happy ever after/10(完)

※リクエストもの 第十回 九回目はこちら
※最終話後、西東です。リク内容は後ほど







撮影三日目。引き続き、サウラー監督による映画撮影は行われた。実像エミュレータ施設のなかでプリキュアと国王、宰相は、あの戦いのカリカチュアをなぞった。前日までと違い、憑き物の落ちたような国王と王妃の姿に、桃園ラブと山吹祈里もなにかを感じて、いつも以上の笑顔であった。

メビウスの姿は最後まで悪役として描かれており、このことに王妃は不服を申し立てたが宰相の意見は違うようだった。
「悪だったとは思ってないよ、ただ、心がなかっただけさ。わかりあうための心が、そもそもなかった。それに心が無いことも悪じゃない。ラビリンスの検索力がおよばないパラレルワールドはまだたくさんあるんだ。そのどこかには、あのままのメビウスを受け入れ、歓迎した世界もあっただろう。あれは生まれてくる世界を間違えただけだ」
国王の意見はさらにちがった。
「自分の生まれてくる世界を間違えるなんてことあるか? メビウスはラビリンスで生まれてきて、もっと人を幸せにすることだってできたはずだ。…なんでああなっちまったのかはわかんねーけど」
王妃は目を伏せてその言葉をひきとった。
「…きっと、ひとりきりだったからだわ」
右の国王、左の宰相が彼女を見る。
「かつてのラビリンス人は、すべての管理をメビウスひとりに任せようとした。もし、もしも、メビウスひとりでなく、彼にも「誰か」がいたのなら… 彼がつくりだした配下ではない、誰かがいたのなら、もしかしたら」
三人は、互いに互いを見交わした。
「……ま、憶測だね」
「ああ、ほんとのところはもう誰にもわからん」
「そうね…それにわたしたちは、三人で、このラビリンスにいる」

そう、すべては憶測だ。メビウスの本体が格納されていた空間は他次元の木々が共存する大庭園になっているし、空は青く、人々は笑顔で自由と幸福を謳歌している。



キュアエンジェルに衣装替えをしてのラストシーンは全員が心からの笑顔で迎え、国王などはカメラの前で台本にないキスをしてキュアパッションにひっぱたかれていた。人前でなんてことするのよ! と。

「瞬…例の生中継の件、せつなはまだ…」
「ああ、知らないね。あのあと本部の中で寝起きして、本部の中のこの施設にまっすぐ歩いてきたから。今、街はちょっとした騒ぎだけど」
「…瞬…」
「なんだい美希」
「生き延びてね」
「善処しよう」

ラストシーンの撮影には、議員一同も見物に来ていた。一同はニコニコと、白い装束の国王とキュアエンジェルの姿の王妃を取り囲んだ。
「いやー申し訳ありませんでしたなウエスターさん、イースさん!」
「よもや我々の提案であなたがたがそんなふうに険悪になってしまっていたとは」
「とっくにデキてるものだとばかり思っていたのですよ!」
「あなたがたが互いに恋をしていることなど、子供でも見ぬいていましたからな」
どうやら自分たち以外はみんな知っていたらしい。あの日々はなんだったのだ。
「それにしてもイースさんも酷い。我々が、恋人どうしでもない二人に、国のために結婚しろなんて言い出す人間だと思っていたのですな」
それはもう謝罪するしかない。まったくもってそのとおりであった。バカにしないで、とあの時言ったけれど、彼らをバカにしていたのは自分である。

「わたしたちは、あなたがた二人にこの国の証になってほしかったのですよ」
「国にもっとも影響を与えるのは、やはり最高権力者だ。その人には、幸せな恋人たちこそふさわしい」
「この世界で一番幸せな二人となって、その光でラビリンスを照らしてほしかった」
「『ツリーのてっぺんのような』というやつですな!」
「そうそう! いやあ感動的でした、わたしなど年甲斐もなく涙してしまいましたよ」
「わたしは子供の目を覆うのに忙しかったものですよ!」
ははははは、と議員一同が笑う。
…ん? 国王と王妃は、顔を見合わせた。宰相は何気なく、さりげなく、トイレにでも行こうかなというような足取りでその場を離れつつある。

「あの…みなさん、ツリーのてっぺんのような、って…」
「国王がおっしゃっていたではないですか」
「…ウエスター…?」
「え、ええ? お、俺なんも言ってないぞイース!」
「ゆうべラビリンス全土に生中継されていたあれですよ。生中継ですよね?録画でなく」
「……………………あれ? あれってなんです…?」

だいたいどういうことかわかってしまっていつつも、どうか違っていてくれという願いを込めて王妃は声をしぼりだす。議員の一人が、中空に右手でワイパーのような動作をした。二次元ホロモニターが現れる。

『…わたしだって… あなたが、結婚ってことの意味をちゃんとわかってないうちにそうしてしまおうって考えたの、このままずっと妹だなんていやだからって』
『わかってるぞ、俺は。妹だとは… 仲間だと思っていた時期はあった、でもな、俺は、ほんとのところは、ずっと』
『…ええ、そうね… あなたが、わからないわけなんてなかっ…』

モニターがもし水面であれば、大きな水音をあげたであろう動作で、王妃はホロモニターをかき消した。

「…………これが………… ラビリンス全土に、中継、されたですって……?」
「ええ、一部始終」
「まあおおよそのところは」
「ディレクターズカット的に」

轟ッ、とキュアエンジェルから真っ黒なダークマターのオーラが噴き出した。そのオーラは王妃を包み込み、彼女は何の予備動作も音声コードもなしに、変貌した。

「あ、黒イースだ」
あきらかに殺気を放つ王妃だというのに、なぜか少し嬉しそうな国王の声である。
黒イースの演技中よりもずっと当時に酷似したまなざしで、しゃきん、と、ジュエル型ナケワメーケ召喚デバイスを構える。



「サ   ウ  ラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」


その後。サウラーを探して、桃園家より巨大なナケワメーケの上に仁王立ちになり、後ろに数々のナケワメーケも引き連れ、恐ろしい声でサウラーを探してラビリンス街路を練り歩く王妃の姿を、国民は多数目撃した。

「みろみろ、王妃様だ! なんだあれ、撮影の延長かな?」
「撮影って地下の実像エミュレータでやるんじゃなかったか?」
「俺しってる!あれ、他の世界で見た!ねぶた祭っていうんだぜ!」
「ばか、あれはエレクトリカルパレードっていうんだよ!」
「百鬼夜行に見えるぞどっちかっていうと」
「あ、王様だ!王様が出てった、なんていってるんだ?」
「なんか説得してるような…? ああ! 王様が飲み込まれた!ナケワメーケに取り込まれた!」
「なんだ夫婦喧嘩かあ」
「さすがおれらの王様は夫婦喧嘩もスケールでかいなー」
「なあ王様動かなくなったけど大丈夫なんかな」

ちなみにその頃、サウラーは、とうに出国記録を改ざんして四ツ葉町に避難していた。



いろいろあった、本当にいろいろあったものの、「ドキュメンタリー(風)フィルム・ラビリンス建国物語」はサウラー監督による編集も終え、一本のフィルムとなった。が、広報には使わないという。いわく、「三日で撮影したようなものが外部に出回るなんて僕の監督魂が許さない」だそうだ。もとよりそのつもりだったのかもしれない。
「ああ…でも特典映像は、ちょっとおもしろいよね? やっぱり公表しようかな?」
にっこり。例の天使の笑顔でサウラーが示唆している特典映像とは、もちろん生中継されたあれである。ようやく癒えてきた心の傷をえぐられて凶暴なまなざしをうかべた王妃だが、宰相はまるで意に介さず肩をすくめた。
「マスターフィルムは君に預けるよ。今は見たくないかもしれないけれど、時間が経てば考えも変わるんじゃないかな。たとえば、きみらの子供がさ、いまの僕らと同じ年頃になるころ、とか、そのくらいには」
そんなわけで、そのフィルムは王妃の私室にある、思い出の品をたくさんしまった宝箱となっているチェストの奥に封印されている。



公園には、人々と笑顔があふれていた。かつての野放図な光景は鳴りを潜め、明るさは変わらないけれど、その姿にも、とにかく自由だ!といった、むやみやたらな無礼講めいた弾けかたではなく、地に足のついた、なにか確かなものを知っている思いを感じられた。ちらほらと他次元の種族の姿も見える。ラビリンス人の変異かもしれなかったし、他次元からの来訪者かもしれなかった。
ひさしぶりに国王がドーナツカフェを出店するということで、集まった人々により目が回る忙しさだった。王妃が手伝いをするのは今日が初めてだったが、もともとはじめてだというのにあまりの繁忙に倒れてしまうかと思った。
でも楽しいな、と、メモを見ながらドーナツにデコレーションをしてゆく。忙しいし大変だけど、楽しい。彼とふたりでなにかをするのは、楽しい。

ドーナツカフェを出店する、と言ったとき、もちろんサウラーはあまりいい顔はしなかった。が、国王は断言したのだ。「国を治めるのもドーナツを作るのも同じことだ」と。その時は、こいつむちゃくちゃ言ってるな、というふうにサウラーと顔を見合わせたものだが、こうしてカフェ側に立つとわかる。たしかに、同じだ。小麦粉だとか卵だとか砂糖だとか、そういうものを混ぜあわせて、揚げて、そうして渡すのはドーナツだけではない、笑顔と幸せだ。

「薔薇よりドーナツ、ってことね」
「あ?なんだそりゃ」
「あなた以前、わたしに薔薇の花束持ってきたでしょ。なんだかぞんざいにわたしてきて、ムードもなんにもなかったあれ。そのうえドーナツのレシピみてくれとかそういう」
「あー。 だってあれ、議員連中に押し付けられただけで、俺が用意したもんじゃなかったし。…薔薇の花束が欲しかったのか?なら贈るぞ。花束どころか花畑を用意してやる」
「んーん。もういいわ」
「あとな、俺が試食頼むのはお前だけだ」

それでもう、すっかりわだかまりは溶けてしまった。彼にとってドーナツとは「おいしいもの」だけでなく、幸福の象徴そのものでもあるのだ。その試食を、彼女にだけ許すということ、それは女性へのプレゼントの常識としてまかりとおっている、薔薇の花束よりもずっとすてきなことだ。でも、それはそれとして花束も欲しいな、と思った。

もう少ししたら、四ツ葉町の親友たちと、桃園の両親もやってくる。懐かしいクラスメイト3人組とともに。ラブは何か報告があるらしい。沢は失恋の悲嘆に暮れていたが、後輩の女の子に告白されて交際をスタートし、いまや四中名物カップルだという。楽しみだ。それから、ノーザもやってくる。撮影の際にノーザを演じた森の魔女が、彼女の存在に並々ならぬ興味を示して、ギャラの代わりに球根を持ち帰ったのだ。魔女の儀式は成功して、ノーザは科学ではなく魔法で二度目の人の生を与えられた。先に面会してきた宰相によれば「以前の彼女とは、ちょっとだけ、違うね」とのことで、天使スマイルだったことが微妙に気になるが、これも楽しみだ。
明日になれば、写真撮影のあとに中断された、スピーチ…の、本番が行われる。国王の判断により、練習は一切行っていないし、心理学的な見地からの示唆、外交的な恣意をおそろしく精密に盛り込んだ元の原稿は破棄された。
やっぱ言いたいこと言うわ俺、と言った国王に、議会も、宰相も、王妃も、同意した。
演説では、王妃も共に壇上へ上がるように国王に要請されている。なにをするつもりかは教えてくれない、でも心配だけれど不安ではない、楽しみだ。
なんだ、わたしの行く先には楽しいことしかないんじゃないの? 王妃のそんな考えは、実にラビリンス人的であった。

「あ、そうだせつな、いっこ言い忘れてた」
「ん」
「指輪、これな」
フライヤーの前で、左手をとられる。大きな手に指輪を抜き取られ、彼も外したその指輪を二つ、重ねあわせた。波打つリングだから、まるでサイズも違うというのに外れることはなかった。
…ハートがふたつ彫られたリングなのだと思っていた。いまのいままで。
「ほら、こうすると、クローバー。幸せの象徴ってやつ。俺らにふさわしいモチーフってこれだろ。二つあわせないとそうならないってとこも婚約指輪ってかんじで気に入ったんだ。時間なかったし、セミオーダーだったが、いい買い物だった」
再び彼の手で薬指に指輪を通される。彼もそうした。
「結婚指輪は、いろんな制限や思惑があってな…国の金で、建国王にふさわしく審議されたものを用意しなきゃならないんだと。だからその前に、自分で探して自分の稼ぎで指輪を買いたかった」
「…………隼人……」
「ほ、ほんとは、二人で選べたら良かったんだが、なんつーかあのときはそういうそれでもなくて…… すまん、勝手だったな… っておい! フライヤー前で泣くな油はねるぞあっぶねえ!」
強く引き寄せられる。ちょうど、まったく、おそらく彼も意図していなかっただろうが、
そこは店内の死角であり、外からは見えない暗がりだった。

西隼人が彼女の腰に腕を回してその背を丸めたのと、東せつなが彼の首に腕を回して背伸びをしたのは、まったく同じタイミングだった。リングを重ねて現れるクローバーのように、はじめからその一対であるように。



泣くことは、これからもあるだろう。
それでも空は青いし緑は美しく、ドーナツもおいしいし、国民は能天気すぎるが朗らかで善良、親友だってたくさんいる。そうして、彼がいる。
幸せになれないわけがない。このさきずっと、そうだ。わたしの人生は、いつまでも。

つまり、happy ever after、というやつだ。











「happy ever after」FIN.








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一応、これでおしまい。

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流星庵さんからのリク内容(原文ママ):
ラビリンストリオが大好きなので、リクエストしてみてもいいでしょうか?
ラビリンスに帰ってからこれからどうする会議の末、ラビリンス人達の支持を受けて、ラビリンス王政に決定される。
国王→西
王妃(予定)→東(西がこれを機に婚約を迫る)
参謀(?)→南
な感じでいかがでしょうか?

最終回見て、そんな感じになったら面白いなぁと思ったので…
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あとであとがきと言う名の反省会会場へリンクはります、今はここまで。




2010/02/19


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