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暗くなって街灯に照らされた街の中

「…私、このままじゃ消えちゃうよ」

消えそうな少女は独り、呟いた
雨の中、小さな少女が傘もささずに歩いている
大人たちは誰も気には留めない

「寒い…」

桜が散り、空気が湿気を帯びてきた梅雨の季節
今日は、雨に濡れた少女の体を冷やすのには十分すぎるくらいの風が吹いていて…
傘をさしていない少女の体は、寒さに震えていた

「…つぼみちゃん!」

遠くで少女を呼ぶ声がする
その声の主は、目の前に来ると立ち止まった

「見つけた!」

「…修哉?」

「ほら、風邪ひいちゃうよ?」

「………っ、修哉…っ」

少女は、声の主…目の前にいた少年に泣きついた
少年は、最初は戸惑いながらも優しく抱きしめた

「僕はここにいるから…ね…
つぼみちゃんは消えたりしないよ…」

どれくらいたったのだろうか?
雨は随分と弱くなっていて、街もさっきより静かになっていた

「帰ろうよ、濡れたままじゃ風邪ひいちゃうよ?」

「…うん」

少年は、少女の手をとり歩き始める
が、ふと立ち止まる

「あ、これ…つぼみちゃんにあげようとしてもってきたんだよ」

少年はポケットの中を探り、何かを取り出して少女の手の平に押し付けた
少女は手のひらに押し付けられたものを見た

「…飴?」

「そうだよ」

「…ありがと」

少女は頬を染めながらニコッっと笑う
少年もそれに応えるように笑った

「どういたしまして
…あ、もうこんな時間!」

「あ…早く帰らないと…」

2人の視線の先にある時計は10時を過ぎていた

「走ろう!」

「え…う、うん…」

少年は少女の手を握り、走り出した
少し後ろを走る、少女の恋心に気づかずに