これの続きのような。
イワンくんはど淫乱だったらいいなと常々思っております。
イワンくんはど淫乱だったらいいなと常々思っております。
初めてキースさんの家にお邪魔して、今まで経験したことのないキスをして。
そして今まで見たことのないキースさんの表情を見てしまったせいなのかなんなのか、僕はちょっとおかしくなってしまったみたいだった。
キースさんは今までと同じように接してくる。トレーニングルームでさりげなく僕の背中に触れてきたりだとか、ロッカールームに誰もいないときにこっそり優しいキスをしてきたりだとか、帰り道にこっそり手を握ってきたりだとか。
変わってしまったのは僕の方だった。
キースさんに触られるたびどきどきしてしまうのは別に今までと変わらない。だけど。
だけどなんだか、胸の奥のほうがじわあと汗をかくような感覚、そして指先とかがくすぐったくなるような、そんな妙な感覚を最近は感じるようになっていた。
嫌な感覚ではない、でもなんだか変な感じ。
それがなんなのか、ちゃんと言葉にすることは僕にはできなかった。分からなかった。
さてあの日、初めてキースさんの家にお邪魔した日から1ヶ月が経とうとしているわけなんだけど。
キースさんの家には、あれからまだ一回も行っていなかった。
ジャスティスタワーから歩いて数分。
大きな通りに面する高層ビルのレストランで、僕はキースさんと一緒に夕飯を食べていた。
正直ここのビルに入ってるお店は僕にとってはちょっと高くて、一人ではあんまり来る機会は無い。
でもキースさんはここのご飯が好きみたいで、よく僕を連れてきてくれる。恋人にお金など払わせられない!とか言って全部奢りで。
悪いなあと思ってお金を払おうとすると何故かキースさんにすごくしょんぼりされてしまうから、最近はすっかり甘えてしまっていた。
「どうしたんだい?イワンくん、ぼーっとして」
「あ、い、いえ」
キースさんは美味しそうにハンバーグの上に乗っていた目玉焼きを食べている。さすがに家じゃないからあの食べ方はしてないけど。
僕はキースさんに軽く笑みを返して、食べかけだったカレーライスをスプーンで掬った。
ここの料理はすごく美味しい、美味しいはずなんだけど、ここ最近は味わうどころじゃなくて困っていた。
確かキースさんと付き合い始めた頃もそんな感じだった。初めてここに連れてきてもらったときは、ずっと好きだったキースさんと恋人になれたなんてまだ信じられなくて、キースさんが僕に微笑むたび話しかけてくれるたび鼓動が速く多く打って食事をするどころじゃなかったのだ。
けど、最近のはちょっと違う。別に食べられないくらい胸がどきどきするわけじゃない。
だけどなんだか、じわじわする。そわそわして落ち着かなくて、食べても口の中の神経がちゃんと働いてないような、そんな変な感じ。
「イワンくん?」
気づくとキースさんは既に食べ終わってしまっていた。
いけない、またぼーっとしていたみたいだ。
僕は急いで残りのカレーを口に運ぼうとした、のだけれど。カレーをのせたスプーンは口に届く前にぴたりと空中で止まってしまった。
「具合でも悪いのかい?」
キースさんの手が頬に触れて、僕の顔を心配そうに覗き込んできたせいで。
どきどきするのと同時に、じわじわと体がくすぐったいような汗ばんでくるような、そんな感じがさっきよりも強くなったのが分かった。
そうだ、今まで確信が持てなかったけれど、あの時の感覚に似ている。
僕はこの前キースさんのおうちに行ったときのことをぼんやり思い出した。そして、自分が今まで感じていたものの正体がなんとなく分かってしまって、僕は顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。
だけど分かったところでこの感覚は治まってくれはしない。むしろ、酷くなっていくばかりのような気がする。
「な、なんでもない、です」
「ほんとかい?」
なんでもないわけがない。
キースさんから感じられる熱のせいだろうか、曖昧だった感覚はだんだんと明確な欲望へと変わっていく。
触ってほしい。キスしてほしい。ここ最近僕の体が求めていたものの正体。僕はぎゅっと目をつぶる。
体が疼く。じわじわと増幅していく欲望が羞恥心を上回っていく。
「あ…の、キース、さん」
「、なんだい?」
「今からキースさんのおうちにお邪魔しちゃ…、ダメ、ですか」
気がついたら言葉にしてしまっていた。
告げてしまった後で僕ははっとする。なんだか大胆なことを言ってしまった気がする。
顔を上げてキースさんを見ると、ぽかんとした表情。それを見て押し込められていた羞恥心がどっとあふれ出してくるのが分かった。一気に顔が熱くなる。僕はなんていやらしい子なんだろう。
「あ、あ、あの、すみません、やっぱり」
「も、もちろん、構わないよ!そして大歓迎さ!」
僕が今の言葉を取り消そうとあわあわ口を開くと、キースさんもはっとしたように言葉を被せてきた。
さっきのぽかんとした表情はどこへやら、今のキースさんはとても嬉しそうににこにこと笑っている。
だけどキースさんの顔は心なしか赤いような気がして、なんだか余計に恥ずかしい。
どうしよう、僕がこんないやらしいことを考えながら言ったなんてことキースさんに気づかれてたら。
もうどうしようもなく恥ずかしくて、やっぱり無理です!と今からでも取り消そうと思ったのだけど、キースさんが満面の笑顔でこっちを見てくるから、今からそんなこと言う勇気なんて無くなってしまった。
触れられている手から伝わるじわじわと身を焦がすような欲望と、キースさんの笑顔を見て湧き上がってくる不安。
キースさんが何を考えているのかが少しでも分かればいいのに。
僕はキースさんの視線を浴びながら、あとちょっと残っていたカレーを頬張る。
これからのことを考えると頭がいっぱいになってしまって、やっぱり味なんてよく分からなかった。
久々に訪れたキースさんのおうち。
広いリビングのふかふかの大きなソファの片隅に座って、僕はやっぱり後悔していた。
キースさんはパトロールに出ている。今日ははやく切り上げて帰ってくると言っていた。僕を一人残していくことに関してすごく申し訳なさそうにしていたけれど、なんだか僕の方が迷惑なんじゃないかと思ってしまった。
余程帰ろうかと思ったのだけれど、待っていてほしいんだ、なんてキースさんに言われたら帰れるわけもない。
そんなわけで、僕は広いおうちでぽつんと一人、いやジョンと一緒に待っていたのだった。
キースさんが着替え(上も下も大きすぎてだぼだぼだった)を用意してくれたからシャワーも浴びさせてもらったけど、これって、タオルで髪をごしごし拭きながら考える。
何も考えずに発言したけど、この時間にお邪魔したい、イコール泊まりたいってことになるのかなやっぱり。
キースさんもそのつもりで僕にシャワーを勧めてくれたんだろうか。
僕はますます恥ずかしくて頭を抱えたくなった。というか抱えながらソファに転がった。
心臓が痛いほどどきどきしてる。前キースさんにここでキスされたときみたいに。
目を閉じるとついさっきのことのように思い出せる。キースさんの唇の柔らかさとか、舌の熱さとかかかる吐息のくすぐったさとか。
そして、あの脳みそがびりびり痺れるような感覚。僕はぎゅうと目を瞑る。
僕はなんてはしたない子なんだろう、こんなことばっかり考えていると知られたらきっと幻滅されてしまう。
そう考えると、足の方からゆっくりと不安が這い登ってきて、欲望や期待を全て塗りつぶしていく。
やっぱり帰ろう、キースさんには悪いけど。
しばらくぐるぐると葛藤したあと、僕はソファから起き上がる。
尻尾を振りながら寄ってきたジョンの頭を撫でてあげて、僕はかけておいたジャケットを羽織る。服は今度返せばいいかな。
帰ってきたとき僕がいなかったらびっくりするかな、書置きでも残しておいた方がいいのかな。
考えているうちどんどん悲しくなってきた。僕一人で暴走してキースさんを振り回して、最悪だ。
とりあえず明日の朝一で全部謝ろう、そう思ってリビングに背を向けた、とき。
「ただいま!」
何故か背中の方から声が聞こえてきた。
ばっと後ろを振り返ると、ベランダに続く大きな窓を開けて入ってくるキースさんの姿。嬉しそうに擦り寄るジョンの頭を楽しそうにわしゃわしゃと撫でている。
そしてキースさんはマスクを取って僕を見る。そしてにこっと笑ってもう一度言った。
「ただいま、イワンくん」
僕はばかだ、と思った。
さっきまであんなに帰りたいとか最悪だとか思ってたくせに、キースさんにただいまと言われた瞬間そんなの全部吹っ飛んで、嬉しい、と思ってしまったからだ。
僕は玄関に背を向けて、キースさんの立つ窓の方へ足を進めた。
「おかえりなさ、わっ」
僕が言い終わる前にキースさんは僕を軽々と抱き上げて、ソファに腰を下ろした。
そのままぎゅっとキースさんの腕の中に抱きしめられる。
スカイハイの姿のキースさんはやっぱり一番かっこよくて、なんだか余計にどきどきしてしまった。ひらひらのマントをきゅうと握り締める。
「待たせてしまってすまないね、イワンくん」
「そ、そんなこと、んっ」
キースさんは一言謝罪の言葉を述べると、柔らかく僕の唇を塞いだ。
その瞬間、僕の体は期待でぶわっと熱くなる。
ソファの上、キースさんに抱きしめられながらのキス。けれど、唇はすぐに離れて、キースさんは立ち上がってしまった。
「汗臭いままで君を抱きしめてはいけないね、すぐにシャワーを浴びてくるから待っていてくれるかい?」
「は、は…い」
僕が頷くとキースさんは満足そうに微笑んで、もう一度僕にキスをした。今度は頬に。
中途半端な刺激に余計体が疼く。物欲しそうな目で見てしまいそうだったから、わざとキースさんから視線を逸らした。
キースさんは名残惜しそうに僕の頭を撫でてくれたあと、バスルームへと向かった。小さくドアの閉まる音がする。
僕はキスされた頬を押さえて、ずるずるとソファに沈み込んだ。ほんとキースさんはずるい、かっこよすぎてずるい。
まだ僅かに残る不安は消せないけれど、それ以上にキースさんに触れたい、触れてほしい欲求はどうしようもなくて、僕はただキースさんが早く戻ってきてくれることを願うばかりだった。
小さくカタン、という音がして僕は肩を震わせる。
一緒にソファの上に座っていたジョンがぴくりと顔を上げて、バスルームの方を見た。
尻尾をぱたぱたさせるジョンを抱きしめて、ふわふわの毛に顔を埋める。足音が近づいてきて、僕は胸の高鳴りが徐々に大きくなっていくのが分かった。
足音が止まって、ふかふかのソファが沈む。僕が顔を上げる前に、大きな腕がゆっくり伸びてきてジョンごと僕の頭を抱きしめた。
「またジョンばかりベタベタして、ずるいな」
「キースさん…」
首筋に触れる指がお風呂あがりのせいかいつもより熱くてびくりとする。
きっとまたすぐ傍にキースさんの顔がある。顔を上げようかどうか迷っていたら不意に顎を掴まれてくいと持ち上げられた。
え、と思う前にキースさんの唇が降ってくる。
「んっ、んん」
「、イワンくん」
「ふは、きーすさん、う、んっ」
ちゅ、と唇を重ねられて食まれて、それから口の端から端まで何度も啄ばまれる。
囁かれた言葉に返事をしようとすれば、その言葉まで飲み込むみたいにまた唇を塞がれる。
焦るみたいに何度もキスされて、キースさんの指先が首のあたりを這って、僕の思考は簡単に真っ白になってしまう。
というかさっきからもう既に正しい判断とか理性とかそういうのは溶けかけていたのだから、仕方ない。
キースさんはジョンから僕を引き剥がすように抱き上げて、膝の上に乗せた。どうやらここがキースさん的には定位置らしい。
抱き寄せられた状態で視線が絡まって、キースさんのそのぎらぎらした目の色に体がぞくりと震える。体の奥まで焼かれるような。
でも見つめあう間もなく、またキースさんの唇が重ねられた。
「ふ、んん、ん…」
ぬるぬると唾液で唇の間を濡らしながら、キースさんの舌が僕の口内に潜りこんでくる。
僕の体は思っていた以上にその感覚を待ち望んでいたらしく。ぬるりと湿ったその感触にあのじわじわした熱い感じが膨らんで一気に体中を駆け巡った。
体が熱くて、心臓がどきどきして鳥肌がたつほど体が震えてしまって仕方ない。僕は自分から唇を開いてキースさんの舌を求めた。
キースさんの手が腰にまわる。強く抱き寄せられて、舌の先と先が触れた。そのままじゅうと吸われて下半身から力が抜けてしまう。
熱くて頭がおかしくなってしまいそうだ。いやもうおかしくなってしまってるのかも。
「んっ、う、ん、はあっ」
「、は…、イワンくん、私は…」
「は、ふ…、キースさん…」
じゅる、と唾液の混ざる音をさせながらキースさんはゆっくりと唇を離した。
キースさんは前こういうキスをした時みたいにすごくえろい顔をしていた。眉を下げて、苦しそうに僕のことを見ていた。
その顔を見ているだけで何故か僕の体は更にじりじりと疼くようなくすぐったさを覚えてしまう。どうしてか分からないけれど。
はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら、すっかり力の入らなくなってしまった体をキースさんに預ける。
「…、イワンくん」
「は、い」
「場所を…移そうか」
「え、わ、わっ」
言うとキースさんは僕の体を抱いたままそっと立ち上がった。
普段からすごく鍛えてるだけあって僕の体を抱き上げるくらいなんでもないらしい。キースさんの両腕に体を抱えられて、お姫様抱っこの状態だ。
キースさんの意図が分からなくて、僕はくったりとキースさんの胸にもたれて歩いていく先を目線だけで追う。
ぼんやりと眺めていると、僕の目に入ってきたのは大きなベッドの置かれたベッドルームだった。心臓が大きくどきんと鳴る。
キースさんはそのまま部屋に入ってベッドの前まで行くと、その上に僕の体をゆっくりと横たえた。
「あ、の…」
薄暗い部屋、キースさんの表情はよく見えない。
キースさんはゆっくりとベッドに上がると、僕に半分覆いかぶさるように横になった。耳元にキースさんの熱い吐息がかかって、ぞくんと体が震えた。
「私を褒めてほしいな、イワンくん」
「え…、」
「君にあんな可愛いことを言われて、それでもここまで我慢したのだからね」
「きーすさ、ん」
「でももう我慢の限界だよ」
そう言って顔を上げたキースさんの目はやっぱり飢えた獣みたいにぎらぎらしていて。体の奥が直接揺さぶられているかのようにぞくぞくする。
さっきからキースさんのせいで頭が靄がかかったようにぼんやりしていて、なのに心臓は痛いくらいどきどきしている。体もじわじわ痺れるみたいな感覚が止まらない。壊れてしまいそうだ。
キースさんの唇が首筋に降りてくる。ぬるりと滑った感覚が這って、思わず、ひ、と声が上がった。
それと一緒にだぼだぼの服を捲り上げながら、キースさんの手は直に僕の肌を撫で始めた。ざらついた手のひらが胸のあたりを掠めるたびに僕の体はがくんと跳ねた。
触られたところ全部がじりじり熱を持って、くすぐったいような快感が走る。どうかしてしまいそう。
「ひ、う…、う、はあっ」
「そんなに、いいのかい?」
「っあ、…!や、…あ、あ」
一瞬顔を上げたキースさんは、ひとつ息を吐いたあと、僕の胸に顔を近づけた。ぬるり、とまた滑った感覚がする。今度は乳首のあたりに。
キースさんの手に触られたせいですでに尖っていたそこにキースさんは執拗に舌を絡めてくる。じゅる、とか卑猥な音をたてながら。
頭が真っ白になってしまいそうだ。電流が走るみたいにびりびりと痺れる。気持ちいい。
喉がひくひく震えて、我慢したいのに変な声が出てしまう。
そこの感覚が無くなってしまうくらいいじられて吸われて、ようやくキースさんは唇を離してくれた。
そのときにはもう既に僕の息はすっかりあがってしまっていて。
はあはあ荒く息をしながら、キースさんを見上げた。
「いやらしいね…イワンくんは」
「え、あっ…ひ、ぁ」
キースさんはするりと僕のズボンの隙間から手を差し込んで、下着越しに僕のものをやんわりと揉んだ。
一度も直接触られていなかったのに、僕のそこはすっかり熱を帯びて固くなってしまっていて。僕はますます顔が熱くなる。
恥ずかしくてたまらないのにキースさんは逃げようとする僕の足をがっちり抱えてしまって、そこを触るのをやめてくれない。僕のものは下着の上からでもはっきりかたちが分かるくらいに盛り上がってしまって、キースさんはそこを見つめながら大きな手でゆるゆると撫でた。視線も、触る手も熱くて仕方ない。
キースさんはそこからそろりと手を這わせて、僕のズボンに手をかけた。
「あ、あ、やだ…」
「大丈夫、心配いらないよ」
「きーす、さ、あ、」
キースさんは宥めるように僕の目尻にキスをして、するりと下着ごと僕のズボンを抜き取ってしまった。冷えた空気が触れて、そこがひくりと震える。
そしてキースさんはその大きな手で、包み込むように僕のものに触れた。
「ふあ、ぁ…あっ」
下着越しよりも遥かに強い刺激。乾いた皮膚の擦れる感覚。
体をじわじわと巡っていた熱が全部下半身にあつまってきて、あふれ出しそうになる。もう限界が近いみたいで、足の先が痺れるみたいに震える。
キースさんが先端をぐりぐりといじるから、先走りのもので乾いてたはずのキースさんの手の感覚が段々とぬるぬるとぬめってきた。
それを絡めながらキースさんはねっとりと僕のものを包み込んで、何度も上下に擦りあげる。
「イワンくん…、は、ぁ」
「えっ、え、あ、き、キースさん、なにっ」
下半身に熱いものがひたりと添えられる。
ぼやけた視界でそっちを見ると、それは、キースさんの大きくなったそれ自身で。
初めてキースさんのそれを見た驚きと、その大きさと熱さと、そして何をしようとしてるのかがわからない不安で、混乱してしまう。
目を白黒させながらキースさんの顔を見ると、ふんわりと優しくキスされた。ちゅう、と柔らかい感触にちょっとだけ力が抜ける。
キースさんの首に腕を回してキスに応えると、キースさんは僕のとキースさんのを一緒くたにして再び手を動かし始めた。
大きく固くなったキースさんのものがぬるぬると擦れて、ただでさえ切羽詰っていた僕のものはあっという間に絶頂に追い詰められていく。
「んんっ、んっ、ふあっ、は、あっ」
「っ、は…、」
「あ、あ、だめっ、きーす、さ、あ、んっ」
瞑った目の奥にちらりと光が走る。
足の先からひゅうっと力が抜けて、僕はキースさんの体にしがみついた。強く目を瞑ったまま体を駆け抜ける衝撃に耐える。
力が抜けるのと同時に、キースさんの手の中で僕は燻っていた熱をどろりと吐き出した。生暖かい液体が僕の萎えたものに纏わりつく感覚。
「ふ…、は、ぁ…」
「イワン、くん、…っ」
一瞬遅れてキースさんがぎゅうと僕の体に抱きついた。そして、またぬるりと熱い液体が僕の下半身にかかった。どうやらそれはキースさんの精液みたいで。
どく、と心臓が大きく音をたてる。なんだか今更すごく恥ずかしくなった。今までも散々恥ずかしいことをしてたはずなのに。
キースさんがはあ、と大きく息を吐いたそのときの顔がすごく色っぽくて、僕はまた胸がどきんとする。恥ずかしい。とりあえず離れたい、下半身もどろどろのままくっついているし。
だけどキースさんは僕を抱きしめたまま脱力していて、僕はその下敷きになっているから簡単には出られそうもない。
それでももそもそと体を動かそうとすると、キースさんが僕の耳に囁いた。
「イワンくん…、少しだけ」
「…はい、?」
「少しだけ、このままでいてもいいかい?」
「え、あ、はい…」
そんなことキースさんに、しかもこんな状態で言われたらノーなんて言えるわけもなく。
僕は素っ裸のままキースさんの腕に静かに抱かれて、そわそわした心を落ち着かせるためにひたすら白い天井を見つめ続けた。
「すまないね、イワンくん」
どれくらいの時間そうしていたか、キースさんがゆっくりと口を開いた。
そっと体を起こして僕の横に座り、傍に置いてあったタオルを僕の下半身にかけてくれる。
そのままキースさんはそこを拭いてくれようとしたけれど、恥ずかしかったしまたそこが反応してしまいそうだったから自分でできます、とその手を押し止めた。
「え、あの、えっと…」
別に謝られることなんてない。そもそも僕も気持ちよかったのだし…と思ったけれど、さすがにそれは恥ずかしくて言うことはできなかった。
キースさんの顔を見上げながらもごもごしていると、キースさんは次の言葉を継ぐ。
「君が…、その」
「…?」
「酷く…物欲しそうな目で私を見てくるものだから」
「え、えっ、えっ…!?」
「つい、理性を無くしてしまって…すまないね」
キースさんの口から出た言葉に僕はものすごい衝撃を受けた。
ぼ、僕はそんな目で見ていたのだろうか、やっぱり。確かにそういうことをされたいとか、そんなこと、ちょっとは、いや結構思っていたけれど、でも。
それがキースさんにばれていたなんて。
血の気が引くのと顔が真っ赤になるのとが一緒にきたような感じ。もう穴があったら入りたい。
僕は頭を抱えてキースさんとは反対側にごろんと体を向けた。
「ど、どうしたんだい!イワンくん!」
「うわあああ、もう、ほんと、すみません…!」
「えっ、ど、どうして君が謝るんだい?」
「ぼく、ぼく、こんな、やらしいことばっか考えてて…どうしようもない人間です…」
今すぐなにか、小さい虫にでも擬態して踏み潰されたい気分だった。恥ずかしすぎて涙が出る。
キースさんの顔が見れない、見たくない。
なのにキースさんは僕の顔を覗き込んできて、そして僕の涙に気づくと目尻にちゅうと口付けてきた。目を閉じて僕はびくりと肩を震わせる。
そっと目を開けたときに映ったキースさんの顔はとても優しいもので。
「誤解しているのかもしれないけれど、私は嬉しかったよ、とても」
「え…」
「私ばかり君を求めてしまっていると思っていたからね、この間のキスも君は嫌だったかもしれないのに、無理にしてしまって…不安だったんだ」
「そ、そんなこと、ないです」
僕は弱々しく首を振る。
僕には考えられなかった。あのキースさんが、僕のことで不安になったりする、なんて。
「だから、あの言葉を聞いてつい舞い上がってしまったんだ、私は」
「キースさん…」
「嬉しかったんだよ、本当に」
キースさんは再び横になって、僕の体を後ろから抱きしめる。
太くてたくましい腕が胸の前に回って、やっぱりかっこいいなあと思う。僕はそっとその腕に触れた。
キースさんの言葉と体温が優しくて、そして嬉しくてぎゅうと胸が優しく締め付けられるような感じがする。
キースさんは僕のうなじや髪に口付けて、ゆっくりと言った。
「愛してるよ、イワンくん」
その言葉にまた僕の体はじわじわ、と疼きだす。
ああもう、本当に僕はどうしようもないみたいだ。
「あの…また、」
「ん?なにかな?」
聞きかえすキースさんに、僕は小さな声で答える。大きな声でなんて言えそうになかったから。
「…また、し、して、くださいね」
「い、イワンくん、それは」
「いっ、今じゃないです!また、今度!」
起き上がろうとしたキースさんの腕を掴んで、僕は今度は大きな声で叫んだ。
キースさんは少しだけ残念そうにしたけれど、また優しく笑って僕の体を抱きしめながら横になった。
キースさんの腕に抱かれながら、僕はぼんやりとその、今度、のことを思った。そんなに遠くないであろう今度のことを。
いつごろになるのかなあ、とか。
今度は後悔せずにここにいることができそうだなあ、とか。そんなことを。