん現れて出て来た。

あたしとホープを除き、皆が武器を手にしてシ骸たちに立ち向かっていく。
皆、戸惑いながらも武器や魔法を使ってシ骸達をなぎ倒してた。

正直、あたしは見惚れてた。

いや、敵を倒していく皆の戦いぶりにもだけど…でもやっぱり一番はコレ。

…目の前で魔法が飛び交ってる…。

やっぱり…これは紛れもない現実なんだ。

改めて思った。
ここは本当に、FFの世界なんだ…って。





「…本当に、ルシなんだな」

「…らしいな」





しばらくするとシ骸たちは一掃された。

異跡でも皆の戦う姿は見たけど、今のは比べ物になって無かった。

なんというか…何もかも桁違い。
数が多かったからそれなりに時間は要したけど、一体なら瞬殺…って感じ。

多分、色々強化されてるような感じがする…。
魔法もそうだし、あと常人よりダメージも軽減されてるような。

なんというか……ルシって、むちゃくちゃ強いんじゃん…!

一言で言ってしまえば、そんな感想。

今の戦いを見たら、何だかそう悪いモノでも無い気がした。
でもやっぱり皆の顔を見たら、そんな単純なものではなそうではなさそうだった。





「…全員、ルシか」





ライトニングが放った言葉。
それは全てだった。





「…なんで、僕が…」





それを聞き、改めて実感してしまったホープはガクッと膝をついて嘆いた。

嘆きの先は、悲痛な叫び。
ホープはファルシに武器を向けた3人を睨んだ。





「僕は関係ないのに!あんたらがファルシなんかに手を出すから!僕を巻き込むなよ!」





睨んで、俯いて。
そして最後に視点が行き着いたのは…やっぱりスノウ。





「あんたのせいで…僕の…僕のっ…」





ぎゅうっ、と膝の上で強く握られていく拳。
ふるふると震えて、力が籠っていく。





「あんたもセラも迷惑なんだよ!」





立ちあがって、ホープは思いっきりスノウに言葉をぶつけた。

…あ…、あー…。
あたしはそれを聞いて額を押さえた。
言うなれば…やってしまった…というか…。

案の定、セラの事まで言われた今回ばかりはスノウも「おいっ!」とホープに反撃した。

途端、ホープは怯えたように尻もちをついて後ずさってしまった。

でも今度、その後ずさった先にいたのはライトニング。
ライトニングも妹のことを言われたら良い気なんてしないだろう。

……完全に地雷だ…。

スノウとライトニングに凄まれ、ホープはまた頭を抱えて小さくなってしまった。
我に返ったスノウは「…悪い」と謝ってたけど。

…こう、気まずーい雰囲気になってしまった。





「あ、あのー」





でもそんな中で、あたしは勇気を振り絞って口を開いた。

そんな空気を壊したい、そんな意味もあった。

だけど…うぐぐ…。
皆の視線が一気に集まって、何か怖気づいた。

でも…そろそろ言わなきゃ聞かなきゃって、ずっと思ってた。

ええい、度胸だ!根性出すの!
あたしは今まで貯め込んでた疑問を全部、吐きだした。





「あ、あの!ルシって、魔法使えてすごーい…とかじゃ、済まないってこと、なんですよね?その、シ骸か…クリスタル?」

「ああ、そう言うこった。ルシなんて少し前まではおとぎ話かと思ってたのになあ…」





答えてくれたのはサッズだった。

…アフロのおじさん、良い人だ…。

でもそこでまたひとつ見つけた事実。
ルシって、おとぎ話…そんな風に思われてたのか…。

あたしにとっては、ここで起きたことのほとんどはおとぎ話みたいになものだけど。
でもFFの世界って考えちゃえば、そこさえ認めてしまえばあとは何でもすんなり受け入れられる。

だって、この世界に来ちゃった時点でおとぎ話なのだから。





「じゃあ…ファルシって?ファルシって何ですか?アレが、ルシを選ぶんですよね…?あ、異跡っての事壊そうとしてたって事は、人にとって害のあるもの、とか?」

「ああ…?そりゃコクーン市民にとってパルスのファルシは敵だろうが…」

「ああ、えっと…それ!えっと…コクーンとかパルスとかも。それって…なんなんですか?」





そこまで聞くと、皆の目が変わった。
正にきょとん、と言った…そんな感じに。





「……嬢ちゃん、異跡から落ちて頭ぶつけたか?」

「なんっ…ぶつけてないです!!!」





しかもサッズからは何故か憐みの目を貰った。

ちょ…、頭ぶつけたって…。

いやまあ…、ホープが異跡を怖がらないヴァニラを不思議そうに見てたから、こういう反応は多少覚悟してたけど…。
いざ実際に受けてみるとなかなか辛いものがある…。

だけど、そんなあたしにも救世主がいた。
それは、にっこりと笑顔を浮かべてぴょんぴょんと近寄ってくる女の子。

ヴァニラがあたしの背中から手を伸ばし、がばっと抱きついてきた。





「ふーん。ナマエってコクーンとかパルスのこと、知らないの?」

「…知らないよ」

「ルシとかファルシも。ぜんぶ?」

「…うん、ぜんぶ。皆が話してた内容、自分なりに整理して考えてたけど全然わかんなかった」





ただ、頷いた。

だって仕方ない。それが事実なんだから。

ヴァニラはそう呟いたあたしの顔を見ると、「うーん」と何か考え始める。
そして、核心に触れて来た。





「ねえ、ナマエはどこから来たの?」





聞かれて、ちょっとだけドキリとした。

だって、それは確かに「頭ぶつけたか?」の答えにはなると思う。
あたしがこの世界の事、なにも知らない理由の答え。

でも、問題はなんてそれを説明するのか。

あたしはこの世界の人間じゃないです。
この世界はゲームの世界なんです、って?

…それじゃどう考えても本当に頭ぶつけた人だよね…。

あたしは小さく首を振った。





「…たぶん、言っても信じて貰えない、かな。頭おかしいって思われちゃいそう」

「…既に思っているがな」





視線を地に向けてぼそっと呟けば、返って来たのは予想外のお姉さんの声。
返してきたのはまさかのライトニングだった。

…なんだか妙にグサリときた気がした。
なんというか…彼女に言われるとダメージ倍増…?

…や、既にって…。いや…、まあ、うん…。ですよね。
でもたぶん…こんなことでいちいち傷付いてる場合じゃないんだろうけど…。

すると、そうやって項垂れていたあたしの目の前にヴァニラとは別のニカッとした笑顔が映った。





「とりあえず話してみろよ。ちゃんと聞かなきゃ信じる信じないもないだろ?」

「え…っ」





それは自分よりいくつも高い背。
見上げれば、そう言ってくれたのはスノウだった。





「な!ほれ、どこから来たんだ?」





ぽんぽん、と頭を撫でられた。

…なんというか、最初に調子よさそうとか思ってごめんなさい…って思った。
いや、まあ今も良さそうは良さそうだけれど…。

…悪い人ではないいだろうな、とは思ってたけど、それはどうやら間違いではなさそうだった。

言ってみろと言ってくれた。
それに、特に気のきいた嘘も思いつかないし…。

だからあたしは、ゲームとかは言わないで多少はオブラートに包みつつ、自分がどこから来たのかを話してみることにした。





「えっと…日本…ってとこ」

「ニホン…?うーん、聞いたことねえな…」

「…やっぱり。だって、なんだか常識とか文化とか、色々と違いそうだもん。そう…まるで、全然違う世界に来ちゃった…って感じ」





というか、違う世界…なんだけどね。

だけどコクーンたファルシとか、文化が違うのは確かだし。

ゲームの世界だって言ってしまえば、説明は楽だけど…。
それを言わずに説明するとなると、なかなか難しいものがあった。





「とにかく…あたしの居たところにはファルシとかルシとか…そんなもの、欠片すらない。魔法もない。魔物とかもうろついてないし」





家に帰ろうといつも通り歩いていた。

いつもと何一つ変わらない帰り道。
だけど…ふと、何かを感じて、足を止めて振り向いた。
でも何もなくて、気のせいだと思ってまた歩き出そうとした。

そうしたら急に目も開けられない突風に吹かれて…、気がついたら花火を見ていた。

あったことをすべて。ゲームの事以外は素直に話した。





「へえ、ボーダムの花火か。んで、パージに巻き込まれた、と」

「うん…。そういうこと、ですね」

「なるほど、なるほど。そりゃあ大変だったな」





うんうん、と。
スノウはあっさり頷いてくれた。

その様子には、流石に面を食らった。





「え、信じて…くれるの?」

「だって、本当のことなんだろ?」

「それは…そうだけど」





正直拍子抜けだった。
こっち的にはそれは有難いんだけど…、これはこれでいいのか?って気もしてくる。

だってこんなわけわかんない話、普通信じられるだろうか?
嘘は言ってないけど、あたしだったら「何言ってんだ」って思うと思うし…。





「本当!心細かったでしょ?ナマエ!」

「…ヴァニラ」





するとヴァニラも。
抱きついていた力を強めて、更にぎゅうとしてくれる。





「ファルシのねえ世界、なあ…。まあルシなんてもんになった時点で、もう何が起きても不思議はねえのは確かだがな」

『キュイッ!!』

「…!!!!」





そしてサッズもわりと好意的な意見をくれた。
…と思ったら彼の立派なアフロから黄色い何かが飛び出して来て、あたしの目の前をふわふわ飛んだ。

こ、ここここれ…!
チョコボ!!!?

そっと手を差し出すと、ぽてん、と着地してくれた。

うわあ!うわあ!ふわふわしてる…!





「か…かわいい…!」

「へへ、可愛いってよ。良かったな。そいつ、俺の頭を巣にしやがるんだ」

「頭を巣…」





気を良くしたように笑うサッズ。

ああ、だからアフロから出て来たのか…。
…でもそれって面白すぎやしないかなあ…?





「ふふっ、あははっ!」





よくよく考えて、つい噴き出してしまった。
ああ、なんか…皆良い人だ、なんて。

ライトニングは少し離れたところで溜め息ついてたけど。

そしてホープは、ぽけ…とあたしの顔を見てた。
まあホープは…ずっと一緒だったのに全然説明とかしてなかったしね…。





「とりあえず、これも何かの縁だ!自己紹介でもしようぜ。俺はスノウ・ヴィリア―ス!」

「あ、うん。あたしはナマエ」

「ヴァニラ!」

「サッズ・カッツロイだ」





とりあえず、スノウの提案であたしたちは自己紹介をした。

話に参加していた面子が紹介を終えたところで、スノウが「お前は?」とホープに話を振った。
ホープはスノウには相変わらずで、そっけなく答えた。





「…ホープ・エストハイム」

「そっか。うんうん。んで、向こうにいるのはボーダム治安連帯所属、通称ライトニング。名字はファロン、名前は知らね」





黙ったまま、ツンとした態度を貫くライトニングの紹介はスノウが代わりにしてくれた。

…さすが恋人の姉。詳しい…。
でも…ライトニングって、名前じゃなかったのか…。

ライトニングという呼び方しか知らなかったから、少しだけ本名が気になった。

なにはともあれ…結局、あたしのカミングアウトは…皆のキャパシティの大きさによって、事なきを得たのだった。



To be continued

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