首すじにシロップ




階段を上ってインターホンを押す。
愛おしい人の愛おしい声が聞こえてきて、つい頬が緩む。鍵は基本的に開いてるから勝手に入ってこいといつも言われてるけど、インターホン越しの声を聞きたくてついつい押してしまうのだ。


「おじゃましまーす」


戸を開けると今日は彼の臭いブーツしか無いようだ。
いつもは神楽ちゃんの少し小さめの靴と、新八くんの下駄も並んでいるっていうのに。

「あれ今日は銀さん一人?」

「おー、あいつらは定春の散歩」

「ふ、ふーん」


銀さんは相変わらず気だるそうにしているけれど、私はこの状況に少し焦ってしまう。実はあの日以来、二人きりになるのは初めてだった。


「今日はなんか用があって来たんだろ?」

「あー……そうそう、これなんだけど」


思いがけない状況につい本来の目的を忘れかけていた。
私は銀さんに小さな鍵を手渡す。総悟に貰った首輪の鍵で、自分で錠を開けようとしたけれど挿した鍵がうまく回らなかったのだ。


「どれ、見せてみ」

「……っ」


銀さんが首輪に触れると、指先から電流でも流してるのかと思うくらいに擽ったくて肩が跳ねてしまう。鍵穴をまじまじと見る銀さんの顔も近くて息がしづらい。


「よーし、これから穴に突っ込んでガタガタ言わせてやるかんな」

「……なんか、下ネタに聞こえるんだけど」

「それはオメーがエロい事ばっか考えてるからだろうが……あれ、回らねえ」


穴に突っ込んでガタガタと言うかガチャガチャしているが、開かない様子。


「後ろからの方がやりやすいかもしんねー」


銀さんに肩を掴まれ背を向けるように体を回されて、首輪もぐるっと回し顎を引く。確かに前からだと顎が邪魔でやりにくいかも、そう安易に考えていたけれど、


「……ひんっ!」


首は、前よりも後ろの方が敏感だった。また彼の指が首に触れ、見えないから余計にタイミングが分からずに変な声を出してしまい思わず手で口を塞いだ。


「あー……名前ちゃん? 誘ってんの?」

「ち、ちがう」

「へえ? 相変わらず首擽ったいんだねえ? 首輪外すのでこんな反応してたら、付ける時も相当だったんだろうなあ?」

「ーーーっ!」


銀さんのドSスイッチを押してしまったのかもしれない。
わざとかと思うくらいに指を這わせてきたり、息を吹きかけてくる。絶対に声は出すまいと下唇を噛み必死で堪えていると、ガチャっと鍵が開く音がした。


「あ、」


鍵が開けばもう首輪を外すだけ。
すっと身体が軽くなる。


「と、取れたー! 銀さんありがとうー!」

「お、おう、嬉しそうだな」

「体がすっごい軽くなった……ってうわ!?」


開放感のあまり、振り返って銀さんの手を取ってぴょんぴょん飛び跳ねていると、そのまま手を引かれ抱きしめられる。どくんどくん、と彼の心臓の音が伝わってくる。


「ど、どしたの」

「あのさァ、さっきのお前の反応見て、銀さんのも反応しちゃった……」

「へ?」


お腹に何かが当たっていて、言われないと気づかなかったのだが、それに気づいた瞬間に顔にぼっと火がついた。
銀さんの抱き締める力が強くなり、首輪の取れた寂しい首筋に彼の鼻息がかかりゾクゾクする。首元に軽くキスをされたあと、唇と唇が触れ合うと私はもう何も考えられなくなってしまう。キスをしながら後ろのソファーに押し倒されて、太ももの間に足を入れられ着物が崩れていく。


「……もう我慢できそうにないんだけど。この前キスした時もほんとはギリギリだったからな? 今までもさ、お前酔うとくっついてきたり、俺がどんだけ耐えたと思ってんだよ」


余裕のない彼の瞳にドキッとする。
「待って」なんて言えなくてされるがままで、銀さんは私の耳や首筋に吐息混じりのキスをしながら私の胸に触れた。もうどうにでもなれと覚悟を決めた時。


「ただいまヨー」


引き戸の開く音がして、私たちは飛び起きて着物を直した。変な汗がこめかみを伝う。


「あれ、名前来てたアルか!」

「神楽ちゃん! おかえりなさい。い、今来たところ!」


慌てて着物や髪を整えたけどおかしくないだろうか。
銀さんもバツの悪そうな顔をしている。もしも神楽ちゃんが帰ってきていなければ、あのまま私たちは……。


「……なんか邪魔したアルな。定春、もっかい散歩行くヨ」

「ち、違うの神楽ちゃん!!」


違くないけど!
ごゆっくり、と神楽ちゃんは手をひらひらさせながら出ていってしまった。チラリと銀さんに目をやると頭を荒々しく掻きむしっている。


「……あいつタイミング悪すぎだろ。今日はもうどっか飲み行くか」


少しほっとしたような、残念なような変な気分。
押し倒された時のあの銀さんの余裕のない顔や声が頭から離れなくて、触れられた所もまだ熱を持っている。


「なに、ちょっと物足りない感じ?」

「ち、ちがうし! 」

「次そういう機会があればもう俺歯止め効かねえから。足腰ちゃんと鍛えとけよ」


銀さんはニヤリと悪い顔をした。
ああ、どうなってしまうのだろう。明日からスクワットでも始めるか。


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