ふわふわで、あまい。
「銀ちゃんたち、いつ付き合うアルか?」
今日はせっかくの休みだと言うのに雨。
屯所で引きこもってるのも面白くないし、万事屋に遊びに来て銀さんと二人でお菓子作りをしている最中だった。
涎を垂らしながら、まだかまだかと様子を見に来た神楽ちゃんからの唐突な質問。
「何言ってるの神楽ちゃん。私と銀さんはそういうんじゃないよ」
「そうだぞ、神楽。まあ俺は名前がどうしてもって言うんなら付き合ってやってもいいけどな」
「なんでそんな上から目線なのよ。私だって、銀さんがどうしてもって言うんなら考えてあげてもいいけどね」
こんなやり取りを見て、神楽ちゃんは呆れ返った表情で大きなため息をついた。
「お互い好き合ってるのにくっつかないなんて奇妙な関係アルな……お菓子、出来たら持ってきてネ」
鼻の穴を掘りながら神楽ちゃんはキッチンを出て、テレビの置いてある部屋に戻って行った。
好き合ってる、か。
「銀さん、私たち好き合ってるの?」
「しらね」
前に占い師に貰った不思議な石で心の声が聞けるようになったとき、好意を持たれているのではと思ったけれど、彼の口から聞いたわけではないし確信が持てずにいる。
けれど私は別にこのままでも構わないと思っていた。
この付かず離れずの距離感が心地よかったから。
「お前さ、あんなむさ苦しい所でやっていけてんの?夜這いとかされねえ?」
そう言いながら銀さんはケーキの型に生地を流し込んだ。空気が入らないよう一気に流し込むのがポイントらしい。
「一応みんなお巡りさんだからね、そんな事しないよ」
「あいつらが警察だからって安全とは限らねーだろうが。少しでも隙見せたら取って食われちまうぞ」
おしゃべりしながらも、型を軽くトントンと叩きつけて空気をしっかり抜く。銀さんは時々自分でお菓子を作るらしく手馴れている。
彼はお菓子作りに関してはなかなか口うるさいけれど、言われた通りに作ると必ず美味しく出来上がる。
温めておいたオーブンに生地を入れて、あとは待つだけ。
私は流しに置いてあった、くたびれたスポンジに洗剤を染み込ませ調理器具を洗っていく。
「……まあ、それがあるうちは誰も寄ってこねえか」
「それって?」
「こんなの付けてる女に手なんざ出しちまった日にゃ、即あの世行きって事くらい他の隊士は分かんだろ。あいつの所有物みたいで気に入らないけど案外いい虫除けになってんだよなァ」
"それ"とは総悟に付けられた首輪だった。銀さんの指が首に触れて擽ったくて、身を捩る。
「ちょっと、洗い物してるから擽らないで」
「別に擽ってねえよ、オメーが敏感なんだろうが」
「ひーっ、やめて!」
「おいおい、手が止まってるぜ?なに、そんなに擽ったいの?」
「もう、ほんとやめてってばあ!」
こうやってじゃれ合うのも楽しくって。
好きかと問われると、好きなんだと思う。
けど付き合うとなるとあまり想像できない。今と特に何も変わらない気もする。
「お前さ、スキだらけなんだよ」
「え、私の事が好きだって?」
「ちげーよ!隙!油断しきってんなって言ってんの!」
「なあんだ、びっくりしちゃった」
「もっと用心しとけよ。他の奴らにこんな簡単に触られてんじゃねェぞ」
それはどういう意味で言っているんだろうか。
銀さんの指は、私の頬にかかる髪を掬って耳にひっかけた。振り返ると視線が絡み不覚にも心臓が跳ねる。
泡まみれの手からボウルが滑り落ちてしまい、ハッとして目を逸らした。
シフォンケーキがオーブンの中で膨らんでいく。
ケーキの焼ける甘い香りに、少しクラクラした。
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