1年後と10年後



「わかってんのかよ!全部あんたのせいなんだ!シンに飲み込まれたのも!スピラに放り出されたのも!ザナルカンドに帰れないのも!全部!すべて!みんな!何もかもあんたのせいだ!」





シーモア老師が魔物を倒し、スタジアムが落ち着きを取り戻した頃、ティーダ、アーロン、あたしは移動した。

というより…アーロンに無理矢理引っ張ってこられたと言うのが正しいんだけど…。

ワッカは別行動、残している仲間のもとに走っていった。
ブリッツボールの大会だったのだから。
表彰式がある。

ティーダはザナルカンドからアーロンによってスピラに投げ出されたらしい。
その怒りを再開できたアーロンにぶつける。

あたしは、そんなふたりの様子を眺めていた。





「あんた何者なんだ…?親父のこと…知ってんだよな」

「ああ」

「ユウナの親父さんとも知り合いなんだろ?」

「そうだな」

「どういう事だよ?おかしいだろ」

「何もおかしい事はない。ジェクト、ブラスカ、そして俺と…コイツ、ナマエ」

「うわっ」





ティーダの質問にアーロンは説明を始める。

そしてその時、あたしはの腕を引かれ、ティーダの前に向き合わされた。





「あんたは…」

「ど、どもです…」

「4人で旅をしていた。コイツは急に途中で消えたがな」

「消えたって…」

「ああ。ナマエが消えた後、3人でシンを倒した」

「え…!?倒したの!?シン!?」




アーロンの言葉に思わず声を張り上げてしまった。
アーロンは、間を置いてから頷いた。

だって、あたしにとって旅の記憶はナギ平原まで。
そのあとは自分の世界に戻ったのだから。

アーロンは「その辺りは後で話す。お前から聞きたいこともあるしな」と言って、ティーダに向き直した。





「シンを倒したのが10年前。後に俺だけがザナルカンドへ渡り…お前の成長を見守っていた。いつの日かお前をスピラに連れていくために」

「どうして俺なんだよ」

「ジェクトの頼みでな。ナマエ、ジェクトの家族の話を覚えているか。コイツがその息子、ティーダだ」





アーロンがティーダをあたしに改めて紹介してくれた。

散々心の中でティーダと呼んでいたから今さらだけど、やっぱりこの少年はティーダだったらしい。

ティーダもあたしに目を向けた。





「え、と…ナマエ、だっけ?」

「うん。ティーダ、だね」

「あ、ああ…。…旅してたって…あんたも親父のこと知ってるのか?」

「知ってるよ」

「お前とナマエは少し境遇が似ているかも知れんな。こいつもスピラの人間じゃない」

「え!もしかしてナマエもザナルカンドから!?」





初めてジェクトと出会ったときと同じ反応。
さすが親子と言うところだろうか。

詰め寄ってきたティーダにあたしは首を振った。





「ううん…あたしはザナルカンドじゃないよ。もっと違う場所」

「……違う場所?」

「日本ってとこ。知らないでしょ?」

「…聞いたことない」

「だろうねえ…」





ふふっ、と小さく苦笑した。
するとアーロンは、あたしに問いかけた。





「ところでナマエ。お前…なぜここにいる。10年前、お前は突如姿を消した。あれから何をしていた。それに…何故そこまで変わっていない…」





あたしはアーロンを見た。

ティーダは話がよくわからない、と言ったような顔をしている。

でもあたしも尋ね返した。
自分の感じた違和感。





「逆に、アーロンは変わりすぎだよ!ねえ、あの旅が10年前の話ってなに!あたしの中ではあの旅、まだ1年前だよ?」

「……なに?」

「あたしは自分の世界に戻ったの!それで1年間過ごした。そんで今日、ついさっき。またスピラに放り出された」

「元の世界に?そして再びスピラに…。あの旅は確かに10年前の話だ」

「10年…」

「…なんの話ッスか?」





相変わらず、ティーダは首をかしげてる。
まあ、無理もないけど。わかるわけないもんね。

でも、わかんないのはあたしもだ。
あたし、元の世界で1年過ごした。そして再びスピラへ来た。
その1年の間で、スピラでは10年の月日が流れていた…?

意味不明すぎて頭を抱えた。





「ごめん、頭こんがらがってきたー…」

「そうだな」

「じゃあブラスカさ……ジェクトさんは?」

「そうだ、親父生きてるのか?」





ブラスカの名前を口に出した瞬間、シンを倒したと言う話を思いだして口を結び、すかさずジェクトさんの名前を出した。

するとティーダも乗ってくる。
ティーダの中ではジェクトさんは死んだことになっていたのだから。
気になるのは当然だろう。

アーロンは静かに答えてくれた。





「あの状態を生きていると言えるのなら」

「あぁ?」

「あの状態?」

「あいつはもう人の姿をしていない。だが…あれの片鱗には確実にジェクトの意識が残っている。あれに接触したとき、お前もジェクトを感じたはずだ」

「まさか……」





ティーダは顔を青ざめさせた。
否定の言葉を願うような…。

何のことだろ…。あたしがそう考えていると、アーロンは驚きの言葉を口にした。





「そうだ。シンはジェクトだ」





そのアーロンの言葉に、目を見開いた。
見開かずにいられなかった。

だって、わけわかんないじゃん。
シンが、ジェクトさん……?





「ちょ…待って!なに!?ジェクトさんがシンって!」





あまりにも突拍子がなくて、声を張り上げた。

でもそれはティーダも同じで。





「くっだらねえ!なんだよそれ!馬鹿馬鹿しい!」

「真実を見せてやる。怒るのも泣くのもそれからにしろ。俺について来い」

「嫌だと言ったら?」

「お前の物語は終わらない」

「それがどーしたってんだ!」

「そうか…、ならば仕方あるまい。好きにしろ。来るか来ないかは選ぶのはお前だ」

「馬鹿にしやがって!好きにしろとか言ってさあ!選ぶのは俺だとか言ってさあ!だけど俺にはどうしようもないんだっての!あんたに言われた通りにしるしかないんだ!」

「不満、だろうな。それとも不安か?それでいい」





ティーダは、やりきれなさそうな…悔しそうな…そんな顔をしてた。そして静かにアーロンに問いかける。





「……アーロン?ザナルカンドに帰れるのかな?」

「ジェクト次第だな。俺はユウナのガードになる。お前もついて来い。ナマエ、お前も来い」

「え!あ、あたしも…!?」

「以前と同じだ。どうせ行く宛などなかろう。なら、来ればいい」





確かに、行く宛などなかった。

ルカに置いていかれても困る。
あたしにとって、スピラにおいての知り合いはジェクトさん、ブラスカさん、そしてアーロンだけなんだ。
だから黙って頷いた。





「決まりだな。よし、行くとしよう」





こうして、あたしたちは召喚士ユウナのところへと向かった。

その際、あたしは傍を歩くアーロンをチラッと見た。
……片目に、傷を負ってる。
それに…確かに1年どころじゃないくらい、変わっている。

渋さが…増した、と言うか…?

でも、アーロンだ。
間違いない。それだけはわかる。
まじまじと見られている、その視線にアーロンは気がついたみたいで。





「なんだ?」

「いやあ、10年かあ…って?」

「お前にすれば1年なんだろう」

「お?信じてくれんの?」

「その姿を見ればな…。どうりで変わっていないはずだ。しかし、それでも1年だろう?少しの成長も見られんな。相変わらず落ち着きに欠ける」

「なっ!?…ふ、ふーんだ、アーロンは老けたね!……痛っ!」





ガツン!
頭に拳骨が落ちてきた。

くそう。アーロンこんちくしょう!

そんなことを思いながらムスーッとし、あたしはぷいっと他所を向く。

……ただ、久々に耳にした。アーロンの声。
すごく、懐かしくて…。

アーロンは…10年の間、どうしてたんだろう…。
そんな考えが過り、静かに問う。





「…ねえ、シンがジェクトさんって何」

「……そのうちわかるさ」

「そのうちって…」


「なーにしてるッスかあー…?」





アーロンは語ろうとはしなかった。
たぶん、今問い詰めても教えてはくれない…。

スピラに迷い込み、あたしと同じくアーロンについていくしかないティーダはそんな空気と態度でトボトボと歩いていたが、後ろで足を止めていたあたしたちに呼び掛けてきた。
だから足を動かす。

2度目の旅が、はじまろうとしていた。



To be continued

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