四季を巡って



季節は巡る。
あれから、1年の歳月が流れていた。

あたしは…、あの旅をする前の、元の生活のペースをすっかり取り戻してた。




「風…きもちーな…」




今日も歩く並木道。
ざあっ…と気持ち良い風が吹いた。

元の世界に戻ってきてすぐ、あたしは嘆いた。「スピラに戻して!」って。

でも、スピラに戻ることは出来なかった。
どんなに嘆いても、願っても。

…だけど、いつまでも並木道で佇んでるわけにもいかなくて。
それに少しずつ…元の世界に帰ってきたからこその不安も、あたしを襲ってきた。

だって、あたしはスピラに数ヵ月いたわけで…。
だから、あたしはとりあえず自分の家に戻ることにした。




『……え?』




でも、帰ってカレンダーを見て…驚いた。目を丸くした。

日付は、確かに変わってた。

でも、適当に誤魔化すことが出来た。
幸い親は旅行に行ってたし、連絡が着かなかったって言われても適当に言い訳を繕う、ただそれだけで。

…だって、数日しか経ってなかったから。




『………なんで…?』




ひたすらカレンダーとにらめっこした。
新聞もテレビも、全部開いて確認した。…だけど、…スピラに行ってから数日しか経ってなかった。

意味がわからなかった。
でも同時に安心しちゃて…。そしたらドッと疲れが襲ってきた。

だから、すぐにベッドに倒れてしまった。

目が覚めたら、もしかしたら…またスピラにいるんじゃないかって。
漠然と、そんなことを考えながら眠りについた。

…でも目覚めたのは変わらず、自分の部屋だった。


じゃあ、スピラに行ったのが自分の夢だったのでは無いか。
魔法もいくら唱えても使えなかったし。

夢と考えるのが普通だ。
あたし、何日も寝込んじゃってたのかも…ってね。
だって、ゲームなのだから。




『FF…か』




ゲーム機も、ソフトも…部屋に転がってたし。


…だけど、夢だって思えなかったのは、それを肯定する事実もあったから。

格好はスピラで着替えた服だった。

それにもうひとつ…なにより…胸に光る赤。アーロンに貰ったネックレスがそこにはあった。

それはあたしがスピラに存在していた、紛れもない証。




「……アーロン」




そして1年経った今日も、並木道を歩いて帰宅する。

この並木道を通る度、いっつも願ってた。
助けたい、助けたい、と。

でもいくら願っても届くことはなくて。


そしていつのまにか…、元の生活のペースを取り戻していた。

だけど、あのネックレスだけは…いつも身に付けていた。放せなかった。
そう、今だって。

そしてこれを渡してくれた人の名を…ふと呟く。

…思い出さない日なんてない。
赤い石を見ると、脳裏に浮かぶ。赤い上着の太刀を持った剣士。

堅物で、頭かっちかちな奴。
でも…優しかった。

確かに…出会った。
石を握りしめる。思い出すと、苦しくなる。

もう…、ジェクトさんもブラスカさんも……アーロンも…。
そう考えたら、…うう。考えたくない…。

旅は苛酷で、機械が禁止されているスピラはこちらに比べれば不便でしかない。
いっぱい苦労した。

こちらにいる友達も家族も大切だ。
だから無闇にスピラに行きたいとは…思わないけれど。

もう一回…会いたい…なあ。
そう、心のどこかではいつも思ってた。






――――ナマエ。




「………え?」





そんな時、どこからか声がした。

辺りを見渡す。並木道はあたし以外誰の姿もない。

少年の声。不思議な声だった。
耳と言うよりは、頭に直接響いてくるような…そんな声。




――――ねえ、もう一度。もう一度、助けに来て。





「……助け、る?」




声に言葉を返す。

助けるって、…なんだ。
そもそも…これ、なに…?

誰の、声……?




―――そう。夢を終わらせたいんだ。




「夢って……」




空耳じゃない。
ちゃんと会話になってたし、はっきり聞こえたから。




――――ナマエ。彼に…もう一度…会いたい?




「……彼…?」




彼って誰…?
そう聞き返す。

でもなんとなく、あたしの頭には1人…浮かんでた。
その人だって確証はどこにもなかったけど。




――――…うん。ねえ、彼らに…手を貸してあげて。




「………。」




――――螺旋を、終わらせて。救って。




「……救う…?」




なんとなく漠然と、スピラに関係してるってことだけはわかった。

もう一度、スピラに…?

でも、わけがわからない事が多すぎる。
あなたは誰で、助けてって何?




――――巻き込んで、ごめんね。…でもお願い。力を貸して。…いくよ。





「えっ…!?」




いつかみたいな光。強い強い光。
カッと目を襲う。
目を開けてられなくて、思わずぎゅっと閉じた。


To be continued

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