嘘だと繰り返す



一面銀世界。北の霊峰ガガゼト山。

ナギ平原を抜け、ここに辿り着いた召喚士ユウナ一行。
あたしは、今度は無事にナギ平原を越えられた事に安心していた。
同時に元の世界に帰る事とナギ平原は無関係かもしれないと言う新たな考えが浮かんだ。

まあ、それはあたし1人の問題だからともかく。
ガガゼトに着いた途端、あたしたちの前には問題が立ちはだかった。





「召喚士ユウナとガード衆よ。早々に立ち去れ。ロンゾが守護するガガゼトはエボンの神聖なる山。教えに背いた反逆者には御山の土は踏ませない」




族長、ケルク=ロンゾはそう言った。
山の入り口に立ちはだかるロンゾ族。完全に反逆者扱いだ。





「私は寺院を捨てました。もう寺院の命令には従いません」

「その言葉、取り返しがつかぬぞ!」

「構いません。寺院は教えを歪め、スピラを裏切っています」





ユウナは毅然とした態度でロンゾ族に接する。





「裏で小細工ばっかしやがってよ!」





ワッカもユウナに続くように言い返した。
ちょっと前までは全然想像できなかった姿だな。ちょっと嬉しい自分がいる。

それにティーダとリュックも後ろから「そうだそうだ!」と続ける。…ちなみに、あたしも。

いや、思うこととかは色々あるけど…何か上手い言葉が浮かばないって言うか、頭の回転遅い自分が何か悲しい…。





「召喚士とガードともあろう者が…」





そんなこちらの態度に、ケルクは呆れたような顔をして、そう溢す。





「お言葉ですがケルク=ロンゾ様。貴方もベベルを離れたのではありませんか?」





しかし、こっちにも言い返す材料はあって。

ルールーが言ったのは先程ズークさんから聞いた情報。





「それでも山を守るのは一族の誇りのため。ユウナも同じだ」

「そ、そうだそうだ!」





ルールーに続くように言ったアーロンに変な援護入れたらアーロンに冷たい目で見られた。…ご、ごめんなさい。

でも、効果アリだ。
その言葉にケルクは「むっ…」と詰まらせていた。

すると、そんな言葉に詰まったケルクを助け、促すように…以前から旅の途中で会う度に、キマリと睨みあっていたビランとエンケが声を上げた。





「ケルク大老!こいつらビランが八つ裂きにしてくれよう!」

「ひとりも逃がさん!」

「ええ、逃げません。戦って旅を続けます」





でもユウナの目は変わらずに、毅然と、真っ直ぐだった。

そんなユウナの目はケルクにどう映ったのだろう。
彼はこうユウナに問いかけてきた。





「反逆者の汚名を着せられて、なおシンに挑むと言うか。寺院に背き、民に恨まれても旅を続けると言うか!そこまでして戦うのは何故か」

「スピラが好きです。ナギ節を待つ人達に私が出来る贈り物。それはシンを倒す事。…それだけです」





スピラが好き。
単純だけど、何よりも…最も強い答え。
汚名を着せられようが何だろうが、初めから…それがユウナが旅を決意した理由だから。

その言葉には、ケルクも心動かされたらしい。





「己を犠牲にしても、か…。者共道を開けい。召喚士ユウナよ、汝の思いは鋼より硬い。ロンゾの強者が束になろうと汝の意思は曲がらぬであろう。まこと見事な覚悟であり。霊峰ガガゼトは汝らを受け入れようぞ」





ケルクは道を開けてくれた。

そして…ロンゾのもうひとつの問題。
キマリも決着をつけた。前から言っていた自分の問題に。
ビランとエンケ、この2人を1人で倒したのだ。

それにより、2人はキマリの強さを認めた。





「キマリー、おつかれさまでした!」





戦闘後、あたしはキマリに駆け寄った。

その理由はひとつ。キマリの腕に、傷が見えたから。





「キマリ、腕見せて?」

「………。」

「……ケアルラ」

「すまない」

「どーいたしまして」





淡い光がキマリの傷を癒していく。

ケアルラ。
ブラスカさんがが教えてくれた魔法。

あたしは礼を言ってくれたキマリに笑みを返した。


こうして、問題を片付けたあたしたちはロンゾ族に見送られながら…ガガゼト山を進んだ。

山の中には、いくつかの墓標を見つけた。山で命を落とした召喚士は異界送りされない。それは同時に…この山の厳しさを物語ってた。

10年前…、アーロン達も、ここを歩いたんだ…。





「アーロン…10年前も、ここ来たんだよね?」

「ああ。歩いた。足取りは、…重かったな」

「…ん?」

「昔、ビサイドでお前と話したろう。どうブラスカを死なせない様にするか…考えていた」

「…アーロン」

「すまなかったな」

「え?」

「俺は…何も浮かばず、止める事も出来なかった」

「アーロン…。ううん、アーロンのせいじゃないよ…。うん…アーロンのせいじゃない…」





あたしは…そうやって首を振ることしか出来なかった。

覚えてる。ブラスカさんも、今のユウナに負けないくらい強い意思で前に進んでた。あ、やっぱり親子だな。

だから…ユウナは守らなきゃ…。そう、気持ちが強くなるんだ。





「山、越えたら…ザナルカンドだよ」





山を登り始めてだいぶたった頃、ふとリュックが足を止めた。
あたしとティーダも合わせて止まる。





「わかってる」

「…うん」

「ユウナん、究極召喚手に入れちゃうよ」

「わかってるよ」

「あたし…なんも思い付かない…」

「俺もだ…」

「あたしだって…そうだよ」





重い。頭が重くなっていく。
何も思い付かなくて、悩んでも悩んでも…考えても考えても…何も出てこない。

そう暗くなっていると、ティーダは拳を握りしめながら言った。





「なんとかなる。今の俺達は何も知らない。このままじゃユウナを助けられないけど…ザナルカンドへ行こう。行けば何かわかるって。きっとそこから始まるんだ」





何も知らない。確かにそうだよね。
そう思っていると、リュックは感心したようにティーダを見つめていた。





「へ〜…今、頼れるエースって感じしたよ」

「あ、確かに。よっ!ザナルカンド…あれ、何だっけ?」

「ちょ!ナマエ酷いッス!ザナルカンド・エイブスのエース!最初から言ってんだろ!」

「あはは、ごめんごめん!」

「あ〜っ!?」





暗い空気を少しでも振り払いあった時、リュックが急に驚いた声を上げた。
反射的にリュックの視線を追うと…、凄く顔をしかめたくなった。

そこに居たのは…シーモア。

また出た…こいつ。でも、厄介なのも確か。
シーモアはティーダを見ると、得意の薄い笑みを浮かべた。





「ほう…ジェクトの息子か」

「ナマエ、リュック。先に言ってアーロンに伝えろ」

「え…!」

「1人で戦う気!?」

「いいから行けって!」





ティーダが声を張り上げる。
でも、そんな声に気づいたからだろうか。皆が戻ってきてくれた。

するとシーモアはユウナに笑みを向けた。





「ユウナ殿、お久しゅう」





そんなシーモアに対し、ユウナは異界送りの構えを取る。
でもシーモアはそれを見ても笑う。そして今度はキマリを見た。





「その前に、ロンゾの生き残りに伝えたいことがある。実に、実に勇敢な一族だった。私の行く手を阻もうと捨て身で挑みかかり…ひとり、またひとり」





ロンゾ族はユウナの決意を知って、後ろから来る敵を倒すと言ってくれた。
だとすると今のシーモアの言葉は…考えるまでもなかった。

…凄く、怒りがわいた。





「そのロンゾの悲しみ、癒してやりたくはないか?」

「何を言いたいのです!」

「彼を死なせてやればいい。悲しみは露と消える。スピラ…死の螺旋に囚われた悲しみと苦しみの大地。すべて滅ぼして癒すために私はシンとなる。そう、貴女の力によって。私と共に来るがいい。私が新たなシンとなれば、お前の父も救われるのだ」

「お前に何がわかるってんだ!」





ティーダが怒鳴る。
シーモアの言うことは相変わらず理解に苦しむ、到底分かり合えないようなこと。

だけど、今の言葉でひとつわかった。
…シンとジェクトさんが関係してるのを、シーモアも知ってる…。





「哀れなものだな。だがその絶望もここで消える。全ての嘆きを断ち切ってやろう。スビラの悲しみを癒したくはないのか?滅びの力に身を委ねれば安らかに眠れるのだ」





するとシーモアの背後から巨大な何かが現れ、シーモアと合体した。

悲しみを癒す癒すって、コイツは増やしてるだけだ。怒りを覚えているのは皆同じ。皆、武器を手にシーモアに向かう。

あたしも魔法を構えた。
その時、シーモアがあたしを目に捉えた。





「ナマエ殿…やはり、貴女は興味深い対象だ…」

「……?」

「眠っている素晴らしい魔力…。貴女を取り込めば、私は更に力を手に入れられる」

「と、取り込む…っ!?」





妖しく笑うシーモアに、背筋が震えた。
取り込むって…何…!?

自分の体を抱き締め、思わず後ずさった。

すると、そんな肩をガシッと掴まれ、そしてグイッと後ろに引っ張られた。

え!?と思いながら顔を見上げる。
すると聞こえた低い声。





「前にも言ったはずだが?」

「フフッ…もしかすると貴方がここにいるのは、彼女の為でしょうか?」





肩を引いたのはアーロンだった。
そんなアーロンに対してシーモアは、また薄く笑う。

何の、話…?
アーロンがここにいるのが、あたしのため…?そんなわけない。

けど、この時何かが…ツン、と頭の中で引っかかった。





「ナマエ、ファイガを放て」

「えっ…」

「ぼさっとするな」

「あ…うん!」





一瞬、感じた引っかかりに気をとられて、アーロンの言葉でハッとした。

シーモアに向かっていく皆に続くように、あたしもファイガを放った。






「もう邪魔すんなよ!」





しばらく続いた攻防。
苦戦しながらも、シーモアが幻光虫に包まれ、空に消えた。
そんな様子を見てティーダは息を切らしながらそう叫んだ。

でも、まだ異界には行っていない。きっと…ユウナが送るまで現れる。そんな気がした。





「私の力でシンになる…」





シーモアが消えた後、先程のシーモアの言葉に疑問を感じたユウナが呟いた。
そんなユウナに間を開けること無くアーロンは返した。





「戯言だ、忘れろ」





ユウナの心配事を増やしちゃいけない。
それはわかってたから何だか焦ってきて、あたしもユウナを止めるように、何も言い訳なんて思い付かないのに口を開いてた。





「彼がシンになれば、ジェクトさんは救われる…?」

「あ、あのね、ユウナ…!」

「行くぞ」





アーロンは背を向け、歩き出そうとする。
でもユウナは引かなかった。





「何か知ってるなら教えてください!ナマエも、何か知ってるの?」





アーロンは何も言わない。あたしも、口を閉ざした。
余計な事しなきゃ良かった…。今更、後悔した。

するとユウナはティーダに詰め寄った。





「教えて」

「シン…親父なんだ」





ティーダは、もう隠しきれないと思ったのだろう。俯きながらそう言った。
その言葉に、皆どよめいた。そりゃ、そうだよな…。

でもそれを聞いて、今度俯いたのはユウナだった。





「…ごめん。例えシンがジェクトさんでも…シンがシンである限り、私…」

「わかってる、倒そう。親父もそれを望んでる」





なんだか、凄く凄く…また空気が重くなった。
…居たたまれない。

あたしは視線を逸らすように、シーモアが消えていった空を見た。

その時…ふと思い出した言葉があった。
それはグアドサラムで聞いた…シーモアの言葉。






《何のために留まっているのです?》






何でか、よくわからない。
でも…思い出した途端、この雪の寒さとは明らかに違う、別の何かに体が震えた。

…さっき感じた小さな引っかかり。それが解けそうな気がして。

けど、これ以上考えちゃいけない。いや、考えたくない。
何故だかそんな気持ちになって、頭で警鐘が鳴る。






《これは失礼。我々グアドは異界の匂いに敏感なもので》






異界の匂い…。
人は死んだ時…強い想いに縛られると、異界にいかず留まる事がある。

…それは、誰に向けられた言葉だった?

あたしはバッと目をあの赤い背中に向けた。

嘘、だ…。

頭が必死に否定の材料を探す。
でも浮かぶのは…異界の入口で苦しんでいた姿とか、そんなのばっかで…。





「アーロン…!」

「なんだ?」





思わず大きく呼んでしまった。
いきなり声を上げた事で、本人だけじゃなく皆も振り返る。

呼んで、我に返った。

…呼んで…どうするんだ。
いや…、返事してくれた。ここにいる。ここに…いるのに…。





「あ、な、何でもない。ごめん」





慌てて笑った。

確信なんてない。
そう、確信なんてないのに…。

手を握り締める。
必死で止めるように、隠すように。

ガタガタと…手が…震えてた。



To be continued

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