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ジェイド、フレン、ピオニー、ガイのそれぞれの言葉で先程の話が聞かれていたのに気付いたのだろう。どこかバツが悪そうな顔をして頬を掻くルーク。いやでもな、と渋る彼にさらに詰め寄る四人だけど。それらを押しのけてユーリが一歩前に出る。いつもはポーカーフェイスのユーリがやけに機嫌がいいことに不気味さを感じているようで、ルークはどこか怪しげな視線だ。残念なことにポーカーフェイスなのはルークの前のみになってしまったのだけど。

「オレに任せておけ、お坊ちゃま。とびっきり甘くしてやるよ」

何言ってんだこいつは。そんな苛立ちと、これで勝ったと思うなよとい恨みにも似た感情で睨みつけるジェイド達。クレスの呆れた視線にも軽やかに無視だ。

「本当か!?」

そんな空気などもろともせずに、ルークはあまり他者に見せない笑顔を向けてくる。その大打撃に、鼻血が出そうになるのを抑える。ああ、危ない。もう少しでルークに向かってかけるところであった。どうせかけるのなら白く…いえ何でもありません。

ルークの笑顔に悶えていた五人であったが、やっぱ大罪人だなという言葉に再び火花が飛び交う。負けてたまるものか、と。自分こそが甘いと訴える。するとルークはどこか困った様子でうーんと悩んでいる。

「そんなに甘くして食えっかな」

それまでぎゃあぎゃあと騒いでいた奴らがピタリと止まる。え、食う?食われたいんじゃなくて、と。いや自分達はルークを食いたいのだけど。そう固まった彼らに、冷たい視線を送りながらも自分を律しているのはティアだ。今まで一部始終を見ていたので、ルークと彼らの会話が成り立っていないことに薄々気付いていた。

「ルーク、そもそもクレスやロイドと何を話していたの?」
「んあ?あれ、お前クエストに行ってたんじゃねーのか?」
「ええ、ついさっき帰ってきたばかりよ。アンジュからまたあなたが危ないと聞いて探していたの」
「…?船にいんのに危なくねーだろ。オレ、何もしてねぇっつーの」
「それは分かってるわ。危ないのはあなた自身に問題があるんじゃないから」
「?んじゃ誰が危ないんだ?」
「大丈夫よ、知らなくても。だからこそあなたの護衛としてここにいるのだから」

私に任せて。そう話すティアに、益々首を傾げるルーク。ここまで好意をぶつけられているというのに気付かないとは、鈍感と天然を併せ持つとは末恐ろしい。そうティアは思う。だが、普段は子供みたいにキャンキャン騒ぐルークがキョトンとしながら首を傾げる姿は子犬のようで可愛い、と密かにティアは思っていたりもする。

「それで、何の話をしていたの?」
「何って…そりゃ勿論ピーチパイって食べてみたいけど誰に作ってもらうかロイドやクレスと話していただけだぜ」

それがどうした。そう言いながらキョトンとしているルークとは正反対に、他の五人があからさまに落ち込み、床に顔を埋めこむ勢いで撃沈してしまっていた。

「…そ、そう。(何となくだけど、彼らが何を誤解していたのか、分かった気がしたわ)」

やれやれ、と言いたげに溜め息を吐くティア。同じく気付いたのだろうクレスが苦笑している。ロイドとルークは相変わらず何故彼らが落ち込んでいるのか分かっていない様子だけど。

「ジェイドは実験だって変なもん入れそうだろ」
「フレンはレシピ通りなら完璧なんだけどなー。アレンジされたらアウトだよな」
「ガイはいつも作ってくれるから、たまには違う奴のが食いたいし」
「ピオニーは…王様だから作ったことなさそうだしな」
「つーわけで、甘いもん好きなら大罪人が一番だなって結果になっただけだ」

なー。と声をピッタリと揃わせるルークとロイド。天然に罪はないとはいえ、ここまでくると哀れだなと周りは思う。まあ、隠し撮りや尾行などのストーカー行為、ルークの私物を己のものにする窃盗、本人は冗談だと思っているらしいがベタベタと触る痴漢・セクハラ。などなどあげればきりがない犯罪をしている彼らに同情するような気持ちは、周りには残っていない。むしろここまで気付かれないなんて自業自得とさえ思っているのだ。

純粋すぎるのも王族としてはどうかと思うが、ティアはむしろこのままでいて欲しいとさえ願っている。そんなルークの肩にポンッと手を置き、真剣に告げる。

「いい、ルーク。誤解と期待を与えるような発言をしてはダメよ」
「はぁ?何のことだ?」
「特にあの五人は要注意人物なの。狼に食われたくはないでしょう?」
「え、ガイ達って狼だったのか!?」
「そうよ。だから気を付けないと」
「そ、そうだったのか。人間だと思ってたけど……狼だったのか」
「大丈夫よ、ルーク。あなたのことは全力で守ってみせるわ」
「お、おう…?」

ポツリと貞操は必ず守ってみせる、と呟くティアの声にルークとロイドは首を傾げている。その様子を見ていたクレスは、常に狙われている友人をこれからも守っていかなければと改めて決意するのだった。


鈍感+天然だからって、ヘンタイは常にお断りなのです。



end

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