どこか勝ち誇ったような顔をする女だが、ジェイドが冷めた目つきのままなのに気付いたのだろう。戸惑ったような顔へと変化した。

「昔の私なら、何一つ執着するものなんかありませんでした。それこそ、命にも。ですが、彼女が私を変えてくれたのです。今の職業を選んだのも、命の大切さを教えてもらったからですよ。彼女がいたから、今の私がいるんです。彼女がいないと、生きていけません。だから……この子を傷付けるのなら、容赦はしません」

その時は覚悟をしてくださいね。そうニッコリと目だけ笑っていない表情を見せると、女は顔面蒼白でコクコクと頷いてみせた。余程末恐ろしい表情をしていたのだろう。周りも何一つ言葉を発せず、いそいそと退散し始めた。今度こそジェイドはルーを連れて自分の仕事部屋へと連れていった。本来はただの医者にそんな部屋はないのだけど、院長が幼馴染で他者と関わるのが得意ではないジェイドの為に特別に用意してくれたのだ。そこは素直に感謝している。ルーをソファーに座らせて、彼女が好むココアを用意し、自分にはブラックコーヒーを淹れた。

「…ジェイド」
「先に言っておきますが、釣り合ってないから別れる…なんて言わないで下さいね」
「え?」
「先程の女からの言葉なんて気にする必要はありません。あなたはあなたらしくでいいんです。ありのままのルーだから、私は好きになったのですから」

かあああ、とルーの顔が赤らんでいく。ああ、本当に素直で可愛らしい。それにとても分かりやすい。あれだけ惚気たというのに、気付いていなかったのか。まあ、そういう天然なところもルーらしいけど。

「これ、早速ですが開けてもよろしいですか?」
「うん、勿論。あ、味はアニスやティアに教えてもらったから大丈夫だと思う」
「おや、ルーの手作りとは。嬉しいですね」

毎年食ってんじゃん、と苦笑するルー。でも年々その腕を上げてきているルーが、いつも自分の為に頑張って作っているのを知っている。決して器用ではなく、彼女の双子の妹であるクーと負けず劣らずにめんどくさがり屋なルーが、自ら面倒な手作りお菓子を用意してくれていること。それがどれだけこちらの気持ちを揺さぶってくるのか。知らないんだろうなと、そう思う。

箱の中から出て来たのは、いい匂いのチョコクッキーだった。今年も仕事が入っているから、冷めても美味しいものを用意してくれたのだろうなと彼女の気遣いが伝わってくる。

サクリといい音が鳴るクッキーを食べるジェイドを、ルーはドキドキとしながら見つめている。その表情から、どんなことを考えているのかまるわかりで思わず笑ってしまいそうになるけど、それは堪えた。短い休憩時間の逢瀬なのだから、ふくれっ面にはさせたくない。

「私好みの甘さが控えていて、とても美味しいですよ、ルー」
「ほ、本当か!?」
「はい、勿論。ありがとうございます」
「えへへ、良かった!」

ふにゃんと嬉しそうに笑うルーに、仕事場だということを忘れてチュッと軽く口付けを交わす。急な不意打ちにビックリして固まるルーに、調子に乗って額や頬にキスを送っていくと、さすがに我に返ったのか。肩を押して止めるように抵抗してきた。

「ちょっ!ジェイド!誰か来る…!」

ああ、そこなのかとフッと笑ってしまう。笑いごとじゃないと怒られるけど、これが笑わずにいられない。

「誰も来なければいいんですね?」
「へ!?」

ルーの揚げ足をとるかのように、ジェイドは部屋の鍵をしっかりと施錠して、再びルーを己の腕の中に閉じ込める。これで誰も勝手に入ってくることは出来ない。まあ、連絡が入ればすぐに行かなければいけないだろうけど。

「ちょっ、何で鍵を!?つーか、仕事は…!!」
「今は休憩中ですから」
「で、でも…!!」
「ルー、今だけはこちらに集中して下さい」

集中って、と顔を真っ赤にするルーの口を塞ぐ。舌で口内を弄りまくると、ピクンピクンと感じやすいルーの体が震える。んんっとくぐもって聞こえる彼女の声しか耳に入らない。何度聞いても、こちらを煽ってくれるイイ声。触り心地がいい肌も、綺麗な髪も、その全てが愛しくてたまらない。こんなに大人を煽ってくれた責任を取ってもらわなければと、彼女からしたらそんなのしていないと否定することを思ってしまうのだ。

ガクンと腰を抜かせたのだろう力を失った彼女の体を支える。おっと、とわざとらしい声を出すと、ギロッとルーが睨んでくる。たいして怖くはないし、むしろ可愛らしい目つきだけど。何か言いたげなルーに、最後にチュッと軽く口付けをする。

「今日が平日で残念ですね」
「…?」
「ということで、週末は必ずうちに泊まって下さいね」
「そ、そりゃ…泊まれるのは嬉しいけど」

何でそんなことを確認してくるのか不思議そうな表情をしている。いつも泊まっているのだから、今更?とかそんな感じだろう。よっぽどな理由がない限りは、ルーがジェイドの家に泊まるのはいつものことだから。

「週末にたーっぷりと今日の続きをしましょうね。朝まで寝かせないので、そのつもりで」

キョトンとしたルーだったが、その意味が分かったのだろう。顔から火でも出るのではないかというぐらに真っ赤にして、あたふたとしている。そんな様子のルーが可愛らしくて、思わず腹を抱えて笑ってしまったジェイドに、ルーはむぅと頬を膨らませてむくれてしまった。

(ああ、本当にこの子は)

気付いているのだろうか。ジェイドがこうやって心の底からの喜怒哀楽を見せる相手は、ルーただ一人だけだということに。

「週末、楽しみにしています」
「…………オレも」

ぎゅっと抱きしめて、あともう少しで仕事だと院長から内線がかかってくるまで、二人だけの世界を堪能していたのだった。



end

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