迷惑メール、1件

(学パロ 2人がメールするだけ)



閉じた瞼の向こうで、小さなライトがちかちかと点滅している。
バイブ音がうるさくて、深く沈みかけていた意識が一気に浮上してしまった。


隣を見ると、枕元に置いていた携帯電話がメールの受信を知らせている。時刻は午前1時28分。
誰からだなんて、考えるまでもない。こんな夜更けに此方の都合も構わず連絡を取ってくる人物なんか、ぼくの知人の中には1人しか思い当たらなかった。


眠いのにとか一体何時だと思ってるんだとか、文句は色々あったけれど、ぼくは結局ぱかりと携帯を開くのだった。
だって珍しいのだもの、あいつからのメールなんて。そんなにしょっちゅう、来るものでもない。

何だろうかと逸る気持ちを誤魔化して、別に誰も見ていないというのに、ぼくは至って冷静なふりをして届いたそのメールを開ける。


『暇』


白い画面に映し出されたその一言に、思わずがくりと脱力した。なぁ、ぼくは今日、レポートやら委員会関連の書類纏めやらが終わって、漸く床に就けたところだったのだけれど?


眠ったらどうだい、正直にそう送り返してやる。怒るかなと思ったけれど、だって明日も学校じゃないか。
『寝る気分じゃない』?ああ、そう。それなら仕方ないな。寝付けないわけでもないのだものね。うん。


昼間寝てるからだろう、そう送り付けた。だってきみはいつも屋上で寝ているし、たまに授業に出たって多分、どうせ寝ているんだろう(否、クラスが違うから詳しくは知らないが。聞けば一応、出席日数の方は大丈夫らしいけど)。

ぼくは居眠りもせずにちゃあんと、授業を受けている生徒なのだよ。『優等生は大変だな』って?いやいや、至って普通の事でしょう。もしかしなくてもきみ、嫌がらせしてるのかい。


「ふあ、」


大きな欠伸がこぼれた。
布団にくるまったままメールの相手をしていたのだけど、あまりに毛布が暖かくて心地好いので。ふわふわとした強烈な睡魔に襲われる。ああ、このまま寝てしまいたい。
きっといま目を閉じたら、それはもうぐっすりと気持ち良く眠れるような気がする。


メールをくれたのは嬉しいけど、そろそろ解放してくれないかなぁ。そんな願いも兼ねて返信を送る。取り留めも無い会話を続けて、ぼくから送るのはこれで6通目。
もう、おやすみをしても許される頃合いじゃなかろうか。


『ごめん、少し眠い。続きは朝でもいいかい』。うん、これならそれほど怒らせずに済むかも。送信。


午前1時49分、『分かった』と一言、簡素な返事を受信した。
素直に頷いて貰えて、ぼくはほっと安堵の息を吐く。しかし単にこのまま切ってしまうのも冷たい気がして、『今日はどうしたの、急に』と訊ねてみた。あれで結構面倒くさがりなのに、こんな時間に態々メールをくれたのだもの。
本当に暇だっただけかもしれないけど、一応。


ぼくがそう送信すると、さして間を開けずに返って来ていたメールが、何故かぱたりと止まってしまった。3分、5分、10分‥。

あ、やばい。やはり怒らせたのかもしれない。だとしたらもう返信は無いだろう。
朝会ったら、真っ先に謝らないとなあ。そんな事をぼんやりと思いながら、またふあぁと大きな欠伸をこぼす。だめだ限界。


襲い来る睡魔に素直に従って、携帯を折り畳み枕元に戻した。
しかし瞼を閉じようとした正にその時、またもや隣のそれがバイブ音と共にライトを点滅させたので、怪訝に思いつつもぼくは再度携帯を手に取る。あいつから?


画面を見るとやはりそうであった。随分と間が空いていたのは不思議だけれど、間違いない。
来ないと踏んでいた返信に些か驚きつつ、ボタンを操作してそのメールを開く。


「‥えっ」


そうしてぼくは目を見張った。驚愕のあまり息を呑み、思わずがばりと上体を起こす。

真っ白な画面の上、映し出されていたのはたったの2行だったけれど、文字数なんて関係無い。それくらい衝撃的だった。
ぽかんと口を開けたまま、見間違いではないか確かめながら再度読み返す。


『暇だったから、あんたに構いたくなっただけ。おやすみ』


そこにはやはり、そう打ち込まれていた。見間違いでも何でもなく、確かにそう映し出されていた。
ああ、通訳しよう。素直に物を言えないあいつのこと、この場合、構いたくなったというのはつまり、構って欲しかったという意に当たる。動揺しきったぼくが夢ではないかと頬をつねったのは致し方あるまい。


(‥ちょっと、)


何だ。一体どうしちゃったんだきみ。確かにここ最近、文化祭もあったし委員会が忙しくてなかなか放課後遊びにも行けなかったけれども。まさかその所為だっていうのか?そんなばかな、だって、そんなこと。


軽く、いやかなり混乱したぼくは暫くその体勢のまま硬直していた。
否、分かってはいるのだよ?時刻は既に午前2時を回っている。そうそう簡単には甘えてなんかくれないあいつのことだ、8割方態とであって間違いなくからかわれているだなんてのは、分かっているのだよ。

否、しかし、そうは言っても。


「はあぁ‥」


深く、大きな溜め息を吐いて肩を落とす。やられた。
まあ、あいつからメールが来た時点で、こうなるのは免れぬと諦めるべきだったのかもしれない。


がりがりと後ろ髪を掻き、画面上に浮かぶ時刻を見る。午前2時13分。
きっと今、『どういうこと?』と訊ねたところで返事は無いだろう。
こんなメッセージを送り付けた張本人は、ぼくのことなんかもうすっかり放って、すやすやと眠っているに違いないのだから。意外と寝付くのが早いのだよ、あいつは。


(‥ああ、もう)


陽が昇るまでこのままメールの画面を閉じられないような気がして、ぼくは独り苦笑いをこぼした。全く、いくらあの気分屋を恨んだって、結局この1通を大切に保護なんかしてしまいそうだよ。


さて。自分の重症さをぺらりと表面上だけ反省しつつ、まだ星空の美しい窓の外を眺めて、どうしようかとぼくは頭を悩ませるのだった。
冗談じゃない。徒でさえ最近、寝不足だっていうのに。


はぁと改めて溜め息を吐いたところで、何処かへ行ってしまった睡魔が返って来てくれる筈もない。
ああくそ、朝までの時間がとても長く感じるよ。どうやって暇を潰せばいいものか。


「‥なんてことしてくれたんだ、本当。」


いっそ今すぐ会いたいのを言い訳に家に押し掛けてやろうかとも思ったが、命が惜しいのでやめておく。


わかったよ、ぼくが悪かった。
情けなく眉を下げたぼくの嘆声は、誰に聞き届けられる事もなく、ただ虚しく毛布の上に転がり落ちただけであった。



勘弁してくれ。
眠れない。








了.
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ちょっとしたお仕置きという事で。
学パロは2人を動かしやすくて楽しいですね。


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